7.有無を言わさず

時任はそれから3日、仕事を休んだ。

卓球部の奴らに聞いたところでは『体調不良』ということらしい。
まあ、あのままだったら体調不良になるのも頷ける。

だからといって3日も休む程ではないだろう。

きっとあいつのことだから色々バカなことを考えているかもしれない。
ただ、それで俺から逃げられるなんて思っているなら、それを崩してやるだけだ。

4日目、ようやく時任が出勤してきた。

俺は授業の合間に職員室にいる時任を見つけていた。

その表情は少し暗い。

ただ周囲の人間は病み上がりだからと気にしてはいない様子だった。

俺は声を掛けることなく、時任の姿を確認だけすると職員室をあとにする。


放課後、体育館に行けばそこに時任はいた。

生徒達を指導する姿はいつもと変わらないように見えるが、時々腰を庇うような仕草も見える。
しかも、ことあるごとに床に座っている。

後が引く程したわけではなかったけれど、初心者の時任には思いの外ダメージが大きかったのかもしれない。

そのまま約1時間、時任の姿を眺めていたが、

「お疲れ様です」

という生徒達の声と共に俺の時任見学は終了となった。

時任は爽やかに、

「また明日な」

と生徒達に笑顔で声を掛けながら、俺の視界から消えていった。

もちろん俺はそんな時任を追いかけて行く。

時任の後ろ姿は背筋がピンと伸びて綺麗だ。

お尻も大きすぎず、だからといって筋肉で固すぎることもない。

いつまでも見ていたいという気持ち、それとは裏腹にあの触り心地の良い尻をさらに赤く輝かせてやりたくなる。
そして、最後には俺の分身をそこに突っ込み、時任を泣かせてやりたい。
抱きつぶしてしまいたい気持ちが浮かぶ。

数日前に一度味わったというのに、俺はもう次のことを考えている。

”もう一度食らいたい”

いや、一度じゃ足りない。

”やっぱりあれが欲しい”

