RONNIE LYNN PATTERSON
そして、何時しか、全てが沁み込んで心の中を占領されたような感覚がある
聴き込むほどに虜になっていくような・・・そういうアルバムである
"FREEDOM FIGHTERS"
RONNIE LYNN PATTERSON(p), STEPHANE KERECKI(b), LOUIS MOUTIN(ds)
2008年3月 スタジオ録音 (ZIGZAG : ZZT080802)

RONNIE LYNN PATTERSONHは黒人のフランス人らしい。ヨーロッパ的な味わいと黒人的な味わいがミックスし、えもいわれぬ独特な香りを発散している。(ヨーロッパ+黒人)/2というような単純な味わいではなくて、色々な素材がない交ぜになって、全く新しい香りを放っているという感覚なのだ。


@"FREEDOM FIGHTERS ADAGIO"
 CDトレイに載せた瞬間に流れ出てくる暗くて重く沈んだ出だしに「!」 そして、一条の光が差し込んでくる・・・そういう感じなのだ。なかなか説得力があり、重く力強いKERECKIのベース・ソロを挟んでテーマに戻る。が、何という重苦しさと不可解さ。今までにあまり聴いたことのないアプローチに「!」
A"FAITH"
 音の洪水のワルツ。
B"CAMARINAS"
 このピアニストの特徴として左手のバッキングにコードとサスティンペダルを多用しているので音が洪水のように溢れてくる。メランコリーなけだるさが独特な世界を創り上げている。このSTEPHANE KERECKIというベーシストはなかなか良いと思う。要・チェックだ。
C
"MANDALA" 「曼荼羅」か?KEITH JARRETTの曲だそうだが、まるでフリー・テンポのアヴァンギャルド風。
D"FOR ORNETTE COLEMAN"
 ORNETTE COLEMANに捧げた曲だろうか。非常に内省的なメロディをフリー・テンポで奏でていく。
E"SANTA FE"
 3者がぶつかりあって激しく交錯する演奏の中にも垣間見れるリリシズム。MOUTINのドラムスが躍動し炸裂する。
F
"MY WILD IRISH ROSE" 一転して、限りなく美しいテーマ。トラディショナルか?KEITH JARRETTが"THE MELODY AT NIGHT WITH YOU"の中でアレンジを施して弾いている。3者のインタープレイが素晴らしい。心打つベース・ソロも味わい深い。何回も繰り返し聴きたくなる。
G"THE GREAT CONSTELLATIONS"
 MOUTINの力強いドラム・ソロで始まる。ベースとピアノが定型パターンを繰り返し、テーマに入る。
H"LESLEVRET" 壮大なドラミングとピアノを背景にベースがアルコでテーマを奏でる。スケールの大きさとダイナミズムに溢れた演奏だ。このグループならではの味わい。
I"FREEDOM FIGHTERS VERSION ALLEGRO"
 前曲に引き続き壮大さを持った演奏で@のアレグロ・バージョンとあるが、全然、アレグロではない。@と同様にアダージョみたいだ。

一種のエスプリを感じさせるアルバムで、ヨーロッパ的なスタイルに黒人ピアニストが持っている泥臭さというか、灰汁の強さというか、陰影の深さというか、そういうものを混ぜ合わせた異質な味わいがある。そういうところはEDOUARD BINEAUの"IDEAL CIRCUS"(JAZZ批評 314.)にも共通する感覚だ。
前10曲のうち
CFを除く8曲がLYNN PATTERSONのオリジナルという意欲作。ベースのKERECKI、ドラムスのMOUTINとのコンビネーションも素晴らしい。
何とも不思議な味のするアルバムである。今までにこういう味覚のアルバムはなかった。心にほんの少しずつ時間をかけて沁み込んでくるような・・・。そして、何時しか、全てが沁み込んで心の中を占領されたような感覚がある。聴き込むほどに虜になっていくような・・・そういうアルバムである。
多少、聴く人を選ぶとは思うのだが、他に類を見ない独自の音世界に心酔し、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2008.12.27)

試聴サイト : http://www.hbdirect.com/album_detail.php?pid=1048504



独断的JAZZ批評 522.