真実の彼 4

俺は今までほとんど喧嘩に負けたことはない。
それがちょっとした自慢だった。

「や、やめろ」

「やっぱり、いい筋肉がついてる。

悪い意味じゃなく、こう・・・俺の手をまるで待っていたように、手にしっくり馴染んでる感じ」

「ひぃ・・・」


俺は抵抗したつもりだった。
それなのに、勉強しか能がないような男に羽交い締めにされてる現状。

嘘だろって言いたい。

両腕を男の片手で押さえつけられ、足の間には男の体が入り込んでる。

しかも、空いてる手で服の下をまさぐられてる。

鳥肌が立つような感覚に、これが現実なんだと思い知らされる。

それは相手にも伝わってるのか、


「鳥肌がたってる」


と平然とした声で言いやがる。

俺はたまらず、顔だけ後ろを振り向き大声で怒鳴った。


「あ、当たり前だろぅが」

「やっぱり暖房がないと肌寒いですよね」

「そんなこと言ってるんじゃ・・・」

「大丈夫ですよ。すぐに暑いぐらいになりますから」


ダメだ、全く話が通じてない。


「くっ・・・」


俺が次の言葉を考えている間にも、男の手は俺の身体を這い回ってる。


「ここ」

「ぅわぁ」

「寒いからかな、ツンって勃起してますね」

「ぼ・・・ぼ・・・」


なんでそんな真顔で、卑猥な言葉が吐けるんだ。


「あー、コリコリしてる。
後で噛んでもいいですか」

「噛むな、噛まなくていい」


俺は必死で止めてくれるように頼む。

頼むっていうこと自体、俺にとっては屈辱でしかない。
でも、今はそんなプライドなんて言ってられない。


「そうですか、残念だ。
じゃあ、今日は触るだけで我慢しておきます」

「いや、触るのも遠慮してくれよ」

「それは却下で」

「なんだよそれ・・・ぅわあ」


噛まれなくて済んだ。
それは良かったかもしれない。

ただ俺のささやかな胸の飾りを手でクネクネと弧ね回し、最終的に捻るのは止めて欲しい。

今まで商売女に触られたことがあっても、ちょっと舐められる程度で、
「くすぐってぇよ」
って笑いながらじゃれるぐらい。

こんな本格的なのは初めてだ。


「ぃ・・・ぃや・・・やめてくれ・・・」

「このプリッとした感触もいい。
こう弾くと・・・」

「ひっ・・・」

「俺の指を弾くような感じが最高ですね。

これから毎日触って、今以上、そして常に勃起してるような淫乱乳首に開発してあげますから」


男の言葉に俺は悲鳴を上げそうになる。

常に勃起って、淫乱乳首って・・・どんなんだよ。

俺はジリジリと身体を移動させようとするけど、


「洋、もっとこっちに来てくれないとちゃんと触れませんよ」


とか言ってグイって俺の身体を元の位置に戻しやがった。

俺は言っちゃ何だが、重い方だ。
身長だって、奴と同じぐらいのはず。

それなのになんでこう易々と・・・


「それじゃあ、こっちも解禁ってことで」


俺が無駄な足掻きにも似た抵抗を小さく続けているのを後目に、いきなり奴は俺の下半身を鷲掴みしてきた。


「やめろぉぉお」


結構大きな声で叫んだ。

これぐらい叫ばないと奴には俺の気持ちは伝わらないような気がしたからだ。

さすがに奴も引いてくれるかと思った。
しかし、


「照れてるんですね」


ときたもんだ。


「照れてるわけじゃねぇ」

「じゃあ、何ですか」

「嫌なんだよ」

「どうしてですか。俺と洋は運命の・・・」

「運命なわけないだろうがぁ」


俺が叫ぶと、男の手が止まった。

それまで俺の下半身をまさぐっていたのに、手はそこから離さないものの動きはなくなった。

やっと理解してくれたのかと思った・・・が、


「まさか、洋・・・5年間、刑務所に入ってる間にイイ人ができたんですか」

「は・・・」


あまりの展開に俺は言葉を失うしかない。

それなのに、向こうは真剣らしい。
その声がさっきと比べて冷めきってる。

同じ声音なはずなのに、全然違う。


「まあ、もし洋に今そういう人がいたとしても気にしませんから。

というか、それは本当の運命の相手じゃないですよ。

だって、洋の運命の相手は俺なんですから」

「おい、俺にはそんな・・・」

「たとえ洋のアナルがガバガバであったとしても、俺はいいですよ」

「誰がガバガバだよっ」

「違うんですか」

「ちげーよ」


俺はそんな風に見られてるなんて心外だと叫んだ。

5年間、俺は確かにムショ暮らしをしていた。
最初は同じ房の野郎から狙われたこともあった。

でも、そこは反対にやり返してやった。
それなりに俺は強いはず・・・はずっていうのは、今がこんな状況だからだ。

それに犯ることはあっても、犯られることはなかった。


「洋はガバガバじゃない」

「ガバガバ言うなっ。っていうか、俺は犯られたことなんかねぇ」


男としてのプライドを保つための俺の言葉は、


「俺の為にアナルを守り通してくれたんですね」


とまた勘違いされてしまったわけだ。

「そんなわけないだろ」

そう言っても、すでに相手の耳には届いてない。


「洋。グチャグチャのトロットロにアナルを解してあげますから」

「いや・・・止めてくれ」

「それで、解した後には俺のペニスでさらに中をかき混ぜてあげます」


もう俺は奴に言い返すことも、抵抗することにも疲れてきた。

何を言ってもスルー。
抵抗しようとしても、反対にねじ伏せられる。


「その後、きっと洋は分かるはずですよ。
本当の運命の相手は俺だったんだって」

「はぁ・・・」

「で、俺の目の前で電話を掛けてくださいね」

「誰に」

「誰にって、今、洋の仮の恋人にですよ」


俺はもう答えるのも面倒になってきた。

でも、奴はそんな俺の態度が気に障ったらしい。


「洋、まさか本当にその仮の恋人を・・・」

「んなわけ・・・」

「やっぱり、5年間も離れていたのが悪かったんですね。

いいんです。でも、全てが終わった後も同じことを思っているとは思えませんけど」


そう言うと、奴は黙ってしまった。

それと同時に、俺の身体を無理に反転させる。
ついに俺とあいつが対面する形になった。

”こ、こえぇ”

