シェーグレン症候群および
唾液と涙について
以下の順序で掘り下げてみよう。
目次 |
|
1 |
シェーグレン症候群とはなにか? |
|
2 |
唾液を徹底分析してみる |
ドライマウス |
嚥下えんげ |
発声 |
洗浄とバリア |
殺菌と抗菌 |
PH調整 |
再石灰作用 |
味覚 |
口臭抑制 |
|
|
3 |
涙と眼精疲労と頭痛 |
|
|
4 |
シェーグレン症候群の整体 |
|
end |
シェーグレン症候群とは
中年の女性に多発する
涙と唾液の極度の欠乏が
最大の特徴としてあらわれる
自己免疫疾患のひとつである。
シェーグレン症候群は
とくに涙腺と唾液腺に対して
自己免疫システムが作動し
これらの組織が破壊され
なみだとつばが極端に少なくなり
目と口の異常な乾燥状態が続く。
こうした自己免疫疾患は
本来外敵を攻撃する自己免疫が
敵ではない健全な自己の組織を
継続的に攻撃して破壊してしまう。
よって
全身性の多くの不快症状がでる。
なかでも
涙液と唾液の役割は
単に
目と口を潤している役割だけでなく
多くの
生理的な作用を有しているために
目と口の乾燥の常態化は
全身性の他の疾患や病態を
到来させる要因となる。
したがって
目と口の乾き以外に
鼻から気道への乾きもあり
鼻腔の乾燥と同時に
鼻の中にカサブタができやすく
鼻血が出やすい
などがあらわれる。
また
脱毛もあらわれ
毛髪量の減少が出やすい。
皮膚の疾患もあらわれ
皮膚のしっとりとした潤いが喪失して
湿疹や肌のアレルギィもでやすく
湿疹や紫斑が出る。
さらに
膣の湿潤が充分でなく性交時の痛みが
出やすくなる。
それ以外に下記のような全身性の、
強い疲労感、
倦怠感、
関節痛、
頭痛、
しびれ、
消化器不調、
耳鳴り、
などなどでひどく苦しむ。
シェーグレン症候群は
膠原病こうげんびょうに含まれる。
膠原病こうげんびょうとは
体の細胞同士を結合させている組織が
血液の白血球の中の
サイトカインという異物を攻撃して
本来は体を守る物質が
まちがって
健全な組織をも攻撃してしまって
それらが
変性つまり変形してしまい
その健全性を喪失させることで
病変がはじまり
それが全身の細胞に波及する
という疾患である。
古典的な代表的な膠原病に
関節リウマチ
全身性エリテマトーデス、
強皮症
などがある。
歌手 八代亜紀は
膠原病で死亡している。
膠原病のひとつである
シェーグレン症候群は、
古典的な膠原病には属さず
認知されだしたのは比較的最近で
1933年に
スウェーデンの眼科医の論文から
命名されたのが始まりである。
眼科医の論文が始まりの事が
眼の疾患が中心となる
シェーグレン症候群を
象徴していることがわかる。
日本では1970年代に
医学界ではじめて
認識し始めたという歴史である。
西洋医学的では
目下のところ
シェーグレン症候群に対して
有効な根本治療の道筋を
いまだ明瞭にしていない。
最近の新しい
シェーグレン症候群研究のひとつに、
次のようなことがあげられる。
シェーグレン症候群では、
進行に伴い唾液分泌量の
全体量そのものが減少するのに加えて
唾液中に含まれ
口腔と消化管の粘膜保護や組織修復に
促進的な役割を果たすとされる
epidermal growth factor(EGF)も
同時に低下し
これにより
唾液の量の減少のみならず
唾液の質の低下も起こる。
EGFとは
分子量6.045kDaのサイトカインで、
細胞の細胞分裂と増殖を促進する。
人体では
唾液腺と十二指腸で主に産生され、
口腔や消化管の
粘膜保護作用や組織修復に
大きな役割を果たしている。
また、
皮膚においては
EGFは皮膚が傷ついた時
自然治癒を
促進するとされている。
唾液分泌量に加え
唾液中EGF分泌能も低下し、
この「唾液の質」の低下が
口腔内病変の形成に関与する
つまり
シェーグレン症候群は
単に唾液の量の減少のみならず
唾液の質的の劣化もおこり
これが口の中の病変を進める
という趣旨である。
以上が
シェーグレン症候群である。
ひとことでいうと
からだがうるおいがなくなり
ひからびてしまう。
身体のこうした状態は
精神的にも影響し
心身ともに枯渇していく。
東洋医学的に言えば
体液の枯渇という潤滑不全
および
精神拘束の非緩解
という心身病が同時に起こる。
