第1章.再会と出会い

 

 





 ドルファン傭兵隊。

まだ発足したばかりのこの組織は様々な人員によって構成されている

様々な国籍・人種、幅のある年齢構成、変わった経歴・特技の持ち主などがそうである。

そんな個性派揃いの傭兵たちをドルファン軍の一員として鍛え上げるのが傭兵隊主任教官ヤング・マジョラム大尉とそのスタッフたちである。

大尉は眼光の鋭い三十過ぎの男でありその左頬には大きな刀傷がくっきりと刻まれていた。

また今現在はドルファン騎士団に所属しているものの、かってはハンガリア軍の軍人であり「ハンガリアの狼」呼ばれていたほどの歴戦の勇士であった。

 

 

 傭兵隊の日常は常に訓練で明け暮れる。

訓練は午前8時30分から始まり終わるのは午後7時から9時の間(その日によって違う)刀剣術・槍術・弓術・馬術・体術といった戦闘訓練から始まって、部隊運用および戦術のイロハに天気予報、挙げ句の果てにはドルファンの進んだ様々な学問や料理、礼儀作法や倫理まで学ばされるのである。

傭兵にとって戦闘訓練にかんしていえばお手の物であったが、その他の講義は眠気を誘うものでしかなかった。

東洋から来た戸田為政にとっては、見るもの聞くもの全てが珍しく興味を引かれたため眠気に誘われることはなかったものの、ごく一部の騎士崩れ以外の者には悪夢のような時間でしかなかったのであった。

 

 傭兵隊が発足したはや一週間。

ようやく傭兵たちが待ち望んでいた休日がやってきた。

為政はグイズノー、ホーンそしてギュンター爺さんと今日一日なにをして過ごそうか相談していた。

誰も彼もドルファンのことは詳しくなかったのだ。

なにも休日その日になって予定をくまなくても・・・と思うかもしれないが訓練のあまりの厳しさにそのようなゆとりが全くなかったのである。

 

 四人がようやく今日の予定を決め出かけようとした。

すると突然ドアがノックされた。

何事かと思いドアの一番近くにいた為政がドアを開けるとそこには兵舎の管理人、ウェブスターさんがいた。

ウェブスターさんは、荒くれどもを統率する手腕に長けており、いわば傭兵たちの母のような存在なのであった。

「ちょうどよかった。あんたに用事があってね」

「はあ・・・、何事です?」

するとウェブスターさんは満面の笑みを浮かべ兵舎のどこにいても聞こえるような大声で言った。。

「お客さんだよ。それもとびっきり可愛い女の子!」

その言葉にグイズノー、ホーン、ギュンター爺さんのみなっらず、兵舎に残っていた全ての傭兵が為政の周りに集まった。

「何だとー!ユキマサ、貴様いつの間に女に手をだしやがったんだ?」

「そうじゃ、そうじゃ。羨ましすぎるぞい」

「俺にも愛の手をさしのべてくれー!」

周囲に群れた男たちの悲哀に満ちた声に為政は反論した。

「言っておくがな、俺にはそんな女の子なんぞ心当たりないからな」

その言葉に傭兵たちは一斉にブーイングをおこした。

傭兵たちの期待にそえるようなような内容でなかったからであろう。

「そんな嘘つかなくていいんだぜ。抜け駆けは許し難い行為ではあるけどな、今更否定しても・・・、なぁ?」

グイズノーは為政の方に手をまわしながらそう言った。

「・・・グイズノー、俺がドルファンに来たのは一週間前が初めてでしかもその後すぐに傭兵隊に入隊したんだぞ。

その後はずっと訓練、訓練、また訓練でそれどころじゃなかったじゃないか」

為政がそう言うとギュンター爺さんは頷いた。

「言われてみればその通りじゃのう。それではその女の子とは何者なんじゃ?」

「俺が知るか!」

「まあまあ、見に行けばわかるさ」

グイズノーの提案にギュンター爺さんとホーン、そしてその他の傭兵たちはうんうんと首を縦に振った。

 

 「どこまでついてくるつもりだ?」

兵舎の玄関までやって来たところで為政は後ろを振り向きざま怒鳴った。

するとそこには女の子を見ようと集まっていた傭兵たちの姿があった。

「まあまあ、いいじゃないか」

「そうそう、減るもんでもないし」

傭兵たちは口々にそう言ったものの為政には見せ物になる気などさらさらない。

「お前らとっとと失せろー!」

と傭兵たちを追い払ってしまった。

しかし・・・

「おい、お前ら・・・」

そこにはグイズノー、ホーン、ギュンター爺さんの3人がまだ残っていた。

「まあいいじゃないの」

「そうじゃよ。同室の者同士、仲良くせねばのう」

こんな二人の言葉に為政はため息をついた。

「わかった、わかった。ついてくるのは構わんから邪魔だけはするんじゃないぞ」

そして為政は玄関を出ると少女が待っているという門の方へと向かった。

 

 そこにはソフィアと名乗った少女とその友人であろう3人の少女たちがいた。

ソフィアとは波止場の一件以来、一度だけ彼女が通っているというドルファン学園の前で逢っていたが

その時は彼女の婚約者と名乗る変態に邪魔されてろくに会話もしていなかったのであった。

 

