YOSUKE YAMASHITA "SENTIMENTAL"
YOSUKE YMASHITA(p)

学生時代、僕らバンドのメンバーにとって山下洋輔というとフリージャズの代名詞だった。フリージャズ=前衛=聴くに耐えない、というのが僕らの図式だった。
だから、遥か遠くの存在だった。そして、30数年が経ち、僕の意識も変わった。
いつだったか、テレビのコマーシャルで見た、山下のピアノはわずか数秒にもかかわらず脳裏に刻み込まれた。ここでは鍵盤をこぶしで叩くという姿はなかった。
そして、今回、HMVで何気なくCD探しをしていると、「見てくれ、気付いてくれ」と合図を送ってきたCDがあった。
数枚の中からソロピアノの演奏を選んだ。それがこのCD。
曲目もスタンダード・ナンバーばかり。こうしたいつも耳にしている曲を山下がどう弾くのか興味があった。
名曲"MY ONE AND ONLY LOVE"(因みに、この曲は僕の最も好きな樂曲のひとつ)をどんな風に弾くのか、興味津々でかけてみた。
原曲のメロディの美しさを残しながら、自分なりの解釈を付け加えた味のある演奏になっている。
甘さに流されない、天衣無縫、傍若無人の世界を創り上げる。
これは、いつも飲みなれているビールを、時に刺激のあるウォッカに替えてみたいというのによく似ている。毎日飲んでいると胃を壊してしまうが、たまには、激しく酔ってみたいという心理だ。あくまでも、たまにであって、毎日ではない。
そう思って聴く分には新しい世界を提供してくれるだろう。
何曲かクラッシクもやっているが、これはあまりお勧めできない。あまりにも隔たりが大きすぎる。
ただ、一つ一つの音は歯切れがよい。腕前ピカイチ、個性抜群、豊かな創造性を感じさせる演奏ではある。
多分、普通(!)に演奏させたら、度肝を抜くような演奏をするに違いないという確信が持てる。
他に収録のスタンダード・ナンバーは "OVER THE RAINBOW" "AUTUMN LEAVES" "STARDUST" "SUMMERTIME" "TEA FOR TWO" "SECRET LOVE" "GOOD-BYE"。

しかし、初心者にはお勧めしない。そして、最初から全曲聴こうと思わないこと。
(2001.07.22)



山下 洋輔
飲みなれたビールをやめて、火のつくようなウォッカを飲む気分に良く似ている。
でも、毎日では身体を壊す。

独断的JAZZ批評 15.