独断的JAZZ批評 361.




CESARE PICCO
この限りない美しさこそこのアルバムの価値である
全体を貫いているのは、PICCO、その人の美しさの追求なのだ
"MY ROOM groovin' piano"
CESARE PICCO(p, perc, computer programming), MATTEO MALAVASI(b:2,3,7,9),
RAFFAELLO MIGLIARINI(ds, perc:2,3,5,7,9)
2005年?月 スタジオ録音 (FINGERFIN-016)

発火点はJ-WAVEの放送だという
2曲目の"seguimi"で火の点いたアルバムらしい
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ぶらりとCDショップに立ち寄って、ジャズの新譜を聴いて回るのは何かとてもワクワクする行動だ。新しい発見が出来たときの喜びは、多くのジャズファンに共通した楽しみのひとつだろう。
このアルバムもそういう1枚。会社帰りに立ち寄ったHMVの池袋店に試聴盤が置いてあった。ジャケットからして一種の雰囲気を感じさせるアルバムだった。
"COMPUTER PROGRAMMING"という文言に引っかかったが、とりあえず試聴。(購入したジャケットには"vomputer programming"と書いてある。"vomputer"?・・・。そうか、キーボードの打ち間違いなのだ。"c"と押すべきところを隣の"v"を押してしまったのに違いない。しかし、今時珍しいミスだなあ!この世界も人手不足で校正まで手が回らないか!?)
で、その"vomputer programming"を採用した音楽を聴いてみた。確かに、「打ち込み」を感じさせる演奏もあるし、ストリングスを入れたような演奏もあるし、多重録音もある。しかし、無機的な演奏にはなっていない。これはこのピアニスト、CESARE PICCOの成せる業といってもいいだろう。
兎に角、美しい!メロディといい、曲想といい、限りなく美しい。この美しさこそ、このアルバムの価値である。
そして、ボーダレス・ミュージックと呼んでもいいかもしれない。ジャズ、クラッシック、ラテン、コンピューター・プログラミング、ありとあらゆる音楽のエッセンスが嫌味にならずに詰まっている。そして、これが大事なことだが、適度な躍動感に溢れている。新感覚派のジャズという感じもする。全体を貫いているのは、PICCO、その人の美しさの追求なのだ。
Fを除く全ての曲がPICCOのオリジナル。どの曲も素晴らしい曲で、コンポーザーとしても並々ならぬ力量を感じさせる。

@
"MY ROOM" オープニングを飾る美しいソロ。まあ、ジックリと味わって欲しい。
A"SEGUIMI" グルーヴィなテーマ。2ビートあり、4ビートあり、8ビートあり、ラテンビートありと忙しい。が、これはこれでひとつの曲として上手く仕上がっている。この曲で人気が沸騰したらしい。
B
"NEVE" しっとりとしながらもきらっと光る曲想。トリオ演奏。
C
"CASTLE DANCE" ピアノ・ソロの美しいワルツ。
D"CAMMINO E PENSO" 
コンピューター・プログラミングが跋扈する。

E"JACOB" 
これはピアノの多重録音(かな?それともコンピューター・プログラミング?)
F"CORACAO VAGABUNDO" 
トリオ+コンピューター。
G
"OTTOBRE" ピアノ・ソロ。
H"NIGHT" トリオ+コンピューター。
I"KARAKOUM" ホッとする美しさが心に沁みる。
J
"ADAGIO" 続「ホッとする美しさ」

4〜5曲でベースとドラムスがメンバーに加わっているが、ピアノ・トリオというよりはピアノ・ソロの引き立て役として付き合ったという感じ。あくまでも、サポート役なのだ。だから、ピアノ・ソロ・アルバムとして捉えた方がいいかも知れない。
ニュー・エイジ・ミュージックの先駆者として一時代を築いたGEORGE WINSTONの音楽に似ていないこともない。泥臭いジャズを希望する方にはお奨めしない。この美しさに浸ってみたいという方にお奨め。所謂、「癒し系の音楽」と呼べるかも知れない。
僕の好みとしては@、B、C、G、I、J。結局、コンピューターの匂いのしないチューンをしっかりと選んでいるね(笑)。このピアニスト、コンピューター・プログラミングなどの小細工をしなくてもソロだけで充分やっていける。というか、手を借りない方がより良いと思う。たまにはこういうアルバムのひとつくらい 「manaの厳選"PIANO & α"」にあってもいいでしょう!   (2006.08.31)