嘘つきな彼 15

”カシャ”
という独特な音と共に目の前の扉が開かれる。


「どうぞ」


そう言われて入った部屋は今まで泊まったことがないような広い部屋。

「こんな部屋・・・」

「嫌でしたか」

「いえ、そういうわけではなく」

中へと進んでいくと、正面にはテレビでしか見たことのないような光景が広がっていた。

「凄い」

窓から見える夜景があまりに凄くて、つい窓にへばりつくなんて行動にでてしまった。

「喜んで頂けたようで良かったです」

「あ・・・」

恥ずかしい、自分がとった行動の恥ずかしさで顔が熱くなる。

しかも正面の窓を見れば、そこには彼の姿が鮮明に映し出されているのが見えた。
彼だけじゃなく、当然ながら自分の姿も鏡越しに見える。

彼と私。

本当に不釣り合いとしか言いようがない。

いい歳をしていながら、夜景一つに浮かれるような人間。
やっぱり自分には彼なんて。
きっと好きだなんて彼の錯覚でしか・・・

「あの、やっぱり」

「今さら帰るというのは聞けませんよ」

私から彼の姿が見えているように、彼にも私の姿が鮮明に見えているはず。

それなのに、彼は私が怖じ気づいていると思ったのかもしれない。
窓越しに彼が近づいて来る。

私は窓越しの彼から目を離せなくなってしまう。

”前には窓、後ろには彼。これって、これって・・・”

こんな時に不謹慎にも思い浮かんだのは、男が窓にしがみつきながら同性に背後から犯されているイラストの数々。
シチュエーション的にはよく見かけるため、いろんな作者のイラストが頭をよぎる。

「今度は何を考えてるんですか」

「え・・・、ぅわ」

私が驚くのも仕方ない。
この後の展開を勝手に想像している間に、彼は私のすぐ後ろにまで来ていた。


「良隆さん、前を見ていてください」

「え、はい」


言われるままに窓を見れば、窓越しに彼と目があった。

彼は優しげに笑いかけてくれる。
そんな彼を見ていると、変な想像をした自分がまた恥ずかしくなる。


「良隆さん、いいですよね」

「い、いいって」


彼が背後から私を抱き締めるように包んでくれる。
嫌でも緊張が走り、身体が固くなってしまう。

彼の吐息を耳元で感じながら、視線は窓に写り込んでいる彼から離せない。


「一応勉強してきたつもりですけど」


そう言いながら窓の中の彼、その彼の手がゆっくりと私の身体に這わされていく。
スーツの中に潜り込んでいく手に視線が釘付けになってしまう。

”勉強って・・・勉強って何を勉強したんだろう”

彼がどんな勉強をしたのか、私は再び想像の世界に落ち込みそうになる。
が、シャツ越しに這い回る彼の指にそんなことは吹き飛んでしまった。

彼の指が何を目的に動いているのか分かる。
自分で触ったこともある。
でも、自分では何も感じることはなかった。

それが彼に触られるとなれば違うかもしれない。

知らず期待してしまう。
それなのに、いつまでも彼の指は私が考えているところへは来ない。


「あ、あの・・・」

「なんですか」

「え・・・っと」


つい声を出してしまったけれど、自分から言うなんてこともできない。


「直に触ってほしいですか」

「そ、そんな・・・」


彼の言葉は私の想像を越えていた。

”少しだけソコを触ってみて欲しい”

私が考えていた以上の答えが返ってきて私は窓越しに彼を見つめてしまう。

変わらず笑顔を浮かべている彼だったが、私の答えを聞かないままにゆっくりとシャツのボタンが外されていく。


「あ、あ・・・」


1つ、また1つとボタンが外されていくのと同時に私の身体が窓に映る。
少しぼやけているけれども、自分の少し弛んでいる身体を見ると途端に恥ずかしくなる。

”こんな身体を見ても・・・彼はまだ・・・”

途端に不安にも襲われ、彼のことを見る。


「ココ、どうでしょうか」

「え・・・ぅわ」



私がどんな気持ちでいるのか、彼は分かっているのかそれとも分かっていないのか。
彼は優しくも、的外れに聞いてくる。

それと同時に指が私が思っていた場所を掠めていく。

あまりに不意の出来事で変な声が出てしまう。

ただ、私の身体を見ても手を止めたりしない彼に、本気で私とするつもりなのかと思えた。

好きだと言われても、こうしてホテルの部屋に来てでさえも、


”からかわれているだけじゃないか。男で、しかもおじさんの身体を見たら途端に嫌がられるんじゃないか”


