永遠の唄

第7話

「……あいつは、…あいつは俺に協力を求めてきた。……“同じ”…だったから…」

 負けたと分かり座り込んだ辻井は呟き始める。そして彼が発した言葉には驚いた。まさか、野原だけでなく辻井まで彼女と“同じ”、ブレード・チルドレンだったなんてと。だから野原は辻井に協力を求めたのか、と。
 は話の続きに耳を傾けた。
 野原は彼に、宗宮を殺したが計算が狂ってきてしまったので、逃げるのを助けてほしいと辻井に言ったらしい。彼はいつまでも警察から逃げ切れるわけがないと言ったのだが、すると彼女は“死の聖樹館”の主人に協力してもらうから大丈夫だと答えたようだ。そして、偽善ぶっても仕方がない、どうせ自分達は“呪われた子供”、ブレード・チルドレンだ、と。それに辻井も宗宮殺しに無関係ではないんだと、そう言ったのだ。
 彼の話を聞いて、は胸が辛くなった。胸に手を当てて、少しだけ顔をしかめる。

「…許せなかった…。他のことはともかく――…、宗宮を殺したことだけは許せなかった…」

 彼は足の上に置いていた手に力を入れる。そして怒りと悲しみの混ざった顔をした。

「宗宮が好きだったんだ…。その上俺を利用して。――あいつは一人だけ“呪い”に負けるのが嫌だったんだ。だから俺も殺人に巻き込んだ…」

 辻井は力なく笑うと俯けていた顔を上げる。

「結局俺も人殺しだ。所詮俺も、“ブレード・チルドレン”ってことか――…」
「ちょ…っ」

 彼の言葉を聞き、まどかががしっと彼の肩を掴んだ。

「“呪い”ってなんのこと!?あなたも“ブレード・チルドレン”って――…」

 彼女はそう叫ぶが、辻井からの反応はまるでない。絶望しきっている彼の顔を見ていられなくなり、は俯いた。
 …呪われた子供、ブレード・チルドレン。その呪いには、どうしても逆らえないのだろうか…。
 目の前にいる辻井と、それから野原。その呪いのせいなのか殺人を犯してしまった二人。二つの事件を思い起こして、は俯いたまま歪んだ笑みを浮かべた。



 たちは警察に辻井が連れていかれるのを見送った。彼が抵抗する様子はなく、その表情は相変わらずだった。彼の姿が見えなくなると歩は口を開く。

「ねーさん、本当に矢羽から指紋が出たのか?」
「科警研に頼んだら、“やってみなくちゃわからない。一週間待て”って言われたわ」
「……!」

 彼女の答えに3人は思わずぽかんとする。

「じゃね、晩ゴハン期待してるわよ」

 彼女は手を振りながら踵を返し、車に乗って去っていった。残された歩は呆れた表情をする。

「いい性格してるよ…」
「そうね…」

 もまた呆れた顔をし、歩の言葉に相槌を打った。すぐに他のことを考えだした歩にひよのは話しかける。

「…あの」
「あ?」
「“ブレード・チルドレン”ってなんですか?」

 その言葉に、歩は空を見上げる。

「――そう言い残して兄貴が消えた。もう2年も前の話だけどな」
「……」

 も空を見上げ、息を吐いた。
 これで一応キリがついた。いや、正確にはまだ残っている。しかしこれ以上首を突っ込むとどうなるか分からない。少なくとも、にとっていい方向には進まないだろう。暫らく彼らとは距離を置かなければいけない。そう思って、彼女はゆっくり目を閉じた。



 宗宮と野原の殺害事件が終わって数日後。は歩たちとはずっと別行動をとっていた。その間に歩たちは、辻井の言っていた“死の聖樹館”での事件を解決していた。その直後にひよのが携帯電話で大体の出来事を教えてくれたのだ(何故電話番号を知っていたのかは、はもう気にしないことにした)。
 彼らとは、たまに会ったときやが新聞部に顔を出したときに話すぐらいで、それ以外はほとんど接していない。歩とはが登校したときは毎日会っているが、お互いの性格からあまり一緒にはいなかった。それでも二人は特に気にしていなかったので、にとってはありがたいことだった。
 そしてひよのの電話の数時間後に、の家で再び携帯が鳴った。は携帯を取り、相手を確認する。それは暫らく会っていなかった懐かしい幼なじみだった。は顔をゆるませて通話ボタンを押す。

「久しぶり。どうしたの?」
『ああ、これからそちらへ向かうことになってな』

 それを聞いて、更に表情が明るくなった。

「本当?楽しみ。何時ぐらいに着きそう?」
『そうだな、今からだと…明日の午前中か』
「そう、それじゃあ明日は学校を休んで家で待ってるね。こちらに着いたらまた連絡して。すぐに向かうから」

 は笑いながら言う。

『ああ、わかった。それじゃあ』
「ええ、楽しみにしてるね」

 そう言って、電源を切った。そしてそのまま折り畳んだ携帯を抱き締めて笑う。

(本当に久しぶり…。早く会いたいな。…アイズ)


2009.01.18