条約改正と韓国の併合(水平社宣言)


6年生の社会科学習の指導案です。
明治になっても残された差別から立ち上がった人々の姿を
「水平社宣言」を中心に学習しました。

ホームページへ 洋一誕生会指導案


第6学年     社会科学習指導案

平成9年10月22日

指導者 松井  直  高岡 宣喜
1 単元
条約改正と韓国の併合
2 単元の目標
○ 欧米列国と日本が締結した不平等条約や,経済的発展にともなって発生した社会問題に関心を持ち,条約改正を目指した日本の近代化政策や生活改善を目指した民主主義を求める運動について意欲的に調べていこうとする。(関心・意欲・態度)
○ 条約改正の成功と政府の近代化政策を関連づけて考えたり,民主主義を求める運動が高まってきた背景には,劣悪な労働条件や生活環境の中で苦しむ人々がいたことに気づくことができる。(思考・判断)
○「職工事情」「女工哀史」などの資料を活用し,当時の人々の暮らしの様子について調べ,わかったことを表現することができる。(資料活用能力)
○ 日本の国際的地位向上の背景には,中国や朝鮮半島の人々の犠牲があったことを理解する。(知識・理解)
○ 生活の改善を目指して労働運動や農民運動が高まってきた中,被差別部落の人々も差別の撤廃を目指して全国水平社を結成したことを理解する。(科学的な認識)
3 指導観
○ 単元「条約改正と韓国の併合」は,明治から大正にかけての近代化政策や急速な経済発展の中での人々の暮らしの様子について調べ,この時期に日本の国際的地位が高まってきたことや,その一方で多くの社会問題が発生し,生活の改善を目指して民主主義運動が高まってきたことを主に学習していく。
  この時期,明治政府はできるだけ早い段階に欧米列国と対等な関係を結ぶことを目指していた。そのため,強力に近代化政策を推し進めていく。対外的には,日清戦争・日露戦争を通して韓国を植民地とする。その結果,日本の国際的地位は向上し,不平等条約の改正にも成功する。
  また,国内的には工業の発展に力が入れられ,急速に経済は発展をする。しかし,それは労働者の低賃金・長時間労働に支えられたものであった。中でも,被差別部落の人々の労働条件は劣悪であり,非人間的な扱いを受けることも多かった。この時期,被差別部落は慢性的な失業状態に陥っており,仕事口があればどのような条件でも,生きるために働かざるを得なかった。それが低賃金長時間労働を可能にし,日本の資本主義経済は大きく発展したのである。
  こうした社会状況は,労働運動・農民運動・女性解放運動などの民主主義を求める運動の高まりにつながっていく。その中で,被差別部落の人々も,差別からの解放を自らの力によって成し遂げようと,全国水平社を結成するに至る。
  全国水平社の基本的な理念は,創立大会で発表された「水平社宣言」によく表れている。人間尊重の精神に貫かれたこの宣言文は,すべての人間の平等を目指したものであり,差別され続けてきた人々の願いや思いが託されている。全国水平社結成を期に,差別と闘う運動が全国的に展開されていくようになるのである。
  全国水平社の結成や水平社宣言について考えていくことは,厳しい差別にたえるだけではなく,団結して闘っていこうとした被差別部落の人々のたくましさに気付かせていく上でも意義深いと考える。 
○ 本学級の児童は,これまでにに5時間の社会科における具体的指導を学習してきている。それらを通して,被差別部落の人々を「苦しい思いをしながらもたくましく生き抜いていった人々」というとらえ方をするようになってきている。また,具体的指導5時間目においては,四民平等の世の中になってもなお差別が残ったこと,経済的にも苦しい状況に追い込まれてしまったことを学んでいる。
  せっかく解放令が発布されたのに,差別の状況が改善されなかった理由について,「これまでおこなってきた仕事ができなくなったから」「人々の差別意識はそう簡単には変わらなかったから」などの予想を自分自身で立てることのできる児童も出てきている。以前に学んだことを生かしながら学習を進めていくことができるようになってきていると言える。本学級の児童は,これまでに学級におけるいじめ問題について考える機会が何回かあった。それらを通して,いじめをなくしていくためには,いじめられた本人はもちろんのこと,それに気付いた人が勇気を持って対処していくことが大切であることを話し合ってきた。本時において,差別に苦しみながらも,団結して立ち向かっていこうとした人々の姿を,共感的に受け止めることのできる児童も増えてきていると考える。
○ そこで本時の指導にあたっては,被差別部落の人々を「差別に対して団結して立ち向かっていった人々」と位置づけて学習を進めていきたい。その際,以下のような点に留意して学習を計画する。
@ 全国水平社の結成を,歴史学習の中にきちんと位置づけるためにも,労働運動や農民運動の高まりと関連づけて取り扱っていく。
 そのためにも,前時において,「女工哀史」などの資料を使って,苦しい立場に置かれた労働者の人々の状況をしっかりと理解させておきたい。そうした社会状況が 農民運動や労働運動の広がりにつながっていったことを押さえておく。さらに,本時においては「炭坑労働における差別の実態」を資料化したものを扱うことで,ただでさえ苦しい労働条件の中で,被差別部落の人々が差別的な扱いをうけていたことに気付かせたい。そのことが,水平社結成に込められた被差別部落の人々の思いや願いを共感的に受け止めさせることにつながると考える。
A 水平社の目指した人間尊重の精神に気付かせたい。
 そのためにも,「水平社宣言」を児童用に書き直したものをじっくりと読んでいくようにしたい。それを通して,すべての人々の平等を目指した水平社の考え方に気付かせていきたい。また,水平社創立大会の様子を記録した資料を提示することで,そこに込められた人々の思いや願いに触れさせていきたい。
 なお,本単元ではT.T.によって学習を進めていく。個人やグループでの調べ学習において,より個に応じた指導を展開していきたい。
4 単元の学習計画(全6時間)
段階 主な学習活動及び学習内容 時数
つかむ @ ノルマントン号事件をもとに,単元の課題をつかむ。
課題1 政府は,条約を改正するために,どのような努力をしたのだろう。
課題2 政府の政策は,人々にどのような影響を与えたのだろう。
1時間
調べる A 政府の政策について調べる。 
 ○ グループでの調べ学習
   ・ 近代化政策について
   ・ 日清戦争,日露戦争について
   ・ 韓国併合について
B 政府の政策の人々への影響について調べる。
 ○ グループでの調べ学習
   ・ 女工哀史について
   ・ 足尾銅山鉱毒事件について
   ・ 民主主義を求める運動について
   ・ 全国水平社の結成について
2時間





