■概略
 
 これは1997年6月1日から9月4日までの期間限定で開催された電子メイルを媒介としたPBM(PBeM)です。主催は商業PBMオフィシャルとしては最古参の遊演体ですが、実験作という位置づけであり、プレイヤーの一般募集はしていましたが、宣伝広告もせず、参加費も徴収しないでごく小規模で開催されたものです。
 

 
 ■状況
 
 プレイヤーは謎の組織(おそらくは政府系の組織であることは示唆される)「Team-root-T」の特別司令官に任命されます。プレイヤー・キャラクターではなくプレイヤー自身がです。その使命はパラサイトと呼ばれる特殊能力者による犯罪を阻止し、犯人を捕獲または駆除すること。そして任務を遂行するために、「Team-root-T」に所属するパラサイトである少女たちに電子メールを通じて指令を下していかねばなりません。
 

 
 ■システム
 
 指定されたインターネット上のサイトの一角にデータベース等が設置されており、そのニュースソースからプレイヤーは現在起きている事件の状況を知ったり、上司との質疑応答を行ったり、あるいは他の特別司令官と掲示板で相談することができますが、一部データベースは閲覧不可能となっています。またメンバーの少女たちと面談をおこなったり、私室の様子をうかがったり、その日記を盗み読みすることもできるようになっています。
 調査段階での指令は各個にEメールを使っておこない、結果報告も重要で緊急性のあるものはサイト上でも告知されますが、それ以外はEメールで個別におこなわれます。最終的な捕獲・殲滅作戦については各特別司令官が提案をおこない、その中から優れたアイデアを取りまとめたものが少女たちに通達されます。そして1つの事件が完全に解決した時点で、一部始終の報告書が小説の形で掲載されるのです。
 

 
 ■TrT関係者
 
●嶋村 栄一…総司令官。パラサイト研究の生物学者であり、未熟で若いパラサイトを捕獲して育成・訓練する。現在重病のため、職務の多くを大木美智子に委任している。
●大木 美智子…総司令官代理。滅多に姿を現さない司令官に代わり天文館を統括する。
●蜷川 由起子…19歳。TrTのリーダーだが他人との交流を嫌う。昆虫型TALENTの持ち主。移動速度を半ば音速にまで近づける超高速運動、脅威的な運動神経とバランス感覚や超知覚を持つ彼女は諜報任務向き。だがその体液は空気中に触れると猛毒と化す。
●立花 香織…18歳。極めて現代的な性格。身体を高熱化させることができるが、能力の発動以来、その両手の温度を100度以下に下げられなくなり、常に手首に時計のように見える「特殊調節機」をはめつづけていなければならない。
●水原 恵美…16歳。おとなしい性格。水分を操作することができる。数年前に兄が行方不明になっている。
●武松 今日子…13歳。感情の起伏に乏しい。経歴不明。人間の数十倍の筋力を有し、全身の皮膚を硬質化させたりドーパミンとアドレナリンの過度放出によって、疲労感や痛覚をマヒさせることができる。また嗅覚は動物並み。
●佐々木 典子…5番目のメンバー。いじめによる自殺未遂をきっかけにパラサイトとして覚醒するが、覚醒時は人格が残虐性を持つ別人「テンコ」に変わってしまう。
●K…謎の情報提供者。朝朝ジャーナルという雑誌の関係者らしく政財界の人脈や資金の流れに詳しい。一定以上の功績をあげたオーガナイザーは直接に調査依頼ができるようになる。
 

 
 ■特殊用語
 
●パラサイト…超人類。太古より人類社会に寄生して棲息してきた人ならざる者。種族として存在するのではなく、突然変異で発生するものらしい。これまでは闇に潜むことを選択していたが、近年になって数を増すと共に組織的な破壊活動をおこなうようになってきた。
●Team−root−S…「Team-root-T」に先だって各国政府の軍事エリートによって編成された対パラサイト部隊。横浜で謎の全滅を遂げる。
●Team−root−T… 嶋村栄一が捕獲したパラサイト少女によるチーム。個性的な超能力を持つ彼女らは、それぞれに特殊な事情を持つ多感な少女でもある。
●特別司令官(オーガナイザー)…Team-root-Tにさまざまな行動を指示する前線指揮官的な存在。複数存在する特別司令官が、数名しか存在しない少女たちを共同で管轄するので1対1の関係ではないが、特殊能力をもった思春期の少女たちの心の支えとなることも求められる。
●天文館…横浜市内に存在する「Team-root-T」の拠点。少女たちはここに住み着いている。
●TALENT…パラサイトの持つ超能力。
●朝朝ジャーナル…猟奇犯罪専門情報誌。市中に起きている事件に関するプレイヤーの情報源の1つ。
 

