第十一章.相棒

 




 「ふわっー」

傭兵隊隊長戸田為政は国立公園のベンチに座ったまま大きな欠伸をした。

いつもは何かと忙しい隊長職の身の上であっても休日は存在し、手持ちぶさたなこともあるのだ。

為政がベンチに座ったまま周囲を見渡すと、そこにはのどかな光景が広がっていた。

穏やかな秋の日差しの中、子供たちが駆けずり回り、カップルたちは周りの人目を憚ることなくいちゃつき、

鳥たちがきれいな声を奏でていた。

「平和だなー。」

為政はそう呟くと目を閉じた。

そしてそのままうとうととし始めた。

ところがそんな為政の肩を叩く者がいるではないか。

(ピコの奴か・・・。)

そう思って目を開くとそこには見覚えのある少女が満面の笑みを浮かべて為政の顔を覗き込んでいた。

この国の王女プリシラ・ドルファンである。

「ユキマサ、お久しぶりね。」

その一言に為政の目は一瞬で覚めた。

そして慌てふためきながら何とか口を開いた。

「お、王女様・・・・、なぜこのような場所に・・・。」

それを聞いたプリシラ王女は不満そうな表情を浮かべた。

「んもーユキマサったら。今はお忍び最中なんだからプリシラって呼んで。」

「ではプリシラ様・・・。」

「プ・リ・シ・ラ!様はいらないの!」

「では・・・プ・プリシラ・・・。なぜお供もつけずにこのような所にいらっしゃるのですか?」

しかしまだプリシラは不満そうである。

「まだ固いわね。敬語はいらないの、ユキマサ。」

「はっ・・・、しかし・・・」

「いいの。これは王女としての命令よ。ため口を使いなさい。」

「わ、わかりました!」

軍人として訓練されたその体ゆえに、命令と言われると拒否することは為政には出来なかった。

だがプリシラはキッと睨み付けてきたので為政は慌てて言い直した。

「わ、わかった、プリシラ。」

するとプリシラは再び満面の笑顔を為政に見せた。

「それでよろしい。ちなみにお供を連れていないのはね、お忍びの最中だからよ。

口うるさいのなんか連れて街に繰り出しても面白くなんかないもの。」

「し、しかし・・・、一人でうろつくのは危険です、いや危険だよ。」

「そんなこと言われてもね・・・。」

プリシラは何か考え込んでいるようであったが何か思いついたのかポンと手を叩いた。

「そうだユキマサ、貴方私の警護官をやりなさい。これなら文句ないでしょ♪」

為政にはプリシラの命令を断ることは出来なかった・・・。

 

