天球と諸惑星の解説
〜天球について〜
1552
1552 "The garden of Eros"
Italian miniature painting unknown Italian painter, 15th century
Edition Geisselbrecht 2003・7・31 ファイル差し替え アンサンブル
のカデンツ
木島俊介著 『美しき時祷書の世界』 1995年初版発行 中央公論社 から
この絵の解説を 抜粋します。
『愛の泉』・・・『天球について』 より
クリストフォーロ・デ・プレディス派制作 モデーナ エステンセ図書館蔵
古代古典あるいは東方の文献から継承されていた 占星術は、
キリスト教会の非難にもかかわらず中世を通じて根強く命脈を保っていたが
中世末期ともなると、キリスト教のそれとは見解を異にする宇宙観や運命論が
神秘主義的興味や一種の知的遊戯として もてはやされた。
万物には隠れた対応関係があり、天体も人体も一つの精神によって繋がっている
とするこの考え方は
ルネサンス時代に至ると 新しい科学や哲学に結実した。
ここに描きだされているのは 金星
すなわち愛の女神ヴィーナスの星のもとに
生まれついた愛欲の申し子達の姿である。
女神の支配する王国には大きな 愛の泉 がある。
これは太古以来
生き物を誕生させ その生命をはぐくみ、豊穣を約束してきた
神聖な 『生命の泉』 に繋がっている。
泉水の恩恵に浴する男女のカップルが 5組 描かれているが
この数は 愛の5段階 を示している。
愛する男女を囲んで園には花々が咲き
楽師たちの曲が流れ、食膳係りが酒と食べ物を供しているが
このシーンもまた人間の五感、
視覚・嗅覚・聴覚・味覚・触覚の満足に 対応しているのである。
五感の満足こそ、至上の悦楽である。
が図書館で
お気に入りの本 『美しき時祷書の世界』 を眺めていたとき
ふと この絵の中の 赤白のタイツの リュート奏者は
持ち手が左右逆になっている と気づきました。
その数年後
↑ 1552の ポストカードを入手したのですが
やっぱり左右逆になっていたので びっくり。
本もカードも そろって鏡面印刷なのでしょうか?
それとも これが正しい持ち手なのか・・・
絵が 鏡面印刷になっている本って 結構あるわよ
と教えてくれた人がいました。
また 昔の楽器演奏図には
持ち手が左右逆に描かれているものも あるのだとか。
う〜〜む これは どっちなのでしょう?
その後 図書館で
今谷和徳著 『ルネサンスの音楽家たち 1 』 1993年第一刷発行 東京書籍(株)
という本を見つけました。
そのカバー裏と中綴じには この絵が カードとは左右逆に
つまりリュートの持ち手からいえば 正常な向きで印刷されていました。
図書館の本を撮影
そして 解説には はっきり こう書かれていました。
『喜びの園』
1470年以前に北イタリアで描かれたと思われる絵画。
クリストフォロ・デ・プレディスまたはその派の作とされる。
中央に青春の泉があり、その周りで
人々が食べたり飲んだり愛し合ったり音楽を演奏したり。
前にいるのはリュート奏者、
右後方に 三人のショーム奏者 一人のサックバッド奏者
一人のファイフ および太鼓奏者 がいる。
左後方では三人の男性歌手が
ギョーム・デュファイ作 と伝えられる写本もある三声のロンド
ー私のただひとつの快楽、私の心蕩かす欣びよー
を歌っている。
この本が正しければ すべて解決。
『美しき時祷書の世界』 と 入手したカードは
そろって 鏡面印刷ということになります。
1対2
さーて どちらが正しいのでしょうか?
こうなると リュート奏者の赤白タイツが
ますます 謎めいた衣装に見えてきます(笑)
何か はっきりとした確証を得ることはできないでしょうか。
たとえば この写本(絵)を 実際に この目で見て確認する
というような決定的なことが。
モデナの エステンセ図書館に確かめに行けば いいんでしょうけど
でもモデナってどこ?