 
 ■雑感
 
 このPBeMの要素を分解してみれば、「推理捜査」「バーチャル恋愛」ということになるでしょう。「恋愛」と言い切れないかもしれませんが、おおむね男性のプレイヤーが、10代の少女たちの趣味に合わせて親しくなる私信を書き連ね、落ち込んでいれば励ます手紙を、奢っていれば諫める手紙を3ヶ月間書き送るのです。それによって少女たちの気質や得意なことを知り適切な任務を与えてやれば成功率があがるだろうとか、士気が上がって戦力的に向上する…なんてのはついでの話になりかねません。書くときに、「どうせ、これはマスターが読んで判定しているだけだ」なんて斜にかまえたり照れたりしてたら負けです。
 そしてインターネット経由でメールのやりとりをするうちには、相手が実在の人物か架空のキャラクターなのか区別がつかなくなってきます。世にバーチャルと名のついたゲームは多いはずですが、それに使用するインターフェイスでアクセスする相手は常に虚構の存在。しかしこのゲームの場合、実在の人物も架空の人物も、他のプレイヤーもNPCも同じように電子メールで語りかけてきます。
 それで少しの情も湧かないとなったら、むしろそちらの方が不思議。普通のPBMだって、自分のPCがNPCに信頼されたり好意をもたれたら嬉しいでしょ? それがNPC対PCではなくNPC対“プレイヤー本人”なんだもん。

 けれども1日ごとに状況は厳しくなっていきます。確かに仲間は増えていきますし、協力者もできてきます。けれど敵は強大で正体不明。そのくせ、こちらの司令官は持っている情報すら明かさず何を考えているのか判らない。自分たちの上層部すら、もしかしたら敵に回るかも知れない。そんな状況で、年少の少女たちを叱咤しおだて戦場へとかりだす……あ、こんなシチュエーションの話を僕は知っている。世にエヴァンゲリオンと呼ばれていたはずだ。するとプレイヤーは葛城ミサトの役を演じろというのだな…。
 そして最後の1週間。チームは満身創痍。チームリーダーは父親が敵の人質になっていて、いつ裏切るか判らない状態。敵の奇襲で総司令官は死亡。さらにこちらの組織のスポンサーが敵の首領と同一人物であることが発覚。チームは解散が決まり、自分たちは犯罪者として官憲に追われる身となってしまう。それでいながら限られた期間で、自分たちより強く経験もある1000人の特殊能力者を相手にしながら、敵の拠点を壊滅させ首領を倒せというのです。それができなければ人類社会は終わってしまうから。
 迫ってくるのが戦自でないのがマシなくらい。普通のゲームだったら負けを認めて投了するか、やけくそでコマを突入させてゲームオーバーを待つといったところですね。
 ところが“やけくそで突入させる”ことができるほど、あるいは作戦は作戦、損失は損失と簡単に割り切って指示を出せるほど、彼女らをコマとして認識できなくなっているのです。さすがに数ヶ月文通しているとさ。
 それでも「やらなくてはいけない」ことは「やらせなくてはいけない」。プレイヤーにできることは、少しでも作戦の成功率を上げて彼女らの生還率を大きくするだけです。それにしたところで可能性0を0.000001にするくらい。ぶっちゃけた話、「君は1人で敵が待ちかまえている中に突入して下さい。囮だから、せめて500人くらいは引きつけて。できたら相手を全滅させて、基地の爆破もしておくように」程度の作戦ですよ。それでも他に策はないから、まあ「死んでこい」ですよね。プレイヤーはそう言うわけです。
 それでも途中から協力者になった<カミソリヤ>には身を隠して逃げろと勧めますが、 きっぱりと拒絶されました。
 普通だったら、最終的になんらかの助けが入り、作戦の成功と奇跡的な生還を期待させて欲しいところですが、このPBeMではすべてのアクション終了後、救いの予感の代わりに手紙が届いたのです。各プレイヤーがもっとも親しくしていた 少女たちからの手紙(または大木美智子やその他NPCからのメッセージ)が最後に1通。メールで届きます。

 これで幕引きにしますか!?