 「ところで何ボーッとしてたの?」

為政の隣に腰掛けたプリシラはそう尋ねてきた。

「んー?いや、ただ単に日向ぼっこしてただけだから。」

為政の言葉を聞いたプリシラは肯いた。

「つまり暇なのね。」

身も蓋もないプリシラの言葉に為政は苦笑しながらも肯定した。

「まあ、そう言うことになるな。」

「じゃあ今日一日私につき合いなさいよ。」

「ああ、いいとも。」

為政はプリシラの命令?を承諾するとベンチを立ち、立てかけてあった刀を腰に差そうとした。

するとプリシラが刀をじっと見ていることに気づいた。

「どうしたんだ?」

するとプリシラは興味津々といった表情を浮かべながら言った。

「その剣・・・刀っていうのかしら、見せてくれない?」

刀は武士の魂なんて馬鹿な考えを持たない為政はその申し入れを承諾すると刀を鞘ごとプリシラに手渡した。

するとプリシラは鯉口を切るとそのまま刀を引き抜いた。

「きれいな刀身ね。」

プリシラはそう感想を洩らしたが為政は慌てた。

「ちょ、ちょっとこんな公園で無闇に刀を抜くのは拙いんじゃあ・・・。」

するとプリシラは笑顔のまま答えた。

「平気よ、ユキマサ。無闇に人を斬ったりしない限りはね。」

「そうなのか?」

「ええ、そうよ。

昔は禁止しようという動きがあったんだけどね、騎士団の反対で立ち消えて今もそのままよ。

ところでユキマサ、聞きたい事があるんだけど。」

「何だ?」

「この刀、斬れにくくなりやすいじゃないの?」

為政はプリシラの的確な質問に驚いた。

「その通りなんだよ。斬れ味は欧州で使われている剣なんかとは比較にならないんだけどんね。

刃が欠けやすいので切れ味が鈍りやすくてね、悩みの種なんだ。」

それを聞いたプリシラはふーんといった表情を浮かべた。

「それなら剣を使えばいいんじゃないの?」

しかし為政は首を横に振った。

「あいにくと物心つくまえから振るってきた刀と、今から始める剣とでは比較にならないさ。」

「それはそうね。」

「なに、換え太刀は用意してあるし、刃同士をかみ合わせなければいいことさ。」

「でも大変でしょ。」

「まあ、確かにそうだ。

じつは自分用の刀を打って貰おうと思って鍛冶屋を捜した事もあったんだが駄目だったんだ。

みんな断られてしまってね。」

「じゃあ知り合い紹介してあげましょうか?」

プリシラの言葉に為政は飛びついた。

「頼む!そうしてくれると本当に助かる。」

「じゃあ、着いてきて。」

そう言うとプリシラは為政を引き連れ、歩きはじめた。

 

 プリシラに連れられれて為政がたどり着いた先は一軒の鍛冶屋であった。

煙突からはモクモクと煙が立ち上がり、トンカチトンカチと鉄を鍛える音がする。

為政が黙って鍛冶屋を見ているとプリシラはズンズン中へと入っていく。

為政は慌ててプリシラの後に続いた。

 

 「ガルディス、久しぶりね♪」

勝手知ったる様子で鍛冶屋の中に入ったプリシラは60才ぐらいであろう、髭も髪の毛も真っ白な老人に声を掛けた。

中では4.5人の男たちが汗びっしょりになりながら剣を鍛えているのが分かる。

「やあ、姫さんじゃないか。久しぶりだな。かれこれ二年ぶりぐらいか。」

気むずかしそうな老人が嬉しそうな表情を浮かべてプリシラに話しかけてきた。

そのまま二人は為政を置き去りのまま話し始めた。

 

 数分後。

ようやく話が終わったのかプリシラは為政に老人を紹介してくれた。

「ユキマサ、彼がドルファン一の剣鍛冶ガルディスよ。

王家や旧家で使われている剣の殆どが彼の手による物なの。」

そこで為政はガルディスという剣鍛冶に名乗った。

「初めまして。戸田為政といいます。」

為政の顔をじろっとと睨んだガルディスは再びプリシラに話しかけた。

「どういう男だい、こいつは。」

するとプリシラは笑いながら言った。

「ユキマサは傭兵よ、私のボディーガードも兼ねているけどね。

今日、ユキマサを連れてきたのはガルディスに刀剣を打ってほしいからよ。」

するとガルディスはプイっと横を向き、不満げに言った。

「俺はその気はないぞ、飾り用のおもちゃなんてな。」

「平気よ、戦場で実際に使う武器なんだから。」

それを聞いたガルディスは満面の笑みを浮かべ(爺の笑顔は怖い)、嬉しそうに言った。

「久しぶりに生きた刀剣を打たせて貰えるかい。そいつは嬉しいね。」

「でしょ♪だからガルディスの所に紹介してあげたんだから。」

「分かった、分かった。引き受けるよ。しかし高いぞ。」

「平気、平気。私が払うから。」

プリシラはそう言ったものの自分の武器を人に払って貰うわけにはいかない。

払うつもりの為政では」あったが値段を聞いて断念せざるを得なかった。

為政の年収10年分(あくまで今の隊長職の給料)以上であったからだ。

とても払える金額ではない。

「いいのよ、気にしなくて。この国の予算なんだから。」

「しかし・・・」

「本当に真面目なのね、ユキマサったら。

これは貴方への報酬なのよ、私の護衛官を勤めるにあたってね。これなら問題ないでしょ。」

「・・・ありがとう、プリシラ。」

為政はプリシラの好意に甘えることにした。

ここまで言われて固辞するのは良くないと思ったのだ。

しかし為政の言葉を聞いたプリシラは顔を真っ赤にして照れた。

「いいのよ、気にしなくて。じゃあガルディス、お願いね。」

二人のやりとりを面白そうに聞いていた老人は頷いた。

「ユキマサ、今日は勘弁しておいてあげるから来週は絶対つき合うのよ。」

そう言うとプリシラは一人お城へと帰って行った。

 

