第三章.篝火の灯

 

 

 それは6月半ば過ぎのある日のことであった。

その日、戸田為政は訓練が妙に早く終わったため、かっての同室のメンバーで友人でもあるグイズノー・

ホーン・ギュンターの三人と波止場で魚釣りを始めた。

その時ふいに6月22日に催される夏至祭のことが話題にのぼったのであった。

 

 「今度の夏至祭どうする?」

釣り針に餌をつけながらグイズノーは言った。

それに対して為政は浮きをじっと見つめながら答えた。

「別に傭兵隊には何の命令も下されていないからな。

たぶん暦通り、休日になるんじゃないのかな。」

「それならみんなで祭り見物にいこうぜ。兵舎でごろごろしていても退屈なだけだしさ。」

「うんうん、そりゃあ良いことじゃ。おなごも一緒だとなお良いんじゃがな。」

ギュンター爺さんは竿をあげながら言った。

「ちっ、逃がしてしもうたわい。」

「おいおい爺さんよ、少しは自分の年を考えろよ。」

呆れ果てたグイズノーの言葉にホーンも頷いた。

「ホーンよ、お主までワシを年寄り扱いしおって・・・。ユキマサ、お主はどうじゃ?」

「この間、ぎっくり腰をやったのはどこの誰だったかな。」

為政がそう言うとギュンター爺さんはすっかりいじけてしまった。

「みんなワシのことを年寄り扱いしおって・・・。ふん、年寄りは一人で寂しく死んでしまえと言うのじゃな。

薄情者たちめ・・・、死んだら化けて出てやるわい。」

いじけてしまったギュンター爺さんを慰めるべくグイズノーが声をかけた。

「悪かったよ、爺さん。年寄り扱いはしないよ。」

その言葉を聞いたギュンター爺さんは満面の笑みを浮かべた。

「そうかそうか、わかってくれたか。

それでは三人から四人ばかり若いおなごを見繕ってくれ。」

「おい、爺さんよ・・・。」

「何じゃ、駄目だというのか。お主は常日頃おなごにもてているいると自慢しておったくせに。」

「俺の対象は素人の子じゃないんだよ。祭りの日なんかかきいれどきだろうが。」

それを聞いたギュンター爺さんは不満そうな顔をした。

「むぅー、おおそうじゃ、ホーンお主ならばって聞くだけ無駄かの。」

ギュンター爺さんの失礼な言葉にホーンは怒ることもなく頷いた。

「ユキマサ、お主ならばどうじゃ。」

「俺の知り合いの女の子っていったら爺さんも知っているだけだぜ。」

それを聞いたギュンター爺さんは一瞬がっかりした様子であったがすぐに立ち直った。

「このさい誰であろうとかまうものか。例え相手が乳臭い小娘であろうとなかろうと。」

ギュンター爺さんのあんまりな一言に為政たち三人は呆れてしまった。

「爺さんよ・・・。」

「おっといかん、こいつは失言じゃったわい。つい本音を漏らしてしまってのう。」

「やっぱやめとくか。」

為政がそう言うとギュンター爺さんはひしりとしがみついてきた。

「そんなこと言わんでくれ。老い先短い年寄りの願いの一つや二つぐらいかなえてくれても・・・。」

よぼよぼの年寄りにしがみつかれても気持ち悪いだけ、はっきり言えばうざったい。

為政はとりあえず前言を撤回する事にした。

「わかった、わかった。一応誘うだけ誘ってみるよ。都合があうかまでは保証しかねるけどな。」

「おうそうか、すまんの」

ギュンター爺さんは満足げに頷いた。そんなギュンター爺さんの様子をグイズノーは呆れた様子で見ていた。

「爺さんよ、日頃年寄り扱いすると否定するくせに都合が良いときだけ年寄り面するなよな。」

その言葉に為政は頷かざるを得なかった。

その時、ホーンが黙ったまま釣り竿をあげた。

そこには見事な大物が掛かっていた。

それを見た三人は顔を合わせ、そして無言で糸を垂らしたのだった。

 

 6月22日、夏至祭の当日の夕方。

為政ら四人は連れだって祭りの会場へと向かった。

祭りということもあって街も人もいつもより賑やかで華やかな様子である。

人々はみな着飾り、道並には多くの屋台が建ち並んでいる。

また祭りのメイン会場では、まだそれほど暗くなってもいないのにも関わらず篝火が盛大に焚かれていた。

ここドルファンでは夏至の日になると盛大に篝火を焚くのである。

そうすることで太陽の輝きが増すと考えられているのだ。

 

