永遠の唄

第11話

 携帯電話の着信音が部屋に鳴り響く。は手を伸ばして携帯を取り、相手を確認した。それは、アイズとはまた違う幼馴染み。よく会うことはあるが連絡なんて滅多に寄越さないその相手からの電話に少し驚きつつ、は通話ボタンを押した。

『よお、元気にしてたか?』
「うん。珍しいね、香介が私に電話なんて」

 その電話の主、香介は、軽く笑って話を続ける。

『お前、鳴海の弟と関わってるらしいな』
「そうだけど…、何で?」
『いや…、明日鳴海弟とゲームをする予定だからそいつと一緒にいてほしくなくてな』

 ゲーム。どうやら彼も動きだすらしい。アイズのゲームを思い出し、は眉を寄せた。

「アイズみたいな危ないことはやめてよ?」
『ああ、約束するさ』
「ならいいんだけど…」

 そう呟く彼女に、彼は笑う。

『じゃあな、たぶんまた近いうちに会うだろ』
「うん、またね」

 電話の切れた音がしたので、こちらも切った。
 ――香介が約束を守らない性格だということを、忘れて。



「浅月香介。生年月日からすると現在17歳」

 翌々日の登校中、不意に香介の名前が聞こえた。前を見ると、歩とひよの。は駆け寄って話しかけた。

「おはようございます」
「あ、さん!おはようございます」
「よう」

 の声に気付いた二人は振り返り、彼女の姿を確認して挨拶した。彼女は先程の名前について、知らないふりをして質問する。

「今言ってた人って、どなたですか?」
「昨日会ったブレード・チルドレンだ。大量のスズメバチで殺されそうになったんだよ」
「!?」

 歩の返事には驚いた。危険なことはするな、確かには香介に注意し、そして彼もそれを約束したはずだ。なのにどうしてそんなことをしたのか。
 そこまで考えては思い出した。そういえば彼は約束事はあまり守らなかった、と。どうして忘れてしまっていたんだろうと、彼にも自分にも腹を立てた。しかしそれを悟られてはいけないので、は怒りを抑えてなるべく心配そうな顔を繕った。

「…また大変だったんですね…」
「ホントですよ、もう!ブレード・チルドレンは一体何を考えているんでしょうっ!」

 そうやって怒るひよのに申し訳なくなっては心の中で謝った。
 ひよのは香介についての説明を再開させる。普通なら手に入らないその情報量に相変わらずすごいなと感心した。

「…あんたの情報網は一体どーなってるんだ?」
「こんなのちょろいですよ。ここ10年の中学、高校の生徒を“浅月香介”で検索すれば一発でした。まあ、見ててください。一週間もすれば現在の居住地まで割り出してみせますから」

 彼女の黒い笑みに歩は思い切り引く。これは下手に動けないかもしれないなとは思った。でも、彼女の見ている場所で不審な動きをしない限り、は疑われないだろう。気を付けて行動すれば恐らく問題ないと、そう信じることにした。

「……あのー、あの鳴海さん?」
「………」
「鳴海さん!」
「あ゛?」

 考え込んでいたらしい歩は、大声を出して呼んだひよのにようやく気付き、彼女を見た。彼女はどことなく機嫌を損ねている。

「何か忘れてませんか?」
「ああ゛?」
「ほら!“ひよのちゃんありがとうっ、キミがいなければ僕はダメだよぉ”――みたいな感動的なお礼の言葉を――」
「はあ?なんてそんなことを」

 そう言った歩にひよのはますます仏頂面になり怒った。二人のこんなやりとりももう何度目だろうと思いながら、は穏やかな笑みを浮かべた。

「ひゃうううううう」

 すると、後ろから突然聞き覚えのある悲鳴が聞こえてきた。それと犬の吠える声に3人は振り返る。後ろではの予想した通りの少女がパンを抱えながら犬に追い掛けられていた。相変わらずだなと密かに笑っていると、少女はつまずいてこけ、地面に落としてしまったパンはその犬に取られてしまった。

「はう~、あ…朝ゴハンがあ~」
(あらら…)

 は彼女のそんな様子に苦笑する。そして彼女は周りの視線に気付くと、顔を真っ赤にしてまた何度かこけながら去っていった。とろい娘だなと言う歩にはもう一度苦笑する。
 今日はたまたまお金を多めに持ってきている。あとで彼女に何か買ってあげようとは思った。



「理緒」
「あれっ、ちゃん!?どうしたの?」

 先程の少女、理緒の元へ行き声をかけると、彼女は少し驚いての元へ近づいてきた。そんな彼女にはここに来る前に自販機で買った飲み物とお菓子を差し出す。

「はい、朝ご飯。さっき犬にパンを取られてたでしょう?」
「はうっ、見てたの!?」
「うん。だから、奢り」
「ありがとちゃん!大好き!!」

 恥ずかしさに頬を染めながらもにっこりと笑い、受け取ったそれを食べ始める。それから彼女は言った。

「こうやって学校で話すのも久しぶりだねー」
「そうね」
「そうだっ!久しぶりに一緒に帰ろうよ!」

 目を輝かせる彼女に、も笑顔で頷いて同意した。歩たちといるのも楽しいけれど、たまにはこういうのも悪くないなと、放課後が楽しみになって、機嫌がいいまま理緒と別れて自分の教室へと戻っていった。


2009.03.23