虎城と密の行為は密が落ち着くまでだと八嶋や、虎城自身もそう考えていた。
しかし、あれから三年経っても収まる気配はなかった。

八嶋の教育の賜物で、密は簡単な単語を多く覚えていき、指で数えられる範囲なら数だって読めるようになった。
ただ、単語と単語を繋げて話すことはできないし、文字もひらがなが少し読める程度だった。
そして虎城の教育の賜物と言うべきか、独特の色気を纏うようになった密は、パーティーへの誘いが多くなった。

ただそんな誘いを虎城が了承するはずもなく、また虎城と密が揃ってパーティーに出席することもこの一年は少なくなっていた。

周囲は虎城が密に他の人間が近づくことを嫌がった結果、虎城が密に溺れているんだと言う人間がいた。
一方で虎城が以前のように様々な女性達を入れ替わり連れていることから、密に飽きたのではと噂する人間もいた。

この日、虎城は密を膝に乗せた状態で酒を飲みながら、持って帰ってきたパンフレットを密に見せていた。
昔に比べればすっかり少年へと変化を遂げた密だったが、相変わらず広いソファがあったとしても座る位置は虎城の膝の上だった。

「密、今度このパーティーに行くか」

「パー・・・ティー?」

久しぶりに聞くパーティーという単語に、密は首を傾げながらも渡されたパンフレットを開いた。
それは期間限定で行われる展覧会のものだった。
パンフレットには様々なビーズや宝石を材料にし、動物や植物を形作った物を展示するという内容が書かれ、参考に写真が何点か掲載されていた。


展覧会のお披露目パーティーへの招待状が虎城の手元に届けられたのが今日の夕方だった。
いつものように断ることは簡単だったが、

「密が喜ぶだろ」

最近は買い物での外出も許していない手前、キラキラしたものが好きな蜜を少しでも喜ばせようと虎城は考え付いた。


密は当然ながらパンフレットを見た瞬間、

「きゃぁぁああ」

奇声を上げると、虎城の腕の中で足をバタバタさせながら全身で喜びを表現していた。
小さな子供の時とは違い、ある程度成長した密が虎城の腕の中で暴れると危ない。

「密、落ち着け。酒がこぼれるだろ」

虎城は持っていたグラスを死守しながら、密に注意するが、

「くふっ」

虎城の声は耳に入っていないのか、甘さの増した香りを放ちながら密はパンフレットに夢中だった。

「こじょ、こじょ」

「ん?いつなのかって聞きたいのか?」

密が輝かせた目を虎城に向ければ、虎城は密が何を言いたいのかすぐに分かった。

虎城と一緒にいる時の蜜は、あまり言葉を使わない。
それは虎城が蜜の言いたいことを悟ってくれると蜜自身が考えているからだ。
八嶋と話す時と虎城と話す時、蜜は蜜で色々考えているようだった。

「今日を入れて十回寝たらだな」

「一・・・二・・・」

密は小さな指を一つ一つ折りながら数を数え始めたが、虎城はそんな無邪気な密を見ながら、

「あと二年は・・・いや、そこまで俺の忍耐力が・・・」

そう呟く。



頭の中で八嶋が「未成年ですよ」と睨んでいる姿もちらついている。
すでに虎城にとって密はただの可愛い子供ではなくなっているのは確かだった。子供でしかも男。

そんな風に考えるようになったのはいつからなのか。
密を初めて見た瞬間に何か感じるものがあったのは確かだった。だからといって子供や男全員が欲望の対象というわけじゃない。
その証拠に他の子供を見ても、他の男を見ても食指が動くことはなかった。

八嶋はそんな虎城の心情を理解してくれているようだったが、密の行動も思考も、まだまだ幼い子供と同じだということを挙げ、虎城にストップをかけている状態だ。
だからといって毎日のように密のマスターベーションに付き合い、日々虎城を誘う甘い香りを醸し出している密を前に大人しく指をくわえて耐えていられるほど虎城は紳士でなかった。

