4.笑顔が凶器

放課後、学校のトイレに用がある奴なんてほとんどいないだろう。

時任がいくら願っていたか分からないが、俺がわざと隙を見せて逃がしてやるまで人が入って来ることはなかった。


用を足している途中だった時任は明らかに焦っているのは見ているだけで分かった。
男としては最大の弱点とも言えるような場所を安易に晒しているんだ。

俺が隣に立った時、時任はおもむろにそこを庇う仕草をした。

それが用を足している途中だったというのに、そんなことを忘れていたのかもしれない。

自分の身体から出ている液体に手が汚れてしまう。


「先生。手が汚れるよ」

「うわ・・・あ・・・」


時任は俺の言葉にその事態を把握できたのか、慌てて手をそこから離す。
そして、濡れてしまった手をどうしたものかと困り果てている。


「ふ・・・先生って面白いよね」


俺はそんな時任の慌てぶりが面白く、ついつい笑ってしまった。


「おま・・・こんなことになったのもお前が・・・」

「俺が?別に俺は何にもしてないよ?」

「何もって・・・」

「俺は先生のことを探してた。で、たまたまトイレに行きたくなってここに来た。じゃあ先生がいた。それだけ」

「そ、それだけって・・・」

「変に意識してるのは先生なんじゃないの?」


俺の言葉に時任は真っ赤になっているだけで、何も反論をしてこない。
当り前だろう。
俺は変なことを言ってるわけじゃない。

時任は「くそっ」と小さく呟く。

俺は不意にいつまでも仕舞われることなく、外に出されたままの時任の分身に視線をやる。

すると、時任も俺の視線を追うと自分の下半身のあられのない姿に慌て始める。


「あ・・・ちょっと、み、見るな」


時任は俺の視線から逃げるように後ろを振り向く。

しかし、


「先生、濡れた手のままでするつもり?」


と俺の一言で、自分の手が汚れていることに気づいた様子だった。
身体がビクンと震えたように見えた。

俺はゆっくりと時任に近づいていく。

背中から覆いかぶさるように


「ねえ、先生。俺の質問に答えてよ」


そう言いながら俺は時任の分身を躊躇うことなくその手に掴む。

「うわ・・・」

横から覗き込むようにして時任の顔を見れば、時任は目をしっかりとつぶっていた。


「先生。目を開けて」


時任は俺の声を無視するかのように、首を横に振る。
そんな態度が許されると思っているんだろう。

残念ながら、そんなことはない。


「先生」


俺はもう一度、最後通告のつもりで呼ぶ。

しかし、俺の優しさは時任には伝わらなかったみたいだ。


「い・・・痛っ」

「先生、目を開けて」


時任は顔を顰める。
俺はそんな横顔を微笑みながら、そして時任の分身を掴む手に普通よりも少しばかり力を込める。

急所というだけあって、少し力を加えてやっただけで、その何倍もの痛みが時任を襲っているはず。


「先生」


少し力を緩めてやると、ホッとしたように時任の全身から力が抜けていくのが分かる。


「目を開けてくれないとさっきよりも痛いことになるよ」

そう忠告をして、俺がゆっくりと手に力を入れていく。
すると、


「分かった。分かったから」


と慌てた声が聞こえた。
もう一度顔を覗き込むと、今度は時任と目が合う。

時任の目は羞恥に赤くなっていた。
でも、俺はそれだけじゃないことを分かっていた。

だって手の中には時任の分身があるんだ。
その変化は見なくても感触だけで分かる。


「よくできました」


俺はそう言うと、今度は痛みを与えるためではなく快感を与えるかのように柔らかく手に力をゆっくりと込める。
そして、根元部分から先端へとゆっくりと2度擦ってやる。
それだけ、たったそれだけの刺激で時任の分身はグッと大きくと反りかえる。


