星に願いを
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あたしは、とにかく必死だった。

次の日、朝早くに宿を引き払った。
その足で、魔法医の先生のところに行き、ガウリイの治療代と怪我が治るまで、絶対に外に出さないようにお願いした。
先生は不思議そうな顔をしたが、快く了承してくれた。
そして、ガウリイへの「お小遣い」を渡してくれるように頼んだ。
お金がなくて野垂れ死に・・・なんて言うのは、あたしも寝覚めが悪いからね。


空は高く、澄んでいた。


街を出てから、とにかく歩いた。
時にはレイ・ウイングで森の中を飛んだ。

自分の痕跡を隠すなんて簡単だ。

少しのお金があれば、人が分からないように宿に泊まったり、食事をしたりできる。
問題なのは、人の噂。
人の口に板はつけられない。
できるかぎり、人目をさけるように、あたしは移動していた。


そうやって、次の街へと、休みもせず、漂うように旅をする。

長く滞在すると、自分の存在を知られるような気がした。
できるかぎり、目立たないように、街道沿いを歩く旅が何日か続いた。

気がつくと、ガウリイと離れてから、何日も経っていた。
ただ、ガウリイから離れることに必死で、その日数すら覚えていなかったけれど。


けれど、自分の疲労がたまっていることに、全くあたしは気付いていなかった。



その日。

あたしは、小さな街の入り口にさしかかった所で、不覚にも倒れてしまった。


ストレスと。
疲れと。
両方が溜まっていたのだろう、そう魔法医の先生は言った。

今回は、魔法医にかかりっぱなしだな・・・。
あたしはベットの上で一人、呟く。

でも、こんなことしていられないんだ。
早くしないと、ガウリイに見つかってしまう。


ガウリイは。
のほほんとしているくせに、変なところは鋭くて。
でも、すごく優しくて、安心できて・・・。

普段はクラゲみたいに、のらりくらりしてるけど、戦闘の時は、鋭いナイフみたいに斬りこんでいくんだよね。

必死に痕跡を隠しながら逃げてきたけど、ガウリイの野生の勘はすごいから・・・あたしのことを見つけてしまうかもしれないし・・・。

そう思って一人、苦笑する。


自分からガウリイを切り捨てるようなことをしておいて・・・ガウリイが追ってくるとでも思ってるの?

追ってくる?

違う。
追ってきて欲しいんじゃない・・・。

あたし、追いかけて欲しかったんだ。

ガウリイに。

自分から、離れたくせに・・・。

なんて・・・わがまま。

なんて・・・自分勝手。


ガウリイから逃げるように離れようとしているのは・・・。
ガウリイに会ってしまえば・・・離れられなくなってしまうから。

だから、何も言わずに出てきたんじゃないの?

こうでもして、離れないと・・・あたしはガウリイの側から離れないまま、彼を危険な目に合わせ続けるから・・・。




今頃、何してるんだろう。

・・・これで、良かったんだよね。

これ以上、ガウリイを危険な目に合わせたくない。
あたしと一緒にいなければ、危険な目に合うこともない。
彼は、どこか、あたしの知らないところで生きてくれる。

それで、いい。

だいたい、ガウリイがあたしのこと追いかけてくるかなんて、分からないし。
そーよ。
せいせいしたって思ってるかもしれない。
うるさいヤツがいなくなった・・・って。

何にも言わないで出てきたんだもん。
そんなわがままなヤツ放っておいて、どこか行くよね、普通。


ガウリイ・・・。


ぽたり。

ぽたり。

頬を伝う透明な滴がベットのシーツにしみを作る。


そう、思ったのに・・・どうして、涙が出るのよ。


ガウリイを失いたくない。

でも、ずっと・・・一緒にいたかった。




自分の考えに気付かされる。

こんなにガウリイを・・・・・・・。

あたしは―――――――――――――――――――




「リナ・・・さん?大丈夫ですか?」

魔法医の先生が部屋に入ってきた。
すらりと伸びた長身の女性。
茶色の巻き毛に緑色の瞳。

「あの・・・ノックをしたんですが、聞こえなかったみたいで・・・身体が辛いんですか?」
「えっ、やっ、そーじゃなくて・・・。」
「・・・疲れているんですよ。無理しちゃ、ダメですよ、自分の身体なんだから。」
「・・・・・・あたしの身体なんて、どうでもいいんです。」
「リナさん?」

独り首を振り、起きあがる。

「ダメですよっ!!もう、しばらく安静にしてないと・・・。」
「でも・・・あたし、行かなくちゃ・・・。」
「ダメですっ!!せめて、今日一晩、ここにいて下さい。」

真剣な顔で懇願され、しぶしぶベットの上に戻る。

「相当、疲れていらっしゃるから、2,3日は休養が必要なんですよ。まあ、急いでいるなら仕方ないですが・・・あと、ストレスが溜まっているようですね。原因を取り除かないと、また、どこかで倒れてしまいますよ・・・。心当たりはないですか?」


心当たりはある。

でも・・・・・・・・。

あたしの顔を見て、先生はため息をついた。
「まあ、事情があるなら、仕方ないですけど・・・。」

先生は、窓を見つめて、言った。
「少し、気分転換をしてきては、どうですか?」

気分転換?
あたしが首を傾げていると、先生は窓を開けて指さす。
「向こうの丘の上に、星がとてもよく見える丘があるんです。『星降り丘』と呼ばれているんですよ。」

見ると、確かに窓の向こうに丘が見えた。
夕暮れ時で、辺りは暗くなっているから、目をこらさないとよく見えないけど・・・。



「良かったら、行ってきませんか?星が綺麗ですよ。」








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