(2020年6月28日) 2012年10月15日、米国ニューメキシコ州ロズウエルで「レッドブル・ストラトス」と呼ばれる自由落下計画が行われた。気球により高度39000mまで上昇し、その高度から一人のスカイダイバーが飛び降りるというもので見事に成功し、いくつかの世界記録を打ち立てた。
この勇敢なスカイダイバーはオーストラリアのフェリックス・バウムガートナ氏である。気球に吊り下げられたカプセルに乗ったバウムガートナ氏は2時間かけて高度39000mに達した。 この冒険でいくつかの世界記録を樹立したことにも増して注目したい事実がある。それは高度40kmからなら飛行物体は空力加熱で燃えてしまうことはないという事実である。 もし、スペース・シャトルが地球周回のミッションを終えて地球に戻るとき、高度40km程度まで下りる間に秒速8km近くあった飛行速度をゼロに近い速度まで落とすことができれば、耐熱タイルを貼ることなくグライダーのように滑空して下りられるということである。 スペース・シャトルが存続できなかった理由の一つに耐熱タイルの問題があった。2003年2月1日、コロンビア号は打ち上げ時に剥がれたタイルのため帰還時に空力加熱に耐えられず空中分解してしまった。 高速の宇宙機が大気に再突入するときの空力加熱解析は1950年代末頃からアポロ計画に入り広く検討されてきた。 その結果、重要なパラメータは大気への突入するときの角度にあった。L/D(揚抗比)も重要なパラメータではあったが、L/Dが0.5ぐらいでも川面に平たい石を投げた時にぴょんぴょんと跳ねる(スキップする)水切りという遊びのように大気から跳ね上がる軌跡をとる。 大気から何度も跳ね上がってしまうと着地点の計算ができなくなるし、何よりも着地までの時間がかかってしまうので軌道候補の検討から外された。帰還を決めたカプセルは小さく空気量も限界があるから有人ミッションでは不向きだったからである。 帰還カプセルはフラスコの瓶を底からしたにして突っ込むような形状なので突入姿勢でのL/Dはゼロに近いものであった。 大気への突入角が大きいと減速度が大きすぎて宇宙飛行士が耐えられない。空力加熱も大きいが加熱時間は短くて済む。 逆に、大気への突入角が小さすぎると減速度は緩いが空力加熱の時間が長くなって宇宙機が厳しくなる。 これら二つの要素から突入角はある狭い範囲に限られることが分かった。そしてこの突入可能な経路は再突入回廊(Reentry Corridor)と名付けられている。 月から帰還したときは突入時の速度が人工衛星速度より速いので再突入回廊は狭くなる。 スペース・シャトルの再突入もほとんど昔のままの再突入であり、帰還の操作に入ってから地球を1周もせずに降りてきた。このため、必ず高温にさらされていた。せっかくの主翼があるのに揚力飛行として翼らしく使われるのは着陸時のときだけだったのである。 減速のためロケットを使えれば、空力加熱にさらされることなく下りて来れることは確かである。打ち上げと逆の軌跡を取れば良いことから明らかであろう。 しかし、宇宙機が帰還するときに大気による減速を利用できてロケットがなくても下りられることが最大のメリットなのである。空力加熱を避けることができたらもっと良いことなのである。 ここで考えられるのは帰還時の時間の制約を外すことである。L/Dをプラスの値にして超高速ながら揚力飛行をしてじわじわと下りてくることである。スキップしない程度に揚力を調節し下りてくることである。速度が落ちると重力により高度が下がるが速度は再び上がる。 揚力Lの大きさがほぼ機体重量になるように制御しながら機体速度を減速すれば高度30km程度まで下りる間に機体速度をマッハ2まで下げることができる可能性がある。
シェラネバダ社のドリームチェイサーはスペース・シャトルの1/4の大きさだが大気圏を滑空して下りてくる。 NASAのミッションにスペースXのドラゴンに負けてしまったので実現は危ぶまれている。 底面は黒く塗られており耐熱タイルのように見えるが高空でも上手く揚力コントロールが出来れば耐熱タイルを貼らずに減速出来て地上に降り立つことができるかもしれない。 宇宙空間から耐熱タイルなしで地上に降り立つことができる実証を日本が最初にできた可能性があった。それが、折り紙ヒコーキファルコン9とである。 (了) 戻る
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