星に願いを
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辺りは暗闇。
周りは木々が覆い茂り、暗闇が支配する。
町の灯りも届かない小道を、あたしは一人歩いていた。
前方に見えるかすかな明かりを頼りに歩く。
すると、やがて、あたしが急激に開け、明るくなる。

先生に言われたとおり、丘の上に上がると、星が降り注ぐように、空に広がる。
なるほど・・・『星降り丘』と呼ばれるわけだ。


星の明かりが空を埋め尽くす。
まるで、時が止まってしまったかのようだ。

だが、時が止まった訳ではない。
それを証明するのは、星々の瞬きだ。
一面の星の中、時折、瞬く星が、今、時が動いていることを証明する唯一のものだ。



あっ、流れ星っ!!

空を斬るように、白い光が駆け降りる。


流れ星が落ちる前に、願い事をすると叶うとか、そう言えばアメリアが言ってたな。
あの時は少女趣味、なんて笑い飛ばしたけど・・・。

ホントに願いが叶うなら・・・ガウリイのことを願いたい。
ガウリイが、もう、危険な目に遭ったりしないように・・・・・・。

ふ・・・。
あたしは自嘲気味に笑う。

あたしが願い事?

ガウリイを勝手に放りだしておいて、ホント、自分勝手だね。

だって、あたしがガウリイの立場だったら・・・怒るよなあ。
そして・・・やっぱり、悲しくなると思う。

「あたし、一番・・・大切な人を傷つけてしまったんだ。」
ぼそりと呟く。

あの時はそれが一番だと思ってたのに・・・。

後悔・・・してる?

でも、もう、遅いよ・・・・・・・。






「リナ・・・。」






ここ何日も聞いてなかった声。

でも、聞き間違えるはずのない声。

だって、そんなっっ!!

振り返ると・・・暗闇の中に微かに光る金色。



それを見た途端、あたしの身体は反射的に逃げ出していた。

「リナっっ!!待てよっ!!!」

慌てたような声。
あれだけ、会いたかったのに、でも、声を聞けば、ガウリイと一緒にいられないと思ってしまう。
その声と反対の方へ、あたしの足は駆けだした。

「リナっっ!!逃げないでくれっっ!!リナっっっ!!!!」


がさがさっっ。

「離して!!!」

「やだ。」

「離してよっっ!!!」

「何でだ?・・・俺のこと、嫌いになったのか?」


ガウリイは静かに尋ねた。
あたしの腕を掴んだまま、でも腕の力は緩めようとしてくれない。

あたしは・・・。

「そうよ。」

極力、声を抑えて、低い声で口を開く。

「リナ?」

「あんたといるのなんて、もう、うんざりなの。」

あたしは、冷たい眼差しでガウリイを見る。

「・・・・・・・・。」
「あたしより、年上のくせに手が掛かって、そのくせ、この前みたいに怪我をして、旅の足手まといになることだってある。もう、ごめんなのよ、この前みたいなことは。」



「うそだ。」

「うそじゃないわ。」

「リナ。」

「これで、お別れよ。ガウリイ。」

あたしは、ガウリイに背を向ける。
振り向いたら・・・ダメ。

「よせよ。」

「さよなら。」

「やめろっっっっ!!!!」

あたしは、その声に思わず、肩を震わせた。
ガウリイが怒鳴った?
いつも、のほほんとして、笑顔で、とぼけてて・・・時折、真剣な顔もするけど、怒鳴ったことなんて、ほとんどなかったのに・・・。


振り返ると、苦しそうな顔で・・・下をうつむくガウリイ。
「俺はやだ。」

「リナに会えなくなるなら、死んでいるのと一緒だ。」


ガウリイ・・・?


「リナがいなくなって・・・俺がどんな思いしたのか・・・分かるか?」


・・・何で、そんなに辛そうな、苦しそうな顔してるのよ。
あたしのせい?