心の奥底で疑っていた。
でも、ここまでされれば信じてみようと思う。
もしかして、終わった後に”やっぱり”となるかもしれないが・・・

そうなると、ここでするつもりなのかという不安がよぎる。

いくら小説にはよくあるシチュエーションだったとしても、現実的には厳しい。
初めての経験でこんな高度なことは気持ち的にも、身体的にも限界を越えている。


「あの、ここで・・・」


恥ずかしさのあまりどうしても声が小さくなるが、密着している彼には聞こえるはずだ。

彼は少し体を離すと、

「そうですね。せっかくの初夜なんですから、ベッドに行きましょうか」

とにっこりと恥ずかしげもなく言ってくれた。
私は頷きながらも、彼の”初夜”という言葉に顔がさらに火照ってしまう。

「じゃあ、良隆さん」

「は、はい」

彼は私の腰に手を回すと、ゆっくりと歩き始める。
シャツの前を全開にしたままで堂々と歩くことなんて私にはできなかった。
右手で身体を隠すようにシャツを握りしめる。

そんな私の仕草を気にすることもなく、彼は空いている手で右側にあった扉を開ける。

扉の先には仄暗い灯りに包まれながらも、大人2人が寝るには明らかに大きすぎるサイズのベッド。
私はそのあまりの存在感に、部屋に入ることを躊躇してしまう。

だって、まるで・・・今からこのベッドでしろと言われているような感じだ。


「良隆さん」


私が入り口で止まっていると、彼が少し強引に身体を押してくる。

彼にも私が戸惑っているのが分かるんだろう。
今は彼のその強引さがありがたい。


「どうぞ」

「・・・ど、どうも」


きっと高級なマットレスを使用されているだろう。
でも、今の私にそれを楽しむ余裕は全くない。

シャツを握りしめる手に更に力が込められる。
ゆっくりとベッドに腰を掛けながら、私はただ彼が動いてくれるのを待つしかない。


「良隆さん」


彼が耳元で私の名前を呼ぶ。
その息遣い、そして私の肩に掛かる彼の手。
全てに意識が散らばり、私の思考は混乱をきたす。

「大丈夫ですから」

「は、はい」

「キス、してもいいですか」

私は頷く。
と同時に彼の唇が私の頬に触れる。

「え・・・」

きっと唇に来ると思っていたばかりに、驚いて彼の顔を見てしまう。
そして彼の方を向いた瞬間、次は本当に彼の唇と重なる。

軽く、触れるだけ。

つい初めて彼とキスをすることになった時を思い出す。

「あ・・・ふ・・・」

それから彼は唇だけではなく、いろんな場所にキスの雨を降らしていく。
本当にキスの雨というのが正しい表現だと思う。

「ん・・・くふ・・・」

頭から顔の至る所、首筋に腕に・・・
全てが軽いキスだったけれど、私はそれに溺れていった。

気がつけば私はベッドに横たわっている。
服といえばシャツだけじゃなくスラックスも、下着さえもかろうじて身体に残っているだけ。

彼はまた最後に唇にキスをしてくれる。

でもそれはさっきからの軽いものではなかった。

「んん・・・ふ・・・ぅん」

彼の舌が私の口の中に入ってくる。
優しい彼自身とは違い、私の口腔内を隅々まで探るように動き回る。
そして、驚いて引っこんでいた私の舌を見つけると絡め取ろうとする。

キスもこんなに深くした経験がない私は、彼が与えてくれるものに夢中になる。

彼の舌が逃げようとすれば、つい私が追いかけるほどに。


その頃になると私の下半身も変化の兆しを見せていた。


私は自分でするべきか迷っていた。

”もっと、もっと気持ち良くなりたい”