そんなことを考えながら時任の後ろを少し離れながら歩いていく。

一方で時任はやっぱりと言うべきか少なからず警戒しているらしい。

時折、頭を振る仕草を見せる。
周囲を見渡し、俺が出てくるをじゃないかと思っているんだろう。

俺は時任のそんな姿に笑いを堪えながら、そのまま一定の距離を計る。
そうしながら時任の姿を見失わないように後を追い続ける。

そして、時任にとって聖域でもある職員室へ入る直前に


「せーんせ」


と、やけに明るい声で時任のことを呼び止めてやる。

誰の声かは嫌でも分かったはずだ。

その証拠に、時任はバッと勢いよく振り返ると


「お、お前・・・」

「先生、どうしたの?」

「どうしたのって・・・」


時任は職員室に続く扉に手を掛けたままで話している。

きっといつでも中に逃げ込めるんだという安心感があるんだろう。


「お前、俺にあんなことしておいて・・・・」

「あんなことって?」

「あ、あんなことっていうのは・・・」

「先生、そんなことよりさ」

「そんなことって、お前なぁ。俺はあれから大変だったんだぞ」

「何がぁ?」

「何がって・・・」


そこまで言うと時任は顔を真っ赤にさせて固まってしまった。

時任が言いたいことは分かっている。

俺もあの後時任が俺が中に出した精液をどうしたのか興味がある。
ただ、それを白状させるのは今ではない。
そのタイミングも分かっている。

だから、


「俺はただマーキングしただけだよ」


と言って時任を煽る。

途端に時任の表情は変わる。
”マーキング”という言葉に反応したのかもしれない。
目の奥に発情した時と同じ潤みを見つけられた。

そんな時任の顔を楽しみながら、俺はさらに時任を怒らせる言葉を選ぶ。


「あぁ、そっか。もしかして、先生はもっと俺に種付けして欲しかったとか?」

「お前・・・」

「それとも、身体が疼いて溜まらなかったとか?」


俺の言葉に時任はついに扉から手を離す。

そして俺の方へ足音大きく近づいてきた。


「お前、ふざけるなよ」


その表情はいつもの教師としての爽やかさは皆無だった。
でも、俺はそんな時任も良いものだと思っていた。

爽やかなだけの時任なんて、面白くもなんともない。


「ふざけてなんてないよ」


怒った表情を作っている時任は、俺の胸倉を掴む。
俺はそんなことをされながらも、笑顔を崩さない。

そんな俺の態度は時任には腹立たしいものだろう。


「お前のせいで何もかもぐちゃぐちゃだ。俺も、あいつも・・・」

「あいつって、あの雌犬のこと?」

「め・・・」

「言葉を返すようで悪いけど、あの雌犬は今の立場を喜んでると思うんだけど」

「そんなことあるわけ・・・」

「優真も見たじゃん」


俺はここで時任の呼び方を変えた。
その変化を時任も敏感に察知する。


「お前、仮にも教師を呼び捨てに・・・」

「優真は先生じゃないだろ」


俺はまだ胸倉を掴んだままの時任の手に自分の手を重ねた。


「優真は俺のペットなんだから」


時任の手を俺の胸倉から離すと、今度はその手を口元に持っていく。

そして、わざと時任に見えるように舌を中指に這わせる。


「や、やめ・・・」

「ねえ、優真」


俺は名前を呼んだ後、舌を這わせていた指を口に含む。
その途端に時任の身体が面白い位に反応を示した。

俺は軽く指を吸いながら、軽く指の根元を噛んでやる。

しっかり跡が付く程度に力を入れると、指を口から解放する。


「優真はいちいち反応がいいよね」


俺はそう言いながら時任の下半身へと手を伸ばす。


「もうこんなになってる」

「ふ・・・っ」

「先生、ここがどこだか分かってる?」


俺は再び時任の呼び方を変える。

俺の言葉に顔を上げた時任は既に教師としての時任の顔ではなくなっていた。


「こんな学校の廊下で、しかも同僚の先生がいつ戻ってくるか分からない所でよく盛れるよね」

「そ、それは・・・」


今の時間は既に下校時間を過ぎている。

それに実はこの職員室、国語を担当している教師達専用の部屋だ。
クラブを担当していない人間はほとんど残ってはいない。

それに、もし中にいたとすれば時任の 第一声で飛び出して来たはずだ。

それが無かったということは・・・つまりそういうことだ。

ただ俺にはそんことは関係ない。
別に見つかったとしても、逃げ切る自信はある。

それよりも時任を追い詰めるということに快感すら覚える。


「先生はさながら盛りのついた雄犬ってところかな」


時任は唇を噛み締めたまま、言い返すこともしない。

俺はまた時任の下半身を探ると、


「先生、さっきよりもまた硬くなってるみたいだけど」

「・・・や、触る・・・な」

「触るなって言われてもねー。ペットの面倒をみてやるのは飼い主の務めってやつでしょ」

「・・・・・じゃない」