「そ、そんなの・・・わ、分からないわよ・・・。」

だって・・・あんた、あたしが側にいたから、あんな目にあったんだよ・・・。
・・・どうして、あたしを探すの?

「あっ、あたしと・・・これ以上・・・い、一緒にいたって・・・・・・・。」



「・・・俺が死ぬかもしれないって?」

えっ。

「自分の側にいると、俺の命が危ない。だから・・・俺から離れたんだろ?」
「ど・・・・・。」

どうして・・・。

ガウリイは、優しい声であたしに語りかけるように、話す。

「それくらい、分かるさ。何年、一緒にいたと思ってるんだ。お前が・・・あの晩、思い詰めた顔をして俺のところに来たときから、そう思ってたんだろ。自分のせいで、俺が怪我したって・・・。」

「でも、まさかいなくなっちまうなんて、思ってもみなかったけど、な。」
そういってガウリイは苦笑いをした。

「アレはリナのせいなんかじゃない。それこそ、俺が勝手にリナをかばったんだ。お前が気にすることなんて一つもないんだ。」

「ちがっっ!!違うっっ!!アレは、あたしのミスよ。あたしが怪我をして、いつものように魔法が使えなくて・・・足手まといになって・・・。」

「じゃあ、俺が『足手まとい』で『一緒にいるのもうんざり』っていうのは、嘘なんだな。」

うっ・・・。

「俺のこと『嫌い』って言うのも・・・嘘なんだろ?」

さっきの台詞・・・ガウリイのくせに、覚えてるなんてっっ!!
あたしは、口を噤む。
せっかく、心を封じ込めて、ガウリイが離れていくように言葉を投げつけたのに。

この男は全部受け止めて、流してしまう。

どうしたらいいのよ・・・。

ダメだよ。

ガウリイを失いたくないから、あたしはガウリイから逃げたのよ。

自分から逃げといて・・・今更、ガウリイの側に戻りたい、だなんて。
あのとき、思い切ったじゃない。

でも・・・。

あたしは、黙り込んだまま、下を俯く。
ガウリイの視線が刺さるように、あたしを見ている。


小さなため息と共にガウリイは、ぽつりと言った。


「俺は・・・・・死ぬなら、お前の側がいい。そして・・・もしも、万が一にも、お前が死んだら、俺も後を追う。」

「な、何、馬鹿なこと言ってんのよっっ!!」

そしたら・・・あたしが何のためにガウリイから離れたのか分からないじゃないっっ!!


「じゃあ、お前よりも絶対に先に死なない。それでいいだろ。」





あっさりと、でも、とんでもないようなことを言ったような・・・この男は・・・。

「そ、そんなことできる訳ないでしょっっ!!」

慌てて、あたしはガウリイに食ってかかる。

「あのねえ・・・いつ、死ぬかなんて分からないでしょ。病気だってある。怪我だってある。
そうでなくても、魔族に襲われることもあるあたしたちに、『先に死なない』なんて約束・・・守れるわけないじゃない・・・。」



最初は勢い良く、話し始めたが、段々と声が小さくなる。
そう。
いつ、死ぬかなんて、分からない。
確かにそう。

でも、あたしは、ガウリイを目の前で失いたくないのよ。
わがままでも、自分勝手でも・・・・・・。



「できない約束なら、しないほうがましよ。」

ガウリイの目を見据えて、告げる。

「・・・期待して、苦しい思いするのはごめんだわ。」

それは、半分嘘で、半分ホントだ。
ガウリイと別れて、離れていた間、あたしはずっと苦しかった。
でも・・・あたしが苦しくても、ガウリイさえ・・・生きていてくれたら・・・。



