独断的JAZZ批評 507.

TAKEHISA TANAKA
純米吟醸発泡にごり酒「獺祭」ように切れがあるね
"TOO YOUNG"
田中 武久(p), 井上 陽介(b), 大坂 昌彦(ds)
2008年5月 スタジオ録音 (JEWEL : JS-TT005)

ピアノの田中武久は1934年生まれというから、今年74歳になる。大ベテランの口だろうが、ジャズの世界ではまだまだ壮年だ。老け込む年でもない。事実、若々しさに円熟味を香辛料のように加えた演奏を楽しむことが出来る。
ベースの井上陽介は1964年生まれで44歳。ドラムスの大坂昌彦は1966年生まれ。42歳になった。田中とは30歳以上の年齢差がある。丁度、親父と息子の年齢差だ。
ピアノ・トリオによくあるパターンとしては、このトリオのようにベテラン・ピアニストが若きサポート陣を擁する場合と、逆に若手ピアニストがベテラン・サポート陣を擁する場合だ。後者の場合はピアニストがリズム陣に遠慮がちなって思い切ったプレイが出来なくなるケースが多い。どちらかといえば、このようにベテラン・ピアニストが若手のはつらつとしたプレイに刺激を受けるといったスタイルの方がいいのではないだろうか?

@"THE OLD COUNTRY" 
NAT ADDERLEYの書いた佳曲。最初の2小節を聴いただけで演奏の素性の良さが分かるというものだ。ピアノで入りベースとドラムスが絡む。楽しげに跳ねるピアノにベースとドラムスが4ビートでバックアップ。年齢差を感じさせない活き活きとしたピアノのプレイだ。多少、饒舌気味な井上のベース・ソロと、ドラムスとの8小節交換、4小節交換を経てテーマに戻る。
A"MY FOOLISH HEART" 
ミディアム・テンポで演奏されるのは珍しいこの曲。後半は4ビートを刻み、テーマは2ビートに戻る。
B"COME RAIN OR COME SHINE" 
明るく弾むピアノがWYNTON KELLYを髣髴とさせる。ベース・ソロ、ドラムスとの4小節交換を経てテーマに戻る。
C"TOO YOUNG" 
しっとりとしたバラード演奏。井上のベースが効いているし大坂のブラッシュによるシンバリングもいい音だ。

D"ALL THE THINGS YOU ARE" 
スタンダード集の定番。ミディアム・ファーストの4ビートを刻んでいく。井上のソロで執る田中のバッキングがいいね。アレンジも面白い。
E"ALMOST BLUE" 
イギリスのミュージシャンELVIS COSTEROの曲。哀愁を帯びたテーマを情感たっぷりに歌う。
F"OUR LOVE IS HERE TO STAY" 
こういう歌モノは十八番の部類だろう。伸び伸びと楽しげに演奏している。
G"CORCOVADO" 
言わずと知れたJOBIN のボサノバ。ここでは井上がアルコでソロを執る。
H"EVERYTHING HAPPENS TO ME" 
若さを通り越して、少々荒っぽい?

演奏に癖がなくてストレート。円熟の中に若々しさが漲っている。丁度、シャンパンより発泡度の高いといわれる日本酒の純米吟醸発泡にごり酒「獺祭」ように切れがあるね。
お酒を美味しくする音楽としてバックグランドに流れていると、なお結構。   (2008.10.14)