クイズ 屏風編
SCENE4 〜八曲一双 江戸名所図屏風〜
のカデンツ
この屏風は なんと八曲一双!
これまでの最高です。
左右二隻に 八扇ずつあるなんて とうてい一枚のカードには 収まらないでしょうから
きっと この全体図カードは存在しないだろう と思い
内藤正人著 『江戸名所図屏風』 小学館 を 図書館で借り
中綴じの全体図を撮影してみました。
江戸名所図屏風 出光美術館蔵 八曲一双 紙本金地着色 各: 縦 107.2cm 横 488.8cm 江戸時代 寛永期
この本は 一冊まるごと この屏風についての考察で とても分かりやすく楽しく解説してくれています。
この展示室ても まるごと お世話になりました。
手持ちのカードの楽器の詳細を教えていただき 本当に感謝です。
まず 『はじめに』 から抜粋引用します。
この 『江戸名所図屏風』 の醍醐味は なんといっても そこに描き出される江戸庶民の
エネルギッシュな描写につきるだろう。
江戸初期の風景を紹介する 日本史の教科書や 事典類の挿図には
必ずといっていいほど この屏風が引用されるため 前に見たことがあるという読者も少なくないだろう。
実際この屏風には 単に歴史教育の挿図にしておくには もったいないような
ありあまるほどの魅力がみてとれる。
本書では それら各場面を つぶさに追いかけながら 草創期の江戸のにぎわう町中を
楽しく散策していきたいと思う。
本図は 北は上野から南は品川あたりまで 八曲折の横長画面一双にわたって
名にし負う江戸市中の名所をパノラミックな視点から取り上げ
豊かな構成力とともに描き上げた力作である。
景観は 寛永年間 (1624-44 )ごろとされ
いまだ都市の発展が続き 熱気のさめやらぬ様子が そこかしこにみてとれる。
同じ江戸図でも この 『江戸名所図屏風』 が ぬきんでて引用される回数が多いのは
この屏風に内包されたダイナミズム つまり そこに描かれている名もなき無数の人々の
体温を感じさせる生活風俗の描写が すぐれているからに他ならない。
この屏風は 江戸の地図にも なっているのですね。
写真が小さくて申し訳ありませんが 上段の右隻の 一扇(右)から順番にご紹介します。
右隻一・二扇 寛永寺 上野東照宮 不忍池 浅草寺 湯島天神 隅田川
右隻三・四扇 神田明神 佐久間町 蔵前 浅草橋
右隻五・六扇 神田川 筋違橋 吉原 駿河台 浜町
右隻七・八扇 江戸城二の丸・三の丸 大名屋敷 小網町 日本橋川 日本橋
左隻一・二扇 江戸城本丸・西の丸 霊岸島 日吉山王社 中橋
左隻三・四扇 伝馬町 京橋 両替町 木挽町 二十軒堀
左隻五・六扇 新橋 木挽町 柴口 愛宕社
左隻七・八扇 芝増上寺 宇田川橋 芝浦海岸 江戸湊
では さっそく このカードから始めましょう。
3980
3980 江戸名所図屏風(部分) 江戸湊 江戸時代 出光美術館
Famous Views in Edo (Detail) Edo Bay Middle 17th Century 2006・3・8入手 宴祭り踊り
この 3980 のカードは どの扇に描かれているでしょうか?
中綴じの写真では下段 屏風でいうと 左隻の三扇の一番下の部分です。
お分かりになりますか?
八丁堀あたり。
内藤正人著 『江戸名所図屏風』 小学館 の解説で この場面を詳しくみると
江戸湾に浮かぶ屋根船のなかでは いすれも 宴たけなわである。
綺麗どころの舞姿を眺めて わが世を謳歌するお大尽
鼓あり
美形の若衆軍団に 曲を合奏させて悦にいる僧など
鼓あり
みな 打ちそろって遊楽に興じている。
大勢でのそうした派手な遊びとは対照的な
小舟でのささやかな宴のほうに より感情移入する読者も多いだろう。
次は ↓ こちらのカードをご覧ください。
↑ 3980 のカードの 二人乗りの小舟が ここでも登場しています。
つまり こちらも同じ 左隻三扇で 3980 のカードの 斜め左上あたりになります。
7534
7534 江戸名所図屏風(部分) 日本 江戸時代 出光美術館
Famous Views in Edo (Detail) Japan Early 17th Century 107.2
x 488.8 cm 2014・5・16入手 宴祭り踊り
わずかながら もう少し アップになったカードが ↓ こちら。
購入時期に 8年の差があり
かろうじて ダブりものではないカードとして エントリーできました(笑)
3982
3982 江戸名所図屏風(部分) 木挽町 歌舞伎小屋 江戸時代 出光美術館
Famous Views in Edo (Detail) Kabuki Theater in Kobiki-cho Middle
17th Century 2006・3・8入手 宴祭り踊り
(本の解説から)
木挽町周辺から描写のはじまる歌舞伎芝居の絶大な人気ぶりは
本屏風の見どころのひとつとなっている。
総踊りが繰り広げられる歌舞伎小屋のなかを のぞいてみると
舞台の上には 美しく着飾り まるで女性とおぼしき美人たちが ひらひらと扇を操って
扇情的なダンスを披露している。
ところが 女性のようにみえる役者や囃子方たち 舞台上の人物は
みな一様に 頭部に中剃りがあり 若衆まげを結っているため 実はすべて男性である。
つまり美少年軍団であり 描写されているのは 現在の歌舞伎のご先祖・陶酔の美少年芝居と判明する。
こちらは 左隻五扇の下の方に 描かれています。