ガウリイは黙ったまま、あたしを見ている。

ガウリイには、もう、あたしの気持ちを全て見抜かれている。
それでも、精一杯の虚勢を張る。

「だから・・・・。」

ワカレマショウ

言いたいけれど・・・その一言が出てこない。

何でよ・・・・。




ガウリイは、ずっと黙りこみ、ただ、あたしを見ていた。

そして・・・、彼の真剣な目がゆるみ、穏やかな、優しい目になる。

「それでも、お前より先に死なない。」

そう言って、あたしに近づき、頭の上に、右手をのせる。
くしゃくしゃと、あたしの髪を撫でる。

「なーに、こんじょーはあるんだぜ、オレ。・・・俺を信じてくれ。
お前を苦しませたり、悲しませたりするもんか。」


「俺には・・・リナが側にいないのに生きているのなんて、意味がない。
リナがいなければ、生きることに意味なんてないんだ。」






ダメだ・・・。

もう、降参・・・。

「リナ?どうした?」

「・・・・・・・・・・・・・・。」

「顔、真っ赤だぞ。」

あたしはへなへなとその場所に座り込む。

「リナ?どうした?具合でも悪いのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「あんたが・・・。」
「あんたが、変なこと言うからでしょっっ!!このクラゲっっ!!」

自分でも分かるほど火照った顔で、あたしは目の前の男を怒鳴りつける。

「は、ははは・・・・。」
ガウリイは、笑い出す。
「なっ、何よっ!!何で、笑うのよっっ!!」
「だって・・・・・・いつもの、リナに戻ったから・・・嬉しくて、さ。」

そう言って、ガウリイは、あたしの隣に座る。



さあっと、丘の上を風が通り抜けていく。
少し、肌寒い風だったが、不思議とそんなに寒くなかった。


「綺麗だな・・・。」
「何が・・・?」
「星。」

そう言って、彼は上を指さした。

空に広がる満天の星。

この星々を見ていると、自分の考えなんて、取るに足らないものじゃないかと思えてくる。
あれだけ、悩んだことも、ガウリイにとっては取るに足りない、たいしたことじゃなかった。

ううん、それ以上に、全てを覚悟して・・・・・・あたしと一緒にいることを選んでくれていたんだ。


「ねえ、ガウリイ・・・。」
「ん・・・?何だ?」
「その・・・何も言わずに、出ていって・・・ごめん。」

「・・・やけに素直だな。」
「・・・悪かったわね。」

でも・・・ホントに、これは、正直な気持ち。
ガウリイを傷つけて、自分自身も苦しい想いをした。

それでも、あたしと、ガウリイの出した答えに価値はある・・・よね?



「これからも、ずっと、リナと一緒に星空を見たいな・・・。」

そう言って、ガウリイはあたしの右手の上に自分の左手をのせた。
あたしは・・・めずらしく抵抗しなかった。

だって・・・。
あたしもガウリイと同じ気持ちだったから。



これからも、ずっと、ガウリイと一緒に星空を見たい・・・。



そうして、あたしたちは、手を握り、ずっと星空を眺めていた。







◇◆◇たわごと◆◇◆

未森さん。
9696キリ番リクということでありがとうございました。
リクになったでしょうか?(心配)
「逃げリナ追いガウ」ということで、非常に魅力的なテーマで
悩みました。
とりあえず、オーソドックスな感じで攻めてみました。
少女マンガチックで、しかも、長い。
私の定番でございます(笑)。
隠れテーマは「好き、愛してるを使わずに、熱烈な告白!!」でした。

とりあえず、気に入っていただければ幸いです。
では〜〜。



全然要らない感謝の言葉

……………………………………(感涙)
っありがとぉございますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううぅぅぅうううぅぅうっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「好き、愛してるを使わずに、熱烈な告白!!」…ああ、なんて素敵なんでしょうvv
もーホントに少女漫画ちっくで(笑)ちょっと読むのに抵抗がありましたわ(マテ)
あああ、よいですね、ビバガウリナっっっ!!!!!!!!!
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふvvvvv(妖しいよ)
ところで…壁紙なんですが。
ああああ悔しいっ!もっとピッタリな壁紙があればっ!
一時間半以上かけて探したのにっ!おかげで素材屋のお気に入りが増えたわっ!(爆)

ま、まぁとにかく、ホントにありがとうございましたvvvv



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