<追記>
2004年9月 ユーロスターに乗ったとき ボローニャに途中停車しました。
手元の地図によると このすぐ近くにモデナがあります。
そこの図書館に行けば あの絵の真相がわかるのに・・・
と 車中 ひそかに溜息をつきました。
モデナは、車好きの方ならフェラーリで
オペラ好きなら パヴァロッティと 幼馴染のフレーニの故郷
として有名だそうです。
それからまた 月日が流れ
2011年 念願かなって ついに モデナを訪れることができました。
もちろん 真っ先に エステンセ図書館に行きました。
が 期待に反して この図書館は 地元の人のためのもので
観光客など まったく相手にしている風ではなく
図書館の蔵書を見ることもできなければ
カードやグッズなど この絵に関するものは 何ひとつ 見当たりませんでした。
言葉が通じれば 係りの人に 訊いてみることもできたでしょうが・・・
せめて このカードを持参すればよかった と 猛省しました。
(後で知ったことですが ここは 大学図書館でした)
<追・追記>
作者不明 題名も徹底していない 15cのこの写本画。
鏡面かどうか謎のまま もう10年以上 経過しています。
ネットの画像検索機能が充実した今
なんらかの解決の道があるのではと 試みたところ
この画像は たくさんヒットするのですが
それも見事に 左右 半々に分かれています。
一体 どっちなの?
ところがです。
検索しているうちに 偶然
2008年に 上野の国立西洋美術館で
「ウルビーノのヴィーナス 古代からルネサンス 美の女神の系譜」 展
が開催され
この写本が展示された という情報を 得たのです。
え〜〜〜〜!! これ日本に来たのですかぁ〜?
でも 2008年といえば
パリ暮らしの時だったので みすみす見逃したのではなく すれ違いです。
そういうことなら まだ諦めもつきますが
それにしても なんてこと!!
写本が来日したときは 私が留守で
私が モデナまで行ったときは まったく 空振りで・・・
すっかり見放されてしまった気分です。
よし
こうなったら 自力で このカードを 検証してみることにしましょう。
その@
リュート奏者だけでなく 後方で太鼓と笛を演奏している人も 持ち手が左右逆です。
そのA
フルート系は この時代 持ち手がどちらでも演奏できるように楽器が作られていた
ということが分かっています。
しかし 弦楽器系の持ち手が逆なのは ほとんど鏡面の場合が多いようです。
では 打楽器はどうなのか? う〜〜む。
そのB
残された検証の鍵は 三人の歌人が手に持つ楽譜 にあるのではないでしょうか?
今谷和徳著 『ルネサンスの音楽家たち 1 』 1993年第一刷発行 東京書籍(株)
によると 楽譜は
三声のロンドー私のただひとつの快楽、私の心蕩かす欣びよー
ということです。
↓ まず 1552 のカードに描かれた オリジナルの楽譜。
↓ カードの楽譜を 上下反転し 歌人たちのほうから見ると こう。
↓ カードを 鏡面印刷にしてみた楽譜は こうです。
つまり 今谷和徳著 『ルネサンスの音楽家たち 1 』 と同じ。
↓ それを 歌人たちのほうから見た楽譜。
しかし・・・
これが なにか?
そもそも こんな楽譜の検証など
しろうとの には 無理。
さっぱり 判りません。
残念ながら このBも 企画倒れ。
そのC
展示されたという 「ウルビーノのヴィーナス」 展 を
徹底的にネット検索。
じつは これが大成功!!
求めよ さらば与えられん・・・
奇しくも それは 2013年クリスマス当日。
思いつく限りの言葉を入力しながら 何度となく検索を繰り返した結果
ついについに 見つけ出したのです。
文化への招待 『女神の来日』 青柳柾規氏 という記事を。
↓ そこに 写本のこの図が 掲載されていたのです!!!!
これこそ 疑う余地のない決定的なもの。
よくぞ 写本ごと 掲載してくださいました。
そうです! これこれ!
これを どうしても この目で確かめたいと
ずーっとずーーっとず〜〜〜〜〜っと願っていたのです。
それにしても 美しい本ですね。
展覧会で ご覧になった方が うらやましい。
https://www.accu.or.jp/jp/accunews/news368/368_01.pdf
↑ 文化への招待 『女神の来日』 青柳柾規氏 の記事から
勝手に 画像を転載したことを お詫びいたします。
また
今谷和徳著 『ルネサンスの音楽家 たち 1 』 1993年第一刷発行 東京書籍(株) では
せっかく 右・左まで明記して 説明されていたにもかかわらず
素直に受け入れることをせず
深くお詫び申し上げます。
ということで
ついについに 1552 のカードは 鏡面印刷と 判明いたしました。
赤白タイツの謎が ここに解き明かされましたので
こんどは 正しい赤白タイツのカード取得に 全力を注ぎたいと思います!
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