恋をし、人生を再発見
 『アンナ・カレーニナ』(Anna Karenina) 監督 ジョー・ライト
 『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(The Best Exotic Marigold Hotel) 監督 ジョン・マッデン


高知新聞「第171回市民映画会 見どころ解説」
('13. 9.13.)掲載[発行:高知新聞社]


 アカデミー賞の作品賞や脚本賞などに輝いた秀作恋におちたシェイクスピア['98]の監督と脚本家による作品二本が今回並んだ。

 トム・ストッパード脚本による『アンナ・カレーニナ』(ジョー・ライト監督)の原作は、言わずと知れたトルストイの代表作。もう何度目かの映画化なのだが、写実主義で知られた文豪の作品を、敢えてリアリズムに背を向けて構築している点が、最大の趣向と言える。

 劇場の舞台がそのまま生活空間に転じたりする冒頭から、かなりシュールな画面展開を見せるのだが、絢爛豪華な衣装ともども贅沢な美術と撮影によって繰り広げられる夢現感が、恋の熱病に冒されたアンナ(キーラ・ナイトレイ)の心そのもののようだ。なかなか個性的な作風で、凝った演出の社交ダンス場面が目をひく。

 なまじ許しを与えたばかりに却って妻アンナを苦しめていることに狼狽する夫(ジュード・ロウ)にしろ、有り余る熱情で人妻を誘惑したものの、やがて持て余すようになり、それでも投げ出すまでに堕ちるわけにもいかず苦悩する愛人(アーロン・テイラー=ジョンソン)にしろ、男たちの人物造形が興味深い。

 他方、ジョン・マッデン監督による『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(オル・パーカー脚本)は、『アンナ・カレーニナ』にはない後味の明るさが気持ちのいい作品だ。

 カップルもシングルも含め、ワケありの熟年男女が英国を旅立ち、詐欺まがいの広告に乗せられてインドのボロホテルで滞在するなかで人生を再発見していく。たまたま同宿となった彼らが、異文化と出合い、英国にはない右肩上がりの新興国の活力に包まれて過ごすうちに、人生の新たな扉を開いたり終焉を迎えたりする物語を観ていると、さまざまな感興を誘われること請け合いだ。若いカップルを対照させる配置が効いていて、幾つになっても人生の鍵を握るのは恋愛だと言わんばかりの元気のよさなのだ。

 インド人の青年オーナーが「個性豊かな建物なんです、細かいことは気にしない」と紹介するホテル以上に個性的な住人の熟年男女7人(ジュディ・デンチ、ビル・ナイ、マギー・スミスほか)がいい。年相応の屈託や偏屈を、知恵と煩悩とともに抱えているさまが微笑ましい。

 そして、何度か台詞で繰り返されるインドの諺だという「何事も最後は大団円(everything will be alright in the end)」にふさわしい物語が、人生と人間の面白さを描き出している。踏み出しさえすれば、老後は波瀾万丈なのだ。




*『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』
推薦テクスト:「TAOさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=3700229&id=1893792944
推薦テクスト:「Banana Fish's Room」より
http://blog.goo.ne.jp/franny0330/e/2dce42618803253d2cc0d1babb9aee3c
推薦テクスト:「お楽しみは映画 から」より
http://takatonbinosu.cocolog-nifty.com/blog/2013/09/post-338a.html
by ヤマ

'13. 9.13. 高知新聞「第171回市民映画会 見どころ解説」



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