俺には微かに聞こえた。

時任は”ペットじゃない”と言った。


「じゃあ、何。こんな誰が来るかも分かんないところで盛って、ココを硬くさせてる優真は何なの」

「それ・・・は」

「それは?」

俺は腕から逃れようと身体を捩る時任を思い切り突き飛ばす。


「え・・・」


それまで嫌がっていたはずなのに、俺から離されると驚いた表情をする。


「何。俺から離れたかったんでしょ」

「あ・・・」

「それなのに、どうしてそんな顔をするの」

「そんな顔って」

「離してほしくなかったって顔してる」


時任は俺の言葉に自分の顔に手をあてる。
そして、


「お、俺はいたって普通だ」


と少し上ずった声で言う。

俺はそんな時任の可愛い抵抗に思わず笑ってしまった。
ただ、それが時任には気に食わなかったんだろう。

「何笑ってんだ」

「いや、優真は可愛いなって思っただけ」

「お前・・・」

時任がまた何か言い掛けるが、


「優真」


俺はさっきまでの口調とは違う、命令する時に発するものに変える。


「優真」

「・・・・るさい」

「優真、来て」


時任は俺の顔を見ようとしない。
そして、首を横に何度も振る。


「優真、来るんだよ」


時任は逃げることもせず、その場で立ちすくんだまま動こうとしない。


「ぅるさ・・・い」

「優真」

「呼ぶな」

「優真」

「呼ぶなよ」


そう言うと時任はついにうずくまってしまう。

俺はそんな時任との距離を再び埋めていく。
きっと時任にも俺が近づいているのが分かっているはずだ。


「優真。俺はしようと思えば有無を言わさず犯すこともできるんだよ」

「な・・・」


時任に手を伸ばし、顔を上げさせる。


「覚えてないかな」

「何を」

「あの時、したこと」


俺の眼と時任の眼が合う。
どちらも逸らすことはない。
いや、時任の場合は逸らすことができないというのが正確かもしれない。

俺は時任と眼を合せながら、ポケットから携帯を取り出す。


「これ」


それを見せるだけで時任にはそこに何が収められているのか分かっただろう。


「別に俺はこれをどうこうするつもりはないんだよ」


携帯を時任に盗られるわけにはいかない。
すぐに俺はまたポケットに戻す。


「どうしろって・・・」

「さあ。どうしてもらおうかな」

「お前・・・」

「別に俺はペットに何かしてもらおうなんて思ってないよ」


時任は俺の会話に出てくる『ペット』という単語に反応を示す。
ペットと言うだけで、俺の方を挑発的に見つめてくる。


「ペットって言葉が嫌?」

「そんな風に呼ばれて喜ぶ人間がいるわけないだろ」

「どうしてかな」

「どうしてって」

「優真」


俺はまた時任の名前を呼ぶ。

すると、条件反射のように時任は黙ってしまう。
そんな姿を見れば、誰もが主人の命令に従うペットそのものだと思うに違いない。

まあ、時任の場合は無意識にしていること。
それを自覚しろってことが難しいのかもしれない。

だからといって俺が教えてやっても否定する。


こうなれば自分で考え、答えを出させるしかないか。


「優真」

「・・・・」

「優真はペット扱いさえしなければ、俺に付き合ってくれるわけ」

「それは・・・」


俺の言葉に時任は困惑している。
視線が左右に揺れ、定まらない。

”そんなことを言われるとは思っていなかった”というところだろうな。


「あと、優真はもう女と出来ないと思うよ」

「は・・・」

「男もどうかな」

「何、言ってる」

「たぶん、無理じゃないかな」


時任は更に混乱してきている。
俺の言葉を信じられず、そして否定したくて堪らないんだろう。

でも、その確証はない。

最近の時任はことあるごとに俺に触られ、射精させられている。

抵抗できなかったという言い訳は無理がある。


「優真。よく考えて答えを出せばいいよ」

「答えって」

「俺は待っててあげるよ。優真はペットでも、自分で考えることができるんだからね」

「待っててくれなくていい」


可愛くないことを言いながら、その眼の奥で時任は縋っているようにも見えた。

俺が写真をネタに有無を言わさずに飼うことは簡単だ。
それに、時任もその方が理由づけにも困らない。

俺はそんなに優しくない。


時任の唇に舌を這わせる。


当然時任は口を開け、俺を迎えることはしない。


今はそれでもいい。
次に俺の前に来た時には、そんな甘えは許さないけれど。


「じゃあ、答えが見つかったらね」


俺は蹲ったままの時任をそのまま放置し、自分だけ立ち上がる。


後ろを振り向くことはしない。
でも、俺は時任の視線を痛い程に感じていた。




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