唾液の流れ出る水量は
驚くほど多量である。
一日に
0.5~1.5リットルが分泌されている。
2Lペットボトルを思い浮かべれば
その量の多さに
ギョとするのではないだろうか。
みなさんのなかに
唾液がやたら多く ツバ気の多い
と白眼視されてきた人もいるだろうが
唾液の効用の広域を認識すれば
ツバ気の多い人を
うらやましくなるに違いない。
唾液は唾液腺から分泌される。
唾液腺は大きく2つに分けられ
大唾液腺と小唾液腺である。
大唾液腺は
耳下腺、舌下腺、顎下腺 の3つ。
小唾液腺は
多数に点在する。
唾液は
口の中に分泌された直後は無菌であるが
分泌後は
口腔内の微生物と戦い汚染される。
唾液に含有される微生物と戦う成分が
唾液と一緒に胃の中に送り込まれ
胃の強烈な酸が
唾液と混合された有害物質と戦う。
こうして
口から侵入する有害物質と戦闘する
最前線にあるのが唾液である。
こうした唾液の成分は
実は刻々と変化し一定ではない。
生理リズム
運動の程度
体調
ストレス
感情の起伏
妊娠
薬物摂取
等々の条件で刻々と変動している。
そのため 唾液はその分泌状態で
体調の好悪をはかる基準にもなる。
だれもが人生のいろいろな局面で
興奮でごくりと生唾の動きを感じる瞬間や、
異常な高揚感と期待感で
ツバがあふれ出る状況、
極度の緊張で口がカラカラになり
言葉が出なかった経験があるに違いない。
唾液は
このように心の振幅を見事に反映する。
唾液がかれて
ヒトは初めて唾液の存在に気付く。
唾液の分泌が激減し
口が渇くことをドライマウスという。
ドライマウスは
一時的な唾液乾燥から
恒常的な唾液乾燥まで広いが
ドライマウスは
ドライアイと同様
放置すれば様々な疾病を生み
さらには
ドライマウスが
かくれた疾病のサインでもあることがある。
唾液の量が減って苦痛を味わい
ひとたび
唾液の重要性を気づき
唾液の奥深い世界を認識すると
ちょっとツバをはいたりすることが
簡単にはできなくなるに違いない。
それほど
唾液は貴重である。
そこで
唾液の奥深い世界に分け入ってみよう。
食事の際に出てくる唾液は
刺激時唾液と呼び
食欲と咀嚼の反応で
ごく自然に分泌される。
唾液分泌で
食物は流動し軟弱化し
食べやすくなり嚥下を誘導する。
この時
唾液は咀嚼されればされるほど湧出する。
老化などで
嚥下作用が低下するが
それは噛んでも噛んでも
唾液が出ないからであり
その対応として
やむを得ず飲み物を飲んで
唾液の代替が必要になる。
発声は
声帯という筋肉の作用で
音が生まれることで行われるが
この時
唾液の湿潤効果により
声帯筋の粘膜が潤滑され
より円滑に発声される。
したがって
唾液の分泌が停止し口が乾燥すると
途端に発声がとどこおる。
また
しゃべればしゃべるほど
声帯筋肉群が唾液腺を刺激し
唾液の分泌もさらに潤沢となる。
口から泡を飛ばして
しゃべればしゃべるほど
唾液は湧き上がってくる。
泉のように湧き出るあふれ出る唾液は
洗浄作用として 口の中の
食べ残し・食べかす
口腔内病原菌微生物
汚物
などを洗い流す作用で
口からその先の体内に
これら汚物を食い止める
バリアの最前線となっている。
病原菌などは
唾液の一緒になり胃の中に流れ込むが
胃では
強烈な胃酸が海の様になっていて
ここで病原菌が死滅する。
唾液の殺菌と抗菌作用は
以下の代表的な成分で行われる:
リゾチーム |
リゾチームは
酵素であり
細菌の細胞の壁を
分解し殺菌する。
|
ラクトフェリン |
ラクトフェリンは
口腔内の
病原微生物や
歯周病菌対して
抗菌活性を示す。
また
歯周組織の
炎症や破壊を防ぐ。
|
免疫グロブリンA |
ウイルスの中和、
細菌の凝集
細菌の付着の防止
とくに
風邪には
生体防御機構となる。
|
ラクト
ぺルオキシターゼ |
ほとんどの哺乳類の
母乳や涙や唾液に
含まれる酵素で
口腔内の細菌増殖を
抑制する。
|
これら成分は
唾液以外の体液にも含まれてもいて、
母乳、涙、鼻汁、にも
含まれているものがある。
食事後の口の中に残った食物は
口の中の細菌によって
糖から酸が形成されて
pHが酸性に傾くと
エナメルが溶解し虫歯となる。
この時 唾液は
口内のpH酸性を中和して
中性にする作用がある。
再石灰化作用とは何か?