まず俺の感想はそれだ。

男は確実に俺に恋人がいると勘違いをしたままだ。

それでその架空の恋人から俺を奪い取ろうとしている。
いや、取るんじゃなく奪い返してもらうというのが正確か。

その嫉妬で、心の中はボウボウと燃えたぎってるんだろう。

眼鏡の下にある無表情な顔が、さらに表情が無いような・・・
静かな怒りを表現してる。


「さあ、洋。俺に全部見せてください」

「や・・・やめてくれ・・・」


さっきよりも拘束されている腕が痛い。

男は空いている手でズボンのベルトや、チャックを難なく外していく。


「これは支給されてる物なんですか」

「・・・」


俺は恥ずかしくて答えられない。

奴が何を見て言ってるのか分かる。
こんなの、俺の趣味じゃない。


「白のブリーフって、なんか変に萌えますね」

「萌えって・・・なんだよ」

「あー、知らないですか。簡単に言うと心がトキメいて、勃起してしまいそうになるってことですかね」


誰かこの男の口を塞いで欲しい。

いや、所々に出てくる下品な言葉を止めてくれるだけでもいい。

真面目な顔でそんな言葉、聞いている方がダメージが大きいってもんだ。


「この姿を写メに納めたい」

「やめろ、それは勘弁してくれ」

「どうしてですか、最高なのに」

「どうしてもだ」

「でも・・・」

「写メなんか撮ったら俺は・・・」


どうしたら相手にダメージを与えられるのか。

残念ながら俺には想像すらできなかった。

ただ、


「もしかして、当てつけに他の男にもそんな格好を見せるなんて言うんですか」

「いや・・・」

「それとも、もっと淫らな下着を着た姿を見せるとか」


勝手に奴は話を膨らましてくれ、俺が何か言うよりも効果的みたいだ。


「そんなことは許しませんから」

「え・・・ちょ、おいっ」


いきなり奴は俺の下着を脱がしにかかる。

そして、信じられないことに


「ここは俺の物ですから」


と俺のアソコを剥き出しにして、パクンと・・・躊躇しないままにくわえた。


「ぅわぁあ」


何度かムショの中で強制的にやらせたことはある。
でも、相手も嫌々なんだから結局心から気持ちよくなることはなかった。

それなのに、奴はやる気満々で俺のをくわえてるわけで


「くっ・・・やめ・・・やめてくれ・・・」


俺は歯を食いしばって、気持ちいいっていう感覚とひたすら戦うしかなかった。

ここで気持ちよくなれば、奴を喜ばせるだけ。

そのことが分かっている俺としては気持ち良くないっていう体でいきたかった。


「ぅあ・・・そこ・・・く・・・あっ」


ただ、俺はずっとムショ暮らしをしていた。
それはイコール監視の目があるっていうことで、そんなに都合良く性欲処理の機会はなかった。

そんな状態で出てきた俺は・・・
つまり、今の俺は溜まってるってことだ。

そんな状態で、アソコをくわえられた俺としては


・・・・悲しいけど、負けちゃうわけで


「気持ちいいみたいですね」

「ぃい・・・もっと・・・もっとしてくれよ」


俺は奴にもっととネダるように、腰を押しつけていた。


「いいですよ。たっぷり出してください」


奴の声音が少し柔らかくなった気がした。

そして、また温かい口に戻される。


「ぅ・・・んん・・・イイ・・・イイぜ・・・」

「ふ・・・ん・・・」

「出る・・・出る・・・」

「んん・・・」


俺の頂点はすぐそこまで迫っていて、奴も俺をくわえながら頷き返してきた。


「出るぞ・・・出る・・・ぅあっ」

「んっ」


俺は何週間かぶりに濃いものを吐き出して、気分がすっかり良くなってた。

出すもの出して、すごい脱力感だ。


「ぷぁ・・・たくさん出ましたね」

「・・・・」


力を失った俺のモノにヒヤリとした空気が触れる。

奴の声はさっきと同じで、優しい感じ。
その顔はさっきから表情一つ変わらなかったが。

奴は俺の出した精液を掌に出すと、それを眺め始めた。

俺としては恥の上塗りをしているようで、止めて欲しいことこの上ない。


「どれだけの精子がいるんでしょうね」

「・・・・やめろよ、気持ちわりい」

「そうですか。ま、せっかくなので洋の中に戻してあげます」

「は・・・・」


俺は射精後の放心状態からなかなか抜け出せず、奴の言ってる意味を理解できなかった。


「何言って・・・っえ」

「さあ、ココを解してあげますから」


そう言って奴は俺の後ろ側に指を持っていった。

後ろにあるのはもちろん・・・・


「ぅえええええ」


そして俺は今日何度目か分からない叫び声をあげることになった。




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