第十六章.ネコネコ騒奏曲

 




 それは二月初めのとある日のことであった。

傭兵隊隊長戸田為政は訓練を終えるといつも通りドルファン学園前を通って兵舎に帰ろうとした。

既に陽は落ち辺りは暗闇に包まれている。

そんな時、為政の進行方向からやって来る少女を見付けた。

あれは・・・ロリィだ。

ロリィも為政に気が付いたらしく小走りに為政の元へと駆け寄ってきた。

「今晩は、お兄ちゃん♪」

「今晩は、ロリィ。」

ロリィの挨拶に為政はすかさず挨拶したがロリィはそんなことはどうでも良いらしく話を続けた。

「ねえねえ見て見て!!」

よく見るとロリィの胸には三匹の子猫がかき抱かれていたのだ。

「可愛い子猫だね。」

為政が子猫たちを誉めるとロリィは嬉しそうな顔をした。

「そうでしょ、そうでしょ♪じつはすぐそこで拾っちゃったんだ。可愛いでしょー。」

ロリィの言葉に為政は肯いた。

実際、三匹の子猫たちはまだ生まれて2.3週間といった感じであり実に可愛いのであった。

ロリィはそんな為政の態度を見て取ったのか子猫たちの自慢をし始めた。

 

  数分後。

ロリィの自慢が一段落したところで為政は一つ尋ねてみた。

「名前は何て言うんだい?」

するとロリィは嬉しそうな顔をして話した。

「ロリィはねぇ、この子たちにブー・フー・ウーっていう名前をつけてあげたんだよ。」

どっかで聞いたことがある名前に為政は苦笑いした。

「ブー・フー・ウーか。まるで豚みたいな名前だな。」

為政がそう言うとロリィは怪訝そうな表情を浮かべた。

どうやら話がまったく通じていないらしい。

「何でブー・フー・ウーだと豚の名前なの?」

と聞き返してきた。

「昔そういう話があったんだが・・・通じなければ別に構わないさ。」

「ふーん。」

「ところでロリィ。」

「何?お兄ちゃん。」

ちゃんと世話できるのか?」

為政はロリィにそう尋ねてみた。

どう見ても世話など出来そうにないタイプだったからだ。

それを聞いたロリィは頬を膨らませた。

「ブー、お兄ちゃんロリィを子供扱いするー。」

そんな態度を示すことが子供の証拠だと思ったがそんなことはおくびにも出さず為政は宥めた。

「そういうつもりはないよ。ただ子猫を三匹も世話するのは大人にも大変なことだからね。」

それを聞いたロリィは機嫌を直した。

「それなら別にいいんだけど。」

「分かってくれればいいんだ。」

「ブー・フー・ウーはロリィがちゃんと世話をみるよ。」

「そうか、頑張れよ。」

為政はロリィを励ました。

「うん、ありがとう。あっ、もうこんな時間だ。」

ロリィは辺りの様子に突然気づいたかのように言った。

為政と会ったころからずっとこの暗さだというのに。

「もう暗くなったし帰るね。」

「おう、気をつけて帰れよ。」

「うん。ばいばいーお兄ちゃん。」

ロリィはそう言うと三匹の子猫を大事そうに抱えたまま自宅へと帰っていった。

 

 

