狐憑き
鳴釜神事の実際と考察、相談にみる「邪」の形の例とを違い、実際の狐の念が憑き、長年に渡り辛い思いをした女性の話です。
今年45歳のこの女性は、5年前に協議離婚をし、その後転居し、息子二人と公団住宅に暮らしていましたが、精神的なストレスからパニック症候群になり、今は仕事を止め家にいます。二人の息子も母親の面倒をよくみていましたが、殆んど同時期に彼女が出来、母親に無断で家を出て行き、今はこの女性が一人で住んでいます。
離婚後、今の住所に変わって来てから、部屋の中に「岩の入り口」が見える様になりました。しかしその「岩の入り口」自体は、この女性に対し何もしませんので、気持ちが悪い位の程度にとらえていました。
この女性はパニック症候群になってからは、お酒をよく飲むようになりました。精神科の薬を飲みながらお酒をよく飲みますので、肝臓の調子もよくありません。
外に出ると、何故か度々、交通事故に遭います。
この頃は「岩の入り口」は見えなくなりましたが、部屋の中に「小さな子供が二人」見えるようになって来ました。
今年に入り、父親が亡くなりましたが、その時は少し興奮していたのか体調が良く、人から見れば病気が治ったかの様に見えましたが、父親の初盆の日、お坊さんが帰られた後、急に言葉が出なくなりました。
相談で来訪され、祈祷の依頼をされて帰られました。
本来この祈祷は、女性の家で行うべきですが、近所の目が有りますので、実家の仏壇の前でして欲しいとの事で、実家で行う事にしました。
祈祷の当日、先ず仏壇に向かい、御先祖様に対し、今回の祈祷の趣旨を話し、協力をお願いします。この家の御先祖様の状態は、何も悪くは有りません。御先祖様に、今日までの御加護に対しお礼を言い、お経を上げます。
御先祖様にお経を上げていると、斜め後ろにいるこの女性が、急に頭痛がして、頭を抱えて苦しそうにし出しました。
この女性は、今子供が二人出て来ている、書きます。
御先祖様に対するお経を中断し、急遽、鳴釜の神事の準備に取り掛かりました。
鳴釜の準備をしていると、この女性が四つん這いの格好で、玄関のドアの方に逃げて行きます。
女性の母親が連れ戻しに行きました。連れ戻された女性はぼんやりしています。
祈祷は、普段は私の妻と二人で行いますが、妻は前日の祈祷で疲れていたので、今回は私一人で行います。
この女性との会話も、筆談です。
私は、私の中に入っている巳神に、この女性の障りを出してくれる様に頼みました。それと、この女性にも、見せてあげてくれる様に(余り進められませんが、この女性の母親は長年の知り合いですし、この女性も昔から顔見知りで、この領域の事が見えると分かっていましたので)頼みました。すると、茶色い尻尾が6本出て来ました。それと同時に、この女性も同じ事をノートに書いて寄こします。
私はこの尻尾に、「何もせえへんから、姿を見せてみ」と優しく言いました。すると、茶色い狐が20匹位出て来ました。同時に女性も、同じ内容を書いて寄こします。
私はこの野狐に、「何故、この人に憑いているんや」と聞きました。すると、「居心地が良い」と言います。私は早く出て行ってくれ、と頼みましたが、「こっちの勝手や」「出て行かん」と言います。この繰り返しが続きます。
私はこの20匹位の狐の、大元の狐を呼びました。さすが、眼光の鋭い大きな、茶色い狐が出て来ました。
私は、同じ事を頼みましたが、「出て行かん」と言います。私は、この親分の狐に、「何故、この女性に憑いているや」と尋ねると、子分の狐と同じ事を言います。
私は以前なら、この段階で釜を焚き、強制的に消していましたが、その後の私の気持ちが、後悔をも含め、余り良い気持ちにはなれませんでした。
私は親分の狐に優しく言いました。「あんたらも、元は人を助けるお役で出て来たんと違うんか」「そやのに何で、人が困る事をするんや」と尋ねました。
