(2011年10月1日)
(10月31日補足)
現代は用語「力」は日常生活で広く使われているため、意味するところも多い。実際、辞書(大辞林)で調べてみると、下に転記したように、@からDまである。ブログ「重力は加速度である」では物理の用語であるDに限って良い。
Dの説明で、「巨視的な」以降は補助的な説明であって、「力」を定義している文章は「物体を変形させたり、動いている物体の速度を変化させる原因となる作用」である。この定義には二つの要素が書かれていて少し曖昧なところがある。
A:物体を変形させる原因となる作用
B:動いている物体の速度を変化させる原因となる作用
つまり、「力」とは上記二つの要因に対し、両方を満たさなければならないのか、一つを満たせば良いのかが不明なのである。一般的には、「力」とは二つの要素を満たす[AND]ものと考えられている。
辞書の説明にもあるように、自然には巨視的な力としては重力と電気力(電磁力)しかない。しかし、重力は物体を加速させるが物体を変形させるものではない。この事実の認識が世間の常識にないように思われる。
例えば、世間の常識では重力があるから足が折れたり、建物が崩壊したりする、と考えられている。実は、重力に従って運動すべきところを地面が邪魔している、つまり地面からの反力が加わるから、物体の変形をもたらすのである。地面による反力が「力」であって、重力自体は「力」でない。地面の反力に釣り合う「力」は重力ではなく、慣性力なのである。これが正しい解釈である。
何も力が働かないとき物体は等速直線運動をするというニュートンの慣性の法則は無重力のときのみ成立する。重力場において、物体に何も「力」が働かないとき、その物体は自由落下をする。
ニュートン力学:慣性運動は等速直線運動
相対論:慣性運動は自由落下運動
(小野健一:別冊「数理科学」(1995)「反物質は上へ落ちるか、下へ落ちるか」より)
慣性運動とは何も「力」が働かない時の運動である。
大辞林:「力」
@人や動物の体内に備わっていて、自ら動いたりほかの物を動かしたりする作用のもととなるもの。具体的には、筋肉の収縮によって現れる。「拳(こぶし)に−を込める」「−を出す」「小熊でも−は強い」
Aそのものに本来備わっていて、発揮されることが期待できる働き。また、その程度。効力。「風の−を利用する」「運命の不思議な−」「この車のエンジンは−がある」「薬の−で助かる」
Bほかに働きかけて影響を与えるもの。
(ア)ほかの人を支配し、自分の思うとおりに動かすことのできる勢い。権力。勢力。「君主の強大な−を物語る遺跡」「大国間の−の均衡」
(イ)ほかの人が目的を達成しょうとするのを助ける働き。骨折り。尽力。「彼の−で八方丸く納まった」「会の発展のために皆様のお−を拝借したい」
(ウ)人の心を動かす力強い勢い。迫力。「−のある文体」
C何かをしようとするときに役立つもの。
(ア)行動のもとになるなる心身の勢い。気力・体力。精気。「目的達成に向けて−をふるいおこす」「さぞお−を落とされたことでしょう」
(イ)修得・取得した、物事をなしとげるのに役立つ働きをするもの。能力。「国語の−が弱い」「対戦相手の−を分析する」
(ウ)支え。よりどころ。「子供の成長を−にして生きる」「不幸な子供たちの−になる」
D《物》物体を変形させたり、動いている物体の速度を変化させる原因となる作用。巨視的な力としては、物体表面に働く圧力や物体内部に生ずる応力などのほか、力の場を形成する重力と電気力がある。微視的には、原子核の核子間に働く核力と、原子核・電子間および電子相互間の電磁力が基本的な力である。さらに、一般的には素粒子の相互作用のことを力とよぶこともある。
→素粒子の相互作用
素粒子間にはたらく基本的な力。強い順に、強い相互作用、電磁相互作用、弱い相互作用、重力相互作用の4種がある
(補足)
物理学者が自然界には4種の力があるという。これらは電磁力、重力、弱い力、強い力の4種である。この内、弱い力と強い力は分子以下のミクロの世界の話であるから、日常の生活や工学の世界で関係があるのは電磁力と重力だけである。
ところが、電磁力も重力も分子レベルの大きさで見ればAの概念はなくなる。
従って、マクロに力として観察できるのは電磁力と慣性力の2種だけである。重力は力としては観察できない、加速度として観察できるだけである。
(了)
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