 ゲームとして、この作品以上に謎解きや駆け引きが難しいものは幾らでもありました。でも、これほど精神的に厳しかったものはありません。でも「愉しかった」とは言えませんが、面白かったし、記憶に強く残る作品であったことは間違いありません。

 この作品があくまで小規模な実験作としてしか成立しないことは確実でしょう。しかし「インターネットでしかできないこと」を追求していく姿勢は、仮想体験をいかに「らしく」見せるか腐心し、またインターネットを単なる「郵便の代わり」に留めようとしない、そして「悩み苦しむのも楽しみのうち」といった雰囲気は極めて「遊演体」的な作品でした(マスターによれば、たとえ「面白かった」が前提でも「苦しかった」という声が出るのは「楽しみを提供する立場」として失敗かも…という反省をしていましたが)。現在ではインターネットを媒介にしたPBMは増えました。しかしその多くは「インターネットは郵便の代わり」であり、やっている内容は「パソコンゲームやボードゲームでもできること」にすぎません。
 そして遊演体はこの(インターネットでつながっている相手は、本当に存在するかもしれないよという)方向性としてのバーチャル・リアリティを維持しつつ、より多くの人間が参加できるシステムを模索し、インターネット版「蓬莱学園の冒険!〜南方発放課後通信」へと結実させたのでした。
 

 
横浜事件ファイルTRT活動報告
4月6日○横浜にあるS系暴力団事務所、襲撃される。 
16日○横浜市警の110番通報が午後9時から10時にかけて、ひっきりなしに鳴り続ける。警察が至急、通報者のもとに急行すると通報者は全員、何を通報したか忘れていたとのこと。○人間による対パラサイト特務部隊『Team-root-S』横浜にて全滅する。詳細は不明。
27日○横浜駅前のTデパートの貯水槽が突然、空になるという珍事が起きる。屋上付近に残る無数の血痕から警察は事件との関連を捜査している。 
30日○石川町の私道で、顔を焼かれ、首をかみ切られた身元不明の男性の死体が発見。 
5月1日 ○『Team-root-T』活動が承認。
3日○横浜駅付近の風俗店Pの私道にて、若い男性5人のバラバラ死体が発見される。凶器は刃物状の物と思われるが特定は不可能。○パラサイトによる犯行と推測。コードネーム<カミソリヤ>と命名。
○桜木町のY公園にて、白昼、3人の女子高生が集団自殺。硬質の糸状の物による絞死だが公園内に自殺に使われた道具は発見されず。○パラサイトによる犯行と推測。コードネーム<テネロープ>と命名。
○横浜市石川町の高架下で首部を咬みきられた男性の惨殺死体が発見されが歯形は人間のものではないと判断される。○パラサイトによる犯行と推測。コードネーム<ケルベロス>と命名。
9日 ○『Team-root-T』、初めての戦闘。そして敗退。敗因は精神的なもろさと連携の不足。緊急の対策が求められる。
13日○午後2時、中国人と思われる男性が横浜駅前の路上で、わめき声をあげ狂乱のまま怪死。男性の鼓膜は破れていた。
○天才的ピアニスト、如月雅人氏。フランスから久々の帰国。如月氏は目が不自由でありながらも、ヨーロッパ各国で各賞を受賞し高い評価を受けている。来日後はコンサートを続けながら日本の音楽会に後見したいとのこと。
 