 「おい、ユキマサと言ったか。」

プリシラが立ち去った直後、ぶっきらぼうな口調でガルディスが為政に話しかけてきた。

「そうだが何か?」

「どんなのを鍛えて欲しいんだ?」

ガルディスの質問に為政は腰の刀を外して手渡した。

「こいつを基本にもっとタフな刀を打って欲しい。板金鎧ごと敵を斬り殺せるようなやつをな。」

為政はそう言ったがガルディスの興味は他にあったらしい、為政の言葉を聞き流しながら手渡した

刀を興味深そうに観察している。

そのまま五分ほど観察していたガルディスは刀から目を離すと為政に言った。

「おい、この刀・・・ワシにくれんか?」

「はあぁ!?」

為政は思わず耳を疑ってしまった。

刀を打って貰うはずが刀をくれとは。

そんな為政のとまどいが通じたらしい、ガルディスは慌てて付け加えた。

「お主の注文通りに造るためじゃよ。この刀の構造が知りたくてな。」

「なるほど。それなら別に構わないさ。良い刀を打って貰うためならな。」

換え太刀はまだ十本ぐらいはあるのだからと為政はガルディスの提案を受け入れた。

「それではさっそく始めるとするか。こいつを振ってみてくれ。」

ガルディスは一本の剣を為政に手渡した。

「何をするんだ?」

「素振りをやってくれ。あんたの使い方に合わせた刀を造るんじゃからな。」

 

 結局、この日一日は剣を振り回すことで終わってしまった。

休みが明けると為政は訓練所に通い続け、再び訪れた休日にはプリシラのお供を無事こなしたのであった。

 

 そして肝心の刀は・・・。

約一ヶ月後、ようやく刀が完成したとの連絡が為政の元に届いたのである。

その連絡を受け取った為政はさっそくガルディスの鍛冶屋へと向かった。

 

 「おう、来たな。」

為政が鍛冶屋に着くとガルディスは待ちかねたように言った。

そして為政に一振りの刀を差しだした。

為政は刀を受け取ると鯉口を切ると鞘からスッと引き抜いた。

するとそこには今まで使っていた打刀よりも三割ほど長く、幅広くなった刀が姿を現した。

それは故郷では野太刀と呼ばれていた刀のようであった。

「良い刀じゃろ。」

ガルディスは為政に同意を得るかのように言った。

「ああ・・・、ところで切れ味は?」

「そう来ると思ったよ。」

そう言うとガルディスは為政を鍛冶場の外の庭の片隅に案内した。

そこには案山子に着せられた一領の板金鎧があった。

「こいつを斬ってみ。」

「こんなに高いのを斬っていいのか?」

為政は心配そうに尋ねたがガルディスは笑い飛ばした。

「こいつは知り合いのところで造られた失敗作じゃ。気にすることはないぞ。」

そこで為政は案山子に対して野太刀を振るった。

すると鎧は見事な切り口を残して真っ二つになった。

「たいしたものだな。」

そう言うと為政は野太刀の刃をしげじげと見た。

そこには何一つ刃こぼれや傷はなく、一点の曇りも見受けられなかった。

切れ味はカミソリのごとく、強靱さは鉈のごとし。

為政が期待していた以上の出来映えであった。

「あたりまえじゃよ、こいつはワシにとって快心の作・二本目じゃからな。」

そうガルディスは得意げに言った。

「二本目か。一本目はどんな剣だったんだ?」

為政の問いかけにガルディスは目を細め、昔を懐かしがるように言った。

「かれこれ三十有余年は前のことじゃよ。ある方の為に鍛えた剣でな・・・。」

「ふーん。」

「風の便りによればその方はひとかどの武将になられたそうじゃ。

お主も負けぬように頑張ることじゃな。」

「わかったよ、刀に負けないように頑張るとするさ。」

そう言い残すと為政は鍛冶屋を後にした。

頼もしき新たな相棒を携えて・・・・。

 

 

あとがき

極めて作者にとって都合がいい刀の登場編です。

日本刀のままですとどうしても戦いのシーンが単調になってしまうものですから。

力業OKの今回の野太刀に交換です。

以降、戦場で振るう主人公戸田為政の武器はこれに決定です。

町中では相変わらず打刀ですけどね。

 

それでは次回予告を。

次回は第十二章「平和と策謀」です。

お楽しみに。

平成12年11月10日

 

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