むし歯のできる過程から
再石灰化を説明しよう。
食事後に
歯の表面についたプラーク(歯垢)の
中のむし歯菌が
砂糖などを利用して酸をつくる。
この時
プラーク(歯垢)の中の酸性度(pH)が
pH5.4以下になると、
歯の表面のエナメル質の
無機成分が溶け、むし歯が始まる。
しかし この時
唾液の働きにより
40分から60分ほどで、
歯の表面の酸性度(pH)が
もとの状態(中性)に戻る。
そうすると、
一度溶かされた無機成分が
歯の表面にもどってくる。
これを再石灰化現象という。
つまり
唾液の再石灰化とは、
むし歯菌などがつくった酸で
溶かされた歯のエナメル質表面の
無機成分が
唾液の働きで
再び歯の表面に形成される現象を指す。
つまり
再石灰化とは
口腔で備わった
生体防御メカニズムのひとつであり
むし歯を拡大させない自然治癒である。
これに
唾液の力が大きくかかわっているのである。
実は現在
このメカニズムをさらに積極的に応用し
再石灰化メカニズムを
歯科医療の中心にする未来型の
負担の少ない医療法として
脚光を浴び始めている。
その中心にあるのが唾液の作用。
味覚を感じるセンサーは
味蕾みらいと呼ばれ
花のつぼみのような形状をしており
舌の上に 約5000個ある。
舌の以外の喉のどなどには
2500個点在する。
口腔内に食物がはいると
その瞬間に
舌の先端に位置する味蕾が
まず
その食物の安全性を確認する。
結果
安全と判断されると
咀嚼が始まり攪拌され
唾液と混在しながら
舌の奥の味蕾へと向かい
ここではじめて
味わいが始まる。
この時
唾液と混在することにより
より食物が混じり合い
味蕾が感受しやすくする。
また
舌の粘膜が唾液で潤い
味蕾を傷つけることなく
保護する役目も唾液は持っている。
舌の奥の奥歯の横にある味蕾が
奥歯でかみしめた時
味を
より深く感じるようになっている。
美味しいものを食べた時の表現として
舌鼓したづつみを打つというが
これは、
舌と軟口蓋をギュっと押し付けて
味蕾を圧迫して
より味覚を深くする行為を指し
舌で味蕾を
太鼓で
打ちたたくようにすることをいう。
そして
喉のどに存在する味蕾は
食物がのど越しに通過するときに
味覚を感じるようになっている。
唾液は
口臭を抑制する作用も持っている。
唾液が豊富に分泌されていると
口臭も消えやすく
唾液分泌が減ってくるに従い
唾液のもっている
殺菌 抗菌 浄化作用も
同時に低下することになり
口臭が出やすくなる。
シェーグレン症候群は
涙が極度に枯渇し
目が乾燥で常に痛く
眼精疲労と頭痛が併発しやすい。
ここで
まず涙とそのメカニズムについての
説明が必要であるが
それは本ホームページの別稿記事の
『 目の最前線 』
で詳細に述べているので
できればそちらを
まず熟読してほしい。
簡単に目の解剖の説明をすると
下図の
涙腺が炎症を起こし
ここでの涙の産出が現象するのが
シェーグレン症候群である。
涙は
2つの層から成り立つ。
涙の油層 (あぶら分)
涙の液層 (ルチン)
の2つである。
涙の油層(黄色)と
涙の液層(ムチン、微生物が含む)
の2つの層が
あつまって涙である。
表面が油層でカバーされており
この表面の油分により
液層にあるムチンが保護され
蒸発しにくくなっている。
これが涙の2層特徴である。
なので
目薬には
通常ルチンは多く含まれているが
油分は含まれておらず
目薬をいくらさしても
効果が無いのはそのせいである。
正常な涙では
この涙の2つの層により
角膜の上皮細胞を
がっちり保護しているわけだ。
そこで
涙の量が減少すれば
角膜の上皮細胞がむき出しになり
角膜上皮細胞は損傷する。
ドライアイにより角膜は
このような状態におちいる。
ここで 角膜の
いまひとつの重要な特徴をのべる。
それは
角膜は血管を持っていない、
ということである。
角膜は
良い視界を維持できる様に
その透明性を確保のため
血管が無い。
血管があると
血管によって
透明性が
低下するのを避けるために
無血管に進化してきたのである。
つまり角膜は血管が邪魔。
その代わり 角膜は
涙を仲介して酸素を取り入れている。
涙は
角膜に酸素を運ぶ役割をも
果たしているのである。
このため 涙がかわけば
角膜は酸素の供給が断たれる。
つまり 損傷する。
涙は酸素供給という
重大なミッションをもっている。
シェーグレン症候群により
涙が欠乏し目の乾燥により
異物感、まぶしさ、もあらわれる。
特に
エアコンのよく効いた部屋で
パソコンを長時間する人に
出やすい。
病院では対応として
基本的に点眼薬を処方するが
こうした点眼薬は
根本的な解決にならず
また涙点プラグといい
涙の道のルートにある
涙点の部分にプラグを置いて
涙の流出を防ぐ方法もあるが
根本的な解決に程遠い。
涙が枯渇すると
眼精疲労と頭痛が併発しやすい
のが大きな特徴で
この3つともに頻発し
これに苦しめられる
シェーグレン症候群の患者は多い。
では、 整体は
シェ―グレン症候群を
どう治療するのであろうか?
