様々な紆余曲折を経て、原点の"ART OF THE TRIO"に戻ろうとしている
久しぶりに聴くMEHLDAUの真骨頂
"ANYTHING GOES"
BRAD MEHLDAU(p), LARRY GRENADIER(b), JORGE ROSSY(ds)
2002年10月 スタジオ録音 (WARNER BROS. 9362-48608-2)


BRAD MEHLDAUの新譜情報をメール・マガジンでもらったのが21日の夕方。オリジナル・トリオのアルバムだという。
23日の会社帰りに輸入盤を購入した。日本盤の発売は3月9日という。
MEHLDAUというとJAZZ批評 2.で紹介した2枚がお気に入りだ。かの"ART OF THE TRIO"シリーズとしては2年半ぶりの録音だという。この間、様々な紆余曲折を経て、原点の"ART OF THE TRIO"に戻ろうとしている。久しぶりに聴くMEHLDAUの真骨頂。
2000年以降のMEHLDAUの作品にはフラストレーションが溜まっていた。"LARGO"なんて数分試聴しただけで、とても購入する気にはなれなかった。

前掲のBAPTISTE TRONGNONのピアノ・ソロの引き合いに出したのもMEHLDAUだったし、タイミング的には丁度良い。そのMEHLDAUが久々のオリジナル・トリオでどんな演奏を聞かせてくれるのか大いに興味があった。急遽、PETER BEETSの"FIRST DATE"をすっ飛ばして掲載することにした。

@"GET HAPPY" 難しいリズムでゴタゴタ演っているうちに突然、グイグイゴリゴリの4ビートに変わる。
A"DREAMSVILLE" 一転、歌心溢れる演奏。アドリブはシンプル&シングル・トーン。MEHLDAUほどの力量があれば小細工は不要だ。シンプルであればあるほど本領発揮という気がするのだが。
B"ANYTHING GOES" MEHLDAU、お得意の変拍子、5/4。けれんみのないGRENADIERのベース・ソロが素晴らしいが、この変拍子というのは、生理的にどうも合わない。

C"TRES PALABRAS" 珍しくラテン系のマイナー調の美しい曲に挑戦。ちょっと「ベサメムーチョ」のような曲想。へえ〜!こんな曲もやるんだ〜!
D"SKIPPY" THELONIUS MONKの手による独特の節回しの曲。最初から最後までMONK色、たっぷり。

E"NEARNESS OF YOU" これは最高!"ART OF THE TRIO VOL. 3"を彷彿とさせる歌心のオンパレード。MEHLDAUはテクニック抜群の演奏も凄いが、こういった抑制の効いたスローのスタンダード・ナンバーが一番だ。ゾクゾクするようなテーマの美しさと歌心溢れる演奏を聴いて欲しい。
F"STILL CRAZY AFTER ALL THESE YEARS" これも最高!やはりこういうミディアム・スローの歌ものを演らせると流石だね。
G"EVERYTHING IN ITS RIGHT PLACE" イギリスのロック・バンドの曲らしい。

H"SMILE" 原曲は4/4なのだが、ここではピアノのリズム・パターンは4/4と2/4の組み合わせ、もしくは、6/4拍子で演奏している。こういう特異なリズム感覚はMEHLDAUにしか出来ないね。これがマルチ・リズムというヤツだろうか?でも、あまり考えない方がいい。素直に出てきた音楽を聴いたほうが・・・。
ベースがテーマを弾く。最近のこの曲の名演としてはAKIKO GRACEの"NEW YORK STYLE"(JAZZ批評 144.)が上げられるが、これと比較してみるのも面白い。
I"I'VE GROWN ACCUSTOMED TO HER FACE" ナチュラルな美しいスロー・バラード。不協和音と協和音の積み重ねで何ともいえないモザイク模様の音楽を構築していく。「色々試してみたけど、結局はこういうナチュラルな演奏が一番自分らしい・・・・」とMEHLDAUに早く気付いて欲しいと願うのは僕だけではないだろう。

言ってみればMEHLDAUの「ピンからキリまで」取り揃えたアルバムだ。未だに試行錯誤が続いているが、
A、E、F、Iの4曲のために購入しても損はないと思う。この4曲に関して言えば、溢れんばかりの歌心を満喫できるナイス・チューンだ。「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2004.02.28)



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BRAD MEHLDAU

独断的JAZZ批評 181.