真実の彼 7

車の中で俺はひたすら眠った。
何も話さず、どこに連れて行かれるのか考えるのも面倒だった。


「着きました」


そう言われて車を降りた所は、楠本組・・・ではなかった。


「ここ、どこだ」

「中でお待ちです」


俺の質問に答える気はないらしい。

看板も何もないビルに入ると、そのままエレベーターに乗せられる。


「小野さんです」


扉の前、中にいるんだろう人間に話しかけている。


「どうぞ」


中から聞こえてきたのは、悪魔の声だった。

扉が開くと同時に、俺の目には満面の笑顔を浮かべた前中が飛び込んできた。


「お久しぶりですね、小野さん」

「・・・・ああ」


俺はいつでも逃げられるように扉の傍から離れない。


「ずいぶん可愛がって貰ったみたいですね」

「うるせぇ」

「少しやつれましたか。
ますます凄みに磨きがかかってますね」

「先生は大変喜んでいらっしゃいましたよ」


あいつは悪魔に何を言ったんだ。
どこまで知られているのかが分からない限り、俺は下手に口を開くこともできない。


「小野さんのお陰です」

「はっ・・・」

「で、小野さんはこれからどうするおつもりですか」

「どうって・・・」


俺は返答に詰まってしまった。
俺自身、それが分からないのに何を言えというんだ。


「この間言ったことは覚えていますか」

「この間・・・」


前中の言葉に、俺は記憶の箱を探る。

『次に会う時は社長と部下という立場ですね』

その言葉にたどり着けば、俺の顔はより一層険しくなってしまう。

逆に前中は


「思い出していただいたようで」

「どういうことだ。俺があんたの部下って」

「言葉の意味、そのままですが」


相変わらず何を考えているのか分からないまま笑っている。


「先生には就業時間厳守でと言われていますので、今日は仕事内容を考えて貰うだけで終わりそうですが」

「・・・就業時間」

「朝10時から夕方18時まで、休憩は12時半から13時半までの1時間です」

「なんだそれ」

「時間は先生の終業時間に合わせています。先生がお迎えに来てくださるそうなので、勝手に帰らないでくださいね」


俺は自分の知らないところで話が進められていることに混乱していた。


「仕事内容は・・・そうですね、」

「今考えるもんなのか」

「いや、別に仕事なんてどうでもいいんですよ。
本当の仕事は先生の接待ですから。

くれぐれも先生に嫌われないようにしてくださいね」


よく見れば、部屋の中にあるデスクやパソコンといった設備はまっさらな状態だ。

この事務所に看板も何もなかったのもようやく理解できた。

あえて看板をあげていないのではなく、本当に何もないんだということだ。


「小野さんが好きなように使ってください。
適当に仕事は回しますから」


その言葉通り、あまりの適当さに俺は何も言えなくなる。


「それじゃ、私はこれで帰ります」


俺の横をすり抜けていく前中だったが、何かを思い出したかのように立ち止まる。


「そうだ、聞こうと思っていたことを忘れていました」

「なんだよ」

「結局、先生はあなたのどこが良かったんですか」

「・・・知るか」


その日、18時の終業時間になると本当に赤城の奴が迎えに来やがった。


「洋、お仕事お疲れさま」


そう言うなり、俺にベロチューをかますオマケ付きだ。

本当なら止めろと殴り倒したい気分だが、あまりの出来事の連続に諦めた。




次の日から、俺はブツブツ文句を言いながらも仕事に通い始めた。

よく考えれば、職に就くということが初めてだということに俺自身が驚いてしまう。

仕事内容は様々。
前中の秘書から急に電話が掛かってきて、それをこなすだけ。


『もしもし』

「はい」

『赤城先生の事務所に届けてほしい書類がありますので』

「了解」


そんなの、俺が届ける必要があのかと言いたくなる。
バイク便とかある時代、よっぽどそっちの方が効率がいい。

ただ、あいつが

『洋が持ってきてくれた書類以外は全て廃棄します』

なんて言ったもんだから、赤城法律事務所への書類はほとんど俺の会社(?)へ届けられる。

そんなことを知らず、赤城の事務所に届けられる書類が時々あるが、その場合その書類は中身を確認されることなく、シュレッダーされるということを聞かされた。

「お前、本当に大事な書類だったらどうするんだ」

と聞いたことがあったが、

「洋が届けてくれる書類以外、俺にとって大切なものなんてないから」

なんて訳の分からないことを言いやがった。

俺もそれ以上言うことも止め、ひたすら配達業に勤しんでいる。

毎日迎えに来る赤城に連れられるまま帰れば、夜は夜で・・・


「あ、あ、あ・・・」

「洋の赤くてザクロみたいなアナル。

いつも俺のことを誘ってるよね・・・
ほら、指を少し入れただけでもっと奥へと吸い込んでいこうとする」

「や・・・ゃめ・・・」

「ああ、1本だけじゃ足りないよね。

洋のアナルは俺が考えていたよりも、持ち主よりも淫乱ちゃんだったみたいだ・・・

それとも1週間のハメヌーンのお陰かもしれないね。

でも食べていいのは俺だけだから。
他の人間のは食べないように」

「なに、話して・・・」

「いや、ちゃんと躾ておかないと」

「そんなことより、は、早く」


悲しすぎることに、すっかり俺の後ろは赤城に慣らされてしまっていた。

1本の指を入れられただけでは足りなくて、もっと太いものが入るのを期待して奥が疼く。

それを与えられないと分かると、自分で何か刺激を探してしまう。


「ああ、洋ったら・・・乳首は俺のものだって言っただろ」

