2006年9月18日
【真珠とりのうた(真珠採りのタンゴ)】
東京都 12期 竹内
『真珠とりのうた(真珠採りのタンゴ)』のあれこれ (Song Of The Pearlfisher)
日本大学マンドリンクラブのアンコール曲といえば近年まで『真珠とりのうた』
(真珠採りのタンゴ)と決まっていました。
定期演奏会はもちろんですが、演奏旅行や学部祭でもなんでも、とにかく最後
の曲は、『真珠とりのうた』です。この曲が終わると間をあけず『日本大学校歌』
が演奏されました。
頭の中では、『真珠とりのうた』と『校歌』がメドレーのように感じています。
『真珠とりのうた』も『日本大学校歌』編曲はもちろん宮田俊一郎先生でした。
『真珠とりのうた』は、中川信良先生や服部正先生など様々な方がマンドリン合
奏用として編曲をされています。
私は、宮田先生の編曲がシンプルで味わいがあって一番好きです。今でもこの
曲を聴くとマンドリンクラブの思い出が次々と湧き出て来ます。それは、映画音
楽のテーマ曲を聴くと映像が頭に浮かんでくるようなものなのでしょう。
『真珠とりのうた』は、日本大学マンドリンクラブでは、1960年11月16日神
田・共立講堂で行われた第1回定期演奏会に、クラシック曲として、歌劇「タンホ
イザー」~タンホイザー行進曲(ワグナー)の次に、歌劇 「真珠とり」~真珠採り
の唄(ビゼー)がクラシックの一曲として演奏されたのが最初になります。
あまりにも有名なのでポピュラー曲と思われている方が多いのですが、本来は
クラシック曲なのです。
さて、この『真珠とりのうた』は、他に『真珠とりの唄』、『真珠採り』『真珠採りの
タンゴ』など様々な名前で呼ばれていますが、どれも原曲としては同じものです。
日本大学マンドリンクラブでは『真珠採りのタンゴ』と呼ぶ事が多いようですが、
宮田俊一郎先生はこの編曲に『真珠とりのうた』とタイトルを付けられていますの
で、編曲者を尊重する呼び方は『真珠とりのうた』になるのでしょう。
この呼び方の違いは、これからお話するこの『真珠とりのうた』の原曲がクラシッ
クの曲であり、タンゴその他のリズムを付けて編曲されて来た事にあるようです。
少なくとも、どの呼び方も間違いとは言えません。
『真珠とりのうた』の原曲は、歌劇『カルメン』で知られるジョルジュ・ビゼーの初
期の歌劇『真珠とり』の劇中歌(アリア)です。
歌劇『真珠とり』の初演は、1863年9月29日パリのリリック劇場です。この
第一幕で、「今でもまだ聞こえるような気がする(耳に残る君の歌声)」が歌われ
ました。
【第1幕】 未開時代のセイロン島
荒涼とした海岸で漁夫と女たちが賑やかに酒盛りを繰り広げています。部族
長のズルガがやって来て、新たな長を選ぶ時期が来た、と告げと、皆はズルガ
に長の地位を与えると答え、彼はこれを受けることになります。
その場に長く村を離れていた漁夫のナディールが戻ります。ズルガが彼に帰郷
の真意を尋ね、二人は美しい尼僧のレイラを争って、互いが恋敵となった思い出
を語り合います。ナディールは、その女性レイラがいない今では、もう二人の友
情を壊すものはないと言います。
その時、一槽のカヌーが島へ近づいてきます。村の長老が、遠方の国から巫女
を連れて戻ったのです。ズルガは、ベールで顔を覆った巫女に、一生ベールを
下ろし、決して顔を見せないこと、処女のまま、村の真珠採りたちの安全を祈り
続けることを誓わせます。誓いを守れば、最高級の真珠を捧げるが、もし、破っ
たときは、死をもってあがなうようにと申し伝えます。
ところが漁夫のナディールは、巫女の声を聞いて彼女がレイラであることに気付