 「お兄ちゃんたち、こっちだよ。」

会場の近くまで為政たちが来ると待ち合わせ場所までまだだというのにロリィが声をかけてきた。

無論のこと、ロリィだけでなくソフィア。ハンナ・レズリーも一緒である。

「やあ、今晩は。」

為政は四人の少女たちに声をかけた。

「今晩は、トダさん、それに皆さんも。」

ソフィアは微笑みながら四人の男に言った。

「ちゃんと時間通りに来たな。」

レズリーは相変わらずの無愛想な表情でそう言った。

「そんなことどうでもいいから早く行こうよ。」

ハンナは何をそんなに急いでいるのかは分からないが焦れったそうに叫んだ。

「急がなくても充分間に合うって。」

レズリーはハンナにはそう言ったものの

「早く行こうよ、お姉ちゃん!」

というロリィの一言であっさり折れたのであった。

そこで為政たちはみんなで連れだって夏至祭会場へと歩いて行った。

 

 祭りの会場には様々な屋台が数え切れないほど建ち並んでいた。

街に出ていたのとは、はっきり言って数が違いすぎる。

その屋台では季節とりどりの果物や珍しいお菓子・子供が喜びそうなおもちゃなどが売られており、

所々では素晴らしい大道芸も披露され、大人から子供まで大変に楽しめるものであった。

また、高給取りの傭兵でありながら女は買わず、酒も嗜むていどの為政はここぞとばかり社会還元

すべくソフィアたちに奢ってあげたのであった。

 

 祭りの会場に来て二時間ほどたった頃であろうか。

為政はソフィアが目の届く範囲にいないことに気付いた。

ハンナやレズリー・ロリィはグイズノーたちのすぐそばにいるにもかかわらずである。

陽が落ちるのが遅くなっているとはいえすでに辺りは暗闇につつまれている。

また祭りのため人々は興奮しており、ちょっとしたことでも何かを引き起こしやすい状況になっているのだ。

為政はふと心配になりソフィアを探すことにした。

 

 捜し始めて数分後。

為政はソフィアが一人篝火から少し離れた人気のない所で腰を下ろして座っているのに気付いた。

為政はソフィアに近づくと声をかけた。

「ここいいかな。」

「ええ、どうぞ。」

ソフィアの返事をきいた為政はその隣に腰掛けた。

盛大に燃える篝火の方にふと目をやると、その周りで何十人もの人々が踊っているのが見えた。

「君は踊らないのかい?」

為政が尋ねるとソフィアは頷いた。

「ええ・・・。ジョアンに見られると大変な騒ぎになりそうですし。」

「そうか・・・。たしかにそうかもな。」

為政は二月程前に会ったソフィアの婚約者ジョアン・エリータスの姿を思い浮かべながら言った。

ジョアンはソフィアが為政と話しているところをみただけで半狂反乱の有様であり、いかにも嫉妬深そうな

というか実際問題嫉妬深い男であったのであったからだ。

「ええ、そうです(笑)。・・・そういえばトダさん、水晶占い してもらいました?よく当たるって有名なんですよ。」

ソフィアの言葉に為政は首を横に振った。

「いや、俺は占いとかそう言ったものは興味がないし信じてないからね。

だいいち運命なんてあやふやなものに自分の人生が決められているなんていうのはまっぴらごめんだからな。」

「・・・そうですね。」

ソフィアは俯きながら細いため息をもらした。

「人生・・・、自分以外の何かに決められてしまっているなんて・・・、いやですものね。」

そう言ったソフィアの瞳には深い悲しみに似たなにかと、暗闇の中辺りを赤々と照らし続ける篝火

の灯だけが宿っていた。






 
あとがき
 なんとなくソフィアがメインのお話。
はじめはそんなつもりではなかったんですけど・・・、終わってみればこんな感じになっていました。
まあ良い子をやっているソフィアだって普通の女の子だ、っと言う感じがでていると思うんですが。
やっぱ公式ヒロインだけあってストーリーにからませやすいですね。
だからといって当作品のヒロインかどうかは最後まで内緒にさせてもらいますけどね。


次回は「イリハ会戦(仮題)です。
お楽しみに!


平成12年10月11日水曜日

 

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