99年4月後半の学芸員日誌
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4月30日(金)晴
名駅裏ゴールド劇場まで『旅芸人の記録』を見に行く。
本当はビデオだってあるんだし、なんでわざわざ時間作って、高い電車賃払ってまで行かなきゃならん。ほかにやることはいっぱいあるのに……。ビデオ見ればいいじゃん。
などなど迷いに迷って家をでたのさ。
わたしにはわかっていた。映画館まで行かないと、きっともうあの映画をみることは一生ないだろうってことが。
なかなかね、ビデオ屋に毎週行っていてもあれだけ長くて退屈な映画を借りる気にはなれないもの。借りてきたとしても見るかどうかだってあやしいし……。
もう20年前の映画なのか。昭和54年度キネマ旬報ベストワンだって。知ってる人はいないでしょうが、かつて一人で暮らしていたアパートの壁にポスターを3枚貼っていた。
この『旅芸人の記録』と『赤頭巾ちゃん気をつけて』それからなにか小劇場もの=銀粉蝶だったかな。
『旅芸人の記録』は好きな映画の中には忘れずに入れておくのだが、正直にいうとテオ・アンゲロプロスの映画は寝ちゃうんですよ。ほんとに眠いのをこらえながら見るのだが、見事に寝ちゃう。『アレクサンダー大王』なんか、ポスターと同じ場面の記憶しかない。今日もいきなりうとうとしちゃう。もうだめだ。それにしても一度は見ているはずなのに、記憶に残っているシーンがあまりにも少ない。覚えてないんだ、ちっとも。いいのかね。
途中からあくびを連発して涙が出たので、だんだん目が醒めてきた。そうか、こういう映画だったのか。長回しもすごいが、いかにも映画らしい場面もあって、まあ電車賃払ったかいがあったというものさ。
4月29日(木)快晴
雲ひとつない青空。いいねえ。
フィギュアの話。最初は作家さんの方から「ひとつ、どうです?」ともちかけられたんだが。その噂が仲間うちにひろまって、欲しがる人が出てくると、こっちが欲しくて特別に製作を依頼したような気分になってくる。不思議なものだ。
実物がNOB GALERYの2Fにあるというので、行ってみた。
すると、本町のEGGSに展示中というではないか! 一般公開されているなんて……! フィギュアってひっそりとマニアがめでるものってイメージじゃない? いいのか。ま、いっか。ううむ。一見しての感想は「現実じゃない!」
こんなにさわやかでカワイイ子はいない。おっと一体どんなフィギュアか、まだ書いてなかったな。女子高生なんですがね、うちの高校の制服を着た。同窓生のあなた! 在校生のきみ! 見たい?
よく見るとブラウスの襟がうちの規定とは違うの。これはきっと製作者さまの高校のブラウスに似ているような……、ま、細かいこたあ、いいか。
本田健一さま、名指しで解説いたしますと、わたしらの在学中でいうなら、あなたが議長をやってらした時の生徒会の副会長だったN村K子さんの目をもっとぱっちりさせた感じでしょうか。手先の器用さをいかしてミニチュアの制服を仕立ててみようかしらん。紙で作ってみるのもいいかも。
4月28日(水)晴のち曇
午後から名古屋へ出張。14:00から、研修。
初めてではないから、内容はO.K。
最後の質疑応答の時、県の事務屋に「給食実施簿」はいらないんじゃないか? とかみついているどこかの先生がいたが、あたしはあの帳簿にはあの帳簿だけに記載される事実があるから必要だ、と思っているので、バッカじゃない? と思いながら聞いていた。
帳簿なんて、しょせんはめんどくさい、どうでもいいものなのよ。でも、それをつけるのがわたしらの仕事じゃん。税金の使い道をはっきりさせるためにさ。
事務手続きをなるべく簡略化したい。それはわかる。無駄なものもある。でも最低のことはやらなきゃ。
あんまり、あれはいやだ、これはいやだっていってると、能力がないっていってるみたいだからな。みっともない。やれる範囲なら何でもやらなきゃ。帰りに名駅前のグランドへ急ぎ14:35からの『Life is beautiful』を見る。この回はまだ空席があったが、出る時には廊下に長蛇の列。すごい、大入りだよ。
一つの寓話として見るのだが、今までの暗くて深刻な戦争映画になれているせいか、素直に感動できない。
なんでだろう?