↑ の 三扇 歌舞伎小屋から 四扇 人形浄瑠璃 そしてこの五扇 歌舞伎小屋や曲芸興行 と続く
木挽町の さまざまな小屋の興行風景が 上から覗き込むように描かれています。
7536
7536 江戸名所図屏風(部分) 日本 江戸時代 出光美術館
Famous Views in Edo (Detail) Japan Early 17th Century
107.2 x 488.8 cm 2014・5・16入手 宴祭り踊り
(前述の本の解説から)
こちらの歌舞伎小屋では 美しく着飾ったかぶき者が
供である猿若を引き連れて 茶屋の女房のもとへ通う という
初期歌舞伎の人気演目 茶屋遊び のシーンが 描かれる。
舞台の造作はいずれも 能のそれを思わせるつくりであり
後年あたりまえとなった花道なども みられない。
当時の芝居は 官能性の高い筋立てが中心であったといわれ
いずれの画面も 大衆芸能である歌舞伎というものが 宿命的に背負っていた
卑俗さや猥雑さを よく暴き出している。
↓ 笛と太鼓の拍子にあわせて 軽業の舞台が進行中だが
この劇場も官許の証である櫓(やぐら)を表通りに堂々と掲げており
歌舞伎小屋である可能性が高い。
枡席(ますせき)などない土間の座り客 桟敷の見物客など
いずれも 思い思いのくつろいだ格好で 舞台見物に時間を費やしている。
これまで左隻ばかりを 取り上げましたが ここから右隻のカードの登場です。
この場面は 右隻二扇の下半分に描かれた 浅草寺・三社祭 の様子。
3979
3979 江戸名所図屏風(部分) 浅草寺 江戸時代 出光美術館
Famous Views in Edo (Detail) Senso-ji Temple Middle 17th
Century 2006・3・8入手 宴祭り踊り
(本の解説から)
いましも祭礼の喧騒の真っただ中にある浅草寺の境内。
よくみると 人々は思い思いの仮装に興じ
互いの衣装を競いながら おおいに楽しんでいる。
本来 合戦時の流れ矢よけである 保侶(ほろ)を背負っているもの
わざわざ 南蛮人そっくりの帽子や衣装を身に着けるもの
←7537から
列をなして 揃いのコスチュームで練り歩くものなど
泰平の江戸の世の いわゆる コスプレファッションも どうしてなかなかのものだ。
↑3979 のカードは境内ですが ↓ こちらは 仁王門の外。
列をなして 浅草寺に向かっています。
右隻三扇と四扇の ちょうど折り曲がる部分に 描かれています。
7535
7535 江戸名所図屏風(部分) 日本 江戸時代 出光美術館
Famous Views in Edo (Detail) Japan Early 17th Century 107.2
x 488.8 cm 2014・5・16入手 宴祭り踊り
そして こちらは神田明神です。
↑ 7535 の浅草寺仁王門の場面の 左上あたり。
右隻 四扇と五扇にわたって 神田明神のにぎわいを描いています。
7535
7535 江戸名所図屏風(部分) 日本 江戸時代 出光美術館
Famous Views in Edo (Detail) Japan Early 17th Century 107.2
x 488.8 cm 2014・5・16入手 宴祭り踊り
(本の解説から)
浅草寺同様 江戸庶民の心のよりどころである神田明神のにぎわいをとらえる。
平将門を祭神に奉る神田明神は 江戸総鎮守と慕われた代表的な神社のひとつ。
図は 同所で繰り広げられる神事能 『賀茂』 勧進興行の模様をとらえる。
柿(こけら)葺きの本格的なつくりの舞台の上では 面をつけ 衣装をまとった演者たちのほか
囃子方(はやしかた) 地謡(じうた) が居並び
また楽屋にも 出待ちの面々の姿がみえる。
なお、舞台中央で
後(のち)ジテ 別雷神(わけいかづちのかみ) がつける面については
従来 大飛出(おおとびで)と紹介されていたが
近年は 飛出類の面でなく べし見類のもの と訂正されている。
は この本を 隅から隅まで じっくり眺め
その描かれた楽器の数の多さに 本当にびっくりしました。
ほとんどの場面に登場するといっても 過言ではないほどです。
こんどまた この江戸名所図屏風のカードを見つけたら
小さくて楽器があるかどうか判別できなくても 即 お買い上げしようと思います。
どこかにきっと 楽器が描かれていると思うから(笑)
ここでご紹介したカードは すべて出光美術館売店で購入したものですが
時期は 2006年3月 と 2014年5月 に分かれています。
2006年購入のものは カードに Middle 17th Century とあり
2014年購入のものは Early 17th Century とあります。
この本が出版されたのは 2003年9月で 『はじめに』 のところに
景観は 寛永年間 (1624-44 )ごろ
草創期の江戸のにぎわう町中
とありますので Early 17th Century 派。
次第に この屏風の研究が すすみ
Middle 17th Century から Early 17th Century へ
改められたのでは と思います。
この場合
Middle 17th Century となっている古いカードの方が 希少価値が高いと思うのは
だけかな(笑)
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