平成27年度の厚生年金の額について(修正2015/6/13)

◆厚労省の発表

平成27年度の厚生年金(報酬比例分)の額についての厚労省の報道発表(1月30日)によると生年月日により次のようになるとなっています。

実際には生年度だけではなく、加入期間がいつかによっても変わりますので、昭和12年度生まれは1.3%だが昭和13年度以降生まれは1.4%などという差はあまり意味のある差のようには私には思えません。この発表は次のように考えるくらいが良いのではないかと思っています。

◆実際は0.7%しか増加しなかったという人が結構いるのでは

しかしながら、詳細に検討すると、必ずしも厚労省発表通りにはならず、0.7%しか増加しない人が結構いそうです。

厚生年金(報酬比例部分)の年金額の決め方は複雑です。その概要と、どうして平成27年度の年金額がそうなると見積もったかについて説明したいと思います。若干複雑なので見落とし、勘違いが有るかもわかりません。検証しつつご覧ください。

 

※ご質問の回答はこちらをどうぞ

 

ここから---

(1)年金額の原則

平成26年度までは厚生年金(報酬比例分)に関して主な計算方法は次の4種類であ
り、これらの計算額のうち最も高い額が支給されることになっている。(平成16年
改正法附則27条、平成12年改正法附則21条)

  本来水準(以降H16H)
   平成16年以降の再評価率表による計算額
    (厚生年金保険法43条、平成12年改正法附則20条)
  物価スライド特例水準(以降H12B)
     平成12年再評価率表を用いた計算額×物価スライド率
       物価スライド率 平成11年を1
    (改正前の平成12年改正法附則20条を経過措置政令第4条で読替え)
  従前額保障(以降H6J)
   平成6年再評価率表と旧給付乗率による計算額×従前額改定率、
    (平成12年改正法附則21条)
   物価スライド特例+従前額保障(以降H6BJ)
       平成6年再評価率表と旧給付乗率による計算額×1.031×物価スライド率
     1.031 : 平成5年から平成10年までの物価変動率(103.7/100.6)
    (改正前の平成12年改正法21条を平成16年改正法27条2項で読替え)

   ※経過措置政令:平成十六年度、平成十七年度、平成十九年度及び平成二十年度
    の国民年金制度及び厚生年金保険制度並びに国家公務員共済組制度の改正に伴
    う厚生労働省関係法令に関する経過措置に関する政令

平成27年度以降はH12B、H6BJが強制的に終了され、H16H、H6Jの2種類となる。

(2)平成16年度の再評価率表

平成16年において、本来の平成16年の再評価率表が平成6年、平成12年基準の
それぞれの再評価率表に対しどれだけ大きいかはおおよそ次の通りである。ただし被
保険者期間により違いがあり、特に平成6年の再評価率表は改定方法の違いによるの
か平成7年以降の被保険者期間に対する再評価率の傾向がかなり異なるので、以下は
おおよその目安である。また昭和13年度以降については平成17年政令92号によ
る。

               平成12年        平成6年
昭和5年度以前生まれ     -2.9%        0.1%
昭和9年度生まれ       -2.9%        3.8%
昭和10年度生まれ      -2.5%        4.2%
昭和11年度生まれ      -1.8%        5%
昭和12年度生まれ      -1.0%        5.9%
昭和13年度以降生まれ(*)   -0.7%        6.2%
    ※平成12年のものは被保険者期間が平成11年3月以前、平成6年のもの
     は平成6年3月以前の場合このようになり、それ以降の被保険者期間の割
     合が大きくなるほどずれが大きくなる。 
         * 平成17年度の値

(3)平成16年度における各水準の比較とその後の変化の原理

1)物価スライド特例水準(H12B)と本来水準(H16H)
それぞれの再評価率の差と、物価スライド値と再評価率の改定率の差で決定される。
平成16年度においては物価スライド値が-1.2%、改定率が1であることを考慮
するとおおよそ次の通りになる。