20日○女子高生2名、横浜市内の出身中学校の校庭で首吊り自殺。自殺につかったロープは現場で発見されず。 
23日○関内にて、カラスが白昼、人を襲う事件が起きた。襲われた女性は意識不明の重態。 
26日○警官、惨殺され拳銃奪われる。 
28日○桜木町の建て壊し中ビルのコンクリートから身元不明の白骨死体が発見された。死亡推定時刻は97年4月16日。 
30日○横浜市内の予備校教師Y(25)が女子高生に買春を働き逮捕。Yは「むこうから誘ってきた」と苦しい言い訳。 
31日○国会議員、弓削道明氏(43)、横浜市内に点在する各種文化財維持のため総額1億あまりの大金の寄付を申し出る。 
6月1日 ○オーガナイザー制度の導入。
2日○なかば横浜の名物となっている、桜木町駅付近の高架下の落書き群のなかに新しいタイプの落書きが多数書かれるようになっている。内容は、二匹の蛇が互いの尾を食べている模様、「Double snake head」「KINGDOM COME」の文字、また意味不明の文章など。 
3日○大岡川の長者橋付近で軍服を着た男性2名の水死体が発見された。死因は窒息死、死亡推定時刻は4月16日深夜。 
4日○神奈川県立青少年センターの音楽堂で予定されていた如月雅人氏の帰国初コンサートが氏の要請によって中止となった。 
5日○野毛山動物園から、トラ、サル、タカ等、5頭の動物が突然姿を消し、行方不明となっていることが明らかとなった。○立花香織、テネロープの調査を開始。
6日○午後10時頃、横浜中華街にある中華料理店「R」で下水管が破裂、店は全壊、なかにいた店員5名および店内にいた客12名が全員死亡した。客は全員暴力団関係者と見られ、警察は中国系マフィアとの抗争の可能性もあるとみて捜査を進めている。○武松今日子、<カミソリヤ>の調査を開始。
○水原恵美、テネロープの調査を開始。
7日○神奈川県警の私服警官M(35)が横浜港付近で水死体となって発見された。死体はまるで鉄砲水に巻き込まれたように全身に打撲の形跡があり、警察は事故とみて捜査をつづけている。 
8日○京浜急行黄金町駅付近で、S系暴力団R会組員S(27)が男性に発砲するという事件が起きた。目撃者の証言によれば、撃たれたのは三十代の男性で身長は165センチほど。5発の銃弾を受けながら2分ほどして立ち上がり、Sを殴りつけ気絶させると、バイクに乗って立ち去ったとのこと。Sは警察で4月6日の報復であると供述している。 
9日○オリンピック誘致に沸く横浜市の沖合いに、新たな人工島を建設する構想が県議会に提出された。史上例をみない大規模な人工島の建設計画であり、関係者によれば、横浜を真の国際都市、21世紀の香港とするための計画であるとのこと。 
11日○桜木町駅前のファーストフード店Mの更衣室で、アルバイトの女子高生(15)の絞殺死体が発見された。 
13日○横浜駅近辺で帰宅途中の女子高生、予備校生、大学生らを狙って、車に連れ込んでは暴行を繰り返していた無職N(26)ら4名が13日深夜、同様の手口での犯行中、何者かによって殺害された。死因は刃物類による頚部切断。殺害時、暴行にあっていた予備校生(19)は、あっというまに4人の首がなくなったと証言している。 
15日○午後二時頃、横浜の港の見える丘公園で散歩中の老人(74)が、数十匹のカラスに襲われて死亡するという事件が起きた。 
17日○横浜のY大付属病院のコンクリートの壁から、同大学教授で医学博士の日暮雄三氏(53)の遺体が発見された。日暮氏は今月15日より家族から警察に捜索願いが出されていた。 
18日○横浜駅前のYホテルでミイラ化した男性の死体が従業員によって発見された。男性は昨日同ホテルにチェックインしたY大学助教授田宮真一氏(46)。 
19日○午後11時頃、京浜急行黄金町駅付近で銃声が聞こえた、と付近の住民から通報があった。警察は5月26日の警官殺害事件との関連を捜査している。 
20日○関東地方に台風。○ヤクザと抗争していた男性は<紫電>と呼ばれるパラサイトであると判明。
21日○横浜市根岸台のAさん(32)の飼っていた柴犬が三渓園近くの電柱に串刺しにされているのが発見される。 
