midnight call
第11話
       雪子が復帰した翌日、たちは再びテレビの中に入った。次の事件が起こる前に、鍛えておこうというのが目的だ。
       特にと雪子は、まだ力を手に入れたばかりで戦闘経験はない。事件が起こっていきなり新しい場所で戦うより、たちの慣れた場所で感覚をつかんでおいたほうがよいということになったのだ。そういうわけで、たちは雪子の城へと足を運んだ。
      
      「コノハナサクヤ!」
      
       雪子は自身のペルソナを召喚した。コノハナサクヤは炎をまき散らし、シャドウを焼き払う。シャドウは一瞬にして消えていった。
      
      「雪子すごい!」
      「ユキちゃんは物理より魔法系が得意みたいクマねー」
      「ふふ、やったあ」
      
       雪子は武器にしている扇であおいで微笑む。初めての戦闘にしてはかなり鮮やかなその様子に、は感心した。
      
      「またシャドウの反応クマー!いくクマよー!」
      
       クマの声がかかり、たちは身構える。少し前方に現れた黒い塊はすぐにこちらに気付き、迫りながら形を変えた。
       は縄跳びの縄を手に持つ。ペルソナを召喚しない通常攻撃には、この縄を鞭のようにして攻撃することにしたのだ。縄跳びの縄を持っている姿は少々幼稚かもしれないと思ったが、他によさそうな武器と言ったら、ナイフなどの物騒なものしか思い浮かばなかった。
       シャドウはに向かってくる。は狙いを定めて縄を叩きつけた。縄は見事シャドウに命中する。シャドウが怯んだ隙に、はペルソナを召喚した。
      
      「カグヤ!ジオ!」
      
       のペルソナであるカグヤはシャドウに雷を落とす。シャドウはうめき声のようなものをあげ、消失した。
      
      「チャンシャドウ1体撃破クマー!」
      「やった!」
      
       は初めての勝利に思わず喜んだ。自分にもシャドウを倒すことができるのだ。そう気分が高揚した。
      
      「っ!後ろ!」
      「え?」
      
       急に千枝の叫び声が聞こえた。は後ろを向く。すると、すぐ後ろにはシャドウが。攻撃される。庇えない。
      
      「きゃあっ!!」
      「!?」
      
       シャドウの物理攻撃をまともに食らい、は突き飛ばされた。予想外に衝撃が大きい。
      
      「あちゃー、チャンは物理攻撃が弱点みたいクマ…」
      
       その理由は、クマの言葉によってすぐに判明した。よりによって一番食らう可能性の高い物理攻撃が弱点だなんて。尻餅をついた状態のままは歯を噛み締めた。
       ペルソナが覚醒したばかりで戦闘に不慣れなには、弱点である攻撃をまともに食らってしまったのは痛かった。頭がくらくらする。もう少し衝撃が大きければ気絶していたかもしれない。
      
      「あっ!チャン危ないクマー!!」
      「…っ!!」
      
       クマの叫び声が聞こえては顔を上げた。目の前には、いつの間にかシャドウ。…物理攻撃だ。
       今の状態ではとてもかわすことなんてできない。は固く目を瞑り、直撃を覚悟した。
      
      「うっ!」
      「…え…」
      
       しかし、先程のような強い衝撃は来なかった。代わりに抱き締められる感覚と、耳元で小さな呻き声が聞こえる。
      
      「いってて…大丈夫か?」
      「花村、く…」
      
       目を見開くと、目の前には陽介。そのすぐ向こうではに襲いかかってきたと思われるシャドウがに倒されていた。…陽介にかばわれたのだ。そして、はっと先程の状態に気が付く。先程の抱き締められた感覚、あれは彼のものか。
      
      「だ、大丈夫、ありがと…」
      「そっか、よかった」
      
       は未だに近い場所にいる陽介から目を逸らした。目を合わせること自体苦手としているのに、こんな至近距離、しかも男子と。そして庇うためと言っても抱き締められたのだ。顔が熱くならないはずがない。鼓動が速い。
      
      「大丈夫?」
      「ケガはない?」
      「う、うん、何とか…」
      
       千枝と雪子も近づいてきてを気遣った。はそれに頷く。先程大きなダメージを受けたが、幸い怪我はないようだった。
      
      「立てるか?…ほら」
      「え」
      「手、出せって」
      「あ、うん…」
      
       陽介は手を差し出す。も戸惑いながら手を出すと、陽介はその手を引っ張って、立ち上がらせた。
      
      「ご、ごめんね」
      「謝んなくていーって!しゃーないしゃーない!」
      「ケガは?」
      「心配すんなって」
      
       はおろおろとする。その様子に陽介は笑い、の頭に手を置いた。
       陽介は大丈夫だと言っているが、本当に大丈夫なのだろうか。そう思っていると、二人は光に包まれた。
      
      「が心配してるみたいだから、回復」
      
       どうやらが二人を癒したらしい。は苦笑しながらそう言った。
      
      「おー、サンキュ、相棒!」
      「あ、ありがとう!」
      
       と陽介はに礼を言う。は、どういたしましてと微笑んだ。そして、先に進もうと号令をかける。それに従って、たちは歩き出した。
       奥に進むにつれてシャドウは強力になってきたが、も雪子もだいぶ手慣れてきたようで、効率よく倒せるようになってきた。先程のように物理攻撃をまともに受けることもほとんどなくなった。縄で攻撃をするとき以外は後衛に回り、ペルソナを召喚してシャドウを撃破することにしたのだ。
      
      「中に強力なシャドウがいるクマ!気を付けるクマ!」
      
       城の最上階へ辿り着くと、クマが声をあげた。たちは心の準備をすませて扉を開く。すると、中には巨大なシャドウが佇んでいた。巨大だが、可愛らしい王様の容姿をしている。
       シャドウはたちの姿を確認すると襲いかかってくる。その体は目掛けて突進してきた。は軽い身のこなしでそれをかわし、ペルソナを出した。
      
      「このシャドウは物理攻撃が主体みたい。チャン気を付けるクマよ!」
      「うん!」
      
       クマの言葉には頷いた。そして、一歩下がる。縄で攻撃するのはやめておいたほうがよい。
       たちは次々と攻撃を仕掛けていく。いくら相手が強力でも、1体に対してこの人数だと、さすがにそこまで苦戦はしなかった。シャドウは力尽き、消滅した。
      
      「これで終わりかな」
      「そうだな」
      
       たちは辺りを見回す。この部屋は行き止まりで、他には何もなさそうだ。
       ふとは何か落ちていることに気がついた。そして、それを拾い上げる。
      
      「これ、天城に」
      「あ、新しい武器」
      
       落ちていたのは扇だったらしい。はそれを雪子に渡した。そして、他にも何かないかと辺りを見回す。
      
      「…天城ももだいぶ慣れたみたいだし、今日はもう戻ろうか」
      
       どうやらもう何もないらしい。は振り返ってそう言った。たちは皆頷いて、再びシャドウを倒しながら来た道を引き返していった。
2011.06.24
