独断的JAZZ批評 546.

MIKI HAYAMA
スタンダード・ナンバーの演奏で人に感動を与えられるようになったら本物だろう
"WIDE ANGLE"
早間 美紀(p), 北川 潔(b), VICTOR LEWIS(ds)
2008年9月 スタジオ録音 (ART UNION CORPORATION : ARTCD 114)


早間美紀のアルバムは丁度、2年遡る2006年録音の"PRELUDE TO A KISS"(JAZZ批評 378.)を紹介している。今回はベースに北川潔が入っているのは変わらないが、ドラムスがERIC McPHERSONからベテランのVICTOR LEWISに変わっている。
前回のレビューで書いた「歌心」と「アレンジの腕」は一皮も二皮も剥けただろうか?気になるところだ。このアルバムでは7曲を早間が提供し、1曲(
B)がVICTOR LEWIS。残りの2曲がG. GERSHWIN(D)とT. FLANAGAN(F)という構成だ。

@"WHAT'S NEXT?" 
1曲目としてはなかなかその気にさせてくれる演奏で期待感が湧いてくる。しなやかに踊る北川の4ビートがあればこそ。とはいえ、進むにつれてアップテンポの演奏の中であれこれやろうとした早間のプレイに余裕がないのが残念。少々右手が上滑りしている感じ。
A"FLYING HORSES" 

B"ANOTHER ANGEL" ドラムスのVICTOR LEWISの書いた佳曲。なかなか良い曲で3人が気持ちよくスイングしている。いつものことながら北川のベースは今日もいい音しているし、いいベース・ソロだ。このアルバムのベスト・チューン。
C"HORIZON" 
ピアノとベースの定型パターンで始まり躍動する。こういう曲での北川のバッキングの上手さったらないね!残念なことは早間のピアノが引き立ってこないことだ。
D"WHO CARES?" こういう美しいテーマのスロー・バラードでどこまで歌えるかが勝負の分かれ目だ。ただ美しく弾きましたではねえ。こういう曲で、人を感動させられれば本物だ。
E"SOUND OF MIGRATION" 
北川のアルコが堪能できるチューンだが、ジャズとしての面白みはない。やはりテーマに問題ありだ。
F"FREIGHT TRANE" 5拍子で演奏しているそうだが違和感はない。
G"DISMISSED" 
早間自身の歌声(スキャットのようでもある)が入っている。最初はKEITH JARRETTの唸り声よりはましかと思ったが、2回目からは余計だと思いだした。
H"UP & DOWN" 
バップ・テイストの佳曲。
I"A TIME FOR PEACE"
 美しい曲であるが、何故か印象に残らない。

このアルバムで早間の提供した7曲にはモーダルな演奏からハード・バップ、ラテン・テイストの曲、美しいバラードまで盛り沢山に含まれている。まさに"WIDE ANGLE"とも言うべき内容である。しかし、どちらかと言えば、モーダルな演奏に印象が強く残る。逆に言えば、そのほかの演奏で早間らしいオリジナリティを感じない。多分、モーダルな演奏が一番得意なのだと思う。前作でもそうであったが、自作曲に拘るよりは、もっとスタンダードなんかにチャレンジして「歌心」の引き出しを多く持った方が良いのではないかと思ってしまう。才能は感じるが、まだまだ独りよがりの部分があるように感じる。スタンダード・ナンバーの演奏で人に感動を与えられるようになったら本物だろう。
未だ若いし、焦ることはない。才能を認めた上での辛口レビューだ。でも前作の"PRELUDE TO A KISS"よりは大分良くなった。
このアルバムは北川潔の凄さを堪能できるアルバムでもある。僕が世界で5本の指に入るベーシストの一人として推挙したいプレイヤーだ。
しかし、それにしてもこのジャケットはないよね。「赤いべべ着せて黒の網タイツ」とは!このジャケットをデザインした人と採用した人の見識を疑うね。少なくともジャズを知っている人のデザインではないね。まるでジャズの匂いがしないもの。これで星半分は損してる。   (2009.03.25)

参考サイト : http://profile.myspace.com/index.cfm?fuseaction=user.viewProfile&friendID=143001891