星に願いを







ごおおおっっっ!!
「ったく・・・しつこいわねっっ!!」

前に現れたのは、レッサー・デーモン20数匹。
こりゃまた、いつもよりも多い。
後ろには、プラスト・ソードを構えるガウリイ。
ここのところ、また、魔族の動きが活性化してきたのか、やたらと頻繁にデーモン騒ぎが起こる。
だからこそ、あたしたちみたいな人間が必要とされるんだけど。

「ブラスト・アッシュっっ!!」
あたしの両手から、黒い霧が現れ、レッサーデーモンを取り囲む。

ぼしゅっっ!!
音をたてて、姿が崩れていく。

「リナっっ!!後ろにもいるぞっっ!!」
「分かってるっっ!!」
ガウリイの鋭い声に答える。
分かってるんだけど・・・手が回らないのよぉ!!

「ダイナスト・ブレスっっ!!」

魔力の氷がレッサーデーモンに襲いかかり、何体かが氷と化す。
だが、すぐに、次のデーモンが襲いかかってくる。

きりがないっっ!

「リナっっ!!」

あつっっ!
レッサーデーモンの放ったフレアアローが、足首をかすめる。

「大丈夫か!?」
「へーきよ。大したこと無いわっっ!!」
そう言って、魔族へ呪文を解き放つ。

「アイシクル・ランスっっ!!」
一瞬にして、デーモンの姿が凍る。

たしかに・・・。
怪我自体は大したこと無いけど、小さな鋭い痛みが響く。
どうやら、足首に火傷を負ったようだ。

治癒の呪文をかけているような状況じゃないないし。
こんなに集中力を阻害されるんじゃあ、大きな呪文は使えないし。

これじゃあ、ガウリイの足手まといになってしまう・・・。
ガウリイの援護に、まわった方がいいだろう。

「ガウリイっっ!!あたしは援護に回るわっっ!!」
「よしっ、分かったーっ!!」

ガウリイは剣を構え直し、レッサーデーモンの群に斬り込んでいく。
あたしは防御の呪文を唱えた後、ガウリイの背後にいる魔族へ攻撃呪文をぶつける。

「フリーズ・ブリッドっっ!!」
生まれ出た氷の塊が魔族の動きを凍らせる。



瞬間、背後に熱気の風。

そして、振り向くと、大きな爪が自分の頭上に見えた。



その時。
気付けば、良かったと。
あたしは、死ぬほど後悔することになる。



「リナああああ―――――――――っっっ!!!」



ざしゅっっ



まるで、時間が止まったかのように、ガウリイが倒れて行くのが見えた。

急いで、駆け寄る、そして・・・。

震える手で、ガウリイを抱き起こす。

「ガウリ・・・・・・・。」

ぬるっとした感触。
緋いぬめりが手にこびりついている。

何よ。
これ・・・。

ガウリイの背中から、自分の手についている液体と同じものが流れ出す。


「ガウリイ・・・。ガウリイっっ!ガウリイっっっっ!!!!!」






「間一髪というところでしたね。」
ガウリイを運び込んだ先の魔法医はそう、言った。
「いや〜、こんな大けがなのに、よく持ちましたよ。患者の体力のおかげですね。」

あの後、レッサーデーモンを10体ほど残し、あたしはレイ・ウイングでガウリイを連れてきた。
魔族の追撃もあったし、頼まれた依頼は放り出すような形になってしまったが。

あの時、あたしが考えたことは、ただ、一つ。

ガウリイを死なせたり、しない


「じゃあ、怪我はそんなに酷くないんですね。」
「いや・・・結構、酷いですよ。2,3日は絶対、安静です。動いたら悪化します。」
「そう・・・ですか。」
「まあ、ベットにくくりつけてでも、治してもらいますから、安心して下さい。」



あたしは、魔法医の先生の話の後、ガウリイの病室の前にやってきた。
だけど・・・扉を開けるのが怖い。

だって、次にこんなことがあったらどうしたらいいの?
今日は、たまたま助かったけど、次は・・・分からない。

血だらけのガウリイと見た瞬間。
訳が分からなくなった。

こんなこと、今までなかった。

ううん。前にもあった。
フィブリゾにクリスタルに閉じこめられたガウリイを砕かれた瞬間。

その後、無我夢中で身体が動いた。
その間、ずっと、思っいたのは・・・同じこと。


ガウリイヲタスケテ。



「ガウリイ・・・・。」
「リナ。どーしたんだ?元気ないなあ・・・。腹、減ってるのか?」
ガウリイは、いつもの穏やかな顔で片手をあげた。
さっきの苦しい顔は微塵もない。


心配させてっっ!!とは言えなかった。

クラゲなんだからっっ!!

ぼけっとしてるからよっっ!!

どうして、そんな言葉を言えたんだろう。

ベットの上のガウリイが、血だらけの姿と重なる。
背筋がぞくりと寒気を訴える。

あたしの・・・・せいだ。


「何か・・・食べたいもの、ある?」
「う〜ん。・・・リナのむいてくれたリンゴが食べたいな♪」
「・・・何よ、それ。」
いつもの調子のガウリイに、思わず、苦笑いがこぼれる。

あんなに・・・苦しんでいたのに・・・どうして、こんなにコイツは強いんだろう。

「うさぎの形、してるやつな。」
「・・・しょーがないわね。」
あたしは、よいしょとベット脇に椅子に腰掛ける。

「何、驚いてんのよ・・・。」
「いや・・・まさか、怒られるかな〜と思ったのに・・・。怪我もしてみるもんだ・・・。」
「あのね〜、あたしだって・・・怪我人相手に、呪文ぶっ放したりしないわよ。」
「ふ〜ん。」

たわいもない会話。
いつもと同じ応対。

苦しいはずなのに・・・。
どうして・・・あたしなんてかばうのよ・・・。

「リナ?」
「・・・ごめん、あたし、疲れちゃったみたい。・・・ガウリイも疲れたでしょ。」
「う〜ん、まあ、そうかもな。」
「もう、寝てよ、ね。」

「リンゴはどうするんだよ・・・。」
「じゃあ、明日、むいてあげるわよ。」
「おう、約束な。」
「ん。・・・じゃあね、おやすみ。」
「おやすみ・・・。リナ。」

ドアを後ろ手に閉める。

顔をあげると、窓から星空が見えていた。





あたし・・・弱くなった。

昔は、一人でも平気だった。

でも、今はこんなにも。
ガウリイを失うことが怖い。

ガウリイを失うくらいなら・・・一生会えなくても、ガウリイが生きていてくれればいい。



そのために。
あたしは、彼から離れる道を選んだ。









NEXT