第七章.潜入





 

 夏休みも無事明け、傭兵たちの訓練が再開されたそんなある日のこと。

為政は一人で訓練所に向かって歩いていた。

いつもならば仲良くやっている連中と一緒に行くのであるが今日は特別な用事があったため、

一人で先に向かったのであった。

いつもならソフィアやハンナと出会うドルファン学園前にさしかかったが、時間が早いせいか一人も

学生はいない。

そのまま学園前を通り過ぎ、セリナリバー駅前にさしかかった時、為政はあることに気付いた。

一人の少女がチンピラ風の男に絡まれていたのだ。

まだ朝早く、人通りはほとんどない。

(またソフィアじゃないだろうな。)

そんなことを考えつつ、為政は少女を助けるべく走り出した。

 

 「何の用かしら?」

少女は落ち着き払った様子で目の前にいるチンピラに尋ねた。

するとチンピラはにやりと笑い、言い放った。

「ちょっくら金を貸して貰おうと思ってね。」

「あいにくと見知らぬ他人なんかに貸すようなお金は持っていないわ。」

「いいんだよ、財布ごと置いていってくれればよ!」

チンピラはそう凄んだが少女は気にも留めなかった。

「あら、あなた強盗だったのね。」

その少女の言葉にチンピラは腹を立てたらしい。

少女めがけて襲いかかった!

 

 (やばい!)

為政は足を早めた。

少女にチンピラが襲いかかっていくのが見て取れたからだ。

ところがどうだろう、少女は平然と立ったまま、チンピラだけが無様に地面に転がったのだ。

(何だ?いったいどうしたんだというんだ?)

 

 「や、やりやがったなこの女・・・」

地面に無様にも投げ飛ばされたチンピラは怒り狂い懐からナイフを取り出した。

「へへへ・・・。どうした、怖いか?怖いだろう?」

ところが少女はそんなチンピラには気にも留めず自然体のままであった。

そのままチンピラを怯えた様子もなく黙って見つめている。

そのうちにチンピラの方が行きも荒くなり、肩で息をつきはじめた。

明らかに少女の方がチンピラよりも勝っていた。

チンピラ本人もそれには気づいていた。

しかし自らの面子にかけてこの場を逃げることは出来なかったのである。

ついにチンピラは緊張に耐えかねてか、奇声を発しながら少女に突進した。

すると少女はチンピラのナイフを握った右手に手刀を浴びせ、ナイフを落とさせるとそのまま

右手の関節をとり、体重をかけた!

鈍い音とももにチンピラの右肘は砕けた。

 

 「大丈夫か?」

為政がチンピラと少女の元にたどり着いた時、すでに戦いは終わっていた。

そこには涼しげな顔をした少女と間接を砕かれのたうち回っているチンピラが居ただけであった。

「強いんだな。」

為政は少女に対してそう声をかけた。

実際そう言うしかないほど見事な腕前だったのである。

「そうかしら?」

少女は無表情のままポッツリと呟いた。

「ああ、見事なもんだ。プロの軍人でもこれほど見事に間接を砕いたりは出来ないだろうよ。

一体誰に教わったんだい?」

為政が尋ねるとほんの少しだけ表情をゆるめた少女が言った。

「父が軍人だから・・・、たしなみにちょっと・・・。」

「たしなみ程度ではここまでやれないと思うがな。」

為政は足下に転がっているチンピラがうるさいので股間を思いいきり蹴り飛ばした。

そのままチンピラは悶絶、気を失った。

すると少女はきっとした表情を浮かべて言った。

「この男は戦いに望むという事に対する自覚が欠けていたもの。素人とは何ら変わる者ではないわ。」

それを聞いた為政はすっかり感心してしまった。

「たいしたもんだな、そこまで自覚しているとわね。親父さん、さぞや名の知れた軍人だろう?」

為政がそう尋ねると少女は頭を振った。

「私の父は事務官よ。」

「それにしては軍人としての心構えがよく出来ているんだけどな。ほんと、うちにも君のような人材が欲しいよ。」

為政の言葉を聞いた少女ははっとした。

「貴方・・・、傭兵なの?」

「ほほう、よく分かったな。」

「帯刀した東洋人が騎士のわけないもの。もしかして貴方・・・、よろしかったら名前教えてくださらない?

私の名はライズ・ハイマーというのだけれど。」

その言葉に為政は肯いた。

「俺の名は戸田為政という。」

それを聞いたライズと名乗った少女は大きく肯いた。

「やはりそうだったのね。イリハ会戦の英雄なのね。」

「そう言われると照れるがな。」

それを聞いたライズはほんの少しだけ微笑んだかのようであった。

「通学途中だからこれで失礼するわ。またいずれ会う機会もあるでしょうし。」

そう言うとライズは為政とチンピラを残しその場を立ち去った。

それを見届けた為政もチンピラを無視して訓練所へと向かったのであった。

 

 

 

あとがき

真のとか影のヒロインとか呼ばれているライズ登場編です。

人気投票でも大抵は上位に食い込む人気キャラ。

そのため書くのが難しかったです。

うっかり変なことは書けないし、それでいてあんまり動いてくれないし。

その前のキャラとは大違いでしたね。

でも私も好きなキャラですから頑張ろうと思ってます。

 

さて次回は第八章「剣術大会」です。

次回もよろしく。

 

平成12年10月28日

 

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