DAN NIMMER
WYNTON KELLYに捧げるというよりは
OSCAR PETERSONに捧げるといった方が適切ではないだろうか?
"KELLY BLUE"
DAN NIMMER(p), JOHN WEBBER(b), JIMMY COBB(ds)
2006年3月 スタジオ録音 (VENUS : VHCD-4008)


DAN NIMMERは初めて聴く。最近になって"MODERN DAY BLUES"(2009年12月録音)という新譜が発売になったが、あえて、旧譜で2006年録音のこのアルバムを選んだ。その理由は大好きなピアニスト・WYNTON KELLYへのトリビュート・アルバムだというからだ。アルバム・タイトルも"KELLY BLUE"だもの。さらに、このアルバムも紙ジャケットで1500円と格安アルバムだったから。
CDもこのくらいの価格になっていると値頃感が実にフィットしてくる。レコード会社の方にはこの価格帯を狙ってCDを発売してもらいたいものだ。この価格だとネットでダウンロードできる価格と大差がないのでは?だったら、モノとして残るCDを選択したくなるというのはオジンだけではないだろう?
このアルバム、ドラムスにKELLYの旧友、JIMMY COBBが参加しているのも嬉しい。
当のDAN NIMMERは1982年生まれというから今年28歳と若い。若くして音楽教育を受けているのでテクニックは抜群だ

@"NO BLUES" 
音符が溢れんばかりのNIMMERの演奏にちょっと戸惑う。バッキングにおけるCOBBのおかずの入れ方が良いね。
A"BRIMSHA MAN" 
典型的な32小節の歌モノ。WEBBERのウォーキングが良く歌っている。
B"ON A CLEAR DAY" 
C"QUICK JUMP" 
前曲でもよく指の動くピアニストだと思っていたら、今度は超ど級の急速調でも「への河童」のテクニシャン振りを披露。WYNTON KELLYってこんなに上手くなかったよなあ。
D"CLOSE YOUR EYES" 
本当にこのピアニストは流暢だ。逆に、もう少し朴訥な感じが出てきたほうが味があるのではないか。
E"ELEANOR" 
F"KELLY BLUE" 
WYNTO KELLYのオリジナル・ブルース。WEBBERとCOBBのサポートがガッチリしていて揺るぎがない。NIMMERもこのくらい音符を抑え目にして弾いていたら、これは良いノリだ。
G"ON THE TRAIL" 
軽快な1曲。昔、ジャズ喫茶で厭というほど聴いたKELLYの"IT'S ALL RIGHT"に入っていた曲。ギターにKENNY BURRELL、パーカッションにCANDIDOが入ったクインテットの演奏だった。実に、懐かしい。
H"IF YOU COULD SEE ME NOW" 
TAD DAMERONが書いた美しいバラード。
I"AUTUMN LEAVES" 
KELLYの十八番といってもよい曲。NIMMERの演奏も控えめで良い感じ。
J"TEMPERANCE"
 ベースのJOHN WEBBERは全編を通して地味だけど、安定感のある良いベーシストだ。

DAN NIMMERのピアノはテクニック抜群だ。トリビュートしたKELLYよりも数段上手いに違いない。でも、テクニックだけで語れないのがジャズなのだ。KELLYの音楽には明るくて陽気な一面と切ないような哀しげな一面があり、塩梅良く聴くものの心を捉えていくのだ。対して、このNIMMERには超高速の演奏でも引き倒すテクニックがあるけど、こういうバップ・テイストに過剰なテクニックは不要だ。もっと言うと、NIMMERの上手すぎるテクニックが鼻に付くのだ。「能ある鷹は爪を隠す」でテクニックを抑制することが出来たらズット良くなるだろう。事実、後半の演奏は前半に比べるとかなり良い。
このアルバム、WYNTON KELLYに捧げるというよりは、OSCAR PETERSONに捧げるといった方が適切ではないだろうか?特に前半のノリはPETERSONのそれだね。
そうは言うものの、ハード・バップの心意気を見せた楽しめるアルバムになっていると思う。   (2010.06.24)

試聴サイト : 
http://www.venusrecord.com/recent/2006.html



独断的JAZZ批評 633.