くのです。ナディールは耳に残るレイラの声をまた聞きたいと願うのですが、この
時に歌われるのが『耳に残る君の歌声』です。
いまも耳に残っている
椰子の葉かげに隠れて聞いた、あのやさしい、よく響く声
まるで小鳩の歌のようだった
ああ、魅惑の夜、天にも昇る酔い心地
心そそる思い出よ、狂おしい胸の乱れ、甘い夢
満天の星の光に いまもまだ目に残る
暖かい日暮れの風に、長いベェールをそっとかかげた彼女の姿
ああ、魅惑の夜
高僧ヌラバッドによって岩の上に伴われたレイラは、そこで皆の無事を祈る歌
を歌うよう命じられ、一人取り残されます。そこにナディールが近づき、一瞬ベー
ルを上げた彼女の顔を見ます。二人は、運命の再会を果たしたことを知るので
す。(これが物語の出だしで第4幕まであります。)
さて、この『耳に残る君の歌声』がポピュラー曲として有名になったのは、昭和
初期にかけてヨーロッパ各国でタンゴの名作と呼ばれる作品が続々と誕生した
時です。
ドイツ人のガーツはビゼーの歌劇『真珠とり』のアリアを編曲して『真珠採りのタ
ンゴ』を、ヤコブ・ガーデは『ジェラシー』を、ヨゼフ・リクスナーは『碧空』を、アー
ウィンは『奥様お手をどうぞ』を、シェリエールは『バラのタンゴ』を、マルドレンは
『夢のタンゴ』を・・・など、タンゴは世界的大ブームになりました。
『真珠採りのタンゴ』はタンゴの定番曲の一つにもなっていて、様々な音楽家に
よって演奏されています。ドイツの名門コンチネンタル・タンゴ楽団 アルフレッド・
ハウゼ・タンゴ・オーケストラやウェルナー・ミューラー(リカルド・サントス)楽団は
日本で大ヒットしました。また、ポール・モーリア・グランド・オーケストラ等のオー
ケストラ演奏は数限りなく存在します。
変わったところでは、リチャード・クレイダーマンによるピアノ・バージョンやロック
グループによるディスコ・バージョンも存在します。
また2000年には、イギリス映画「耳に残るは君の歌声」の主題歌としてヒットし
ました。
1962年3月10日発売の、唄:藤崎世津子、作詞:中川満佐、編曲:飯田三
郎の『真珠採りのタンゴ』には、このような歌詞が付いていました。訳詩ではなく
オリジナル詩です。
【歌詞】
赤い珊瑚の彩り(いろどり)映した
水底(みなそこ)光るは真珠の瞳か
あ~星降る渚に巡らす
想いはやさしい彼(か)の人
夜なぎの彼方か
南十字の輝く夜空を
風に乗せ流れくる
忘れ路(じ)の愛の歌
あ~星降る渚に巡らす
想いはやさしい彼(か)の人
夜なぎの彼方か
他にも1963年に、玉木長美 作のオリジナル詞『真珠採りの歌』もあります。
【歌詞】
白い波間に 面影浮かぶよ
懐かし君は いずこに いずこに
想い乱れて 青空仰げば
悲しみ溢れて 我が涙ほほ 伝うよ
2007年2月21日発売の三オクターブの澄んだ美声と優美な容姿が魅力的
なコロラトゥーラ・ソプラノ歌手Yuccaのデビュー・アルバム『千の風になって』に
収録されているのは、真野響子が作詞した『真珠採りのタンゴ』です。
【歌詞】
もういいわ 私がバカだった
そうあなたに救いを求めて
もうわかったわ 私は生きてく
あなたのぬくもり脱ぎ捨て
生まれかわるわ
もういいわ 私は去ってゆく
そう あなたを後ろに残して
もうわかったわ 私ははばたく
あなたの残り香 振り払い
天高くへ
この思い出の曲、『真珠とりのうた』(真珠採りのタンゴ)が、最近は演奏される
事がなくなってしまった事は残念です。仕方がないといえばその通りなのですが、
残しておいてほしい名曲ですね。
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