 このやりとりから約一ヶ月後の三月のある日のこと。

為政はセリナ運河に沿って散歩していた。

今日は週に一度の休日ではあったがする事が無くて暇だったのだ。

ブラブラと春の穏やかな日差しに包まれながら散歩していると為政は目の前からロリィがやって

来るのに気づいた。

何やらうろうろ辺りを見ながら近づいてくるロリィにおかしいなと思いつつ為政は声を掛けた。

「ロリィじゃないか。どうしたんだ?」

するとロリィは目に涙を浮かべながら言った。

「あ、あのね。ブーとフーとウーが三匹ともいなくなちゃったの。」

「三匹ともかい?」

「うん。お兄ちゃん、あの子たち見かけなかった?」

ロリィの問いかけに為政は首を横に振った。

「いや、見かけなかったな。」

「ちょっと目を離した隙にみんないなくなちゃったの・・・。」

そこまで言ったところでロリィは我慢出来なくなってしまったのか泣き出した。

「泣くなよ、ロリィ。オレも捜してやるからさ。」

ロリィを励ますために為政はそう言った。

正直なところ暇つぶしに散歩していたぐらいだからこういうアクシデントが有った方が面白い。

するとロリィは涙を袖で拭きながら為政の顔をじっと見つめた。

「本当?」

「ああ、本当本当。だから泣くのは止めなよ、子供じゃないんだろう。」

「うん、ロリィ子供じゃないよ。」

「なら泣きやむことだ。そして猫を捜そう。」

「うん、分かった。」

そう言うとロリィは再び袖で目をごしごし拭いた。

そして顔を再び為政に見せたときにはいつものロリィに戻っていた。

「二人一緒だと効率が悪いからな、二人で手分けして捜そう。

ロリィはこのままフェンネル地区を捜索してくれ。」

「うん。分かった。」

「オレはドルファン地区を当たる。」

そう言うとロリィは怪訝そうな表情を浮かべ、為政に尋ねてきた。

「他の地区はどうするの?」

「子猫の足ではそう遠くまでは行くことは出来ない。この範囲で充分のはずだ。」

「それもそうだね。」

ロリィは大きく肯いた。

「それじゃあ善は急げだ。とりあえずフェンネル駅で待ち会おう。」

為政はロリィと別れると子猫の捜索を開始した。

 

 (うーん、どうすればいいんだ?)

為政は捜索開始早々行き詰まってしまった。

人間を捜すことさえ困難であるというのに子猫を捜すというのだから。

(やもえん、聞き込みをおこなうとするか。)

良い考えの浮かばない為政はドルファン地区内で聞き込みを行うことにした。

 

 ドルファン国立病院にて―テディーと

「子猫ですか?ちょっと分からないですね。患者さんとかに聞いてみたらどうでしょうか?」

 

 サウスドルファン駅にて―通行人AおよびBと

「子猫?知らないな、他に当たってくれ。」

「ちょっと見てないわね、子猫なんて。」

 

 ドルファン城にて―城の衛兵と

「この辺りで子猫を見たかだと?ワシは見とらんぞ。」

 

 キャラウェイ通りにて―キャロルおよびスーと

「子猫?うーん、私は見てないや。キャハハハハッー!」

「子猫は見てないわね。野良猫なら何匹も見ているんだけど。」

 

 知り合いも含めて取りファン地区内にて聞き込み・捜索をおこなったものの為政は子猫を見付け

ることが出来なかった。

そんな時、為政はかって波止場でソフィアにちょっかいを出していたチンピラを見かけた。

(駄目で元々、尋ねてみるか。)

そう思った為政はハゲ頭のチンピラに声を掛けた。

「き、貴様は東洋人野郎・・・、な、何のつもりだ!」

チンピラは敵意をむき出しにしたまま叫んだ。

そこで為政はチンピラに三匹の子猫について尋ねてみた。

すると・・・

「何!?子猫だと・・・。よし、いいだろう。捜すのを手伝ってやろうじゃないか。」

と為政が驚愕するようなこと言ったではないか。

「て、手伝ってくれるのか?」

「おうとも。猫好きのオレが迷子の子猫を見捨てるわけにはいかないからな。

今日だけは敵味方なしでオレも協力してやる。」

「そいつは助かる。」

為政は素直に喜びを伝えた。

するとチンピラは顔の前で手を横に振った。

「よせやい、オレはお前の為に捜すんじゃねえ。子猫たちの為に捜してやるんだ。」

「それでも構わない、助かるよ。ところで何か手がかりはあるのか?」

為政が尋ねるとチンピラは胸を張って答えた。

「まかせときな。ドルファン愛猫会のメンバーであるこのオレに子猫の二匹や三匹ぐらい見付ける

事なんてわけないことさ。それこそ会のメンバーに当たればすぐに見つかるはずだ。

会のメンバーなら必ず子猫たちを保護しているはずだからな。」

「なるほど。そう言ったネットワークも存在するんだな。」

為政が素直に感心して言った。

故郷は無論のこと、いままで為政が立ち寄った国でそう言った組織は聞いたことも無かったのだ。

「そうとも。それじゃあオレは早速あたってくる。お前はそこで大人しく待ってな!」

そう言い残すとチンピラはその場を全速力で走り去った。

 

