第十三章.闘技場にて






 

 年が明けたばかりの一月のある日、傭兵隊隊長戸田為政は競技場へと歩いていた。

一月から三月終わりまでの三ヶ月間、競技場は闘技場として使用されるのであるが今日はそこで

行われる格闘技大会を見に行く為であったのである。

元々為政は国でも戦場で活用するために体術を身につけていたのでそれに改良、追加を行うため

に勉強したかったのだ。

そのためいままで訪れた全ての国で格闘技を見てきたのでここドルファンでも見ることが出来ると

いうのは大変ありがたいことであったのだ。

 

 「あら、貴方・・・」

闘技場まであと一息と言うところで為政は一人の少女に声を掛けられた。

三つ編みにトレードマークの手袋・・・、ライズである。

相変わらず無愛想というか無表情であるが気を使わなくても良い相手なので気が楽なのだ。

「やあライズ、久しぶりだな。」 

為政はすかさず挨拶した。まあこれくらいは問題ないだろう。

ライズも気にしなかったようである。

「ええ、久しぶりね。ところで今日はどうしてこんな所にいるのかしら?

休日にこんな所にいるなんて珍しいけれど。」

いつもなら挨拶を交わしただけで立ち去ってしまうライズが積極的に話しかけてきたので為政は

驚いてしまった。

しかしそういうこともあるだろうと為政は今日の予定をライズに話した。

「闘技場で行われる格闘技大会を見に行くのさ。」

するとライズは首を傾げた。

「首都城塞内に闘技場なんて施設、あったかしら?」

「運動公園の競技場だよ、今の時期は闘技場として使うらしい。」

「そうなの。」

いつもとは違う様子のライズに興味を持った為政は誘ってみることにした。

断られて元々、もし承諾してくれればいつものライズとは違う姿が見られるかもと思ったのだ。

「君もいくかい?」

「そうね・・・、いいわよ。」

ライズの言葉に為政は驚いた。

誘ってはみたものの本当に行くとは!!

しかしせっかくOKしてくれたのだからライズの気が変わらない内に行くべきと考えた為政はさっそく

行くことにした。

「それじゃあ行こう。」

そう言ってライズと二人で一緒に闘技場へと足を向けたのであった。

 

 「格闘技に興味があるのかい?」

闘技場へ歩いている途中、為政はライズに尋ねてみた。

今まで全く相手にして貰えなかったのに今回はOKなのだからそう考えるのが自然だったからだ。

するとライズは案の定、肯いた。

「そうね・・・、興味あるのかもしれないわね。父に護身術を学んだし。」

為政は出会ったときのライズを思い出しながら言った。

「君の護身術は大した物だったからな、凄い軍人だったんだろう。」

するとライズは首を横に振った。

「前にも行った通り私の父は事務官よ。」

「本当か?

あれほどの護身術、いや格闘技を身につけているんだから特殊部隊としか思えないよ。」

「光栄ね、貴方のような傭兵に評価して貰えるなんて。それにしても格闘技?

私は護身術だとばかり思っていたのだけれど。」

「あの先手必勝・一撃必殺の攻撃は護身術の域を超えていると思うが。」

為政がそう言うとライズは意外そうな表情を浮かべた。

「私が父から教わったのは一撃で相手を殺すか、再起不能な体にしろっていうことだったから。」

「極めて実戦本意の教えを受けたんだな。」

「おかしいかしら?」

「いや、正しい考えだよ。」

「そう、ありがとう。」

為政の言葉を聞いたライズは微かに微笑んだ。

 

 二人がようやく着いた闘技場は大盛況であった。

ここドルファンの国では博物館や美術館といった文化施設は充実していたが、こういった血生臭い

イベントを見られる場所はほとんど存在しない。

ましてや一月から三月までという期間限定のため、首都城塞の住民のみならず他の街からも人々

はやってくるのであった。

 

 闘技場に入った為政は点々と存在する空席に座ると入り口で貰ったパンフレットに目を通した。

そこには大会の参加者たちのプロフィールや大会のルールが記されている。

どうやら今日の大会は何でもありの異種格闘技大会のようである。

様々な格闘技が見られることに為政の期待はどんどんと高まっていく。

そして大会が始まった。

 

 「誰も彼も形ばかり、実戦に対応できるような代物ではないわね。」

30分ほど試合を見た頃ライズがつまらなそうに呟いた。

為政も全くの同感であった。

何でもありというので期待したのであるが実は急所攻撃の禁止など技を規制するルールが存在

したのだ。

これでは格闘技ではなく単なるスポーツ、見せ物に過ぎない。

「確かにそうだな。」

為政はライズの言葉に肯いた。

「あら、貴方は分かっているようね。」

「おいおい、これでも俺はプロの傭兵なんだぞ。見せ物かそうでないかぐらいはすぐに分かるさ。」

「そう・・・、確かにそうかもね。」

「そうさ、傭兵は形式無視の実戦本意。そうだろう。」

「そうね・・・、傭兵はそれでいいとして騎士団は?」

ライズが尋ねてきたので為政は考え込んだ。

「うーん、騎士団か・・・。そうだなー、過去に捕らわれた過去の遺物、だな。

だから戦果は上げられない、上げてもそれ以上の損害を被るわけだ。」

「そう、じゃあ傭兵隊の隊長から見た騎士団の改善策は?」

「そいつは難しいな。多分やるだけ無駄だと思うんだが。」

「どうしてかしら?」

「根本的にすでに使えない軍事組織なんだよ、騎士団というのは。

いまや個人戦の時代じゃない、集団戦こそが戦争の趨勢を決するんだ。

だからもし今つかえる軍隊を編成するなら鉄砲と野砲を主力とするものをつくるさ。

そういう意味ではこの国の敵ヴァルファの奴らも時代おくれな集団だな。」

為政の言葉を聞いたライズは驚きの表情を浮かべた。

「まさか・・・そんな・・・」

「俺の国では現にそうなったよ。だから今ここにいるんだ。」

「そうではないのだけれど・・・」

ライズはそう言うと黙り込んでしまったので為政は仕方がなく観戦を続けた。

 

 夕方。

本日の試合が全て終了したため為政とライズは共に闘技場を後にした。

すでに陽はどっぷりと沈み、辺りは暗闇に包まれている。

大会を応援し続け興奮冷めやらぬ観衆たちも騒ぎながら家路へとついている。

「今日は楽しかったわ、興味深い話が聞けてね。」

ライズはそう言うと為政に瀬を向け帰り始めた。

そこで為政は慌ててライズを追いかけた。

「送るよ。」

それを聞いたライズは首を横に振った。

「いいのよ、それじゃあさようなら。」

「ああ・・・」

結局為政はライズの背中を見送るだけであった・・・。

 

 

あとがき

ライズとのデート編です。

またいろいろと格闘技について語っていますがこれは本のうけうり。

私は高校の授業で柔道を習ったぐらいしか経験ないものですからね。

適当にでっち上げました。

でもライズとはこういう話の方が弾みそうですね。

 

次回は第十四章.「バレンタインデー」です。

次回をお楽しみに。


平成12年11月13日

 

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