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だまし絵のへイスブレヒツ

    

2272
2272  CORNELIS NORBERTUS GIJSBRECHTS  Vanite au violon C1660 Still Life with a Violon
Musee des Beaaux-Arts, Valenciennes Editions Hazan, Paris  1998 
   2002・9・18入手       
ヴァイオリン

 

 

のカデンツ

 

↑ このカードを入手した時 もっと近代の絵かなと思ったのに 

裏をかえして1660年とあったので 意外でした。

それと 壁にかけられた額から 黒布がペロンとはがれているのが 

強く印象に残ったのですが

そのまま ヴァイオリンのファイルに入れ 月日が過ぎました。

ある日  本屋さんの美術書コーナーで、

だまし絵 という本を たまたま手にしたところ

そのカバー表紙が 壁からペロンとはがれた黒布の絵 だったのです。

あれ!? 

確かこういう黒布ペロンのカード 持ってなかったっけ と 

パラパラっと 中をみると

なんと たくさんの黒布ペロンの絵が載っていたので

 またまた びっくり。

さっそく この本を買う のではなく

図書館から借りて(笑) じっくり読んでみることにしました。

 表紙の絵と ファイルしていたカードの絵は 

やっぱり同一人物が描いたもので

 その画家の名はへイスブレヒツ(GIJSBRECHTS : GYSBRECHTS

この綴りを ヘイスブレヒツ と読むこと自体 

もうすでに だまされている気分ですが

じつは彼こそが だまし絵の帝王 と呼ばれている人物なのでした。

 

 

谷川渥 著  『図説 だまし絵』  ふくろうの本 河出書房新社  から、 

まずは序章です。

 

だまし絵とはなんだろう。

フランス語の トロンプ・ルイユ の訳で

文字どおり 目をだます、目をあざむく、という意味。

といっても 心理学的錯視のようなものに短絡して

錯視の体系的な利用により数々の視覚的トリックを構成してきた

エッシャーの作品を思い浮かべてはならない。

 

↓ コレクションしているエッシャーのカードです。

3247

3247 M.C.Escher (1898-1972) Convex and Concave  Lithograph   
1955 M.C.Escher Foundation-Baarn Holland
2004・9・14入手  金管らっぱ

 

 

だます 欺く という言葉を

 どの程度の広さで どのレベルで 用いるかによって

だまし絵の範囲は変わりうるだろうが

 その中核が変わるわけではない。

その意味で これまで日本語で書かれただまし絵論の多くが 

曖昧であったといわざるをえない。

本書は だまし絵の中核を問題とする おそらく日本で最初の

まとまった概論となるはずだ。

その中核とは 『本物そっくり』 ということである。

 

中略

しかし単なる写実性 迫真性だけでは 

たとえどんなに良く出来ていても だまし絵の条件としては充分でない。

だまし絵であるためには、

それがある種の空間的文脈の中に置かれ

そのことによって 迫真性を迫真性でもって 

ひっくり返すというか 屈折させるというか

そうしたレトリックが必要なのである。

そこに 表層空間の二重性ないし多層性というものが生じる。

だまし絵をみるというのは、

たんに描かれた対象の迫真性に打たれることではなく

その迫真性が 画家のレトリカルな技法の産物であることを

享受することなのである。

だまし絵は まず だますことを狙いとする。

しかし それはだますふりをして、結局だまさないから

だまし絵 なのである。

この逆説のうえに だまし絵は 成り立っている。

 

 には わからないことだらけですが 先へ進みましょう。

だまし絵の中核 が 本物そっくり ということの例として 

 古代ギリシャの画家 ゼウクシスとパラシオスの逸話が紹介されています。

この二人の画家の腕比べで  お互いに葡萄の絵を描いて競いあった時のことです。

ゼウクシスが描いた葡萄の絵には  

その葡萄を本物と思った鳥が ついばみにきました。

一方のバラシオスの絵には 白い布がかけられたままで

一向に絵を見せる気配がないので

ゼウクシスは 早くその布をとれ、負けるのが怖いのか? 