感動できない、と書いたのは映画におけるリアリティについて、つい考えてしまうせいだが、この3人の家族と叔父さんの愛情に満ちた生き方はまあ、あれはあれでよしとしよう。
あの叔父さんは、とてもいい人だ。ああいう年寄りが近くにいると、いい子が育つ。『セントラルステーション』の登場人物と同じ名前。ドーラ(妻)とジョズエ(息子)という名前はそんなにポピュラーなのか。
4月27日(火)晴 陽気
英会話。30分待ったがJefが来ない。
やれやれ。なんてこったい。帰宅してみると、宿題を手伝ってあげた親愛なる大学生からお礼のメッセージ。それにしても自分が英語から遠ざかっているものだから、いざ英語でなにか綴ろうとすると、スペルがてんでなってない。
MDに曲名を英訳して打ち込もうとして、気づいたのだよ。
でもって、小さな英和辞典と和英辞典をかばんに入れている。お、お、お、重い、ますます重い、わたしのかばん。4月26日(月)晴 陽気
家庭訪問。無事終了。玄関先で立ち話か! それでは何のためにがらくたをおばあさんの部屋に押し込んだのか意味ないぞ!
てなわけで居間まであがっていただく。会話の途中で、「あのー、家庭訪問とはなんの関係もないのですけど、この椅子は柿谷さんのものでしょうか?」と先生は子ども用の椅子を指差す。
「あら、柿谷さんをご存知? 柿谷さんのは向こうの食器棚のほうで、この椅子は額田の磯貝さんのものです」と胸をはるわたし。ついでにオルゴールまで出して聞いてもらう。
「いやあ、磯貝さんでしたか。わたしも彼の話を聞いて自分でも、いろいろ作るようになったんです」
「そういえば、図工でいらっしゃいましたね。<図>より<工>ですね」
「はい、工芸が専門で……」高校の美術の先生と小学校の図工の先生じゃあ、こんなに違うか? なんて思ってしまいましたよ。
だって、アウトローっぽくないし、とってもまとも。理科の先生だとおもってましたわ。
つい、ぽろっと、わたしは自分の仕事のことを話してしまったが、先生はあわてて個票をめくるのさ。
つまりわたしがいうまでは職業はばれてなかったわけだよ。
失敗したな、黙ってりゃよかった。4月25日(日)晴
明日、長女の「家庭訪問」なので、家の中を少し片付けねば……と思う。
ひょっとすると、年末の大掃除よりも、がんばって片付けようとしているかもしれない。
あわせの着物はしまいましょう。単衣をちゃんと出しましょう。コート・ジャンバーももう着ないな。そろそろ半袖も着たいしな。N.Y.と日本の時差を初めて意識したのはジョン・レノンが撃たれた日だった。こちらは12月9日の夕方のニュースで知ったが、事件は現地時間では12月8日の深夜に起きていた。
12月8日は真珠湾の日だと覚えていたが、これを境にレノン忌になった。なにが書きたかったかというと、ニューヨークからメールをくださる方がいるの。時差ってどれくらいだっけ?