頭をそればかりが支配する。
口づけは続いているし、彼に頼むことなんてできない。

そろそろと手を伸ばしていくが、途中で止められてしまう。


「あ・・・なんで」


それと同時に彼との口づけも止められる。

私の言葉は手を止められたことと口づけを止められたこと、両方に対してのもの。

「今日は私にさせてください」

彼は私にそう言うと、チュッと音がするキスを唇に落とす。

次の瞬間だった。


「ひぁあ・・・」


変な声が私の口から飛び出してくる。
初めて他人に、しかも彼に触れられて驚いてしまった。

彼の手は優しかった。
同性だからなのか、少し触れられただけで私は肩で呼吸する程に快感を得ていた。

きっと彼の手には私の先走りが付いてしまっているだろう。

私の息遣いと一緒にクチュクチュという音が部屋に響いている。


「良隆さん、1度出しますか」

「え・・・なに・・・」


私は彼のシャツにしがみつく格好で、襲いかかってくる射精感を我慢していた。
そんな私は彼の言ってる意味がうまく理解できず。


「うーん、この後のことを考えればこのままの方がいいか」

「ん、くぁ・・・や・・なに」

「良隆さん、そのまま身体の力を抜いておいてくださいね」


彼が手の動きを緩めたのが分かった。
分かったけれど、それが何を意味するのかは考えられない。

私が分かるのは彼が顔中に落としてくれるキスの雨。
くすぐったいようで、でも小さな快感を生むそれに私は身体に力を込めるなんて。


「ひぃ・・・な、なにか・・・」


いきなり襲ってきた異物感と圧迫感に目の前にある彼に助けを求めてしまった。

さっきまで身体に力を入れる余裕さえなかったはずなのに、私の身体は突然の衝撃に身体を固くする。


「良隆さん、力抜いてください」

「だって・・・でも・・・なにかが・・・」

「私の指ですから」

「ゆ・・・び」

「そうですよ」


彼は私の身体を宥めるように、ゆっくりと優しく私の分身に触れる。
射精に至ることはないけれど、もどかしい位の快感を常に与えてくれている。

それが後ろへの異物感を減らしてくれる錯覚。

私は異物感よりも、同じ彼が与えてくれるのでも快感に意識を集中させる。


「そのまま、こっちに集中しておいてくれればいいですよ」


彼は1本の指を根元まで入れては、中を確かめるように動く。
そして、次は入り口近くまで戻ってくると入り口を広げるように動かせる。

「ふ・・・はぁ・・・は・・・あ」

「そう、いいですよ」

「ぅあ」

しばらくすると指の本数が増やされていく。
身体の中に入る指が増えればそれだけ圧迫感も増す。

ただ、痛みはない。

異物感や圧迫感はあるけれど、私は”痛い”という感情を抱くことはなかった。
それ以上に彼は私に新しい快感をくれた。


「ひ・・・そ、そこ・・・やめ・・・」


本では見たことがあるだけの前立腺を彼は見つけたらしい。
掠っただけでも、電流が走ったかのように全身が震える。

「まえ・・・なかさ・・・そこ・・・だめ・・・」

「ココですか」

「ひぃ・・・だめ・・・」

「ダメというよりも、その反対みたいですけど」

「そこ・・・されると・・・」

「あー、イってしまうということですか」

私は彼からの的を得た言葉に頷き返すのが精いっぱいだった。

「分かりました」

彼は途端に私の中に入れていた指を抜いてしまう。
それだけでも今の私は身体を震わせる。

前立腺を刺激された衝撃で、ちょっとしたことでも身体が震えてしまう。

「は・・・はぁ・・・」

気持ちも、身体も落ち着かせようと呼吸をしていた。

「良隆さん、そのままで」

「え・・・」

彼が何をしようとしているのかなんて考える余裕はなかった。

”熱い・・・”

さっきまで彼の指が出入りしていた場所に何かがあてがわれる。
それが何とは聞けない。

「力、抜いていてください」

「あ・・・あ・・・あつ・・・」

「ゆっくりしますから」

「まえ・・・まえ、なか・・・さん」

「大丈夫」

指とは違う確かな熱を持って彼が侵入してくる。
もの凄い圧迫感と、内臓を持ち上げられる程の衝撃。

「くるし・・・たすけ・・・」

「良隆さん、こっちに集中してください」

「こっち・・・って」

「こっちですよ」

彼の言葉を理解するよりも先に、忘れかけていた射精感が襲いかかる。
突然の射精感、それは彼がおざなりになっていた分身への刺激を再開したから。

しかもそれまでの優しいものとは違う。
明らかに射精を促し、快感を確実に与えるようなものだった。

私にはそれが彼なりの思いやりであり、優しさのように感じた。
そんな優しさに私はしがみつく。

少しでも圧迫感や異物感から逃れるため、目の前の快感に集中する。


「あ・・・あぁ・・・ソレ・・・」

「コレですね」

「ひぁ・・・ダメ・・・」


ただ彼が与えてくれる刺激は何の免疫もない私には強すぎる。

私が無意識に身体を捩った時だった。


「んあ・・・なに・・・」

「当たりましたか」

「なに・・・なんか・・・きた」

「せっかくだから、両方でね」

「そんな・・・あ・・・ぁああ」


前への刺激だけでも十分だったのに、彼の分身が前立腺も刺激し始める。


「慣れればココだけでイケるようになるみたいですから」

「なれ・・・なれって・・・ぁ・・・」


彼の言葉でこれが最初で最後の行為ではないんだと悟る。
そしてそれは彼との関係がこれからも続くということも意味しているわけなのに。

「も、ダメ・・・・ダメ・・・ぇ・・・」

射精感とひたすら向き合い、初めての快感に酔っている私には彼の言葉を理解することができない。
口から出てくる言葉といえば喘ぎ声。

「初めてのことで、そろそろ良隆さんも限界みたいですね」

私は彼の”限界”という言葉に、頷く。

「限界・・・げんか・・・あ、あぁ、むりぃ」

「私もそろそろ限界ですし」

彼の言葉に、きっと中に彼の精液が吐き出されるんだと思っていた。

”彼が突いている場所に・・・掛けられる”

想像すると、私はさらに快感の度合いを濃くしていく。


「良隆さんっ」


私の名前を呼ぶ声が少し掠れていて、彼も少しは余裕をなくしていることを感じる。


「前中さ・・・んん、まえ、なか・・・さん」


私もそれしか言葉が見つからないぐらいに、何度も彼の名前を呼ぶ。
そして身体にしっかりとしがみつく。

「前中さ・・・も、ダメ、・・・ダメです」

「いいですよ」

私の切羽詰まった声に答えるように、見つけたばかりの私のイイ場所を突いてくれる。
前を扱いてくれる手も少しキツくなる。

「くぁ、ぁあ・・・」

そんな刺激に免疫のない私が耐えられるわけもない。


情けない私の声と共に、私は彼の手の中に精液を吐き出すこととなった。




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