と問います。

じつは その布は 

ゼウクシスの目も騙すほど本物そっくりに描かれた絵。

もちろん 勝利はパラシオスに。

 だますふりをして だまさない だまし絵の原点・・・

ん〜〜〜ちょっと解ったような 解らないような

 ま、立ち止まらずに 先に進みましょう。

この本のなかで ヘイスブレヒツの黒布ペロンの絵は 

加速するゲーム という章で詳しくとりあげられています。

 

 

ここで、だまし絵の 帝王 にご登場願おう。

コルネリス・ノルベルトゥス・へイスブレヒツ

1610年頃から70年代終わり頃まで生きた オランダの画家である。

アントウェルペンやドイツに住み デンマーク王の宮廷画家にもなった。

いまでは通常の美術史には まず姿をみせることはないが

われわれの もうひとつの美術史 にとっては特権的な存在である。

彼の描いた幾点かの絵によって だまし絵のなんたるかについて 考えてみよう。

だまし絵の 非常に繊細なゲーム (ミりアム・ミルマン) のありようが

具体的におさえられるであろう。

 

と へイスブレヒツの7点の作品について具体的な考察がなされています。

残念ながら 冒頭のカードと同じものではなかったのですが

 本書で取り上げられていた第四の作品は 

(ヴァニタス画のあるアトリエの壁 1668年  コペンハーゲン国立美術館)

冒頭のカードと類似していますので 参考にしてください。

何度も申し上げていた黒布ペロンとは 

丸まったキャンヴァスのことでした。

 

第三の絵は 画面の右上で木枠から剥がれたキャンヴァスが

丸まって裏地がみえている。

その中に収まったさまざまな事物も

すべてこのキャンヴァスに描かれた 文字通りの

絵空事にすぎないことを直感させる。

丸まったキャンヴァスが 

一旦だまし絵であることを暴露し 否定しているわけだが

かえって 右上の木枠そのものの実在性を 強調することになるから

今度は キャンヴァスと それを支える裏側の木枠という

物質的存在の だまし絵になる。

最初についた嘘を嘘と告白することによって

二番目の嘘を本当と思わせる やり方だ。

だまし絵的表象を 一枚の布に還元することで

なべてこの世は 虚しい ぺらぺらの表面にしかすぎないことを

暗示しているとも いえるから

全体としてはやはり ヴァニタス画になっているわけである。

二重のだまし絵 だまし絵のだまし絵である。

しかし画家は明らかに 

だまし絵のルールに抵触すること をやっているようだ。

それは画面右下を斜めに横切る赤い腕木である。 

(冒頭のカードでは 立てかけてあるように見える赤い棒)

腕木というのは

画家が絵を描くとき絵筆を持つ手の支えとして使用するもので

これをわざわざ描くということは

画家の手になる一枚の絵にすぎないことを告げ知らせる。

中略

第四の絵は 一瞬 第三の作品が壁にかかっているように見える。 

かかっているように装っただまし絵である。

画家のアトリエであるに違いない。

木の壁の実在感がなまなましい。

画家の存在を感じさせる道具がたくさんあって

手前の台のところには パレットと顔料の溶剤の瓶がぶらさがり

絵の具箱のようなものと 絵筆の束がある。

キャンヴァスの中が 一次的なだまし絵

その画布がめくれて露出した木枠が 二次的なだまし絵

その木枠の取り付けられた壁が 三次的なだまし絵で、

全体が三重のだまし絵になっている。

 

 

ヘイスブレヒツは この後も だまし絵のゲームをさらに加速させ

ついには切り抜き絵という変形キャンヴァス(現代芸術に登場するものより よほど凝っている) 

を編みだしたそうで

そこまで一人でやってのけた 彼だからこそ 

だまし絵の帝王 といわれる所以なのだそうです。

よく理解できていない  のご案内では 

あまりにも 申し訳なさすぎますので

ご興味のある方は 是非 この本をお読み下さいませ。

 

 


 

 

<追記>

 

ヘイスブレヒツのカードを もう一枚 入手しました。

 

