「クール」というのとはまた違う
「冬の夜の澄んだ空気の冷たさ」がある
"VOICES IN THE NIGHT"
AKIRA ISHII(p), MASAYUKI TAWARAYAMA(b), YOSHIHITO ETOH(ds) 
2001年スタジオ録音(EWCD 0036)

日本人プレイヤーの日本盤CDは試聴出来る機会が少ない。ネットで評判のこのCDは結局、試聴できないまま購入することになった。

通常、新譜はHMVの店頭で試聴が出来るし、旧譜はネット・ショッピングの試聴コーナーで大概は試聴できる。(因みに、僕が試聴するサイトはHMVTOWER RECORDSCDNOW etc.)基本的に、自分の耳で確かめてから購入するのを常としているが、今回のCDについては例外だ。もし、試聴出来ていたとしたら、多分、購入しなかっただろう。
日本人プレイヤーのピアノ・トリオCDでは小曽根真の"TRIO"や"DEAR OSCAR"、椎名豊の"UNITED"を持っているが、今のところ、ここで紹介する機会に恵まれていない。なかなかこれはという作品に出会えないのが現実だ。

転じてこの作品であるが、結構、重たい。スピード感やドライブ感を堪能するという作品ではない。内面的な重さや美しさを指向する人に向いているかもしれない。そういう意味では宣伝文句にあるような「月の光のような妖しさ」がある。
ピアノの響きは美しくも透き通った冷たさがある。「クール」というのとはまた違う「冬の夜の澄んだ空気の冷たさ」がある。ベースの音色も重たく深い。

僕のお気に入りは7曲目の"A.P."。ブルース・フィーリングに溢れる32小節の良い曲だ。ちょっとBARRY HARRISの書く曲想にも似ている。太く重いベースが4ビートを刻み、その上を抑制されたピアノが絡みこんでいく。あくまでも冷たく沈む冬の空気のようだ。

石井のピアノは饒舌ではない。むしろ、寡黙に近い。そして、3人のプレイは最後まで抑制が効いていて、何時まで経っても爆発しないもどかしさを感じるが、それはそれで良しとする人も多いだろう。
(2002.08.23.)



AKIRA ISHII

独断的JAZZ批評 89.