2.もう手遅れ

「いや、やめて!帰して!」


部屋中に女の叫び声が充満している。


俺はその金切り声に辟易しながら、そんな彼女を助けることもできずに呆然と立ち尽くしている男の方が気になった。
きっと男の心の中では彼女を助けなければという気持ちがあるはず。
それが本心かどうかは分からないけど・・・


大声をあげている女はタケに羽交い絞めにされていた。


「大丈夫、大丈夫だから」

タケは女の耳元で囁いているが、何が大丈夫だというのか。

女は服をほとんど着ていないのと同じだった。
羽織っていたシャツはたくしあげられている。
下着もはぎ取られ、床に落とされていた。

タケはスカートの中へと手を侵入させている。

その手がどこを弄っているのか、それは見ている俺達にだって分かる。


「大丈夫。ただ感じてればいいだけだ」


タケはさらに指を進めている様子だ。


ナミは2人をここへ連れてきた時点で興味を失くしたのか、バーカウンターへと足を向ける。
そして、サダはナミを追いかけるようにして離れていく。


そして女を正面に、ショーを見ているのは俺と時任だけになった。


タケには俺達2人だけで十分だった、いや時任だけで十分だったはず。
自分の彼女が目の前で犯されるのを見せられる、その時任の表情はタケにとっては好物でしかない。


「ほら、もっと足を広げてみな。彼氏に見せてやれよ」

「いやぁ・・・」

「何が嫌?こんなに濡らしてるくせに。ほら、目を開けて」


タケは女の足を広げさせる。

女は嫌だと言いながらも感じているのは明らかだった。
この異常とも言える状況を脳は快感だと判断したんだろうな。

人間は受け止められない程の刺激を感じると、一時的に多量のアドレナリンを放出する。
その刺激を気持ちいいものなんだと勘違いさせることで精神の安定を保とうとするんだと聞いたことがある。
今の女の状況がそれに近いものかもしれない。


「先生も見てあげなきゃ」


俺は時任の耳元で囁いてやる。

それと同時に時任の背後に立つと、その下半身へと手を伸ばす。


「な、何を・・・」


時任は身体を捩ると、俺の手から逃げようとする。


「だめだよ、先生」

「やめ・・・」

「こんなにここを興奮させてる」

「ちが・・・」

「何が違う?」


より自分の変化が分かりやすいようにとさらに手に力を込める。
それだけでズボンの下で起こっているだろう変化が分かった。

「あ・・・」

時任の身体を後ろから羽交い絞めにする。


「ほら、先生も彼女と同じ格好にしてあげようか?」


俺の言葉に身体をピクンと震わせたのが分かる。
それと同時に手にしているモノもまた大きく変化を遂げる。


「見てみなよ、自分が何をされているのかさ」

「いや、嫌だ・・・」


時任は自分の変化を否定するかのように首を横に振り、決して前を見ようともしなかった。

しかし、


「ぃやあ・・・抜かないでぇ・・・」


さっきまでとは明らかに違う声音が部屋に響いた。

俺も声のした方を見れば、タケに全身を委ねている女の姿がそこにはあった。

すでに女の足を無理やりに広げていた手は退かされている。
それなのに、女の足は大きく開いたままで俺達の目を楽しませていた。

タケの指が何本か彼女の膣へと挿入されているのは分かる。
そして、女もそれを受け入れているようだ。


「もうグチャグチャだ」

「嘘・・・」

「嘘って・・・ほら、聞こえる」


タケはそう言いながら、女に聞かせるように指を少し乱暴に動かしているようだ。

音楽も何も流れていない室内。
その淫猥な音がBGMのように耳に入って来る。


「先生」


時任は彼女の声に反応をしたように、さっきまで避けていた顔がしっかりと女の方を向いていた。
目にはきっと彼女の痴態が映っている。
俺は左手でその顔を固定させ、右手で揉みしだくようにズボン越しに時任のものを弄う。