「先生、さっきからここ・・・」

「い、言うな」

「まあ、見てるなら自分でも分かるか」

「くそっ」


時任の目だけではなく、顔全てが赤くなっている。
自分の下半身を睨むように見つめて、それでも分身は萎えることはない。


「先生。それで質問に答えてくれる?」

「質問って」


すっかり時任は俺がした最初の質問を忘れていたみたいだ。


「だからさ、俺が先生の前に出てこなかった間・・・」


俺がそこまで言うと、ようやく思い出したようで


「それだけに決まってるだろ」


と声を荒げて言い放つ。
ただ、俺がそんな声に何かを感じるわけはない。


「先生は安心しただけで、1回も俺のことを思い出すことなかった?」

「え・・・」

「ねえ、俺のこと思い出さなかったの?あんなことされたんだから思い出さない方がおかしいと思うんだけど」

「それは・・・」

「思いださないっていうのは、思い出さない程度にあんな事に免疫があるってわけ?」

「そんなことあるわけないだろ」

「じゃ、思い出した?」


俺の言葉に時任は唇を噛みしめている。
肯定するべきか、否定するべきなのか迷っているというところか・・・

俺は時任の答えを待つ間にも、ゆっくりと時任の分身を扱いてやる。
手持無沙汰で、暇だというのがその理由。


「先生、正直に言っても別に俺は何かするわけじゃない」

「く・・・」

「ただ聞きたいだけなんだけど」




「・・・・した」




「え?」




「思い・・・・だし・・・・た」




それは本当に小さな声だった。
時任の口に耳を近づけてようやく聞こえるぐらいだった。

ただ、それだけで俺は終わらせる気なんてない。


「先生、思い出した時・・・ここはどうなったか覚えてる?」


俺の言葉に、時任は驚いたように俺の顔を正面から見た。

きっとそれ以上を聞かれるとは思っていなかったんだろう。
そんな表情だ。


俺はそんな時任の視線をしっかりと受け止める。


そして、

「今みたいに、大きくなった?」


と言葉を重ねていく。


「し、知るか」


時任が顔を避ける。
しかし、俺はそれを許すことはない。
優しい手つきを止め、また痛い程の力を加えてやる。

「いっ・・・いたい・・・」

「痛いよね。先生が俺を避けるからだよ」

「そんな・・・」

「ちゃんと俺の方を見て」


時任はその言葉におずおずと従う。


「ねえ、俺はこの間も言ったよね、何も恥ずかしがることはないって。
男なんだから、ドキドキして、気持ち良くなりたいと思うのは当たり前なんだよ。
で、ここは大きくなったの?」


俺はゆっくりとした口調で尋ねる。
手に入れる力は再び、優しいものへと変えて。


「・・・・なった」

「もう一回言ってよ」

「なったって言ったんだよ。もうこれでいいんだろ、離せよ!」


そう言うと、時任は俺から身体を離そうともがき始める。

しっかりと俺の手の中の分身は大きくなっているにもかかわらずだ。
それに、俺の質問に答えるごとに口調は乱暴だが、分身はより硬度を増している気がした。

俺は時任を宥めるように、ただ快楽を与える意図でもって手を動かす。


「先生」

「くっ・・・は、離せ」

「先生」

「やめろ」

「ちゃんと質問に答えてくれたから」


そこまで言うと、俺は時任の耳元へと唇を近づけていく。


「ご褒美だよ。いっぱい精液を出させてあげる」


そして、耳の中に息を吹きかけるように囁く。
たったそれだけの行為に時任は身体をビクビク震わせる。

俺の手の中にある分身もひと際大きく膨らむ。
同じ男として分かる。
もう時任は限界まできてる。

俺は最後のひと押しとして、ちょうど裏筋の根本あたりにスッと指を移動させる。

「あ・・・」

指の動きにも時任の身体は敏感に反応を現す。

その身体の反応を見て取った直後、俺はそこにまるで猫が爪を立てるかのように力を込める。



「ひぃ・・・あぁあ」



時任は多量の精液をトイレの床に吐き出すと、何も言わずほんの1分程だったが放心状態に陥っていた。

俺は制服のポケットから携帯を取り出す。
そして、カメラ機能を起動させると

”カシャッ”

という音と共に、数枚の写真を撮る。


しかし、時任はあまりの出来事に自分がされている行為に意識が回らないみたいだ。
俺が写真を撮り終わってからも、俺の腕の中で大人しくしていた。


「先生。仮にも先生なんだから、服装はきちんとしなくちゃね」


俺はそう言いながら、甲斐甲斐しくも時任の服装を直してやる。


「先生」

「・・・・え?」

「先生、クラブはいいんですか?」

「・・・クラブ?」

「卓球クラブ」

「・・・・あ」


卓球クラブの言葉でやっと思い出したのか、何度か瞬きを終えると


「お、お前・・・」


俺の手から身体を勢いよく離す。
その顔は真っ赤になっており、さっきとは違った意味でプルプルと震えている。

俺はそんな時任の気持ちを理解していたが、軽く無視をして


「先生。今日はオナニー禁止だから」


とさらに時任の気持ちを逆撫でするような言葉を口にする。

案の定、時任は俺の言葉に口をパクパクさせている。


「いくらさっきの射精が気持ち良かったからって、思い出しながら1人でするのはダメだよ」

「お、お前・・・」


別に本当に禁止をしたいと思っているわけじゃない。
射精管理をすることは大切なことだというのは分かってる。

だからって、今の時任にそれを言ったところで全く意味がない。

ただ、ここで俺が言っておくことで家に帰ってから・・・1人落ち着いたところで時任は今のことを思い出す。

そこでオナニーをすることになったとしても、その時に俺の命令も同時に思い出す。
俺の命令を思い出して、それを破りながらのオナニーは更なる快感を時任に与えるはずだ。

約束を破ってまでするオナニーに、罪悪感とそれがもしばれたらというスリル。

これに時任が嵌らないわけがない。


「それと、彼女とのセックスもダメだよ」


俺はもう一つ伏線を引くことにした。

男としてはオナニーで満足する男もいれば、やっぱりセックスだという奴もいるだろう。
セックスで快楽をと必死になること、それは支配欲や征服欲を同時に満たしたいという気持ちがあると俺は思う。

