原子時計を国際宇宙ステーションに 

(2021年5月12日)


 アインシュタインの相対性理論は運動する物体の時間が遅れることを述べています。

 (1) 特殊相対性理論(SR)は高速で動く物体の時間は遅れる。

 (2) 一般相対性理論(GR)は重力の影響を受ける物体の時間は遅れる。

 一般に相対性理論によるこの時間に関する効果のことを「時間の遅れ」と言っていますが英語ではtime dilation と称しており、直訳すると時間の膨張です。空間の膨張のように時間が膨張するというイメージの方が合ってるようです。

 地表上にある原子時計は重力環境下にあるための遅れと、地球の自転速度による遅れの二つの影響を受けています。

 1971年にヘイフリーとキーティングがセシウム原子時計をジェット機に搭載し、東回り、西回り、それぞれ地球を一周した後、地上に置かれたままの海軍観測所の原子時計と比較して相違が相対性理論の予測と一致したという報告が出ています(1)。この実験の結果、アインシュタインの相対性理論の結論の一つである時間についても証明されたとされていました。

 ところが2000年になって、ヘイフリー・キーティング実験の生データを再検討したアイルランドの科学者A・Gケリーは、当時の原子時計の誤差の観点から、実験結果の結論は有意ではないとしています。原子時計実験の考察 (il24.net) 

 ヘイフリー・キーティング実験から半世紀も経った現在、宇宙用原子時計として、セシウム原子時計もルビジウム原子時計もあります。この時計を国際宇宙ステーションに運んで1週間でも半年でも作動を続けた後、地上に持ち帰ってどのくらい地上に置かれたままの原子時計と差があるか充分な精度で調べることが出来るでしょう。(相対性理論の時間に関する実証実験提案)

 

      図−1 円軌道衛星の相対論効果による時間の遅れ(Wikipediaより)

図−1はウィキペディアから借用した図で、円軌道衛星の相対論効果による時間の遅れの計算結果を示しています。

 この図の曲線は地球に置いた時計に対する時間の遅れですから、一般相対性効果(GR)は地球の時計より時間は進むことになります。

 GPSの衛星は高度20000kmですからSR効果が1日7マイクロ秒の遅れでGR効果が46マイクロ秒の進みで、両方合わせて39マイクロ秒の補正をした原子時計を搭載しています。

 この図が間違いであることを指摘している日本の物理学者がいました。東大宇宙線研の黒田和明教授です(2)。この講演のスライド31を見ますとGPS衛星の時計は地球の重力ポテンシャルの影響を受ける(図―1のように)とされているが間違いであるという趣旨で書かれています。何故なら人工衛星は地球の重力場の中を自由落下しており、地球の重力の影響は一義的に受けないからと。

 自由落下中の物体には重力が消えていることに最初に気が付いたのはアインシュタインで1907年のことでした。宇宙ステーションの中が無重力状態になっている説明で重力と遠心力が釣り合っているからという説明が多くの本で書かれていますがこれは間違いなのです。図-1でGRの効果は重力加速度だけですが、遠心力加速度も同じ大きさで逆向きに働いていることを忘れている図なのです。

 従って、人工衛星の一般相対性理論効果は衛星の軌道高度に拘わらず60マイクロ秒でなければならないのです。

 国際宇宙ステーション(ISS)に搭載した原子時計は地上の時計に比べて、図―1が正しいとすると、22(=25-3)マイクロ秒ほど遅れる筈ですが、アインシュタインの等価原理を認めると、35(=60-25)マイクロ秒ほど進むのです。(数値はグラフからの読み取り値)

 アインシュタインが一般相対性理論の基礎とした等価原理とは、自由落下中の空間は地球から遠く離れた(無重力)空間とすべての物理法則が同じであるという原理です。

参考

(1) Around-the-World Atomic Clocks: Predicted Relativistic Time Gains on JSTOR、サイエンス誌Vol. 177

(2) 一般相対性理論の実験的基礎-一般相対性理論100年の歩みシンポジウム、大阪市立大学

(了)


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