23日○今月4日、会場のピアノの不満を理由にコンサートの中止を発表した如月雅人氏が、来月7日より会場を岩崎博物館内ホールに変更して再開することを発表した。
○根岸森林公園内で、犬の散歩中の男性が少年の惨殺死体を発見した。殺された少年は3日前より警察に捜索願いがでていた、現場近くの県立高校に通う男子高校生(17)。警察は発見された死体の状況から、今月5日に野毛山動物園から逃げ出した猛獣か、猟奇的殺人によるものと2つの方向から捜査を続けている。
○テネロープ捕獲作戦指令を全特別司令官に募る。
○水原恵美、行方不明だった兄・水原左京と中華街で遭遇。
○武松今日子と蜷川由起子の共同調査によって、<カミソリヤ>の本名、職業、住所が判明する。
24日○香港のアクションスター楊武士氏、観光目的で来日。 
25日○京浜急行日ノ出町駅構内で深夜、意識不明の重体で倒れていたロシア人と思われる外国人男性を駅員が発見、通報によって近くの救急病院に保護された。 
28日○関東地方に、また台風。○テネロープ捕獲作戦成功。佐々木典子、天文館地下6階のパラサイト収容室に拘留。
○塾帰りの少年が、深夜に帰宅途中、野毛山公園の木々の間に、女性が3人、宙に浮かんでいるという怪現象を目撃。
30日○思春期の少年少女の精神不安がさけばれるなかで、国会議員の弓削道明氏が、横浜市内の中学、高校に、スクールカウンセラーの設備充実と、優れた芸術鑑賞のためにと、多額の寄付を申し出た。 
7月1日○香港、中国に返還。 
2日○横浜の本牧沖でタンカーが座礁、15000トンの原油が流出したもよう。 
3日○先月27日に保護され、横浜市内の病院に入院していたロシア人と思われる外国人男性が、病院から失踪した。○ロシア人を<ケルベロス>と断定。<紫電>および蜷川由起子との間に因縁があることが示唆される。
4日○タンカーから流出した原油の量は1500トンであることが明らかになった。 
5日○横浜市内の数ヶ所の病院で、過去の診断カルテや、研究用のサンプル等が盗難の被害にあっていることが明らかになった。警察では横浜市内の各病院に、不審人物に対する注意を呼びかけている。 
6日○中華街内の関帝廟で今月六日、2名の焼死体が発見された。 
7日○如月雅人氏コンサート、大盛況のなか初日の幕を閉じた。25日まで開催の予定。○蜷川由起子、<カミソリヤ>八巻重行と接触。横浜で起きる怪事件のほとんどに「双蛇環」と呼ばれる組織が関わっているらしい。双蛇環はパラサイトの組織化を進めており拒絶した者は抹殺されるという。
9日 ○佐々木典子、初めての調査活動。特技であるコンピュータ情報収集力によって活躍する。
10日○保険所の調査によって、横浜市内の特に都市部にかけて、ゴキブリが前年度の数十倍にもいたる異常発生をおこしていることが確認された。○<カミソリヤ>専任となっていたオーガナイザーより提案。<カミソリヤ>の追求を諦め、双蛇環の情報を逐次流すという条件で、協力してくれるとのこと。
11日 ○オーガナイザー、水原左京は父親の友人である弓削道明という人物から、学費や生活費を支給されアメリカ留学していたが、楊武士という中国人の友人と如月雅人のコンサートを観に行った後に消息を絶ったと報告。
○データルームの極秘資料の公開は無理とのことで、オーガナイザーに嶋村栄一総司令官に対する疑惑が広がる。
13日 ○オーガナイザーの指令によって、水原恵美、立花香織、蜷川由起子、TrTメンバー3名が如月雅人のコンサートに潜入。如月の身の回りの世話をする多数の人物のなかで特に目をひいたのは、如月の歩行の手助けをする東洋人の少女。話によれば、その女の子は彼の養女であるらしい。
○観客は如月が鍵盤に触れず、ただピアノの前で30分間黙って座り続ける『音の無い曲』に熱狂する。予想を超える精神性のTALENTを有すると推測できる。
○如月雅人との会見に成功。ただし、彼は彼女たちがTrTメンバーであることをすでに知っており、特に蜷川、水原については、彼女2人の名前以上の経歴さえ知っている様子で、蜷川由起子を常に「お嬢様」と呼び、水原恵美を「左京君の妹」と呼んでいた。『双蛇環』の有力なメンバーであると断定。
14日○あいつぐ台風やタンカーの原油流出により遅れていた、人工島の試験工事が、ついに開始された。