4月24日(土)雨のち晴
MDっていじっているとおもしろくて、次々にもっているCDを録音してみたり、以前レンタルしたものの、カセットにも入れずに返却してしまったCDをまた借りてきて録音したりしていたら、またも睡眠不足だわ。
同窓会役員会。校長もくるんだった! こんなことなら出ないでおけばよかったのに……とも思うが、あとのまつり。あと11か月で退職する人なんだから、それまでずっと逃げていよう。どうせ、夜間なんておまけにすぎない。東大35人、名大89人。それがすべての学校だ。
その片隅の職員室の机の中に、たった一枚だけ、愛工大の合格通知を大事にしまいこんでいるあたしのことなんて、もう忘れててくださいよ。ひっそりと生きていきますから、もういたずらはしませんから……。
3月まで校長の前には出ないぞ。
悪いのはわたしだから、あやまりゃ許してくれるかもしれんけど、所詮はいたずらなので、あやまるのもなんだかいやなんだよ。M屋さんの結婚お祝いの会。
ノブギャラリー土屋さんのオープニング。
4月23日(金)曇ときどき雨
長男の誕生日。
彼は’95年の生まれ。つまり震災とオウムの年に此の世にやってきた。
しかも、彼が此の世にやってきた時刻は21:22。翌日の朝のニュースで前夜の村井刺殺事件を知った。入院している間中、このニュースを追っていたのはもちろんである。なんだか急に、夜がむしむしするので、冬のふとんをしまう。
が、衣類の冬物をしまうのは、まだまだ先になりそう。もう夏物ほしいのになあ。もう5月がくる。4月22日(木)晴
昨夜から、奥歯の周辺の歯茎がうずいてたまらない。炎症を起こしている。バイ菌が入ったのだ。
違うな。バイ菌なら口中にうようよいるが、カラダが丈夫でいるなら、やられない。こんなにやられてしまったのは?
ああ、原因は寝不足。ほんとに寝てなかったもん。昨日も(だいたい外泊するといつも)まだ暗い4:00過ぎに目を覚まし風呂入って、メール読んで、持ってきたMD編集したりしていた。
そのとたんにこのざまだ。
今までだってそうだ。風邪がなおった途端に口内炎にやられた。体力が落ちるとてきめんにバイ菌の餌食にされる。あたしは自分のことをメンタルな人間だと思っているが、こういうことがあるとやっぱり人間なんてみんなフィジカルなんだ、と思い直す。
4月21日(水)晴
家族で旅行。コドモも学校は休ませ、わしも年休をとった。
学校より家庭が大事。仕事より家庭が大事。ほんとかよ。モバイル環境としては、携帯につないで使うシャープコミパルを持参。旅行中、3回。京阪電車の中、京都在住の友人(=ということにしておいて下さい)にあっていたファミレス、ホテルの部屋から、合計3回メールチェック。
緊急の連絡にはその場で返信した。そこそこ便利かもしれない。
メーリングリストのLOG、めるまがばかりの中で大事なメールは2通だけだった。毎日ありがとう。
4月20日(火)晴 陽気
今日の英語はすんなり延長なしで、消耗しないですんだ。
「あかすたむど」を「ナレテイル」でも、まあしょうがない、とJefはいうが、それでも「ジュウライ」にもこだわる頑固な元沖縄海兵隊。もう、どうでもいいよ。あのね「従来」ってのは副詞だから、せめて品詞はシンクロしてなきゃ。と思うが、いわない。生徒総会議案できた。岡崎市の資源ごみ分別収集に貢献。どんちゃんちの台所も少しだけすっきりしたしね。
でもねえ、がはは。学校のパソコンでエクセル使ってて「どん」と打ち込んで自分のフルネーム出てきたら、そりゃあびっくりするでしょうよ。
これもいたずら。いたずらついでにいえば、卒業式の時、正成に写真と寄せ書きの色紙を渡し忘れて郵送したら郵便屋さんが書留でもないのに「ご不在でしたので持ちかえって」しまい、それが2回続いて、かといってわざわざ不在票持って本局まで行って受け取りたいなんて彼はさらさら思わないし……。結局その郵便物は差出人に返送された。
差出人の名前を、軽いいたずらの気持ちで、あたしは校長のゴム印を押してしまったものだから、さあ、大変……。
校長は封筒あけちまって、ま、開封されて困るものではけしてないが、校長のゴム印を押すなんてねえ。わたしってば、なんてやつだあ! …………。ある日、出勤すると教頭が大きな封筒を持って寄ってきて