虎城がこの一年あまり密をパーティーに同伴しなくなったのは、密に集まる周囲の興味を逸らすためというのが表向きの目的だった。
しかし、その本当の狙いは少し違う所にあった。

密が虎城の物であることを分かっていながらも可憐で、そして妖艶な密の魅力に引かれたバカな男達がいつ密に触手を伸ばしてくるか分からない。
たとえパーティーへは虎城が同伴していても、餓えた狼達には関係ないのだ。

そしてもし、万が一にも密が虎城よりも他の誰かを選んだとしたら笑って祝福してやれる程虎城の器は大きくはない。
虎城はそんなことを一人悶々と想像しては腹を立て、その結果として密を今の軟禁状態にすることになっていた。

虎城が八嶋に自分の想像を打ち明けたこともあったが、

「何を馬鹿なことを・・・」

と鼻で笑って終わってしまった。

「いや、そんなこと分かんねぇだろうが」

「そんな馬鹿なことを考えるのは欲求不満だからですよ。適度にその精力を発散させてください」

八嶋は密をパーティーに連れて行かないことに対しては何も言わなかった。
むしろ歓迎している風でもあった。

たとえ16という年齢に密がなったとはいえ、虎城と密が肉体関係を結ぶというのは賛成するわけにはいかない。

虎城もその点は理解をしているからこそ、女遊びに興じている。

そんな現状で
「密が喜ぶだろ」
と言ったものの、虎城はどんなパーティーであってもどこかで密を外に連れていくことに虎城は躊躇っていた。

心のどこかで八嶋が反対すればとも思っていた。
ところが、

「そうですね。密が喜びそうな内容ですね」

と珍しく八嶋も賛成したため、虎城はパーティーに参加することになった。



「虎城、こじょぉおお」

まだ興奮は治まらないのか、蜜はパンフレットを振り回しながら虎城の名前を連呼する。

予想通り喜びを全身で表現する密に、虎城はたまらずその首元に唇を押し当て吸いついた。

「ん、・・・こじょ、嫌ぁ」

密は身体を捩り、嫌がる素振りを見せるが、そんな態度とは裏腹に、独特の甘く濃い香りが密の身体から放たれる。

虎城との行為に罪悪感や羞恥心というものが全くない密は、快感に素直な反応を見せる。
ただ、誰に教わったのか最近ではわざと嫌がる素振りをするようになり、その仕草が虎城をさらに煽っていた。

そして、二人の秘密の行為は少しずつエスカレートし、今では密の身体は胸や耳、口腔内といった様々な場所を虎城の手で開発されていた。

特に密にとっての最近のお気に入りは

「虎城、ここ・・・ここ・・・して」

「なんだ、もうこんなにコリコリにしてるのか?」

「ん、もっと・・・キュッて・・・」

「こうだろ?」

「あっ・・・」

虎城に小さな豆粒ほどの乳首を押しつぶされたり、舐られたりすることだった。時々噛まれることもあるが、それは更に密を煽る行為だった。
虎城の目にすっかり勃起し、その存在を主張している密の下半身が映る。

虎城はゆっくりと片方の手を伸ばした。

内腿はしっとりと濡れ、虎城の手を誘っているようにも感じる。
裾の隙間から手を潜り込ませれば、すでにその中は密が発する熱気と先走りで独特の感触になっていた。
虎城は密の勃起しているペニスではなく、精液を溜めている袋部分を手に納めるとコロコロと転がすように弄ぶ。

「やぁ・・・ぁあん」

「パンパンじゃねぇか」

「あ、こ、こじょ」

「ん?」

密は虎城の名前を呼ぶと、小さな舌を誘うように虎城に見せる。虎城もその誘いに応じるように、唇を重ねていく。
舌を歯でしごいてやりながら、さらにペニスも連動するようにしごいてやると、密はあっけなく若い精を虎城の手に吐き出した。