親分の狐は「居場所がない」と言います。「こっちの勝手や、出ていかん」と言います。私は「そんな事言わんと、出て行ってくれ」と言い、このやり取りの繰り返しです。
仕方がないので、私は京都の伏見稲荷、眷属神、白狐様を呼びました。
一匹の、大きな、白い白狐様が現れました。私は今までの事を話し、払ってくれる様に頼みました。
伏見稲荷の白狐様一匹で、大勢の狐と喧嘩をしています。
私はもう一度、伏見稲荷の神様に「大勢の白狐様を寄こしてください」と頼みました。
そうすると、七匹の白狐様が現れました。七匹の白狐様で、大勢の狐を囲んでいます。
私は、親分の狐に言いました。「確かに、昔、あんたらが住んでいた所を、人間が来て、家や工場を建て、あんたらの居場所を無くした事は悪かった。人間のせいで、あんたらをこんなに追い詰めた事を重々誤る、悪かった。私も、あんたらと喧嘩をするために此処に来たんやない、其処は分かってくれ。これも何かの縁やから、私から伏見稲荷の神様に頼んで、あんたらの居場所を見つけてくれる様に頼んでやるから、あんたらもそこでもう一度初心に戻って修行をし直し、今度は人を助ける方にまわってくれ」と頼みました。
すると大きな親分の狐は、「皆も一緒に行けるんか」と言います。
私は、伏見稲荷の白狐様にその旨を頼みました。
すると伏見稲荷、白狐様は、「付いて来たいのなら、付いて来い」「その代り、ちいとま(少しの期間)閉じ込めて、罪の償いをさす」と言います。
大きな狐にその事を話し、「もう一回修行をし直して、人を助ける方にまわってくれ」「あんたらだけが悪いんやない、私らも悪いんや」と言いました。
大きな狐は考えています。そして前と同じ事を聞きます。「皆と行けるんか」。
私は「皆と行ける様に頼んだるから、行ってくれ」と頼みました。
そうすると、大きな狐は「行く」と言います。
その途端に、大きな狐が小さくなってしましました。
私は狐に、「良い機会やから、一つ聞かしてくれ」「この女性が急に言葉が出なくなってくるしんでいるけど、あんたらがしたんか」と聞きました。
そうすると狐は「それは関係ない」と言います。
私は狐に「そしたら何が原因なんや」と聞きました。
狐は「人間の心を閉ざしとる」と言います。「わしらは関係無いから、直せん」と言います。
私は、狐達に御礼を言い、「あんたらの為に、釜を焚いて、送ったるから、もう一回修行をして、帰ってきてくれよ、頼むぞ」と言いました。
女性は、寝転んで此方を見ています。今までは目を閉じていましたが、今は頭痛もひどくなくなり、目を開けて見ています。
私は女性に、「この釜を見ときよ」と言いました。
伏見稲荷、白狐様にもその旨を告げ、この大勢の狐を連れて帰り、指導をしなおしてくれる様に頼みました。
釜に火をつけました。湯が沸騰しだしました。
女性は、ぼ〜としています。
蒸篭に米を入れます。
釜は大きな音で鳴り出しました。
私は、鳴り出した蒸篭に米を入れながら、「こっちの言う事を聞いてくれて有難うな、修行し直して、今度は人を助ける方にまわってくれよ」と言いました。
釜の大きな音で、窓ガラスも振動しています。相当長い時間鳴っています。
やがて釜の音がす〜と消えていきます。
私は、この女性に言いました。「見えたやろ」「大勢の狐が上がって行くのが、見えたやろ」と聞きました。
女性は、「狐が、次から次へと上に上がって行った」と書きます。
私は、この祈祷は成功した、と確信しました。狐達と喧嘩をし、強制的に消してしまうのとは違います。狐達も、自分の意思で決めた事です。その事に私が協力出来た事に、私自身満足し、又、狐達に、私の言ったを聞いてくれて有難うと、お礼を言いました。
女性は、もうすっかり頭痛は治った、と書きます。
これでこの女性に影響を与えていた狐は消えて無くなりましたが、この女性自身が、もう少ししっかりしないと、又、違うものが入って来る可能性は有ります。