2時間
本時
2/2
 
まとめる C 明治政府の政策,その社会への影響について調べてきたことをまとめる。 1時間
5 本時の目標
〇 民主主義運動の高まる中,被差別部落の人々も自らの力で差別をなくそうと,全国水平社を結成したことを理解する。
6 指導過程
段階 学習内容及び学習活動 支援及び指導上の留意点 資料準備
つかむ 1 本時の学習問題を確認する。

学習問題
 被差別部落の人々は,差別とどうたたかったのだろう。 
○ 前時の学習を振り返り,本時の学 習問題を確認する。
○ 主になり授業を進める(T1)
○ 机間指導をし,個の支援をする(T2) 
見通す 2 予想をたてる

 ・ 差別に負けてしまった 
 ・ 差別に負けずたたかった
◎ 予想を立てることによって,自分の考えをはっきり持って調べる活動にのぞませる。


● 自分の考えを持てたか。(挙手)
考える 3 被差別部落の人々の労働上の差別について調べる。

・ 実際に炭坑で働いていた人の話 
・ スラ曳き
・ 炭坑でのその他の差別
○ 被差別部落の人々が,危険な重労働にかり出されていた事実を資料をもとに調べさせる。
○ 主になり授業を進める。(T1)
○ 仕事の内容や住む所,賃金などの差別について補足する。(T2)

● 資料について調べることができたか。(観察)
松本吉之助の話
スラ曳き
4 感想を発表し,被差別部落の人々の行動を予測する。

・ 感想を発表する。
・ 被差別部落の人々の行動の予測

◎ 炭坑での差別に対する感想を発表させ,差別の不合理さについて認識を深めさせる。また,被差別部落の人々がとった行動を,労働運動や民 主化運動と比較しながら予測させる。
◎ 被差別部落の人々の行動については,グループで話し合わせ,考えを深める。

● 資料をもとに自分の考えを持つことができたか。(発表)
深める 5 被差別部落の人々のとった行動について考える。

・ 水平社宣言の内容
・ 被差別部落の人々の反応
◎ 水平社宣言を読み,被差別部落の 人々が団結し,差別と闘おうとした姿に気づかせる。
○ 水平社宣言には被差別部落の人々のどんな思いが表れているか考えさせる。
◎ T1が中心になって授業を進めるが,T2も積極的に話し合いに参加し,学級の事例と関連づけながら,被差別部落の人々の団結する姿や助け合おうとする姿について考えさせる。

● 資料をもとに自分の考えを持つこ とができたか。(発表)
水平社宣言(やさしく書き直したもの)
創立大会に参加して
まとめる 6 本時のまとめをする
被差別部落の人々は,差別に負けることなく団結し,水平社宣言によって,差別に対する闘いをはじめた。

7 次時の予告を聞く。
◎ 被差別部落の人々のたくましさや団結力についてまとめるとともに,本時の授業の感想を書かせ,不合理な差別に対する自分なりの考えを持たせる。
○ 主になり授業を進め,作業の指示をする。(T1)
○ プリントを配付し 机間指導をしながら,個の支援をする。(T2)
○ 時間があれば発表させ,まとめとする。

● 自分なりの考えをまとめることができたか。(作文)
ワークシート