4724

4724   Cornelis GYSBRECHTS (actif du millieu du 17c )   Vanite
Rennes, Musee des Beaux-Arts   2007・12・13入手  楽器

 

 

↑ このカードは 前述の  『図説 だまし絵』  加速するゲームの章で 

第一の作品として紹介されていたものでした。

 

これは いうまでもなく 主題はヴァニタス。

 何か台のようなところに ごちゃごちゃといろいろな道具が積み重なり

その真ん中に 髑髏(どくろ)がおかれている。

背景が闇に沈んでいるが 右端に柱のようなものがみえるから

台のむこうは奥まっているのだろう。

きわめて 写実的迫真的に 描かれているが

これはだまし絵とはいえない。

なぜなら画面全体は四角く限定されており 

かりに額縁に収められていないとしても

描かれた台や柱が 現実の空間に接続することは 考えられないからだ。

いかに迫真的であろうと 空間的文脈からはずれた絵は あくまでも絵

一枚の静物画であり だまし絵ではない。

17世紀に一世を風靡した ヴァニタス画のなかの 一枚にすぎない。

 

 


 

 

<追・追記>

さらに もう一枚 ヘイスブレヒツのカードを入手しました。

5347

5347  Cornelis Gysbrecht  (Vrijmeester te Antwerpen in 1659/60)
Trinoe L'oeil  Olieverf op doek, 101.6 x 84.2 cm  Promotie Museum voor Schone Kunsten-Gent, vzw
2008・9・20入手  楽器

 

 

  前述の  『図説 だまし絵』  の中には

 「状差しという意匠」 という章があり 

こんな紐にはさむタイプの状差しの絵がたくさん紹介されています。

このカードではないのですが ヘイスブレヒツの作品も載っていました。

 

物体を壁に固定する特権的な意匠のひとつに 

レター・ラック 状差し というものがある。

状差しが だまし絵の意匠として 爆発的に開花したのは 

17世紀後半 バロック時代のことである。

中略

ここでまた あの だまし絵の帝王ヘイスブレヒツに 登場願おう。

彼が挑戦しなかった だまし絵 のジャンルはないといってもよい。

まずは典型的な状差しの絵。

画家の日常の一瞬を写したスナップのようにみえるが

古びた紙片の文字から読み取れる年号から

この作品は充分に時の経過を吸収した 

一種の隠れヴァニタス画なのかもしれない。

ヘイスブレヒツはここでもゲームを加速させる。

1672年の作品では (このカードと類似した作品)

状差しの手前にカーテンを垂らし、さまざまな小物を描いている。

いかにもヴァニタス画に関係のありそうなものもあり 

(このカードでいえば 楽器としての小さなホルンや細長いヴァイオリン)

人生のむなしさという意味が込められている可能性は意識しておかなければなるまい。

 

 


 

 

<追・追・追記>

こんどは 状差しタイプの とても貴重なカードを入手しました。

なぜなら ヘイスブレヒツ自身の自画像が 入っているんです!!

おお! あなたこそが だまし絵の帝王 へイスブレヒツさま なのですね。 

ようこそ、ポストカード音楽会へ。

 

 6420 

6420  ヴァイオリン・画材・自画像のだまし絵  コルネリス・ノルベルトゥス・ヘイスブレヒツ
1675年ワルシャワ王宮所蔵 2010・12・26入手  
ヴァイオリン

 

 


 

    

<追・追・追・追記>

 

これは ヘイスブレヒツ作ではない だまし絵の作品。

6769

6769  Jean-Francois de Motte (deuxieme moitie du XIIe siecle)  Trompe-L'oeil ; Vanite
 Huile sur toile  1.19 x 0.91 m  Legs Anatole Devosge, 1850  Musee des BeauxArts de Dijon,  
2012・6・6入手   
金管らっぱ

 

この作品も 『図説 だまし絵』   に取り上げられていました。

 

フランス人の ジャン・フランソワ・ド・ル・モットの作品。

制作年代は不詳だが これもヘイスブレイツの作品と酷似する。

壁がんの内部もほとんど変わらないから 

明らかにヘイスブレヒツの作品を下敷きにして描いているといっていい。

木枠が掛けられていないで置いてあるところや 

ななめの腕木の両端が画面内に収まっているところが異なる。

いずれにせよ ヘイスブレヒツの作品と全体の印象はきわめて似通っている。

 

 


 

 

<追・追・追・追・追記>

 

ヘイスブレイツ作ではない 状差しのだまし絵。

これも Klopperさんの 自画像でしょうか?