ただ、密が射精を終えても虎城は密の身体を離すことはなく、ひたすら唇は重ねたまま。

密もそんな行為を嫌がる素振りすら見せず、全身を虎城に委ねている状態だった。

ようやく虎城が密の身体を離したのは、このままではヤバいというギリギリのラインだった。密にはそんな虎城の気持ちが伝わるわけもなく、

「虎城、寝るぅ」

射精をすることによって訪れる脱力感のまま、密は虎城の胸に倒れ込んできた。

「よし、よし。ベッドに行くか」

虎城はまだ僅かに残っている理性を総動員させると、ぐずる密を立たせ、パジャマに着替えさせる。
そしてパジャマに着替え終わる頃には密は夢の住人となっていた。

虎城はそんな密をベッドルームへ寝かせると、気づかれないようにマンションを出る。
密にぶつけられない欲望を身近な女性で解消するための外出だったが、それも朝密が起きる前には再びマンションに戻り、
何もなかったかのように密と共に朝を迎えるのだった。




当日、密は久しぶりの虎城とのお出かけということもあり、興奮気味だった。

ドレスは展示物のことも考えつつ、密には袖がシフォン型でミニ丈のドレスに装飾品は控えめ。
一見すればなんてないドレスのように見えたが、後ろが大きくカットされ、網目上に紐が通されていることで胸元が調整できる仕組みになっていた。
密の髪はちょうどボブぐらいの長さだったため、後ろから見ればその艶めかしい背中が露わになることになった。

さらに、人目を引いたのは肩胛骨の付け根あたりにあった所有の印。誰が付けたのかなんて言わずとも知れた。

密は生足を惜しげもなく晒し、腕を虎城に絡めた状態でパーティー会場に現れると、注目の的となった。

虎城は密を見る人間を牽制するかのように、密の腰に腕を回すとまずは主催者への挨拶に向かう。
当然ながら八嶋はそんな二人の後ろを付いて回る。

密は虎城が挨拶をしているのも関係なく、自分の真横に展示されているオブジェに心を奪われていた。

それはピンクダイアモンドで作られた豚だった。それも親子のコンセプトらしい。

「可愛いね、綺麗ね。可愛いね、綺麗ね」

密はうっとりとした表情でオブジェを見つめ、言葉を呟いていた。

「密、ガラスに頭をぶつけますよ」

虎城が他の人物と話している間、八嶋が主に密の守りをすることになるが、そんな八嶋がいなければ密の周りには疚しい気持ちを秘めた人間で溢れかえることになる。
そうでなくても密が一人にならないかと遠巻きに見つめている人間がジッと八嶋や虎城の行動を見て、チャンスを窺っている状態だった。

さらに強者になれば、

「虎城さん、こんばんは。密さんもこんばんは」

と虎城への挨拶を理由に、密へ近づこうとする人間もいた。
ただ、密は虎城や八嶋以外には反応を示すことはなく、いくら話しかけられても返事を返すことはなかった。

「綺麗ね、綺麗ね」

密は豚のオブジェに飽きたのか、次にその隣にあった孔雀のオブジェに移動した。
暫くケースにしがみつくように眺めていた密だったが、

「こじょ・・・虎城・・・」

不意に虎城のことを探し始めた。
八嶋がすかさず

「密、勇生さんなら大丈夫ですよ」

と声を掛けるが、

「虎城・・・虎城・・・」

密は小さな声で虎城の名前を呼びながら、視線をキョロキョロさせた。

「あ、こじょ・・・」

そしてようやく密が虎城を見つけた時、虎城は一人ではなかった。
誰かと挨拶の延長で話をしているわけでもなかった。

虎城の前には密より背が高く、女の武器としての胸元を強調したドレスを身に纏った女性がいた。
虎城も決して嫌そうな顔はしていない。
そして、女性がついに虎城の隣へと距離を縮めると、虎城の腕に自分の腕を絡め、顔を虎城に近づけると何か耳元で囁いているのが密の目に飛び込んだ。

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