クレームレディ(Complaining Lady)



5月2日(金)
ぽつ、ぽつ
顔に水があたった。ヤベ、雨が降ってきた。

さっきまで晴れていたというに、天気が変わりやすい・・・これぞ噂に聞く"English Weather"ってヤツだね。

スーパー・テスコにて買い物後、海なんか見ながら遠回りして帰ろうと思ったけど、今日はまっすぐ帰ろう。



ハンターズ・ロッジ・ホテル
道草食わないで正解。ハンターズ・ロッジ・ホテルに帰り着いた時、雨は激しくなりつつあった。

レインコートを着ていたとはいえ、やっぱり濡れたなぁ。
早く部屋へ帰って、靴下だけでも替えたい。

Pi-子:すみません、XX番のカギを・・・あれ?
受付には誰もいない。
今日ばっかりは早く部屋に帰りたいのになぁ。

???:Are someone there ? (誰かいないの?)
奥でかなりイラついているような声がした。

???:ちょっと、誰か・・・
奥から顔を出した女性・・・歳は40ぐらいだろうか。

Pi-子:今、受付の人がいないみたいですね。
女性:ああ、まったく困ったもんね、このホテルの対応ときたら!
いや、まぁ、5ツ星ホテルでもないんだし、こんなこともあるでしょう。
しかしこの女性の言い方からすると文句はこれだけではなさそうだ。

女性:この間シャワーのことで苦情を言いにきたのよ・・・私の部屋のシャワー水圧が弱くてね、シャンプーを きれいに洗い流せないのよ。でね、普通は部屋をかえるとかするじゃない、なのに今は満室だからダメだっていうのよ!
Pi-子:はぁ
女性:私は今、美容院へ行って洗髪してるのよ、ひどい話・・・
確かに快適なシャワールームとは言えないが水圧はさほど弱くはないと思うのだが・・・
この人髪の毛が長いからかな?(もうすこしで腰まで届きそうなぐらいの長髪でした)

女性:友人は雨漏りがする部屋で・・・それも苦情を言ってから数日後にやっと替えてもらったのよ。
Pi-子:はあぁ・・・
女性:あなたはどうしてるの?
Pi-子:え?雨漏り?
女性:違うわよ、洗髪よ。
あ、洗髪のことか。

Pi-子:う〜ん、こんなもんだと思ってますけどね。
女性:あら、そうなの。

ガチャ

ドアが開いて、ホテルの従業員が戻ってきた。
ホテルの従業員:ごめん、ごめん。急に雨が降ってきたから裏口に出しておいたものがあったかどうか確かめに 行ってたんだよ。
女性:それはいいけど、あなたねぇ・・・
さっそく先ほどの女性がくってかかりだした。
Pi-子はカギをもらってさっさと退散することにしよう。(さわらぬ神になんとやら、だ。)

内心、彼女のことを「クレームレディ」と命名する。


こんな天気の悪い日は部屋で宿題でもしようかな。
今日の宿題は・・・と。授業でやったことの復習だな。

そうだ、この部分、文法がちょっと分からなかったんだよな・・・。
文法の説明を外国語で言われてもイマイチ理解できないんだよな・・・荷物になるからって思って文法書持って来なかったし・・・。

そうだ、ユースケに借りに行こう。

トン、トン(ドアをノックする音)
Pi-子:ユースケ、いる?
ユースケ:いるよ〜、カギ開いてるから入っていいよ。

ガチャ(ドアを開ける音)
Pi-子:ど〜したの?そんな小さな声で・・・
ノブコ&ユースケ:しっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


Pi-子:・・・ノブコ、遊びに来てたんだ・・・ところで、どうしたの?
ユースケ:隣の部屋のオバさんがうるさいんだよ、さっきも注意されてさ。

確かにこのホテルってば壁が超薄型だけど・・・Pi-子はもともと声が大きいから気をつけなきゃ。

Pi-子:そうだ、ユースケ、文法書、借して。
ユースケ:いいよ。・・・はい。
(文法書を本棚から取ってPi-子に渡す)
Pi-子:いつまでに返せばいい?・・・っていうか、いつまでいるんだっけ?
ユースケ:あと2週間。それまでに返してくれればいいよ。
Pi-子:あと2週間か・・・ノブコはいつまでだっけ?
ノブコ:私は3週間。
Pi-子:ノブコは3週間か。2人とも旅行とかしないで真っ直ぐ帰るの?
ユースケ:いや、オレはまだ帰国しないよ。ケンブリッジの大学へ移って夏までそっちで勉強する。
ノブコ:私・・・私も帰らないと思う・・・このままじゃ帰れないっていうか・・・。
Pi-子:何で?
ノブコ:半年近く滞在しているのに、英語が全然上達しなくって。
Pi-子:そんなことないよ。