6919

6919  Johan Klopper(1670-1734)  Trompe-I'oeil  Olja panduk 90 x 79. NM 6764
Nationalmuseum Stockholm    2012・7・1入手  
たて笛

 

 


 

 

<追・追・追・追・追・追記>

 

 

↓ このハーネットも アメリカを代表する だまし絵の画家だそうです。

このカードは ずっと前からコレクションしてましたが 

そういう絵とは全く知りませんでした。

冒頭で記した 黒布ペロンのカードを初めて入手したとき 

もうすこし近代の絵かと思ったわけは

先にコレクションしていた このカードを思い浮かべたからでした。

 

903
903  william Harnett  Modeles Anciensー1892ーOld Models  
The Museum of Fine Arts , Boston  2000・9・5入手  
楽器

 

 

 


 

 

<追・追・追・追・追・追・追記>

 

だまし絵が  ついに市民権を得たのでしょうか?

 『奇想の王国 だまし絵展』 が 

2009年6月13〜8月16日 渋谷文化村で開催されました。

パリから帰国したばかりでしたが ぎりぎり間に合って 見に行くことができました。

↑ 903と同じ  ハーネットの作品。

 

6099

6099  VISUAL DECEPTION  ウィリアム・マイケル・ハーネット  狩りの後 1883年
コロンバス美術館(オハイオ州)  2009・8・5入手  楽器

 

 

 

 

同じく 『奇想の王国 だまし絵展』 から 河鍋暁斎の作品

掛け軸の表装にみえますが これは一枚の絵。

 

6100

6100 VISUAL DECEPTION  河鍋暁斎 弾琴五美女憩の図 (部分)
河鍋暁斎記念美術館  2009・8・5入手  

 

河鍋暁斎については こちらに→地獄太夫 でもご紹介しています。

 

 

 


 

 

<追・追・追・追・追・追・追・追記>

 

↓ こちらは またその5年後に 開催された

『だまし絵U 進化するだまし絵』展 に出品された絵です。

ショップでこのカードを入手した日は

ちょうど コレクション開始から15周年目にあたる めでたい記念日♪

スーパームーンといわれる中秋の名月が 燦然と輝くなか 

この 7789 という数字を 感慨深く 見つめていました。

 

 

7789

7789  クリストフェル・ピアーソン 鷹狩道具のある壁龕 1660年代(推定) ワシントンナショナルギャラリー
2014・9・9入手  
つの笛

 

 

 


 

 

<追・追・追・追・追・追・追・追・追記>

 

アメリカのだまし絵の画家 ハーネットの三枚目のカード ゲット! 

 

8780

8780 The Old Violin 1886  William Michael Harnett(1848-1892)
2016・9・26入手    
ヴァイオリン

 

 

 

↑ このハーネットの作品をゲットしたことで

ヴァイオリンのファイルに これと同じようなカードがあることを 発見。

↓ こちらです。

2000年12月入手ということは なんと 約15年間もの歳月を経て

この絵も だまし絵なんだ! と 

気づいたことになります(汗)

これは パサデナに在住していた友人が 

ワシントンナショナルギャラリーから 調達してくれたものでした。

今更ながら 貴重なカード ありがとうございました。

晴れて ネットデビューです♪

 

 1224

1224  03−01−D2657  John Frederick Peto (1854-1907)
The Old Violin  c.1890   canvas  0772 x 0.581m   National Gallery of Art, Washington
Gift of the Avalon Foundation 1974.19.1   2000・12・19入手    
ヴァイオリン

 

 


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