○今月、国会にて提出された沖縄県の自由貿易港化計画に呼応して、日本の二大自由貿易港をめざすためにも、横浜の人工島計画の進展に強い関心と期待がもたれている。
○立花香織、武松今日子のTrTメンバー2名が水原左京と帷子川、川沿いにて遭遇。オーガナイザー/薬川友紀によれば左京は妹が理矢理連れ去られ、苦しめられているから取り返しに行くと宣言したとのこと。
16日○横浜の観光名所のひとつである外国人墓地の老朽化にともない、補修工事が行われることとなった。○ケルベロスが重傷状態で中華街地下下水道に潜伏していることが確認される。
17日○保土ヶ谷区の「アパートH」にて火災。放火の可能性も。○<カミソリヤ>死にかかる。
20日○みなとみらいフェスティバル'97開催。○武松今日子、佐々木典子、立花香織のTrTメンバー3名が港の見える丘公園にて双蛇環のパラサイトに襲撃される。
21日 ○双蛇環がナノライダーウィルス・サンプルを入手しようとしている事実が確認される。
22日○来日中の香港のアクションスター楊武士(26)が滞在中のPホテルにて、刃物を持った暴漢に教われ、右腕に全治一週間の傷を負う。○蜷川由起子、立花香織のTrTメンバー2名、嵐寛十郎と接触、そして会見を行なう。
23日 ○オーガナイザー、盗難の被害を受けた病院の全てが嶋村栄一とその研究に参加した人物に関わりのある病院であり、盗まれたのはナノ・ライダーウィルス(NRV)や最近のサンプル、および研究論文等だったと報告。先日殺されたY大の病院関係者らもこの研究に参加していたとのこと。
○嶋村総司令官、TrTにケルベロス・水原左京捕獲作戦の二面同時作戦を指令。
25日○如月雅人がコンサートの千秋楽にて演奏の拠点を日本へと移すことを発表。また8月15日、神奈川県民ホールにて横浜市主催の市内の中高生のための無料コンサートを決定。○オーガナイザーよりケルベロス捕獲作戦において<紫電>嵐寛十郎氏が協力してくれることになっていると報告。
○オーガナイザーより、双蛇環の首領はさまざまな顔と名前をもつパラサイトで、「双顔真人」と呼ばれていると蜷川由起子がしゃべってくれたと報告。由起子が双蛇環になんらかの関わりがあったと推測。
27日 ○八巻重行、オーガナイザーに無視される。作戦不参加を固く決意。
28日○横浜市観光局は、この夏、横浜市を訪れる観光客の数が前年の2倍以上に急増していると報告。○TrTのスポンサーが弓削道明と判明。
30日○最近の異常気象で、東京都内にコウモリが異常発生していることが話題となっているが、横浜でも根岸森林公園や野毛山公園などに、コウモリが異常発生していることが報告された。 
8月1日 ○ケルベロス・水原左京捕獲作戦開始。捕獲に成功。しかし水原左京は廃人状態にあり、また武松今日子、佐々木典子のTrTメンバー2名が負傷。武松今日子は胸部損傷、出血多量、各所骨折など重傷の状態であったが超回復力により完治まで1週間。
○捕獲した2名のパラサイトについては嶋村総司令官の指令により、尋問の上9月1日に抹殺が決定。
3日○桜木町高架下に再び謎の落書き。三行から四行の文章と二匹の蛇のマークによって構成されており、その文章の方は、確認されただけでも日本語、英語、ドイツ語、中国語などで繰りかえし同じ内容の文が書かれているとのこと。 
5日 ○武松今日子が不可解な言動をとるようになる。
○オーガナイザー、Kへ弓削道明氏の資金の出所及び水原一家との関係調査を依頼。
6日 ○オーガナイザー再び<カミソリヤ>と接触しはじめる。八巻、新しい条件を提示。
8日 ○武松今日子、佐々木典子の調査行動禁止を解除。しかし、診察によって佐々木典子はTALENTが発動できない状態にあることがわかる。
9日 ○<カミソリヤ>、オーガナイザーの要請によりTrT協力に快諾。
10日 ○蜷川由起子、武松今日子、水原恵美のTrTメンバー3名によってNRV研究者、玉井陽子女史の護衛を開始。
○嶋村が戦後になって超国家組織「R・C」と接触し、その後もパラサイト研究を続けていたこと、ルートTを組織したのも「R・C」らしいということが判明。
11日 ○根岸森林公園にて、蜷川由起子、佐々木典子、武松今日子が、夜行性食人パラサイトの捕獲作戦を実行。苦戦しつつも敵を殺害し、作戦終了。