 「やあ、ソフィアさん・・・だったね」

為政がそう声をかけるとソフィアは笑顔で頷いた。

「はい。この間はどうもありがとうございました」

「お礼なんか別にいいのに」 

為政がそう言うとソフィアは首を横に振った。

「いいえ。そう言うわけには参りません。これは大した物ではありませんが・・・」

そう言うとソフィアはなにやら入った籠を手渡した。

「これは?」

為政が尋ねるとソフィアは笑顔で答えた。

「私の手作りのクッキーです」

「わざわざありがとう。しかしお礼の品なんて持ってこなくてもよかったのに」

「いいえ、それでは私の気が済みませんから。それとも甘い物はお嫌いでしたか?」

「いや、俺は好き嫌いなくなんでも食べるからね。遠慮なく食べさせていただくとするよ。

それよりもそちらのお嬢さん方は一体なんという名前なののかな?」

なにやら話しかけたがっている様子であったので為政は少女たちに話を振った。

するとショートカットの元気のよさそうな少女が最初に為政に名前を名乗った。

「ボクはハンナ・ショースキーって言うんだ。よろしくね。キミのことはソフィアから聞いているよ」

次に為政に名乗ったのは他の少女たちよりだいぶ年下の幼い感じのする女の子であった。

ロリィ・コールウェルでーす。お兄ちゃん、よろしくね」

そして最後に自己紹介したのは無愛想な顔をした大人びた感じのする少女であった。

「あたいはレズリー・ロピカーナ。よろしくな。ところであいつら一体何してんだい?」

レズリーの言葉に為政は兵舎の方を振り向いた。

するとそこには慌てて姿を隠すい男たちの姿があった。

(あいつらは・・・)

為政は心の中で罵ったが顔には出さずにこやかに言った。

「君らのことが気になるんだろうよ。ここに女性が来るのはとても珍しいからね。

そうそう、ソフィアから聞いているようだが名乗っておこう。俺の名は戸田為政。よろしく頼むよ。

それと何かあったら俺に相談してみてくれ。出来ることなら手助けするからさ」

「そいつは助かるぜ。何かあったら頼むとしよう。おやっ、ソフィアそろそろ・・・」

レズリーがそう言うとソフィアは用事があるらしい。

「あらもうこんな時間なのね。トダさん、それではこれで失礼しますね」

そう言い残すと4人の少女たちは帰って行った。

 

 「ユキマサ、あの女の子たちは誰だったんだ?」

兵舎に戻ってきた為政にグイズノーは興味津々といった表情を浮かべながら尋ねてきた。

別に隠すこともない話なので為政はドルファン最初の日の出来事を話した。

「成る程・・・、うまいことやったな」

為政の話を聞いたグイズノーは羨ましそうに言った。

「全くじゃ、羨ましすぎるぞい。ワシも彼女一人ぐらい欲しいでのう」

ギュンター爺さんも続いてそう言ったがその言葉を聞いた為政たちはあきれ果ててしまった。

「・・・爺さんよ、年のこと考えろよ。彼女たちの年齢、爺さんの孫ぐらいなんじゃないか」

「そうかの?」

「そうだよ!」

「うむむむ、そういえばワシの一番上の孫は12,3歳だったような気がするのう」

そう言うとギュンター爺さんはしばらく考え込んだ。

しかしすぐに考え込んでいたのをやめてしまった。

「えーい、やめじゃ、やめじゃ。さっさと予定どおり酒場へ行くぞい」

そう言うとギュンター爺さんは老人とは思えないあしどりで酒場へと歩き出した。

為政ら三人は呆れたように顔を見合わせたもののすぐにその後を追いかけた。

 

 数時間後。

すっかり陽も落ちてしまい、辺りもすっかり暗くなった頃、為政たちはサウスドルファン駅の目前にある歓楽街から戻っていた。

グイズノーは為政らと別れて娼館に入り込み、ギュンター爺さんはホーンに背負われて兵舎に帰っていた。

そして帰ってくるとホーンも酔いつぶれてしまいギュンター爺さんと並んで仲良く鼾をかいていた。

為政はそんな二人を横目に、窓辺に座り込み星空を眺めながら、ソフィアにもらったクッキーをつまみつつ、ちびりちびりと一杯やっていた。

そこへ今日一日ドルファン中を遊び回っていたピコが帰ってきた。

「ただいまー、為政。・・・あれ?どうしたの、そのクッキー。まさか君が買ってくるとは思えないし・・・」

「今日ソフィアがここに来てな。この間のお礼といってくれたのさ」

「そうだったんだ。・・・私も食べていいかな?」

ピコは物欲しそうな顔を浮かべながら為政に尋ねた。

「いいぞ、全部食べても。相当な量食べたもので、すっかり飽きてしまったんだ。」

為政がそう言うとピコは怒ったように言った。

「ひっどーい!乙女の気持ちをなんだと思っているのよ。・・・それにしても君、飲み過ぎじゃない?」

「そうか?」

「そうだよ。」

「ならもう飲むのはやめるか。」

そう言うと為政はグラスに残っていた酒を飲み干した。

そしてそのままベットに横たわると寝入ってしまった。

 

 翌日、為政らが二日酔い(娼館に泊まったグイズノーは寝不足も)であったことはいうまでもない。

 

 追記

為政が朝、目を覚ましたときにはすでにクッキーが残っていなかったことを付け足しておかねばならない。

 

 

あとがきその2

 さて、ここでは主人公戸田為政について書こうと思います。

最初、彼の名前は池柳という姓だったのであります。

第一作めの名前がそうだったからがその理由。

ところがいざ書いてみると「イケヤナギさん」というのはあまりに美しくありません。

前作は完全に短編、しかも姓で呼ばれることがほとんどなくて気にしなかったのですがこれだけ

長いと妙に気に障ります。

そこで単純かつ響きがよく、戦国時代にもありそうということでこの名前を正式に決定しました。

 

 さて先も長いので今回はこの辺でおわらせようと思います。

それでは次回を。

 

 平成12年10月5日木曜日  

 

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