永遠の唄
第9話
      「これではおもしろくない。なんだあの腰ぬけは…」
      
       ステージで歩たちに会ったあと、アイズとの二人は外へ出ていた。アイズは機嫌悪そうに呟くと公衆電話に入っていく。手招きされたので、少し狭い気もするがも中へ入った。
      
      「素敵なプレゼントをしてやろう」
      「な、何を…」
      
       にやりと笑ってボタンを押し始めたアイズに、は嫌な予感がした。耳をすまして電話の音に集中する。
      
      「やぁ愉快なお報せだ、時間が5分を切ってるから手早く言うぜ。実は退屈しのぎで特別席に爆弾を仕掛けさせてもらった」
      「!!」
      
       彼の言葉には口に手を当てて驚く。特別席に爆弾…。恐らく歩の席に仕掛けたのだろう。は困惑した顔でアイズを見つめた。
      
      「火薬は200キロ…。ホールの屋根もふっとぶぜ!」
      
       彼はそう言って電話を切り、無線を取り出した。その無線からは微かにホールのざわめきが聞こえている。
      
      「アイズ、どうして…っ!」
      「ゲームでナルミ弟が死んでも構わないとキヨタカが言っていた」
      「そんな…。清隆は何を考えて…」
      「さあな」
      
       無線から聞こえる歩たちの声を聞き、アイズはにやりと笑う。外に出た彼についていきながら、は歩たちの安否を祈った。
      
      
      
       アイズの泊まるホテルに着き、二人は中に入った。はソファーに腰掛けて目を閉じる。その様子を見たあと、アイズは窓の外を眺めながら無線を聴いていた。
       無言のまま時間は過ぎる。暫くして、不意に無線から大きな声が聞こえてきた。それを聴いてアイズは口を開く。
      
      「…解除したか…」
      「!…そう…、よかった…」
      
       は溜息を吐き、立ち上がった。爆弾が解除されたのでここにいる必要はもうない。アイズと雑談する気分でもないので、もう帰ると彼に言い、部屋を出ていった。
      
      
      
       翌日、彼らの様子が気になったこともあっては久しぶりに新聞部に顔を出すことにした。するとひよのが亀のぬいぐるみで遊びながら陽気に歌っていた。歩は不機嫌な顔で雑誌を見ている。
      
      「『やあッ、ナルミ弟!ごきげんナナメだね!』」
      
       そんな彼に、ひよのは楽しそうに亀の手を上げさせ演技をする。
      
      「『なぐさめてあげようか?』」
      「黙れ」
      
       歩が速答で拒否したので、ひよのは悲しそうにしゅんと眉を下げた。
      
      「そんな言い方あんまりです。とおっても心配してるんですよ?亀さんのメッセージを聞いてからずうっとおかしいじゃないですか」
      「…だったらこれみよがしにそんなもん持ってくるな!」
      「亀さんに罪はないですよ!ほうらこんなにかわいい♡」
      
       ぼふっと亀を歩の頭に押しつける。は亀のことを知らないふりをしてひよのに問い掛けた。
      
      「ひよのさん、亀のメッセージって何ですか?」
      「昨日会場で爆弾騒ぎがあったのは知ってますよね?あれ、私たちが解除したんですけど…。その爆弾についていた亀さんが、解除したあとに“おめでとうナルミ弟!ブレード・チルドレンはキミを待っていたよ”って言ったんですよねー」
      「そうなんですか…」
      
       ひよのは亀を歩に押しつけたまま彼を見る。
      
      「…で、鳴海さん。何が引っ掛かるんです?」
      「……あの亀…」
      
       歩は亀のぬいぐるみを退けながらぽつりと呟いた。
      
      「俺のことを“ナルミ弟”と言った…。あんな言い方したってことは…、あの爆弾を仕掛けた奴は兄貴のことを知ってるってことになる」
      「…まあそうでしょうね」
      
       ひよのは亀のぬいぐるみを抱き抱える。
      
      「行方不明のお兄さんの影がちらりと見えました。よかったじゃないですか」
      「…見え方が気にいらない。どうして俺を巻き込む?兄貴が俺のことを教えたっていうのか?…兄貴が姿を消したの…、家族を厄介事に巻き込まないためだと思ってたんだが…」
      「…………(それは…)」
      
       それは、歩を成長させるため。彼をたちの救いの鍵にさせるため。彼に何ができるのか、それは今は恐らく清隆しか知らないだろうが。
       考え込んだ歩を見て、軽く溜息を吐いた。ひよのは歩に近づいて彼の顔を覗き込む。
      
      「そんなの考えてもわかりませんよ。どーんと構えてましょ」
      「ちょっとあっち行ってろ」
      「そんな口の利き方していーんですか?」
      
       歩に手を振って邪魔者扱いされたひよのは、むっとしてから人差し指を立ててにっこりと笑った。
      
      「これまで私の情報でどれくらい助かったと思ってるんです?鳴海さんは私にすんごい借りがあるんじゃないですか?」
      
       歩はびくりと体を動かし、自分を抱き締めるように腕を組んで青ざめた。はかわいそうにと思いながら苦笑する。ひよのは怪しげな笑みを浮かべた。
      
      「これからも私がいないと困るんじゃないですか?園部隆司に関する新情報もあるんですよ?」
      (…園部の…?)
      
       彼の名前には反応する。何かおかしなことを言わなかっただろうか。そう思う横で、歩は観念したように肩を落とした。
      
      「……わかった…。何が望みだ」
      「駅前の喫茶店に興味深いパフェがあるんです。おごってください♡」
      「じゃあ私も行こうかな。あ、私の分はいいからね」
      
       歩は溜息を吐くと、行くぞと言って二人に背を向けカフェテリアに向かっていった。
2009.02.04