その前に まず
シェ―グレン症候群に限らず
自己免疫疾患のすべてに
共通する課題となる次の設問、
なぜ 本来
自己を守るべき免疫が
健全な細胞を攻撃してしまうのか
?
|
という命題に立ち返る。
ここに 一つの仮説がある。
通常 自己免疫疾患は
免疫システムのかく乱、
つまり
本来攻撃しなくてもよい
健全な組織に対して
サイトカインが攻撃して
細胞を無力化してしまう状態となり
つまり正常に免疫システムが
作動していない
あるいは過剰に誤作動している
という前提に立っている。
これは
免疫システムが
間違った誤作動をしているという
結論になっているが
そもそも そこに大きな疑問がある。
つまり それは
間違った誤作動でもなんでもなく
正常に展開しており
免疫が正常に作動している
という見解である。
どういうことかというと
たとえば
シェ―グレン症候群は
涙腺と唾液腺を攻撃するが
これは 涙と唾液の分泌を
強制的に停止させることで
目と口を完全休養させるという
究極の好意的で積極的な
最終告知のシグナルである!
という見方である。
すなわち
サイトカインの最大の好意なのである。
そこまでしないと
目と口の完全休養をヒトはしない。
だとすれば
免疫システムはこうした目的にそって
涙と唾液の分泌を停止させるという
正常機能の発露である。
これはつまり
決して免疫かく乱ではなく
正常な免疫の発揮なのである。
という仮説である。
じつは 整体は
この仮説にのっとって
自己免疫疾患の治療を組み立てている
のである。
自己免疫疾患におちいっている
患者の体内では
免疫機能がフル活動して
必死にシグナルを送っている
その意図にそって
目と口の完全休養、および
全身性の身と心に
絶対休息をあたえるという施術を
整体はする。
具体的にその手法は
そのシェ―グレン症候群患者が
訴える様々な不快のうち
もっとも容易に早く治癒回復しそうな
不快の種類を探り出し
その不快の治癒に絞り込んで
まず その解決と軽快に取り組む
という手法である。
これは
整体技法のひとつで
『 整体トリアージ 』と称する。
トリアージとは、そもそも
災害時などの大規模災害で
多数の負傷者が一挙に出た場合
そのひとりひとりのケガの程度に応じて
救助の順番を決定する行為を指す。
これによって
生存率を高め 死者を極力減らす。
いわゆる患者のふるい分け、である。
具体的には以下のような
基準でトリアージは進行する。
赤の第1順位が最も優先される。
現場では素早い診断が終わると
この4種の色のステッカーが
すべての患者に張られる。
これが実際の災害現場での
医療トリアージである。
これに対して
『 整体トリアージ 』は
まったく内容を異にする。
つまり
ひとりの患者の中の
複数の症状と泣訴をすべて確認し
そのなかで
治療の優先順位を決定し
最終的に全身性の回復の道筋をつける
という手法である。
この手法は
多発性の疾患、
多重の不快と疼痛、
を訴える患者のすべてに共通する手法。
たとえば
数ある不快と疼痛のうち
睡眠障害が
最も容易に解決しそうな不快ならば
最も優先する治療の第1順位は
睡眠障害を軽減する整体治療となる。
まず
苦しみぬいてきた患者が
多数の苦しみのなかで
ひとつでも楽になるという実感を
得ることが重要なのである。
睡眠障害が少しでも軽快になったと
患者が感じれば
その小さな変化を糸口に
その次の訴える不快と疼痛を
解決する治療を継続する。
これをドミノ治療という。
シェ―グレン症候群の患者に戻れば
『 整体トリアージ 』を発動し
患者のかかえるすべての
不快、痛み、苦しみをすべて列挙し
そのひとつひとつの重症度を点検をし
どこから着手するのかを決定する。
その過程において
患者のこうむっている体の痛み、
患者のかかえている心の内側、
が抵抗なく発露されていき
より患者の心身の核心が明瞭になっていき
治療順位の妥当性が向上する。
これが
『 整体トリアージ 』である。
シェ―グレン症候群の整体は
そこから始まる。
|