"MODAL & BEBOP"
新しい土のにおいがする
"TWELVE BY THREE"
TIM RICHARDS(p), DOMINIC HOWLES(b), MATT HOME(ds)
2002年4月 スタジオ録音 (33RECORDS 33JAZZ072)

先ずはじっくりとジャケットをご覧いただきたい。久しぶりに「いいジャケットだなあ」と思えるものに出会った。どこかのアパートの外壁をそれぞれのフロアーごとにペイントしてある。何とも雰囲気のある写真だ。ブルースなんぞがその窓から漏れ聞こえてきそうだ。
実はこのCD、「ディスクノート」の店長のお奨めなのだ。先日、仙台に行ったときに購入した何枚かの内のひとつ。

ジャケット同様、演奏も一癖ある奥深い内容だ。このCD、UK盤でミュージシャンもイギリス人のようだ。いわゆるヨーロッパ・ジャズとは異質だ。結構、泥臭い面とモーダルな面を併せ持つ。3者のバランスも良い。中でも、DOMINIC HOWLESは強いビートを持つ印象に残るベーシストだ。パターン化したベース・ラインを多用しているが、違和感はない。 ドラムスのMATT HOMEも良く歌うドラマーでハイハットの使い方が上手い。                   

@"IT'S A GRAND NIGHT FOR SWINGING" 渋いピアニストBILLY TAYLORの曲。典型的な土の匂いのする12小節のブルース。2コーラスのテーマの後アドリブに入るが、シンプルなシングル・トーンのプレイでバッキングも必要最小限。これの方がブルースらしい。
A"OVER THE MOON" RICHARDSのオリジナル。
B"MY SECRET LOVE" 長めのイントロに続くテーマの入り方がお洒落。サビの部分では力強い4ビートになり、期待感が湧いてくる。ベースのウォーキングはビート感があり、「ベースはこうでなくちゃあ」と思わせる。軽快なシンバリングと相俟ってご機嫌な演奏へと高揚していく。ベース・ソロを経てテーマに戻る。

C"POINCIANA" ここでもベース・ラインがパターン化されているがこの曲にはあっている。ドラムスは最初マレットを使っているが途中から片手のみスティックに持ち替える。誰でも聞いたことのある曲で「ああ、この曲か」と思うでしょう。
D"SAFARI" HORACE SILVERの曲。
E"ISHMAEL" 南アフリカのピアニスト・DOLLAR BRANDの作ったエキゾチックな曲。
F"TWELVE BY THREE" TIM RICHARDSのオリジナル・マイナー・ブルース。このグループを象徴するかのような土臭いブルース。

G"WHEN SUNNY GETS BLUE" 僕の好きな曲のひとつ。ブルーな感じなのだけどサラッとしている。これがこのグループの持ち味か。ブラッシュ・ワークも軽快で良く歌っている。このピアノニスト、比較的音符の数が少ないが歌心は充分だ。
H"WHIMS OF CHAMBERS" PAUL CHAMBERSの作ったブルース。こういう泥臭いブルースを策に溺れずにけれんみなく歌い上げるところがいい。

I"MANTECA" DIZZY GILLESPIE/CHANO POZOの競作。この曲の演奏も極めてシンプルだ。
J"ISFAHAN" BILLY STRAYHORNのオリジナル。右手のメロディラインを大切にし、左手のバッキングは極めて少ない。そういうスタイル。
K"OH WELL OH WELL" 最後はGENE HARRISの曲。こうした一連の選曲を見てみるとこのグループの方向性が明らかになってくる。

このグループのコンセプトは"MODAL & BEBOP"とも言うべきもので、「新しい土のにおいがする」。聴き込むほどに味の出てくる1枚。最近、こういう演奏をするピアノ・トリオが少なくなってきただけに希少価値ありと言える。同時にこのアルバムも入手が難しいかもしれない。
「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。    (2004.01.17)



TIM RICHARDS

独断的JAZZ批評 175.