序章.東方より来たりし男

 

 

 ドルファン港は大盛況であった。

 入国手続き書を入国管理官に手渡し、3本マストの大型旅客船から石畳の上に降り立った男は雲一つない青空を仰いだ。

「ここが今日からの働き口か・・・」

 

 彼の名は戸田為政

年は数えで22歳。

幼い頃より幾多もの戦場を渡り歩き、今ここに遠く東洋にある故郷をでて、ここドルファン首都城塞へと辿り着いたのであった。

 

 「ようやく着いたね、ドルファンに」

荷物を石畳の上に置き、大きく伸びをした為政の耳元に小さな声が飛び込んできた。

「そうだな、ピコ

 澄み渡る空の下、陽光で羽を輝かせながら現れたのはここ欧州において妖精と呼ばれてる存在そのものといった感じのものであった。

その妖精のようなものこそが為政の相棒ピコである。

何故かはわからないが為政にしかその存在は感じることはできなかった。

「よし行くか」

為政は荷物を担ぐと倉庫の立ち並ぶ波止場を後にした。

 

 

 「い、いやっ・・・、や、やめてください・・・」

少女のか細い哀願の声が為政の耳に届いたのは、後少しで目的地の傭兵の兵舎という通りに近く、それでいて人気の少ない、そんな場所であった。

 他にも数人の下卑じみた粗暴な声がきこえる。

(やれやれ、どんな国にも・・・)

為政はその声を無視する事が出来ず、声のする方向に足を向けた。

 

 そこにはやっぱりというべきか柄の悪いチンピラどもが一人の少女を取り囲んでいた。

少女は背中ぐらいまで髪を伸ばしており年齢は十五、六ぐらいであろう。

チンピラどもに取り囲まれ、非常に怯えていた。

「そこまでにしておくんだな」

為政が声をかけるとチンピラどもは一斉に振り返った。

そして少女はチンピラどもから慌てて抜け出すと為政の背中にひしとしがみついた。

その様子を見たチンピラどもは一斉に声をあげた。

「おうおう、東洋人の兄ちゃんよ、みせつけてくれるじゃないの!」

 「まったくだぜ。女の前だからって格好つけんじゃねえよ!」

「俺らが用事あんのは彼女の方なの。さっさと失せな!」

 

 チンピラどもは為政を恫喝しようとしたがそんなことは通じなかった。

「危ないから離れていなさい」

為政は少女にそういうと荷物を置き前へ出た。

「何!?俺らとやろうってのかよ・・・。面白れえ。ビリー・サム、東洋人なんぞやっちめえ!」

大男の声と同時にチンピラどもは為政に対して一斉に襲いかかってきた。

 

 とはいえ所詮チンピラはチンピラ。

プロの傭兵にかなうはずもなくあっという間に為政にたたき伏せられた。

「お、覚えていろよー!」

「今度逢ったらギタンギタンに熨してやるからなー!」

決まり文句の捨て台詞を残しチンピラどもは逃げ出した。

 

チンピラどもが逃げていくのを為政は警戒して見張り続けてていたが、やがてその姿が見えなくなると警戒を解き、少女に声をかけた。

「大丈夫かい?」

「は、はい。あ、あの・・・危ないところを助けていただいてありがとうございました。

あの、すいません。よろしかったら貴方の名前を教えていただけないでしょうか」

そこで為政は少女に名乗った。

「俺の名は戸田為政、欧州風にいえばユキマサ・トダだな。見ての通り傭兵だ」

「トダさんですか。いい名前ですね。

私はソフィア・ロベリンゲといいます。あ、あの・・・今日は本当にありがとうございました。

今日は用事があるので失礼します!」

そう言うとソフィアは踵を返すとパタパタと立ち去った。

 

 為政はソフィアが見えなくなるまで見送ったが、その姿が消えると石畳上の荷物に手を伸ばした。

「やるじゃないの、この色男!」

「何言ってんだ、お前は。」

「お前はないでしょ、お前は。それにしても彼女、君に惚れたんじゃないの?顔、真っ赤にしてたよ」

「・・・、馬鹿なこと言ってんじゃない。さっさと行くぞ」

呆れた為政は荷物を担ぐとピコをおいて歩き出した。

「あーん、もう!待っててばー!」

 

 「戸田為政というものですが・・・」

ソフィアとの出会いより数分後、傭兵隊兵舎に辿り着た為政は、管理人に着任した旨を伝えたのであった。

「えーと・・・、トダ・ユキマサ・・・、あ、あった。このユキマサ・トダっていうのがあんただね」

管理人の問いかけに為政は頷いた。

「あんたの部屋は204号室だよ。すでに相部屋の人たちも入っているからね」

 為政は部屋の鍵を受け取ると部屋のある二階へと上がっていった。

 

 為政は204号室と書かれたプレートが掛かった部屋を見つけるとノックした。

「おう、入れよ」

室内からの声に為政はドアを開いた。

すると室内には三人の男たちが待ち受けていた。

一人はすでに隠居していてもおかしくないような老人。

もう一人は為政とほとんど同世代の少し小柄な男。

最後の一人は為政が初めて見る巨体の持ち主であった。

「俺の名は戸田為政。よろしく頼む」

為政は何ら臆することなく名乗った。

すると小柄な男が笑いながら言った。

「わかったよ、ユキマサ。

こっちこそよろしく頼むぜ!俺の名はグイズノー・ファルケンっていうんだ。

こっちの大男がホーン・ブレイブズそんでもってこっちの爺さんが・・・」

「ギュンター。ワシはギュンター・ヘイム・クローヴィアスというんじゃ。よろしく頼むぞい」

 

 こうして戸田為政の欧州での傭兵生活が始まった。

 

あとがきその1

 みなさま、当作品はいかがだったでしょうか。

これは私の書いた第二作目の作品に当たります。

就職活動の最中に息抜きで書き始めたのです。

そしてそのまま発表しないのは勿体ないと思い、ここに公開する事となったのであります。

その時、大学ノートに書き記したのは計40章分。

はっきり言って長すぎです。

しかもここに発表したのはそれにさらに加筆したもので、

もっと長くなってしまっています。

とっても長いSSになってしまいましたが最後までお付き合いして下さるとうれしいです。

 

平成12年10月4日水曜日

 

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