力の定義  

(2014年8月14日)


物理用語としての「力」の大きさの定義は明確に定まっている。しかし、「力とは何か」という題名の本があるように不明確な要素があるのである。私がブログ「力とは何か」を書いたのは3年近く前である。再度明確化を試みる。

力の大きさの定義は次のとおりである。
1N(ニュートン)の力とは質量1Kgの物体に働いたとき、その物体に1m/s^2の加速度を与えるものである。

おかしなことに、未だかってこの定義に従って、質量は十分精度よく測定できるが加速度を測って力の大きさが決められたことはない。「力」を判りにくくしている理由の一つであろう。

国語の辞書で「力」を調べると、物理用語としての「力」は次の二つの作用を及ぼすと書かれている。
A:物体を変形させる原因となる作用
B:物体の速度を変化させる原因となる作用

言い換えると、Aは物体に応力・歪を生じさせる作用であり、Bは物体に加速度運動を与える作用である。力の大きさがBによって定義されていることは間違いない。ニュートンの運動方程式 F=mα から、ニュートンに敬意を表したものであろう。

国語の辞書では、力とは上記ABの二つの作用の双方を伴うものか、どちらかの作用があれば力というのか不明確である。つまり、力とはA又はBなのか、AかつBなのか不明確なのである。

ここでAの作用だけでBの作用を伴わないものはあるだろうか。これは物体に外力が作用したとき物体が加速度運動を引き起こされることによって慣性力と釣り合うものであるから、必ずBの作用を伴うのである。

外力と反対向きの外力が同時に作用して釣り合っているときはBの作用が無いように見えるが、これは二つの釣り合う外力の重ねあわせだからである。Aの作用を考えた場合、力はベクトル算法に従わないことが判る。

一方、Bの作用だけでAの作用を伴わない場合があるだろうか。実はこれがあるのである。それはいわゆる重力(Gravity)の作用である。重力場にある物体は自由落下をするだけで物体に応力・歪は発生しない。

もし、Bだけの作用をするものも力と言うならば、A+Bの作用を起こすものを実際の力といい、Bだけの作用を起こすものを見かけの力ということになって、力には2種類あることになる。重力を力と言うならば、それは見かけの力である。

質点系力学は物体の質量が1点に集中しているとした簡略解析手法であって、力はベクトルと見なせるので運動解析には適している。しかし、質点系力学では見かけの力と実際の力との区別がつかない。

見かけの力は外部から運動を観察することしか認識することが出来ない。運動は座標系に依存する。従って、座標系の取り方によって現れたり消えたりもする。実際の力は座標系に無関係であるから、常に実証できる。

以上の考察から、力の定義をAで決めることにするのが望ましい。このとき定義に使われる法則はフックの法則である。見かけの力とは加速度に質量を乗じただけの抽象的な量であり、実証できない量なので力と言わない方が良い。そして、実際の力を単に力と言えば良いだろう。

自然界に存在する4つの力とはいずれも分子レベルの話なので、Aの概念はない。従って、自然界に存在する4つの相互作用と言うべきであろう。実際、そのように表現している物理学者もいる。

(了)


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