マジで。Pi-子よりも話せると思うんだけどな。(比べちゃいけない)

ゴン、ゴン、ゴン

Pi-子:何?
ユースケ:隣だよ。うるさいから静かにしろって壁たたいてくるんだよ。

( ̄へ ̄;)

ノブコ:私、そろそろ帰るわ。
Pi-子:あ、私も。じゃ、文法書借りてくね。


ガチャ
ドアを開けてユースケの部屋を出ると・・・

クレームレディ:Hi! 今日はパーティでもやってるの?
Pi-子たちが廊下に出るタイミングに合わせて、例の隣人も出てきた。


Pi-子の部屋はこんな感じ
Pi-子:あなたは先ほどの・・・
クレームレディ:レセプションのところで会ったわね。

ユースケのうるさい隣人はクレームレディだったのか・・・納得。

Pi-子:あなたの部屋、ここだったんですね。角部屋でいい部屋じゃないですか。
クレームレディ:いい部屋ですって!そんなことないわよ、この部屋は・・・
Pi-子:シャワーの水圧が弱い・・・と?

クレームレディ:それもあるんだけど、ちょっと見てごらんなさい。

クレームレディが部屋の中へ入って行ったので、続いて私たちも部屋の中へ入る。

・・・やっぱり、彼女の部屋は角部屋なので二方が窓、さらに海がきれいに見えた。
さらに、本来2人部屋のようでベッドが2つ。当然ながら広さも1人部屋の倍はあった。

ユースケ:・・・広くていい部屋じゃないかよ。
確かに。ユースケの部屋はPi-子の部屋よりも狭くてスーツケースも全開できないほどだった。
なぜ部屋によって違いがあるのか?というとヨーロッパでは、昔からあったお屋敷なんかを購入してホテルにする場合も建物は壊さずに、 壁などで仕切りある部屋をそのままにして、一部増築する程度の改装で営業するところが多い・・・という話を聞いたことがありますが、 ここもそうだったのかもしれません。
なんせ、幽霊もいるみたいだし・・・(^_^;)

Pi-子:広いし、明るいし、景色はいいし・・・いい部屋だと思うけどな。
クレームレディ:そう思うかもしれないわね。窓が多いからね・・・でもそれがよくないのよ。

何がよくないんだろう?
クレームレディ:おとといの夜、嵐みたいだったでしょう。ものすごい風で。
ああ、確かにひどい天気だったことがあった。
クレームレディ:あの時はすごい風で窓が割れるんじゃないかと思って怖かったわよ。それにね・・・ああ、また。

ばさ、ばさ、ばさ、くぇ〜〜〜


突然の来客・・・Pi-子も悩まされたカモメだ。


クレームレディ:こらぁ!しっ、しっ!!

くぇ〜〜〜ばさ、ばさ、ばさ・・・


すげぇ、このオバさん、一声であのカモメを撃退した!(°◇°;)
クレームレディ:ああ、この街はカモメが多くてイヤになっちゃう。・・・部屋が明るいのはいいけど、これがイヤなのよ。
Pi-子の部屋は窓が1つしかないけど、カモメは来る。(窓際に食料を置いているのも一因かもしれないが)

クレームレディ:あっ!!
今度は何?
クレームレディ:バスタオル、交換してないわ。交換するものは床に置いておくように言われたからその通りにしたのに! このホテルの対応もなってないわね、食事もそんなにおいしくないし・・・それに、この紅茶。
各部屋に湯沸しポットと紅茶、コーヒーが備え付けられているのですが、その紅茶のティーバックを取り上げて・・・
クレームレディ:味も香りもない紅茶。私は自分で買った紅茶を飲んでるわ。ほら、これ、とてもいい匂いでしょう。
"Lady Gray"という名前の紅茶は確かに備え付けのそれとは比べ物にはならなかったが・・・値段が違うだろ・・・

ノブコ:そろそろホームステイ先で夕食の時間だから。(^o^;)
Pi-子:私も食事の支度と宿題やらなきゃいけないし・・・
ユースケ:じゃ、これで・・・おじゃましました。

クレームレディのグチがネバーエンディングストーリーになってきたので退散することにしたのだが・・・。

クレームレディ:ちょっと、待って!
今度は何だというのだ・・・?

一瞬、イヤな予感がしたのだが・・・それは、はずれで、クレームレディは"Lady Gray"のティーバック、2,3袋をくれた。

ノブコ:いや、なんか・・・すごい人だね。
Pi-子:うん、グチることが自分のパワーの源になってるのかな。

聞いている方はパワーが吸い取られていくようだ。

この後、お返しとしてクレームレディにインスタント・ミソスープをプレゼントしました。
会社に来るお弁当屋さんの「お弁当を買ったらみそ汁もご自由にお取りください」という一品。海外でこんなに役に立ってます。

(Pi-子)