  昭和9年度以前生まれ   -1.7%
  昭和10年度生まれ    -1.3%
  昭和11年度生まれ    -0.6%
  昭和12年度生まれ     0.2%
  昭和13年度以降生まれ(*)  0.5%
     ※被保険者期間が平成11年3月以前の場合このようになり、それ以降の
     被保険者期間の割合が大きくなるほどずれが大きくなる。
     負は本来水準の方が小さいことを示す。
         * 平成17年度の値

平成17年以降はH12Bが物価スライド特例スライド率、H16Hが改定率で変わるので
平成24年度においてはH12Bがさらに0.8%高くなる。

2)従前額保障(H6J)と従前額保障+物価スライド特例(H6BJ)
従前額改定率は平成16年度を1.001として、毎年既裁定者の再評価率の改定
方法で改定する(平成12年改正法21条4項)。この1.001という値は次か
ら出てきたものである。

   1.001=1.031×0.971
     0.971 平成10年に対する平成15年の物価変動率(100.7/103.7)

平成16年度において物価スライド率は0.988であるから、平成16年度におい
てH6JとH6BJは基礎年金額の本来水準と特例水準の差と同じく物価下落率0.971
と3年間据え置いた物価スライド率0.988の差である1.7%の差がついている。
既裁定者の改定率は、基礎年金の改定率の改定率と全く同じであるから、これは平成
24年度において2.5%に拡大している。

3)本来水準(H16H)と従前額保障(H6J)
(2)で示した再評価率の差と給付乗率の5.3%(本来の給付率が5%低いのであ
るから本来の給付率を基準にすると旧給付率は5.3%高い)及び平成16年度の
従前額改定率の1.001を考慮すると平成16年における本来水準との差はおお
よそ次の通りである。

   昭和5年度以前生まれ     -5.3%       
   昭和9年度生まれ       -1.6%       
   昭和10年度生まれ      -1.2%       
   昭和11年度生まれ      -0.4%       
   昭和12年度生まれ       0.5%       
   昭和13年度以降生まれ(*)    0.8%       
    ※被保険者期間が平成6年3月以前の場合このようになり、それ以降の
     被保険者間の割合が大きくなるほどずれが大きくなる。
     負は本来水準の方が小さいことを示す。 
         * 平成17年度の値

 従前額改定率については既裁定者の改定率の改定率で改定されるので、昭和13年
度以前生まれに対してはこの差は保たれる。(この表は平成17年度までの改定を含
み昭和13年度以前生まれは平成18年度以降既裁定者)。

4)本来水準(H16H)と従前額保障+物価スライド特例(H6BJ)
H6JとH6BJは平成16年度において1.7%の差があるので、H16Hとの差は次の通り
となる。

   昭和5年度以前生まれ     -7.0%       
   昭和9年度生まれ       -3.3%       
   昭和10年度生まれ      -2.9%       
   昭和11年度生まれ      -2.1%       
   昭和12年度生まれ      -1.2%       
   昭和13年度以降生まれ(*)   -0.9%       
    ※被保険者期間が平成6年3月以前の場合このようになり、それ以降の被
     保険者間の割合が大きくなるほどずれが大きくなる。 
     負は本来水準の方が小さいことを示す。
         * 平成17年度の値

従って、4つの計算法のうち平成16年度においてはこの水準が最も高い。
以降本来基準の再評価率は改定率の改定率で改定され、H6BJは物価スライド率で改定
されるので平成24年度においてはさらに0.8%差が開いていることになる。

(4)調整率

平成24年度以降の変化については調整率が関係する。
平成26年度までの再評価率と従前額改定率の改定に対する調整率の適用の可否は、
経過措置政令第11条に定められている。次の通りである。