時任はきっと反対の立場で、深層心理としては支配されたいと願っているはずだ。
だから、俺がセックスという言葉を敢えて出さなければひたすらオナニーに耽っていただろう。


「な・・・」


俺の言葉に時任は再び驚いたように口を大きく開けていた。
分かりやすいぐらいに、時任はそれが頭になかったのだということを俺に教えてくれていた。


「まあ、彼女はきっと会ってくれないと思うけど」

「え・・・」


俺はそう言うと、


「じゃあ、俺はそろそろ帰る時間だから」


とその場に時任を残していく。


最後に扉を閉める時、


「お前、それどういう・・・」


時任の言葉が微かに聞こえてきた。
俺がその言葉をもう少し早く耳にしていたとしても、「さあね」と一言で片づけただろう。

きっと時任の頭の中はいろんなことで混乱しているはずだ。


俺はあまりの面白さに、家路を辿りながらも携帯で奈美と武治に連絡を取る。
奈美には状況報告を行い、武治には次のショーについての話をする。
2人は一通り俺の話を聞くと、しばらく黙り同じ言葉を贈ってくれた。

「臣がそんなに嵌るなんて・・・」

俺自身はそんなつもりはなかったが、客観的に俺の話を総合するとそうらしい。
2人にそう言われると、認めざるを得ない。

俺が携帯の画像データーを開くと、そこには恥ずかしい場所を曝している時任の姿が何枚も映し出される。


”このメモリーいっぱい、いろんな写真で埋め尽くしてやりたい”


ふと、そんな気持ちになった。


やはり、俺は相当時任に嵌っているみたいだ。









時任は俺の期待を裏切ることはなかった。

翌日の放課後。
俺は時任に会うつもりもなく、帰宅部らしく家へと帰るつもりで校門へと向かっていた。

そんな俺を呼びとめる声が聞こえたのはすぐだった。


「おい、お前!」


振り返らずとも誰が呼んでいるのかは分かる。
しかし、分かっているからといって止まってやる気はない。


「おい」


後ろから俺を追いかけるように走って来る足音が聞こえる。
少しずつ大きくなってくる足音。


「おい!」


ついに時任は俺に追いつくと、俺の肩に手を掛ける。


「お前」

「ああ、時任先生」


俺はようやく気付いたという風に振り返ると、わざと微笑みを顔に浮かべる。


「お前・・お前・・・」

「何ですか?先生」


時任の表情は怒りを純粋に表現していた。
それは俺から見ていて逆に微笑ましいとさえ思ってしまうほどだった。


「お前、あいつに何したんだ」

「あいつって・・・先生、言ってる意味が分かりません」


俺は時任が何を言いたいのか分かっているが、そのまま伝えることはしない。
時任は声を荒げたいのを抑えているのが分かった。


「昨日、電話した。それなのに、この電話は現在使われておりませんって・・・」

「そうですか、お気の毒に。それじゃあ」


俺は心底同情しますという表情を装うと、再び時任に背中を向け歩き始める。

しかし、それを時任が許すわけがないというのは分かっていた。


「待て。お前・・・お前、何か知ってるんだろう」


再び時任の手によって対面させられると、


「さあ、俺は・・・」


と困った表情を見せる。


「嘘だ、お前は知ってるんだろ。あいつ・・・」

「先生」


俺はそこで時任の言葉を遮ると


「先生、知りたいの?」


と聞いてやる。
時任がそこで否と答えるわけがないと分かっていての質問だ。

時任は一度生唾を飲み込むと、


「知りたい」


と呟いた。


俺はその言葉を聞くと、再び顔に微笑みを浮かべる。


「先生。それじゃあ、今週末、土曜日の夜7時、迎えをやるよ」

「え?」

「知りたいなら、おいで」


今の俺は笑顔が凶器だと言えるだろう。
この笑顔でもって時任を闇の中へと誘い込もうとしているんだから。

「俺は歓迎するよ、先生」


俺はそう言うと、怒りの表情を無くしてしまった時任に別れを告げる。




果たして、時任は週末、俺がというか奈美が手配した車に送迎されるがままに俺の元へと運び込まれてきた。




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