「な、何する・・・」

「先生もグチャグチャだ」

「やめ・・・やめてくれ・・・」

「違うだろ?」


次の瞬間、タケと俺の声が重なる。


「「もっとしてくださいってお願いしてみな」」


時任の方は言えずに唇を噛みしめて堪えていたが、女の方はそうじゃなかった。


「・・・もっと・・して・・・」


小さいが、はっきりとした声が聞こえた。

「違うだろ?してくださいだ」

「もっとしてください」

「いい子だな」

タケはそう言うと、再び女の中へと指を挿入していく。


時任はそんな彼女の姿を見たくないのかもしれない。
顔は俺に固定されているため、避けることはできないまでも目を閉じている。


「先生。先生も本当はして欲しい?目の前の彼女みたいに」

「知らない。俺はそんなこと」

「嘘だ」

「嘘じゃない」


俺は頑なな時任に見せつけるためにも、ズボンのチャックをゆっくりと下ろす。


「何!?」

「何って、見せてあげようと思って」


言いながら俺は手をズボンの中へと侵入させていく。
想像していた通り、時任のペニスは勃起させて窮屈なままにパンツに覆われていた。
そのパンツも先走りの液で湿っている。


「先生、パンツが湿ってる」


そして、さらに手を進めていく。

「ぅあ・・」

直に触れると時任が身体をくねらせる。
その反応は面白いほどだ。


「先生。まさかと思うけど、イったの?」


時任は耳まで真っ赤にしている。
俺は笑うしかない。
何も答えようとしない時任に、今までズボンの中へと入れていた手を見せてやる。


「先生、これってどうみても精液だよね」

「うるさい」

「ちょっと触っただけで射精するなんて、よっぽど我慢してたの?・・・それとも淫乱なの?」

「い・・・」

「ねえ、先生。どっちか教えてよ」


俺は時任の精液で濡れたままの手を口元に持っていってやる。


「くさ・・・」


時任が嫌そうに顔を顰める。
まあ、自分の出したものの匂いなんて嗅いだことはほとんどないだろうな。

「臭いって、先生の分身なのに?」

手を顔から離してやりながらも、再びズボンの中へと手を侵入させていく。

「そこは・・・」

焦るのも仕方ない。
俺が触れたのは時任のペニスではなく、その奥に潜んでいるアヌスだ。

「ここは何?」

「そこは汚い」

「出すところだからね」

そう言いながらも俺はそこに時任が吐き出した精液を塗りつけてやる。


「でも、ここは入れるところでもあるんだよね」

「え・・・」


時任は驚いたように俺を振り返った。
その表情に俺は胸を躍らせた。

今までにない気持ちの高ぶりだった。

時任の表情には驚きと、不安と、そしてもう一つ混じり合っていた。
それが俺には分かる。

きっと本人にその自覚はないとしても・・・


「試してあげようか?」


俺はゆっくりと人差し指を挿入してやる。
しかし、そこは未開拓の地。
第1関節入れるだけで、それ以上の侵入を拒む。

それでいいと思う。

俺はその拒否を受け入れるように指を抜く。

明らかに時任の身体がホッとしたように、力が抜ける。
それを狙い、再び指を挿入する。


「くっ・・」


時任がまた力を入れる。
そして、俺は指を抜く。

これを何度も繰り返してやる。


「先生、もしかしてたったこれだけで感じたんだ」

「え?」


時任は気づいてはいなかったんだろう。
驚いた声を上げると、自分の下半身へと視線を向ける。


「嘘だ・・・」

「先生はやっぱり淫乱なんだね」

「そんな」

「まだここだけで射精は無理だろうから、触ってあげる」


俺は優しく声を掛けてやると、手を前に回す。
完全には勃起をしていない状態だったが、すでにある程度形は変化している。

最初は裏筋をくすぐるように指先を這わせてやる。


「あ・・・」


たったそれだけで時任は身体を震わせる。
そして、ペニスも素直に形を変えていく。

もともと感じやすいのか、それともこの異常な状況も関係していつもより感じやすくなっているのか・・・

どちらにしても俺には面白い結果にしかならない。


時任はそれからすぐに再び射精した。
俺はそんなに激しくしたつもりはなかったけれど、時任は精液を吐き出すのと同時にブラックアウトしてしまった。


「おっと・・・」


