ほんのちょっとの美しさと熱い躍動感のスパイスを効かせれば凄いアルバムに生まれ変わるだろう
"SOLO"
BAPTISTE TROTIGNON(p)
2002年12月 スタジオ録音 (NAIVE Y 226210)

BAPTISTE TROTIGNONは1974年生まれのフランス人というから、まだ、30歳と若い。ピアノ・ソロ・アルバムだ。相当な凄腕とみた。テクニック抜群。しかし・・・・
かつて"FLUIDE"というピアノ・トリオ盤を出していた。そのときの印象は流麗であるけど無機的な印象が強くて、結局、購入しなかった記憶がある。
このアルバムも無機質な印象を拭えない。これはテクニシャンが陥る罠だ。音楽はテクニックだけで人を感動させることは難しい。仮にあったとしても一時的な凄さだけで終わってしまうだろう。このアルバムが、あたかも、ピアノの練習曲を聴いているように思えてしまうのは僕だけだろうか。


@"THE DREAM IS GONE" しっとりと美しい曲。
A"URGENCES" 確かに指が良く動く。練習曲にはもってこいだ。
B"YOUPALA" ウン、これも指が良く動いている。
C"DUST" アプローチの仕方がBRAD MEHLDAUを想起させる。このアルバムのベスト。これは良い!
D"MY LANE" 
E"SEVEN" 
F"MOODS" 2分過ぎあたりから躍動感が湧いてくる。この躍動感がなければジャズとはいえない。
G"WEG" 
H"LANGSAM" 
I"RASCH" 凄いテクニック!だとは思う。
J"THE END" 

率直に言えば、Cを除くどの曲も「テーマとして」あまり面白くないのだ。ジャケットには何も書いていないので分からないが、全てTROTIGNONのオリジナルではないか。テーマが面白くなければ、アドリブも推して知るべし。ピアノの技術コンテストでもあるまいし、ここまでテクニックを披けすこともないだろう。スタンダード・ナンバーを二つ三つ入れるのも手だと思う。スタンダード・ナンバーは長い時間を掛けてジャズファンの支持を得た曲だから、物差しの尺度が大体一致している。オリジナルでも一聴して素晴らしい曲と受け入れられれば別だが。

ここで、演奏スタイルの似ているBRAD MEHLDAUの"ELEGIAC CYCLE"(JAZZ批評 2.)を引っ張り出してきて聴き比べをしてみた。MEHLDAUのそれは先ず、テーマが良い。その上で、演奏は実に淡々としているのだが、躍動感に溢れ何故か熱い。聴いていると気持ち良くなっていく快感がある。
それに比べて、TOROTIGNONのそれはテーマ自体に面白みがないし、テクニックそのものを意識させてしまうところがマイナス点だ。
ほんのちょっとの美しさと熱い躍動感のスパイスを効かせれば、凄いアルバムに生まれ変わるだろう。今後の期待感を込めてついつい辛口になってしまった。    (2004.02.21)



BAPTISTE TROTIGNON

独断的JAZZ批評 180.