○蜷川由起子、ナノ・ライダーウィルスが88年に嶋村栄一によって発見されたウィルスであり、パラサイトを生み出す原因であると報告。
12日 ○オーガナイザー、ケルベロスへ尋問。彼は<紫電>ではなく武松今日子にやられたと証言。しかし今回のケルベロス捕獲作戦に武松今日子は参加していないので、武松今日子に酷似した容貌で、かつケルベロスにダメージを与えられるだけの能力をもったパラサイトがいる可能性が指摘される。
○この頃から、嶋村栄一総司令官がオーガナイザーの活動に対し警戒しはじめる。
13日 ○蜷川由起子、水原恵美、武松今日子によってNRV研究者、玉井陽子の天文館移送作戦を開始。その途中、3人の双蛇環パラサイトの襲撃を受ける。そのなかの1人<操炎真人>と名乗るパラサイトに苦戦を強いられるが、TrTメンバーはそれらを撃退するが、双蛇環に天文館の所在地を知られる。
○武松晃一および顕に関する調査が却下される。
14日 ○大木美智子により玉井陽子へメールで質問することが許可されたが、直後に嶋村栄一総司令官によって取り消された。「君たちには知ることは許されない。それが君たちのためでもある。」
○オーガナイザー、弓削氏が資金提供した文化財建造物は、網目のように広がった地下道で連絡しており、外人墓地の地下には巨大な地下施設も確認。双蛇環のペンダントをつけた者が通行していたと報告。
○蜷川由起子、オーガナイザーに自分が双蛇環の元首領<神風真人>蜷川是空の娘であることを告白する。
15日 ○蜷川由起子、立花香織、水原恵美によって<操心真人>如月雅人の洗脳コンサート襲撃作戦が開始されるが失敗。<ホムンクルス>と名乗る武松今日子と瓜二つの双蛇環パラサイトによってTrTメンバーは危機におちいるが、救援に駆けつけた八巻重行によって全員無事に撤退。
16日 ○この頃、横浜に世界中の双蛇環パラサイトが集結しはじめていることが確認される。
○弓削道明がダブルフェイスまたは双顔真人と呼ばれる双蛇輪の首領であると判明する。
17日 ○佐々木典子によって、データルームの極秘事項のパスワードが一部発見され、オーガナイザーに密かに伝えられる。
○極秘データより、第2次大戦末期に各国の軍がおこなっていたパラサイト兵士計画が明らかになる。開発をおこなっていた日米独ソのうち、もっとも成功したのが日本であり、3体の製造に成功した。そのうち量産型強化超人類兵器「武尊」は研究所内の暴走が原因で駆除されたが、研究は武松顕氏によって継続され'81年に純人工パラサイトの育成に成功する。試作型超人類兵器「紫電」はソ連戦で実戦配備され多大なる戦績をあげたが終戦時おける研究内容の秘密保持のため、研究所の地下に冷凍保存された。最終強化超人類兵器「神風」は沖縄での対米戦に配備される予定であったが、輸送中の長崎にて被爆、その生死は不明。
18日 ○弓削道明の香港視察時期を見計らい、横浜外人墓地の双蛇環秘密基地への潜入作戦を開始。基地は地下通路を通じて横浜市全域に広がっており、1000名近い双蛇環パラサイトがいることが確認された。多大な武器類を有する倉庫(ミサイルのようなものを含む)、医療施設、研究施設のようなものも存在し、なおも拡張工事中。遭遇した<ホムンクルス>によって今日子が負傷、撤退のバックアップ・チームも如月雅人に襲撃され壊滅の危機に。<カミソリヤ>と<ケルベロス>の協力によって作戦は成功。また、基地内部の重要拠点に監禁されている<神風真人>蜷川是空を発見。
○オーガナイザーよりNRVのサンプルが双顔真人に流出していると報告。双蛇環は、ゴキブリやコウモリを媒介としてNRVを横浜中に散布していると推測される。 また水原左京とケルベロスの処刑延期または中止を嶋村栄一氏に求めたが却下されたとのこと。
19日○国会議員、弓削道明が香港にて殺害される。犯人は以前から氏の近辺を尾行し、脅迫文を送りつけていた「Team-root-T」と名乗るテロリスト集団か。
○弓削夫人(30)は「弓削は脅迫にも恐れず、自分の理念を信じ行動する立派な人でした。……あの人らしい最期だと思います」と涙ながらにコメント。
○TrTは弓削道明殺害の犯人として警察から追われる立場となる。