本来水準又は従来額保障水準を表す指数(第一号指数)
 平成16年度において
   昭和12年4月1日以前生まれは0.986
   昭和12年4月2日以後生まれは0.990
 として平成17年度以降再評価率の改定方法に従って改定する
物価特例水準を表す指数(第二号指数)
 平成18年度において0.9999として物価スライド特例措置の物価スライド値
 を乗じた値

とし第一号指数が第二号指数以下の場合は調整率を掛けない。また上回る場合も調整
率が両指数の比を超える場合は両指数の比を調整率とするというものである。

ここで使われている数値が何かを考えてみるに、平成16年度において昭和12年度
生まれは新規裁定者である。それ以前生まれは既裁定者である。従って、0.986、
0.990の違いは前者が既裁定者に対してのものであり、後者が新規裁定者に対し
てのものであると考えられる。これは平成27年度年金額に対する厚労省の報道発表
資料の中で「 昭和12 年度生まれの方は平成13 年度(12~14 年度の3年平均)まで
の賃金上昇率、昭和13 年度以後生まれの方は平成14 年度(13~15 年度の3年平均)
までの賃金上昇率が本来水準の年金額に反映されている」と言及されていることで
裏付けられる。
さて平成17年の既裁定者の再評価率改定率は1、新規裁定者は1.003である。
平成18年度は共に0,997である。この結果昭和18年度において、第一号指数
は次のようになる。
  昭和12年4月1日以前生まれ        0.983
  昭和12年4月2日~昭和13年4月1日生れ 0.987
  昭和13年4月2日以降生まれ        0.990
第二号指数は平成18年度において1(0.9999)と設定されおり、第一号指数
との差は、昭和12年4月1日以前生まれにおいて1.7%となって、平成18年度
の基礎年金の物価スライド特例水準と本来水準の差に一致する。
厚生年金にいては平成18年度における第一号指数と第二号指数の差は昭和9年度以
前生まれの本来水準(H16H)と物価スライド特例水準(H12B)との差に一致し、またそれ
ぞれの水準は前者については再評価率の改定率で、また後者は物価スライド率の改定
率で改定されるので、第一号指数と第二号指数の差の変化分は本来水準と物価スライ
ド特例水準の変化分を忠実に反映することになる。
基礎年金の場合、平成16年度以降新規裁定者と既裁定者に差がなく(平成16年
改正法附則11条)、特例水準と本来水準の差は一様に変化する。
ところが厚生年金の場合、前述の通り平成16年度の初期値と平成17年度に差があ
り、基礎年金におけるのと同じ変化をするのは、平成16年度において既裁定者で
あった昭和12年4月1日以前生まれの場合のみである。
第一号指数はこの事実を反映し、次のようになる・
 昭和12年4月1日以前生れに比べ
 昭和12年4月2日~平成13年4月1日生れ 平成16年度の差0.4%高い
 昭和13年4月2日以降生まれ       
    平成16年度の差0.4%+平成17年度の差0.3%=0.7%高い
この結果平成26年度における第一号指数は
   昭和12年4月1日以前生れ         0.971
   昭和12年4月2日~平成13年4月1日生れ 0.975
   昭和13年4月2日以降生まれ        0.978
一方、第二号指数は、平成18年度以降の物価スライド率の変化-0.024に
より
   0.9759
となる。
このため平成26年度において昭和13年4月2日以降生まれで第一号指数
が第二号指数を0.2%上回り調整率0.2%が適用された。

(5)平成26年度

平成26年度において調整率の適用を考慮すると、次のようになる。

平16年度を1とした再評価率の改定率
    昭和12年度以前生まれ  0.985
    昭和13年度以降生まれ  0.986
従前額改定率(平成16年度1.001)
    昭和12年度以前生まれ  0.986
    昭和13年度以降生まれ  0.984
改定率を基準にすると昭和13年度以降生まれの再評価率の改定率は0.1%高く
(平成17年基準だと0.2%低く)、従前額改定率は0.2%低い。
平成24年度において、H12BとH16Hの差、H6BJとH6Jの差は0.8%拡大。ただし
昭和13年度以降生まれについては調整率0.2%のため0.6%の拡大。H6Jと
H16Hの差は維持。
以上を考慮すると平成25年、平成26年の物価スライド率と改定率との差を合計
2.0%縮める改定をした後は、各基準の差は平成26年度においておおよそ次の
ようになる。

