(2021年6月22日) GPSは全地球測位システムのことで米軍が開発したシステムであるが現在では民間にも解放されてカーナビなどに広く使われている。今ではスマホを持つ人がGoogleアプリのGoogleMapでも入れておけば自分が地球上のどこにいるのかが即座に分かる。 このように便利なGPSであるが、GPSの時間に関する説明で誤解されていることが2件ある。GPS開発関係者も見落としていたに違いない。 多くの人がGPSの説明をしている中から、佐藤勝彦氏の著書を例にする。佐藤勝彦氏は宇宙物理学者でビッグバンのインフレーション理論を提唱され、現在も第一線で活躍中の方である。 次の引用は「アインシュタイン相対性理論」と題した、2012年11月号、NHKテレビテキストの4頁である。
この図の上部の「相対性理論の実証@」の説明はセシウム原子時計より正確な光格子時計を使った場合の話である。 応用例=GPSとして「GPSのしくみ」と「GPS衛星の時間」でGPSの現状が正しく説明されているのであるが、この説明に関して世の中に流布している誤解が二つある。 誤解(1)アインシュタインの相対性理論が無かったらGPSは成立しなかった。 GPS衛星に積む原子時計は1日39マイクロの補正をしなければ最早成立しないことは確かである。GPSに習って開発を薦めた欧州のガリレオも日本の「みちびき」も同じ補正をした原子時計を積んでいる。 しかし、衛星に積む原子時計が同じ進み方をすれば相対論効果による遅れや進みは無視して良かったのである。何故なら、地上のユーザー機器での受信機に使う時計は水晶時計であり、その誤差は原子時計の相対論誤差の1000倍ぐらい大きいからである。原子時計の相対論誤差も水晶時計の誤差に飲み込まれてしまうからである。 水晶時計の大きな(原子時計に比べれば)誤差にもかかわらず、4機以上のGPS衛星からの電波を受信することで、位置と時間誤差を同時に算出できるからである。 GPSとは独立に開発されているロシアのGLONASSや中国のBEIDOU「北斗」では相対論補正をしていない原子時計を積んでいるかもしれない。 GPSと相対論効果でも説明がある。
誤解(2) GPS衛星に積む原子時計は衛星高度における重力の差による遅れがある。 図のGPS衛星の時間で動くものは遅れるということは特殊相対性理論で説明される。そして重力の強いところでは時間が遅れるということは一般相対性理論で説明される。 ここでGPS開発者も見落としていたと思われることは、地球を周回している衛星は無重力状態になっているということである。アインシュタインは自由落下中の物体には重力が消えているという表現をしているが、このことが彼の生涯最大の発見であり、一般相対性理論に取り組むきっかけであった。 人工衛星は速度を持って地球を周回しているが自由落下の状態にあることは変わらない(等価原理として重力=0)。従って、重力による時間の遅れは無いのである。地表上に固定した原子時計に比べて、人工衛星に搭載された原子時計は無限に遠いところに置かれた時計と同じく重力による遅れは皆無なのである。 地上に置かれた原子時計は重力により60マイクロ秒遅れる。従って、高度2万kmのGPS衛星でも地上の時計に比べて46マイクロ秒進むのでなく、60マイクロ秒進むのである。 相対性理論による時間の遅れはWikipediaにより次の図が掲載されている。この図の(GR)曲線はTime Dilation =60の水平線にすべきなのである。 ここで、もしISSに原子時計を搭載すると、上述の等価原理を無視すると、その時計は1日に(3−28=-25)25マイクロ秒遅れると考えることになるが、真実は(60−28=32)1日32マイクロ秒進む。確認して貰いたいことである。 (了) 戻る
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