「これ、先生が出されたんですか?」
「はい……」
「下で(職員室の下に校長室がある)大騒ぎになってましたよ。校長はわしはこんなもの出してないっていってね」
「はあ、すみません」顔から火が出そう。その話を3年生でしたら、赤い髪が、ウケながらもほとほとあきれたという顔をして
「あんた、バカァ。ばかすぎ」
「まあね、最悪の事態を想定しておかなかったわたしが一番わるいんだが、封筒がでかいというだけで郵便屋さんも持って帰らんでもよかろうに」
「ま、いたずらは全部、自分に帰るでね」
「わしさあ、こういうことあると一週間くらい立ち上がれんだわ。もっと強いこころを持ちたいものだよ」
「でもね。そうなると確実に人のこころの痛みがわからんようになっていくんだよ」
「やだ。そういう気持ちは失いたくない」
「だめだね。確実に何かを失うんだよ」
なんでだかすごい説得力のあるおコトバを頂戴してしまいましたとさ。そういえば昨日『一年後の自分への手紙』の中に彼らはナイフで自分の赤い髪と黄色い髪を切って入れましたとさ。
一年後はどんな髪の色になってるかなあ。「あんた、20分ぐらい気絶させて運んでって、とんでもねえ色にしてやりてーよ」
れぼりゅーしょんコバヤシ。その節はよろしく。4月19日(月)雨のち曇のちやっぱり雨
生徒総会の議案を早く片付けたい。が、片付かない。
でも、予算案はちゃんとできたぞ。よしよし。2年から4年まで、同じ教材を使ったり、同じネタを使いまわしている昨今。今日の企画は「未来の自分に手紙を書こう」だった。
タイムカプセルみたいに、わたしが1年、保存しておいて、1年後に封印を解くのさ。
もちろん、わたしも書いた。
1年後のわたし。1年後のわたしたち。さて、どうなっておるものやら……。
1年後の要くん。どんな男になって帰国なさることやら……。楽しみじゃあ。4月18日(日)雨
暗い日曜日。
小学校5年の長女の友だちが二人、遊びに来ている。
男の子と女の子だが、別にこの二人カップルというわけでもない。M井くんという、この男の子、今までもよく女の子たちの集まりに男の子たった一人で参加している。今日もくったくなく遊んでいる。
男女間に友情は成立するか、なんて議論はこの世代にはもう無用のものになっている、と見た。じゃあ、教師と生徒の間には友情は成立するだろうか。あたしは時に彼らのうちの何人かを自分の仲間として見ていたりするのだが、向こうはそういうのは迷惑なんだろうか?
ま、いっか。4月17日(土)晴
東京プリンはいい。
何を突然! あのプリンかぶった二人組だよ。行き付けのレンタル屋にはないので2nd shopで借りました。
宇多田ヒカルの『Cubic−U』も借りてみたんだが。全部英語ではまるっと洋楽なので好みではない。多少、判読不能でも日本語だからいいのだ。クラブの時間に初めて荒木経惟『香港キッス』CD−ROMの封印を解く。だが、自分で見る余裕なし。
新入生のS田くん、目にもとまらぬ速さでぱちぱち。初代激打王獲得。次回の挑戦者は誰だ!思うに、いくら消化時間とはいえ、ゲームにうつつを抜かしてばかりっていうのもなんだかなあ、なのである。
4月16日(金)晴
明日、イギリスに旅立つ要くんに、こころばかりのお餞別をと思って、要くんの好物である(と仲間たちはみんな信じていたところの)都こんぶを1ダース。それにかりんとうを材木町の菓子問屋で買って持参。
玄関をよいっしょ! と開けると(志賀家の引き戸はとても重い)でーんとサムソナイトが鎮座。
「まだ、中はからっぽなのです」
「じゃあ、これを詰めていって。ほら、きみの大好物」
「誰がそんなことをいったんですか? わたしには新種のいじめとしか……」
「えっ、何! 要くん、すこんぶ嫌いなの?」
「けして、好物ではありません」
「じゃあ、お米のぽんは?」
「確かにあれは好きです」
「ほらね! じゃあ、かりんとうは?」
「うううううむ」
「嫌いなの?」
「うううううむ」
「ぼくらはみんな要くんの大好物だと信じていたのに……」要くんが都こんぶが好きというのは間違いでした。みなさん気をつけてね。
でも、その噂が広まったのも、いかにもあなたに似合いそうな食べ物だからよ。