 大人しく待っていろと言われた為政はその場で大人しく待ち続けた。

そして約一時間後。

「見つかったぜ!オレの知り合いの一人がそいつらを保護しているらしい。」

チンピラはいかつい顔に似合わない笑顔でそう言った。

「本当か!?良かったよ、保護されていて。ところで子猫たちは今どこに?」

「そいつが預かっている。案内するぜ。」

そう言うとチンピラは為政を引き連れ、三匹の子猫たちを保護している知り合いの元へ急いだ。

 

 「ジーンじゃないか!」

チンピラの案内した先にいた人物を見て為政は思わず叫んでしまった。

まさか自分の知り合いであるとは夢にも思っていなかったのだ。

「なんだ、ジーンを知っていたのか。」

チンピラは意外そうに言った。

「ああ、前に酒場で一緒になってな。」

為政がそう言うとチンピラはジーンに尋ねた。

するとジーンは肯いた。

「ああ本当さ。それ以来酒飲み仲間になって・・・ってお前には関係ないだろ、サム!!」

どうやらチンピラの名前はサムと言うらしい。

「ちっ、つきあいの悪い女だな、お前さんはよ。」

ジーンとサムの間で話が横道に逸れそうになったので為政は二人の会話に口を挟んだ。

「助かったよ、ジーン。

子猫たちを保護してくれていてさ。方々捜し回ったんだが見付けられなくってな。」

それを聞いたジーンは一瞬寂しそうな表情を浮かべた。

「そうか、こいつらにはちゃんと飼い主がいたんだな。・・・お前が飼っているのか?」

そこで為政はロリィのことを話した。

「成る程・・・、飼い主がいなければオレが飼ってやろうと思っていたんだが・・・。

ユキマサ、こいつらの飼い主にしっかり面倒を見るようにって伝えておいてくれよ。」

そう言い残すとジーンは為政に三匹の子猫たちを手渡すと背中を向け、その場と去っていった。

 

 「いやー、見つかって本当に良かった、良かった。」

ジーンが立ち去る様子を見送った為政の隣でサムははしゃいでいた。

そこで為政はサムにお礼を言った。

「本当に助かった。ありがとう、サム。」

するとサムはプイと顔を横にそむけた。

「ふん!!勘違いするなよ。あくまでも子猫を捜すのを手伝ってやっただけなんだ。

これからは気安く声を掛けて来るんじゃねえぞ!」

そう言い残すとドタバタと足音を響かせながらサムも為政の前から立ち去った。

 

 無事、ブー・フー・ウーの三匹を見付けることが出来た為政は子猫たちを抱きかかえたまま

フェンネル駅へと向かった。

ロリィとフェンネル駅で待ち合わせしたからである。

為政がフェンネル駅につくとロリィは改札口で待っていた。

「おーい、ロリィ!」

為政がロリィに声を掛けるとロリィは為政の元に駆け寄ってきた。

「わーい、ブーにフーにウーだぁー!お兄ちゃん、見付けてくれてありがとう!!」

そこで為政は三匹の子猫を手渡した。

「俺の知り合いがこいつらを見付けていてね、保護してくれていたんだ。」

「そうだったんだ。この子たいがもし見つからなかったらどうしようかと思っていたんだよ。

あ、そうだ。お兄ちゃん、その人にお礼言っておいてね。」

「ちゃんと言っておいたさ。おっとそうだ、その人から伝言があるんだ。」

「えっ!?何何?」

そこで為政はジーンの言葉を伝えた。

「しっかり面倒を見ろとさ。」

それを聞いたロリィはこくこくと肯いた。

「そんなの言うまでもないことだよ。でもそうだね、今度からはもっと面倒見るよ。」

「その意気だ。」

「へへー、それじゃあお兄ちゃん、ロリィもう帰るね。この子たちの世話しなくっちゃ。」

ロリィはそう言い残すと三匹の子猫たちと共にフェンネル駅を後にしたのであった。

 

 こうして猫に振り回された為政の一日は幕を閉じたのであった。

 

 

あとがき

ゲームではロリィがあんまりな態度を見せる猫イベントです。

しかしあれではあんまりにも酷いのでロリィも色々と猫探しに参加済み。

基本はロリィの子猫イベントが話のメインですが今回のメインキャラはジーンかな。

絶対ロリィが飼うよりジーンが飼う方が猫にとって幸せだと思うんですけどね。

それでは話にならないのでジーンには我慢してもらいました。

 

さて次回からは二年目に突入します。

タイトルは第十七章.「あこがれの舞台」です。

お楽しみに。

 

平成12年11月17日 

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