エレベータの思考実験  

(2011年6月7日)


 アインシュタインに習って窓のないエレベータに乗っている人を想定する思考実験である。

 最初はこのエレベータがどの星からも遠く離れた宇宙空間のどこかに置かれているとする。このエレベータはニュートンの運動の第一法則、慣性の法則、により、静止していれば何時までも静止しているか、運動していれば等速運動を続ける。

 運動しているというためには座標を決めなければならない。仮に地球から遠く離れているが地球の座標に一致している座標で運動を決めるものとする。すると、この中の人には何も力が加わっていないのでエレベータの中で浮かんでいる。窓がないので外の景色も見えないため、このエレベータが静止しているのか運動しているのかも全く判らない。 

 次にこのエレベータが地球の重力圏に近づき、地球に向かって落下し始めたものとする。このエレベータは重力加速度でどんどん早く地球の中心に向かって近づいている。この状態でも中の人はエレベータの中で浮いたままであり、窓から外が見えないので自分が落下していることすら判らない。

 もし、このエレベータがある大きさの水平速度も持っていたとすると、落下すると地球が丸いために何時までも地面に届かない状態になる。これはこのエレベータが人工衛星になった状態である。

 エレベータの中では重力が消えているのである。アインシュタインは1907年のある日、「落下している箱の中の人にとっては、重力が消えている」ことに気がつき、「生涯最高のアイデア」であるとした。

 アインシュタインが気がつくまでのニュートン力学による無重力の解釈では、重力と慣性力が釣り合っているというものであった。そして、エレベータにも中の人にも応力が発生しないのは、分子レベルで釣り合っているからだというものである。今でもこれで正しいとする人もいる。

 しかし、一つの分子が大きな重力と大きな慣性力で釣り合っているのか、小さな重力で小さな慣性力との釣り合っているのかも判らない。ただ、計算上で大きさが分かるというだけである。実際の力が加わっている証拠は他に何もないから重力も慣性力も力であるとするならば、少なくとも重力は見かけの力であることになる。

 一方、外力が加わった場合の加速度運動は、窓から外が見えなくても応力が生じるので必ず検知できる。加速度計は実際の力による加速度を検知できるが、見かけの力による加速度は検知できない。これが如何なる加速度計も重力加速度は検知できない理由でもある。

 どの星からも遠く離れた空間でエレベータの上部にロケットを取り付けて擬似的な重力を発生させて、エレベータが地球の重力場で自由落下する時の加速度と同じ加速度運動を起こさせることはできるが、中の人は天井に押し付けられてしまう。見かけの力と実際の力では明確な違いがあるのである。

(了)


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