「おま・・・触んねぇ・・・から・・・だろぉ」

「そんなにキュウキュウ捻るばっかりじゃ、痛いだけだろ」


赤城の言うとおり、触ってくれない乳首を俺は力に任せて押しつぶしたりする。

でも、全然気持ちよくなかった。


「ほら、俺がどっちも気持ちよくしてあげるから」

「・・・さ、さいしょから・・・そ、してた・・・あぁぁ」


俺が話してる途中から、赤城が口に俺の乳首を含んだ。
少し歯が当たって、たったそれだけで俺のアソコはギンギンになっちまう。

しかも、後ろに入れられる指も本数が増えてローションをかき混ぜるような音を起ててる。


「あ、・・・イィ・・・きもち・・・ぁ、あ・・・」


なんだかんだ言って、すっかり俺はこの爛れた生活に溺れてしまった。

でも、心の隅では思ってるわけだ。


いつ赤城が俺に飽きてしまうんだろうってな。


赤城の事務所には美人な秘書もいれば、好青年もいるわけだ。

事務所に行く度に密かに嫌がられているのは分かってる。

そこに依頼者がいたなら尚更だ。

見るからに一般人じゃない俺は客をビビらせちまう。
普通にしていてもそうなんだから俺には仕方ない。

まあ、それが普通の反応だから今更だ。

赤城が変なだけ。

あいつは分かっているのか分かってないのか、俺が来るとすぐに奥の部屋へと連れて行かれる。


「ちょ、俺は帰る」

「そんなに早く帰らなくてもいいだろ。
仕事なんて・・・」


帰ろうとする俺だが、腕を引っ張られ強制的にソファに座らされる。

悲しいが赤城の言っていることは合っていた。

どうせ、俺には待っている仕事なんてない。
ここに来て、こいつの機嫌を取ることこそが仕事のようなもんだ。

いや、だからってそれを素直に受け入れたくもない。


「せっかく、お茶も入れてくれてるんだから」


言いながら、赤城は俺にゆっくりとお茶を飲ませるなんて気は全くないわけだ。


「おま、どこ触って・・・」

「どこって、どこだろうね」

「お前、・・・ざけん」

「ほら俺は洋のどこを触ってるか言ってみてよ」

「くっ・・・」


俺は扉の向こうにいる人間を意識しないわけにもいかなくて、唇をひたすら噛みしめ声を殺すしかない。

ただ、そんな俺の努力をあざ笑うように赤城は更にキツく責めてくる。

こんな時、赤城の声音は少し楽しそうにも聞こえる。
普段は無表情な上に、声も単調。
感情の起伏が顔にも声にも全く現れることはない。

それなのに、こんな時だけは・・・ちょっと違う。


「洋、声を我慢すると余計に気持ちよくなっちゃうと思うんだけど」

「んん・・・」

「ほら、声を我慢するから洋の可愛らしいペニスが涙を流し始めてる。

涙が流れないように、俺がこうして蓋をしてあげる」

「ひぃ・・・それ、ゃ・・・やめ・・・」


赤城の責めは時として痛みをも伴う。
ペニスに爪を突き立てられ、俺は悲鳴をあげてしまう。

痛いのが苦手。


「あぁ、蓋をしてあげるつもりだったのに洋のペニス、もっと涙を流し始めてる。

でもさ、こんなにネバネバの涙なんておかしいよね。

ほら洋も見て」

「ぃ、ぃやだ・・・」

「涙じゃなくて、涎かもしれないよね。
もっとして欲しいって涎を垂らしてるみたいにも見える」

「も、な、でもいい・・・こ、擦って・・・擦ってくれ・・よぉ」


痛いのは嫌いなはずなのに、なんでだろう、全身がゾクゾクしてしまう。

赤城が俺にする”痛い”の後には、”気持ちいい"が用意されてるからだろうか。

とにかく、俺は事務所を訪れる度に色々されているわけだ。
まあ、さすがに最後まではされないが、その少し前まではよくされてる・・・。

しかし、ここが防音完備なビルなはずでもなく、俺が疲れた風に部屋から出てくると一瞬だけ侮蔑の視線が突き刺さるのが分かる。

事務所の人間にはどう思われているんだろうな。

すぐ後に部屋に入った人間は、その生臭い匂いに顔をしかめるかもしれない。


「ニシノ君、ワタベさんの資料持ってきて」

「はい」


仕事モードに戻ったあいつの平坦な声がスタッフに指示をする声が重なる。

途端に事務所の人間は俺の存在が見えなくなったみたいに、綺麗に俺のことを無視してくれる。

俺はそんなことにイチイチ傷つくような神経を持っていないから、別に気にしたことはない。


「じゃあ」


誰も聞いていないだろうっていうのは分かっていながら、俺は一言残してから事務所を後にする。

事務所を出れば、普通の人間が俺の前をドンドン通り過ぎていく。

まさか俺が今出てきたビルの、しかも弁護士事務所でどんなイカガワシいことをしてきたかなんて誰も知らないわけだ。

あいつだって俺にしたことなんて少しも表に出すことなく、再び真人間な振りをして仕事をするはずだ。

それに比べれば、俺はどうだってことだ。

そう考えれば普通の世界で働いているあいつは、俺なんかをずっと傍に置くなんて保証はどこにもない。

ある日、夢から覚めるように俺から離れていくんだろうな。

そして、

『先生に捨てられないように頑張ってくださいね』


何度も聞かされる言葉。
ただ、捨てられないようにするにはうすればいいのか・・・そんなこと分からない。

俺だって人間だし、情がないわけじゃない。

何度も何度も身体を繋げていればあいつに対して情だって湧いてくるわけで・・・


いつ赤城の目が覚めてしまうのか、俺は心のどこかでそれが少しでも遅ければいいのにって思ってしまう。



赤城には絶対言わないけどな。




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