○ケルベロスは「双顔真人は騙して是空の地位を奪い、是空の忠実な部下だった如月を配下とした。ダブルフェイスは他人の弱みを操るのが上手い」と語った。
20日○横浜市内のコウモリ異常発生の主要な原因が、餌となる蚊の大量な発生にあると保健所により発表。○オーガナイザーの言葉によって、武松今日子、自分を取り戻す。
21日 ○蜷川由起子、オーガナイザーに、父を解放してほしければ嶋村総司令官暗殺と彼の所持するNRVサンプルの奪取をするよう双顔真人から要求されていることを告白する。
22日○如月雅人氏、9月1日に山下公園で初の野外コンサートを実施と発表。 
23日 ○佐々木典子以外のTrTメンバーと大木美智子が不在の時に天文館が何者かによって襲撃され、嶋村栄一と玉井陽子が殺害、NRVサンプルが奪取され、双顔真人の手に渡る。また、ケルベロスも天文館から脱走、行方をくらます。天文館の警備を行なっていた佐々木典子は、襲撃に全く気がつかなかったらしく、何らかの心理操作が行なわれた可能性があるとのこと。
24日○中華街の料理店で、腹部下面がホタルのように発光するゴキブリが発見され話題となる。○武松今日子、蜷川由起子、横浜Pホテル内にて<操炎真人>楊武士と遭遇、戦闘に入るが、ホテル内の混乱によって中断。楊は去り際に双蛇環の計画がすでに進行していることを2人に告げる。
25日○横浜Pホテルにて弓削道明の告別式。○オーガナイザーのなかで、蜷川由起子が嶋村栄一らを殺害し、NRVサンプルを双顔真人に渡したのではないかと疑惑が広がる。
○蜷川由起子1人によって、弓削道明告別式潜入作戦が実行。双顔真人が弓削道明夫人の姿を借りて、まだ生きていることが確認される。
26日 ○オーガナイザーと水原恵美の努力によって、ついに水原左京の精神が回復される。そして、左京の口から双蛇環が9月1日に実行する計画が明らかにされる。横浜港沖に浮上させた人工島を拠点とし、ダブルフェイスのTALENTによって横浜、川崎一帯の交通、通信を遮断。そのあいだに横浜全域は<操獣童子>によってNRVを有した虫たちにおおわれ、如月によって横浜に住む人々の精神を支配。それを契機に、世界中に双蛇環が支配するパラサイトの世界が訪れることになるだろう。
○TrT上層部より解散命令が下される。
○大木美智子、最終作戦を決断する。横浜外人墓地地下にある重要拠点の破壊および山下公園における如月雅人の洗脳コンサートの阻止並びに付近市街地における<操獣童子>によるNRV散布の阻止。新港埠頭における双蛇環の拠点を破壊した後、横浜人工島にて全チーム合流。最終目的である双蛇環最大重要拠点の「横浜人工島」の破壊、及び、その内部にいる双蛇環首領双顔真人を撃退するというもの。
○意識を回復した水原左京は恵美が参加する限り自分も作戦に参加するとのこと。
28日 ○脱走中のケルベロスからオーガナイザーに「双顔真人は俺様が一人で殺る」という私信が届く。
○如月雅人に協力を打診したが、「自分は常にダブルフェイスの監視にあり、裏切ればそばにいる少女も是空様も、命を断たれてしまうし、もはやゲームはダブルフェイスの勝ち。諦めた方が良い」と返答。
29日 ○嵐寛十郎と蜷川由起子、横浜港にてケルベロスと接触。会見後、由起子はケルベロスを殺そうとするが、嵐によって阻止される。嵐はケルベロスをそのまま逃がす。
30日 ○水原左京、恵美と武松今日子、八巻重行、横浜港沖の海底で双蛇環の人工島がすでに完成しており、9月1日の浮上を待つだけという事実を確認。八巻、カナヅチのため死にかける。
31日 ○大木美智子、TrTメンバーに今回の作戦に参加するかしないかは自分の意志で決めるよう伝える。TrTメンバー5人は自分の意志で参加を決断する。
9月1日 ○「Team-root-T最終作戦」開始。

 
 ■付記
 
 非公開文書『Route Second Plan '88』によれば、パラサイトの活動が活発になったのは88年以後となっている。設定的に、この作品が『ネットゲーム'88』の後日談、あるいはアナザーストーリーとしても読めるところが面白い。
 

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