                H12B       H6J     H6BJ
昭和5年度以前生まれ     -0.5%  -5.3%  -5.8%
昭和9年度生まれ       -0.5%  -1.6%  -2.1%
昭和10年度生まれ      -0.1%  -1.2%  -1.7%
昭和11年度生まれ       0.6%  -0.4%  -0.9%
昭和12年度生まれ       1.4%   0.5%   0.0%
昭和13年度以降生まれ     1.5%   0.8%   0.1%
    ※H12Bは被保険者期間が平成11年3月以前、H6J、H6BJは平成6年3月以
     前の場合このようになり、それ以降の被保険者期間の割合が大きくなる
     ほどずれが大きくなる。また積を差で近似する計算を行っているので、
     平成26年の再評価率表から直接計算したものと比べると0.1%程度
     の差が出る可能性がある。
     負は本来水準の方が小さいことを示す。

この表を被保険者期間による差を無視してそのまま解釈すると、昭和11年度以前生
まれは従前額保障+物価スライド特例(H6BJ)で、昭和12年度以降生まれは本来水
準で支払われていることになる。

(6)平成27年度

 平成27年度の計算法の変化とそれによる年金額の変化は、原理的には次の5通り
が考えられる。
 (1)  H16H → H16H   +1.4%
  (2)  H6BJ → H6J    昭和12年度以前生まれ +0.9%
            昭和13年度以降生まれ +0.7%
  (3)  H6BJ → H16H   昭和12年度以前生まれ +0.9~1.4%
                       昭和13年度以降生まれ +0.7~1.4%
 (4)  H12B → H16H   +1.4%以下
  (5)  H12B → H6J     昭和12年度以前生まれ +0.9%以下
            昭和13年度以降生まれ  +0.7%以下


  (5)の平成26年度における見積もりによると、学校を出てから60歳くらいま
  で大  体厚生年金に加入していたという人の場合は、昭和11年度以前生まれ
  は(2)、昭和  12年度以降生まれは(1)のパターンになるということになるが、
  見積もりの粗さによ  る誤差や、H16Hに対する開きが小さいことから考えて被
  保険者期間のばらつきの影響が大きくなるであろうことより、昭和10年、11
  年生まれについてはどれになるかは人に依存する場合が大きいと考えておいた方
  が良いだろう。

  従って次のようなところが妥当な結論ではないか。
    昭和9年以前生まれ    +0.9%の人が多い
    昭和10,11年生まれ  +0.9%~+1.4%
    昭和12年以降生まれ   +1.4%の人が多い

 しかしながらこれは加入期間のほとんどが平成6年以前にあるという仮定で検討し
ている。実際に再評価率表を見てみると平成6年度~平成14年度、平成18年度以
降は平成6年基準の再評価率表は本来水準の再評価率表と比較したとき、それ以前の
年度ほど小さくない。
特に平成7年度~平成11年度は大きい。従ってこの頃に収入のピークがありそうな
昭和20年前後生れ以降の人になると、平成26年度もH6BJが一番大きく5つの可能
性のうち(2)になる場合がある。この場合昭和13年以降生まれであるので
+0.7%しか上昇しないことになる。このようなケースはかなりあると思われる。
これが正しいとすると厚労省の報道発表は不適切であったことになる。

初稿2015/4/2
修正2015/4/6
●節の番号乱れ
修正2015/6/8
●(6)の(2)~(5)他ミス修正。記述追加。
修正2015/6/13
●修正。結論変更。
修正2018/8/9
●誤り訂正。分かりにくい記述修正
幅乱れ修正2022/8/9