身体から一気に力が抜けると、俺は両手で時任を捕まえてやるしかない。



「家は?」

いつの間に傍に来ていたのか、俺が時任の服装を整えてやっているとナミの声が聞こえた。


「知ってる」


ナミは無言で俺にキッチンナイフを渡す。
そして俺もそれを無言で受け取ると、時任を縛りつけていた手錠を切ってやる。


「じゃあ、そろそろ」

「でも、タケは?」

「もう終わってる」


その声に振り返ると、タケも身支度を整え終わっていた。
女の方も身支度を終えているが、その表情は憂いを帯びている。


「ねえ、これから家に来ない?それとも・・・」


服の袖を引っ張りながら、タケに縋っていた。
しかし、タケは


「ダメ。俺は学生で、明日も学校があるの」

「そんな・・・だって・・・このままって・・・」

「他の男にあたって。ちゃんと大通りで降ろしてやるからさ」

「ぃや・・・」

「じゃあ、ココに明日の夜7時電話して。1分でも遅れたら、それで終わりだから」


タケが小さな紙切れを渡すのが見えた。
俺は知ってる。
その電話番号はペット専用で、プライベート用ではないだろう。

タケはこの女をペットにするつもりなのかもしれない。


「じゃあ」


ナミは全て状況を把握したところで、俺達に声を掛ける。
そして、2人の男が入口から入って来るのが見えた。

「あれ」

ナミが男達に向かって言った”あれ”は時任のことだった。
2人は何も言わず、時任を抱えると再び部屋から出て行く。

俺達も男達に続いて部屋から出る。

通りにはさっきと同じ車が止まっていて、すでに時任が車に乗せられていた。


女は車には乗らなかった。いや、タケが乗らせなかった。


女以外を乗せて車が走り始める。


「最後までしたのか?」

俺は武治に聞いたが、武治は笑って

「するわけねーよ。まあ、適当なところまで仕込んで、飼い主を探してやるさ」

と言った。

あまりに予想通りの答えで笑うしかなかった。


「それよりも、やけに優しかったな」

「そうか?」


武治が言いたいことも分かった。
分かった上でわざと惚けた返事をしておく。


「まあ、頑張れよ」


武治がそう言うと、俺達のことを見ていただけだった定一までも


「頑張れ」


と声を掛けてきた。

俺は笑いながら、

「ああ」

とだけ答えた。


それから奈美に時任の住所を教える。
俺達も一緒にそこへ行くのかと思っていたが、車はまず俺達の家へと向かう。

「じゃあな」

奈美の家の前に車が止められると、俺達はそれぞれに自分の家に帰る。
俺が声を掛けると、

「おう」

「バイバイ」

と武治と奈美が答える。


「定、帰るか」

「うん。奈美、おやすみ」

「おやすみ。よく寝るのよ」

「うん」


俺と定一は帰る方向が一緒なので、ここで2人とはお別れとなる。

時任を乗せた車は俺達の横をすり抜けていく。
きっと奈美の指示の下、家に送られるんだろう。








翌日。
俺はいつも通りに登校した。

たしか3年生の担任をしている立場の時任は、出勤しているんだろう。
真面目な先生で通っているのだから、休むなんてことはない。


朝、自分のクラスへ向かう途中に職員室を覗いてみた。
しかし、時任の席までは知らない俺は確認できずに放課後まで待つしかなかった。


淡々と授業をこなし、ようやくの放課後。


普段はすぐに帰るのだが、今日は体育館へと足を運ぶ。


俺が運動をするわけじゃない。


時計を見ていると、足音が聞こえてきた。


足音の方に視線を向ければ、相手も俺に気づいて立ち止まる。


「先生。こんにちわ」

「・・・・なんで」

「なんでって、ここの生徒だから」


時任は呆然と立ち尽くしている。

そんな時任に俺はゆっくりと近づいて行く。
一歩ずつ・・・


「嘘だ」

「嘘って、現に制服着てるでしょ?なんなら生徒手帳も見せてあげるけど?」

「お前・・・お前・・・」


ついに俺は時任の目の前まで辿り着く。


「先生。もう手遅れなんだよ」


俺はそう言いながら時任の手を捕まえる。
そして、うっすらと残った痣に口づける。


時任の表情は俺が初めて時任を見つけた時、生徒に怒鳴られている時と同じだった。

恐怖と、そして・・・・・その奥に、喜びを隠し持っていた。




BACK NEXT