時の流れを見守る少女
第2話
たちの元から去っていったグレンとカタリナを見送って、はとスノウを向き直した。そして一礼をする。
「改めて、よろしくお願いします」
「いや、こちらこそ。君のことはって呼べばいいのかな?」
「はい、お好きなようにどうぞ」
じゃあそうさせてもらうよ、とスノウは頷き、話を進めた。
「じゃあ、君はどこから来たんだい?」
「遠いところからです。ずっと北にある小さな国の小さな村なので、たぶん言ってもわからないと思います」
「じゃあ、どうしてここを見学したいと思ったの?」
「せっかくラズリルに来たから、見たいなと思いまして」
「じゃあ、何でラズリルに?」
「…えっと、」
随分と訊いてくるな。スノウの質問の嵐にはさすがにたじたじになる。そんなの困っている様子を見て、が静かに口を開いた。
「スノウ、が困ってるよ」
「ああ、ごめんごめん」
の言葉にスノウもようやく自分が質問攻めをしていることに気が付き、苦笑して謝った。旅人がそれほど珍しいものなのだろうか。それとも、どう見ても自身より幼く見えるが旅をしているということに興味を持ったのか。どちらにせよ、その質問の山に少し疲れてしまったので、の気遣いがにはありがたかった。
「そうそう、、敬語はいらないよ」
「え?」
いきなり発されたスノウの言葉に、は首をかしげた。スノウは微笑む。
「これから友達になるのに敬語じゃ、なんかよそよそしいだろう?」
「ああ…、そうね、そうするわ」
どうやらはスノウに気に入られたようだ。そう思いながら、愛想よく笑って頷く。友達になる気はなかったが、こういうときはそれに素直に従っていたほうが後々動きやすいだろう。
「長々と余計な話をしてすまなかった。訓練所へ案内するよ」
「ええ」
は二人についていき、訓練所に向かった。訓練所に案内されると、そこでは多くの兵士が訓練をしていた。訓練生もいれば、正規の騎士団員もいる。各々が必死に訓練をしており、訓練所全体から気迫が感じられた。
「皆頑張ってるわね」
「そりゃあそうさ、僕たちは立派な騎士にならなきゃいけないからね」
「そうね。ここって私みたいに見学に来る人はいるのかしら?」
「あんまりかな。たまに訓練生の親が子供に差し入れをしに来たりすることはあるけど。そんなに来られると訓練の邪魔になるだろうしね、皆気を遣ってくれてるよ」
へえ、とは呟いた。確かに、数人ならいいが、あまり大勢の人々がこの訓練所に来ると訓練のスペースも減るし、気も散るだろう。今まで回ったどの訓練所もまた似たようなものだったなと、昔の記憶を思い返した。
「あ、スノウ!何やってんのー?」
「やあジュエル」
訓練生のうち、短髪の活発そうな少女がこちらに気づいて近づいてきた。額にはナ・ナル島出身者特有の印がついている。彼女の後ろには、彼女の様子に気づいた者たちもついてきていた。青年が二人と、少女が一人。いづれも訓練生である。後ろの少女は耳がとんがっていた。エルフだ。
「タルにケネスにポーラも、皆揃ってるね」
「よっ、スノウ!」
「…その女の子、誰?」
少女はを見て訝しげにスノウに訊ねた。を見る少女の目は、どこか刺があるように感じる。人見知り、というわけではなさそうだ。
「ああ、この子は。旅をしていて、ラズリルに来たから館を見学しに来たらしいんだ」
「そうなんだー!あたしジュエル!宜しくね!」
旅の者とわかった途端、ジュエルは笑顔で自己紹介をした。今の様子では感づいた。もしかしたら、彼女はスノウに気があるのかもしれない。年頃の少女らしい。可愛らしいなとは思った。
「俺はタル!宜しくな」
「ケネスだ」
「ポーラです」
「よ。宜しく」
がっしりめの体型で短髪の青年はタル、長めの髪を後ろで結っている利発そうな青年はケネス、ジュエルよりは少し長い短髪の大人しそうなエルフの少女はポーラというらしい。名前と顔を確認して、も自己紹介をした。
「あたしとそんなに歳変わらないっていうか、あたしより幼いように見えるのに、旅してるのってなんかすごいなー」
「そうかしら?」
「そうだよ!ね、ポーラ」
「ええ、そうですね」
この見た目の年齢で旅をしているということは、そんなに珍しいことだろうか。何百年も旅をしてきたが、もっと幼い少女でも旅をしているものはたくさんいた。がすごいのなら、その少女たちはもっとすごいということになるだろう。
「ねね、いつから旅してるの?」
「ずっと昔から旅してるわ」
「え、それって小さい頃からってこと!?すごい!!」
ジュエルはきゃっきゃとはしゃぐ。確かに、旅はずっと昔からしてきている。しかしは不老だ。ずっと昔でも、見た目は今とまるで変わらない。そんなことは当然知らない彼女たちは、尊敬の眼差しでを見ており、は自分が嘘をついているような気分になった。
「そうだ、ついでに他の場所も案内してあげるよ!」
スノウが口を開いた。
「関係者以外は入れない場所もあるけど、見たいだろう?」
「ええ、あなたたちの訓練の邪魔にならないのなら、是非」
「はは、1日ぐらいはこんな日があってもいいさ。なあ、?」
「うん、そうだね」
はスノウとに礼を言った。そしてジュエルたちと別れ、二人に案内されてさまざまな場所へ行った。途中、食堂でフンギという料理人の素晴らしい料理もごちそうになり、お腹も満たされた。館の中は広くて、回るだけで時間が過ぎていった。
「うーん、こんなものかな」
再び訓練所の出入り口に辿り着き、たちは立ち止まった。どうやら一通り回りきったらしい。時間も、ちょうど日がくれてきた頃だった。
「館には色々なところがあるのね。楽しかったわ」
「そう言ってくれると案内した身としては嬉しいな」
「今日はもう日が暮れてきたから、宿でもとってくるわ。また明日も来ていいかしら?」
「もちろんさ。団長にもそう伝えておくよ」
「ええ、お願い。それじゃあ」
「ああ、また明日」
「おやすみ」
は二人と別れて、街に向かっていった。
2010.12.30